先に答え:一般飲食店の会計原価率は平均35.0%、ただし平均営業利益率はマイナス
日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表、飲食店・宿泊業 850社)の売上高総利益率から導出すると、一般飲食店464社の会計上の原価率は**平均35.0%、中央値34.9%**です(筆者算出、算出方法は「100% − 売上高総利益率」、確認日2026-08-29)。2023年度調査の36.9%より1.9pt下がりました。この低下だけでは仕入価格の変化は分かりません。同じ調査で一般飲食店の平均営業利益率は−2.2%、損益分岐点比率は104.5%です。統計の原価率と、自店の採算を分けて確認します。
だから「原価率を30%に」ではなく、自店の実際原価率・理論加重原価率・食材粗利貢献額の3つを毎月出して、差異を確認する運用が必要です。
今週やる3ステップ
- 先月の実際原価率を出す(10分):
(期首棚卸 + 仕入 - 期末棚卸) ÷ 税抜売上。棚卸をしていなければ、まず今月末に数えるところから。 - 売れ筋5品の理論原価と食材粗利貢献額を出す(20分):
(売価 - 原価) × 販売数。率の低い順ではなく、金額の小さい順に並べる。 - 2で確認した商品を1つ選び、伝票・分量・販売数を照合する(5分):上位5品の理論原価を店全体の実際原価から引かない。全商品・同じ費用範囲がそろったときだけ、店全体の差異を確認する。
以下は、その3ステップの計算方法と、比較に使える2025年度の業態別表です。
このページで決めること
先月の数字を見て、「原価率を何%にするか」ではなく、今週どの差異を誰が確認するかを決めます。
使う数字は4つです。
- 公的統計から導出した会計平均
- 棚卸から出す実際原価率
- レシピと販売数から出す理論加重原価率
- 商品ごとの食材粗利貢献額
ファイルは「共有用サマリー」「公的比較」「実際原価」「理論原価・粗利」「方法・出典」の5シートです。黄色が入力欄、青色が共有用の結果です。中の数値はすべて入力例です。理論原価・粗利には30商品分の入力行があり、足りなければ合計行の直前へ行を追加して数式と書式をコピーできます。
公的統計は「目標」ではない
日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表)の売上高総利益率を100%から引き、会計上の原価率を導出したものです。比較のため、前回の「2023年度 小企業の経営指標調査」(2024年8月公表)から同じ方法で導出した平均も並べます。調査対象数の少ない分類は参考程度に見ます。
| 業種(統計上の分類) | 2025年度 調査対象数 | 導出原価率 平均 | 導出原価率 中央値 | 2023年度 平均 | 2年間の変化 |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般飲食店 | 464 | 35.0% | 34.9% | 36.9% | -1.9pt |
| 食堂,レストラン | 347 | 35.2% | 35.2% | 36.8% | -1.6pt |
| 一般食堂 | 35 | 36.0% | 36.6% | 39.6% | -3.6pt |
| 日本料理店 | 74 | 38.0% | 37.7% | 38.5% | -0.5pt |
| 西洋料理店 | 66 | 34.0% | 34.2% | 34.5% | -0.5pt |
| 中華料理店 | 109 | 35.0% | 34.2% | 35.9% | -0.9pt |
| 朝鮮料理店 | 30 | 36.8% | 36.3% | 43.7% | -6.9pt |
| カレー料理店 | 33 | 30.0% | 30.3% | 30.9% | -0.9pt |
| そば・うどん店 | 26 | 30.6% | 29.7% | 31.6% | -1.0pt |
| すし店 | 37 | 41.1% | 40.8% | 45.6% | -4.5pt |
| 喫茶店 | 35 | 28.1% | 27.8% | 30.8% | -2.7pt |
| 酒場,ビヤホール | 212 | 32.2% | 32.1% | 34.9% | -2.7pt |
| バー,キャバレー,ナイトクラブ | 73 | 20.2% | 17.7% | 19.0% | +1.2pt |
計算は次の通りです。
導出原価率 = 100% - 売上高総利益率
これは決算データの集計であり、目標値ではありません。売上原価の範囲は各社の会計処理に従うため、食材費だけとは限りません。ラーメン店や焼肉店も独立分類ではありません。
2023年度→2025年度で何が変わったか
13分類のうち12分類で導出原価率が下がりました。最も下がったのは朝鮮料理店(43.7%→36.8%、−6.9pt)とすし店(45.6%→41.1%、−4.5pt)で、上がったのはバー,キャバレー,ナイトクラブだけです(19.0%→20.2%、+1.2pt)。なお2025年度のPDFには同じ名称の表が2つあり(調査対象数80と73)、上の表とここでは2023年度の調査対象数71に近い73社の行を使っています。80社の行では20.0%です。
この低下の原因は、この統計だけからは特定できません。仕入単価、販売価格、商品構成、対象企業の変化を切り分けるには、別のデータが必要です。
では、なぜ統計の原価率は下がったのか。考えられる説明は複数あり、どれも本文の数字からは確定できません。
- 決算の時点差:2025年度調査は各社の決算データで、直近の仕入価格をそのまま反映していません。
- 売上原価の範囲:会計処理は各社任意で、食材以外が含まれる割合が変われば率も動きます。
- 回答企業の入れ替わり:一般飲食店の調査対象数は437社から464社に変わりました。survivorship(残った企業の姿)である可能性を排除できません。
