先に答え:焼肉の原価率は請求書の円/kgでは出ない。歩留まりで割り戻すと最大53.8%変わる
日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表)に、「焼肉店」という統計分類はありません。いちばん近い分類である「朝鮮料理店」30社の会計上の原価率は、売上高総利益率から導出すると**平均36.8%、中央値36.3%**です(筆者算出、算出方法は「100% − 売上高総利益率」)。一般飲食店464社の35.0%より1.8ポイント高い水準です。
ただし、この数字を自店の目標に使うことはできません。焼肉の原価を決めるのは業態平均ではなく歩留まりだからです。請求書が3,600円/kgでも、整形して使えるのが80%なら、実際に皿へ乗る肉の単価は4,500円/kgです。請求書より25.0%高い。歩留まりが65%まで落ちる部位なら5,538円/kg、53.8%高い計算になります。同じ請求書を見ていても、部位と整形で原価は5割変わります。
だから焼肉店の原価率は、統計の平均値ではなく次の式から出します。
使用可能kg単価 = 仕入円/kg ÷ 実測歩留まり
今週やる3ステップ
- 請求書から円/kgをそろえる(10分):
請求金額 ÷ 請求重量kg。ケース価格しかなければ、ケース重量の根拠を残して換算する。税基準は税抜でそろえる。 - 主力3部位の歩留まりを量る(20分):同じロットの仕入重量と、整形後に使える重量をスケールで量る。筋、脂、ドリップのうち何を除いたかを書き残す。
- 売れ筋5品を加重する(15分):
Σ原価額 ÷ Σ売上額。品目原価率の単純平均で代用しない。
焼肉・歩留まり・メニュー構成ワークブック(Excel)には、20食材分の歩留まり行と30メニュー分の計算行があります。入力例は架空で、市場相場や標準歩留まりではありません。文字、負数、ゼロ、使用可能重量が仕入重量を超える入力はエラーになります。
統計に「焼肉店」はない。近い分類を物差しとして使う
日本政策金融公庫の業種別表から、焼肉店の周辺にある分類を並べます。導出原価率は「100% − 売上高総利益率」、FL比率は「導出原価率 + 人件費対売上高比率」で、いずれも筆者算出です。
| 業種(統計上の分類) | 調査対象数 | 導出原価率 平均 | 導出原価率 中央値 | 人件費対売上高比率 | FL比率 | 売上高営業利益率 | 損益分岐点比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 朝鮮料理店 | 30 | 36.8% | 36.3% | 30.7% | 67.5% | -3.3% | 106.9% |
| 一般飲食店 | 464 | 35.0% | 34.9% | 32.9% | 67.9% | -2.2% | 104.5% |
| 食堂,レストラン | 347 | 35.2% | 35.2% | 33.0% | 68.2% | -2.0% | 104.3% |
| 日本料理店 | 74 | 38.0% | 37.7% | 31.5% | 69.5% | -1.9% | 104.3% |
| 中華料理店 | 109 | 35.0% | 34.2% | 33.6% | 68.6% | -1.0% | 102.6% |
| すし店 | 37 | 41.1% | 40.8% | 30.2% | 71.3% | -2.5% | 103.9% |
| 酒場,ビヤホール | 212 | 32.2% | 32.1% | 32.2% | 64.4% | -1.8% | 103.8% |
この表の読み方には制約が3つあります。
- **朝鮮料理店は焼肉店ではありません。**分類の定義が違い、調査対象は30社しかありません。参考程度に見る数字です。
- **売上原価の範囲は各社の会計処理に従います。**食材費だけとは限らず、この表の原価率と、自店で計算する食材原価率は範囲が同じではありません。
- **平均営業利益率はマイナス、損益分岐点比率は100%超です。**朝鮮料理店は-3.3%と106.9%で、周辺7分類のなかで最も厳しい値です。原価率を業態平均に合わせても利益は出ません。
つまりこの表は目標ではなく、自店の数字が極端にずれていないかを確かめる物差しです。判断に使うのは、次に出す自店の実測値です。
歩留まりを測らないと、ポーション原価は最大53.8%ずれる
歩留まりは次の式です。
実測歩留まり = 実測使用可能g ÷ テスト仕入g
テスト仕入重量と使用可能重量は、同じロット、同じ解凍・整形条件で量ります。筋、脂、ドリップなど、何を除外したかも記録します。担当者や規格が変わったら再測定します。
同じ請求書単価3,600円/kgに、歩留まりだけを変えて当てはめると次のようになります。3,600円/kgは計算を追うための架空の仕入価格で、市場平均や推奨値ではありません。生ポーションは100gで固定しています。
| 実測歩留まり | 使用可能kg単価 | 生ポーション100gの肉原価 | 請求書単価との差 |
|---|---|---|---|
| 95% | 3,789円/kg | 379円 | +5.3% |
| 90% | 4,000円/kg | 400円 | +11.1% |
| 85% | 4,235円/kg | 424円 | +17.6% |
| 80% | 4,500円/kg | 450円 | +25.0% |
| 75% | 4,800円/kg | 480円 | +33.3% |
| 70% | 5,143円/kg | 514円 | +42.9% |
| 65% | 5,538円/kg | 554円 | +53.8% |
計算は割り算ひとつです。歩留まり80%の行なら次のとおりです。
使用可能kg単価 = 3,600 ÷ 0.80
= 4,500円/kg
請求書の3,600円/kgをそのままポーション原価へ使うと、整形後の原価を過小に見積もります。上の表では、歩留まり95%と65%で使用可能kg単価が1,749円/kg違います。部位ごとに歩留まりを持たないと、原価率の議論は成立しません。
1皿原価は肉ポーションとタレ・付け合わせの合計
肉の原価は、使用可能kg単価に生ポーション重量を掛けます。
肉ポーション原価 = 使用可能kg単価 × 生ポーションg ÷ 1000
歩留まり80%の例で生ポーション100gなら、次のとおりです。
肉ポーション原価 = 4,500 × 100 ÷ 1000
= 450円
ここへ、同じ提供単位のタレ、薬味、野菜などを足します。架空のタレ・付け合わせ原価を60円とすると、食材のみ1品原価は510円です。
食材のみ1品原価 = 450 + 60
= 510円
包材を含める場合は、全商品で同じ範囲にします。人件費、家賃、光熱費、決済手数料まで食材原価へ混ぜないでください。
タレ・薬味・ドリンクの側は、肉とは別の値上がりを受けます。帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査では、2026年1〜11月判明分で14,902品目が値上げされ、1回あたりの平均値上げ率は11%です。値上げ品目の上位カテゴリは加工食品、調味料、酒類・飲料でした。**牛肉はこの調査の対象ではありません。**肉の単価は請求書で、タレとドリンクは仕入先の改定通知で、別々に追う必要があります。
メニュー構成は販売数で加重する
架空の5品で、月次の加重原価率を出します。売価と販売数は架空の入力例です。
肉3品の「食材のみ1品原価」は、部位ごとに違う請求単価と歩留まりから計算しています。上カルビだけが歩留まり表と同じ3,600円/kgで、残る2品は別の請求単価です。内訳は次のとおりで、いずれもタレ・付け合わせ60円を含みます。
| メニュー | 請求単価 | 実測歩留まり | 使用可能kg単価 | 肉100g分 | +タレ・付け合わせ | 食材のみ1品原価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 上カルビ | 3,600円/kg | 80% | 4,500円/kg | 450円 | 60円 | 510円 |
| 並カルビ | 2,397円/kg | 85% | 2,820円/kg | 282円 | 60円 | 342円 |
| 上ハラミ | 2,898円/kg | 70% | 4,140円/kg | 414円 | 60円 | 474円 |
請求単価はいずれも架空です。自店では、部位ごとに請求書の円/kgと実測歩留まりを別々に持ってください。
| メニュー | 生ポーション | 歩留まり | 食材のみ1品原価 | 税抜売価 | 販売数 | 売上 | 販売食材原価 | 食材粗利額 | 品目原価率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 上カルビ | 100g | 80% | 510円 | 1,480円 | 320 | 473,600円 | 163,200円 | 310,400円 | 34.5% |
| 並カルビ | 100g | 85% | 342円 | 980円 | 540 | 529,200円 | 184,680円 | 344,520円 | 34.9% |
| 上ハラミ | 100g | 70% | 474円 | 1,280円 | 280 | 358,400円 | 132,720円 | 225,680円 | 37.0% |
| ライス | 40円 | 280円 | 600 | 168,000円 | 24,000円 | 144,000円 | 14.3% | ||
| 生ビール | 230円 | 680円 | 480 | 326,400円 | 110,400円 | 216,000円 | 33.8% | ||
| 合計 | 2,220 | 1,855,600円 | 615,000円 | 1,240,600円 |
複数メニューの率を合算するときは単純平均を使いません。
加重メニュー食材原価率
= Σ(食材のみ1品原価 × 販売数)÷ Σ(税抜売価 × 販売数)
この入力例で計算すると次のようになります。
加重メニュー食材原価率 = 615,000 ÷ 1,855,600
= 33.1%
品目原価率の単純平均 = (34.5 + 34.9 + 37.0 + 14.3 + 33.8) ÷ 5
= 30.9%
**差は2.2ポイントです。**単純平均が低く出る理由は、原価率14.3%のライスが5品のうち1品として同じ重みを持つのに、売上シェアは9.1%しかないからです。販売数の多い商品ほど店全体への影響が大きく、率だけを並べるとその重みが消えます。
率だけでなく、食材粗利額も並べます。この例では上カルビの品目原価率34.5%と並カルビの34.9%はほぼ同じですが、食材粗利額は310,400円と344,520円で、販売数の多い並カルビのほうが34,120円多く残しています。ただし、食材粗利額は人件費や固定費を引く前なので、営業利益や限界利益ではありません。
なお、この33.1%を先ほどの朝鮮料理店36.8%と直接比べることはできません。前者は食材のみの理論加重原価率、後者は決算書の売上原価率で、含まれる費用の範囲が違います。比較するなら、自店の棚卸から出す実際原価率((期首棚卸 + 仕入 - 期末棚卸) ÷ 税抜売上)を使います。
部分メニューと店全体を分ける
ワークブックでは、同期間の店舗税抜売上と入力メニューの売上合計を比較します。
- 一致する:全売上カバーとして加重率を確認
- 入力メニュー売上が少ない:
部分メニュー(店全体率ではない) - 入力メニュー売上が店舗売上を超える:期間・税基準・重複入力を確認
売上上位だけの入力でも、商品間の順位確認には使えます。ただし、その率を店全体の原価率として会議資料へ転記しないでください。上の5品の例も、月商が1,855,600円ちょうどでない限りは部分メニュー確認です。
2026年、原価率はどちら向きに動くか
原価率の目標を決める前に、外から押される分を確認します。
| 押す力 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 食材(消費者物価 生鮮食品を除く食料) | 前年同月比 +3.1% | 2026年7月・総務省統計局 |
| 外食価格(消費者物価 外食) | 前年同月比 +1.7% | 2026年7月・総務省統計局 |
| 参考:食品主要195社の値上げ品目 | 14,902品目(2026年1〜11月判明分)、1回あたり平均11% | 帝国データバンク |
朝鮮料理店の平均(導出原価率36.8%、人件費率30.7%、FL比率67.5%)に、食材の+3.1%だけを当てはめます。売価、販売数、人件費は据え置いた計算です。
原価率 = 36.8% × 1.031 = 37.94%
FL比率 = 37.94% + 30.7% = 68.64% (67.5%から +1.14ポイント)
FL比率を67.5%へ戻すのに必要な売価上昇率
= 68.64% ÷ 67.5% - 1
= 1.7%
(丸めた37.9%と68.6%で計算すると1.6%になります。上は丸める前の値で計算した結果です。)
食材側だけで、必要な売価の引き上げは約1.7%です。外食価格の実績上昇も+1.7%なので、食材の分は平均的には転嫁されている計算になります。**ただしこれは人件費を据え置いた場合の数字です。**人件費が上がればこの1.7%では足りません。
この試算の前提は3つあり、どれも自店では違う値になります。
- 食材の+3.1%は消費者物価の全国平均であり、牛肉単体の値動きでも、自店の仕入品目構成でもありません。
- 朝鮮料理店の30社平均は焼肉店の平均ではありません。
- 売価と販売数を据え置いた計算です。実際には値上げで客数が動きます。
方向だけは確かです。原価率は据え置きの努力をしても外から押し上げられます。確認するのは率の目標値ではなく、FL比率と、それを自店の固定費で割った損益分岐点です。
見直しの順番
- 請求書の円/kgと税基準を確認する
- 同じロットの仕入重量と使用可能重量を量る
- 生ポーションをスケールで量る
- タレ・付け合わせを提供単位で積み上げる
- POSの販売数と税抜売価を同じ期間で入れる
- 店舗売上とのカバー判定を見る
- 率と食材粗利額を並べて判断する
判断できる範囲とできない範囲
- ワークブックは食材原価の計算用です。人件費や固定費を含む収益性の結論は出しません。
- 歩留まりは自店の実測値です。他店や別規格へそのまま移せません。
- 架空例の価格、重量、売価はベンチマークではありません。
- 統計の導出原価率は決算集計であり、食材費だけの数字ではありません。
- 販売数がない商品は、メニュー構成の判断に含めません。
- 値上げ、量目変更、セット化の効果を保証しません。変更後の販売数を別に確認します。
原価会議のチェックリスト
- 請求書の円/kgと対象期間を確認した
- 同じロットで仕入重量と使用可能重量を量った
- 使用可能重量が仕入重量を超えていない
- 生ポーションgを計量した
- タレ・付け合わせ原価を入れた
- 売価と販売数を同じ税基準でそろえた
- 加重率を単純平均で置き換えていない
- 部分メニュー結果を店全体率と表示していない
- 食材粗利額を営業利益と呼んでいない
- 統計の原価率と自店の食材原価率を同じ数字として扱っていない
原価更新を継続する場合
請求書価格やレシピを継続更新する段階では、KitchenCostに確定した使用可能単価とポーションを登録できます。先に計量条件と対象範囲を決めてから使うと、更新箇所を絞れます。
出典(最終確認: 2026-09-01)
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」調査一覧(2025年度版、2026年8月公表)
- 日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」飲食店・宿泊業 業種別PDF(sme_findings2_08b.pdf) — 調査対象850社、朝鮮料理店30社、一般飲食店464社。本文の導出原価率とFL比率は、この表の売上高総利益率と人件費対売上高比率から筆者が算出したもので、統計に直接掲載された数値ではありません
- 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年7月分」 — 生鮮食品を除く食料 前年同月比+3.1%、外食 同+1.7%
- 帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査 — 2026年1〜11月判明分14,902品目、1回あたり平均値上げ率11%。牛肉はこの調査の対象品目ではありません
- 歩留まり表、1皿原価、メニュー構成表の価格・重量・販売数はすべて計算を追うための架空の入力例です。相場、標準歩留まり、推奨値のいずれでもありません
計算根拠と更新記録
このページは、外部の固定的な部位別相場、標準歩留まり、1人当たり摂取量を根拠にしていません。統計は業態比較の物差しとしてのみ使い、自店の原価率の根拠として使う資料は、自店の請求書・納品書、同一ロットの計量記録、レシピ、POS販売数です。価格や規格が変わったときは、その資料と同時に更新します。