したがってこの表は「業界の原価率が下がったから自店も下がるはず」という読み方ではなく、比較の物差しとして使ってください。自店の原価率が上がった場合も、納品書と売上・棚卸の記録から原因を確かめます。次の表のとおり、営業利益率の平均は依然としてマイナスです。
原価率だけでは足りない:人件費率と損益分岐点
同じ2025年度調査から、原価率と人件費率を足したFL比率、営業利益率、損益分岐点比率を並べます(いずれも平均値、筆者算出)。
| 業種 | 導出原価率 | 人件費対売上高比率 | FL比率(原価率+人件費率) | 売上高営業利益率 | 損益分岐点比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般飲食店 | 35.0% | 32.9% | 67.9% | -2.2% | 104.5% |
| 日本料理店 | 38.0% | 31.5% | 69.5% | -1.9% | 104.3% |
| 西洋料理店 | 34.0% | 32.2% | 66.2% | -2.4% | 105.0% |
| 中華料理店 | 35.0% | 33.6% | 68.6% | -1.0% | 102.6% |
| カレー料理店 | 30.0% | 39.7% | 69.7% | -1.4% | 102.6% |
| そば・うどん店 | 30.6% | 38.2% | 68.8% | -3.9% | 106.5% |
| すし店 | 41.1% | 30.2% | 71.3% | -2.5% | 103.9% |
| 喫茶店 | 28.1% | 29.8% | 57.9% | -2.2% | 104.6% |
| 酒場,ビヤホール | 32.2% | 32.2% | 64.4% | -1.8% | 103.8% |
損益分岐点比率が100%を超える分類は、平均すると売上が損益分岐点に届いていません。原価率が30%前後で低いカレー料理店やそば・うどん店は、代わりに人件費率が38〜40%と高く、FL比率は69.7%と68.8%です。原価率が最も高いすし店の71.3%との差は1.6ポイントと2.5ポイントしかありません。一方で喫茶店だけはFL比率57.9%と明確に低く、9業態で唯一60%を下回ります。原価率の目標を業態平均に合わせるより、自店の費用を固定費と変動費に分けて損益分岐点を計算するほうが判断に使えます。
食材費と人件費が増えた場合の試算
消費者物価指数は家計が購入する商品・サービスの価格を測る指標で、飲食店の仕入価格そのものではありません(総務省統計局の説明、2026-09-17確認)。最低賃金の改定率も、店全体の人件費増加率とは異なります。給与構成や労働時間が違うためです。
ここでは計算方法を見るため、食材費率35.0%、人件費率32.9%の架空店を置きます。食材費が3.1%、人件費が4.9%増え、販売数・売価・その他の条件が変わらないと仮定します。この上昇率は試算用の入力で、業界の実績や予測ではありません。
食材費率 = 35.0% × 1.031 = 36.085%
人件費率 = 32.9% × 1.049 = 34.5121%
FL比率 = 36.085% + 34.5121% = 約70.6%
同じ販売数でFL比率を元の67.9%へ戻す売価上昇率は、70.5971 ÷ 67.9 - 1 = 約4.0% です。これはこの仮定だけの結果です。消費者物価の外食指数との差を取っても、平均的な店が負担した金額や利益減少率にはなりません。値上げ後の販売数や必要な人員が変わる場合は、その条件で計算し直します。
原価率に加えて人件費率も確認します。ただし、FL比率を固定費で割っても損益分岐点売上高にはなりません。費用を固定費と変動費に分け、損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 - 変動費率) で計算します。変動費率は売上高に対する割合を小数で入れ、1未満である必要があります。人件費にも固定部分と変動部分があるため、FL比率をそのまま変動費率として使わないでください。式と費用区分はSBAの損益分岐点解説でも確認できます(2026-09-17確認)。
統計の項目を足す前に費用範囲を確認する
一般飲食店の売上高総利益率65.0%から人件費率32.9%と諸経費率30.7%を引くと1.4%ですが、同じ調査の売上高営業利益率は−2.2%です。この差の原因を「平均だから」と説明することはできません。同じ対象・重み・費用範囲の算術平均なら、足し引きの関係は保たれます。
ここでは差の原因を特定していません。費用区分の重複や未算入項目、集計対象・方法が一致するかを原資料で確認する必要があります。上のFL比率は掲載比率を足した参考値であり、自店の利益計算へ代入する値ではありません。自店の損益は、重複のない費用区分と実際の金額で計算してください。
出典の来歴
2025年度版の原資料は、JFCの調査一覧から「飲食店・宿泊業」の業種別PDF sme_findings2_08b.pdfです。PDF内では「飲食店,宿泊業」から「酒場,ビヤホール」まで各業種が1ページ表になっており、その表の「調査対象数」「売上高総利益率」「人件費対売上高比率」「売上高営業利益率」「損益分岐点比率」の平均値・中央値を使いました。
2023年度版は同じファイル名 sme_findings2_08b.pdf、区分「飲食店,宿泊業/業種別」で2024年8月2日に公表されたものですが、同じURLは2026年8月に2025年度版へ更新されました。合法かつ安定して参照できる2023年度PDFの固定アーカイブは確認できなかったため、2023年度の列は当時の表から転記した値であり、このページには公表日、ファイル名、区分、表見出し、使用行を来歴として残しています。
実際原価率と理論加重原価率を分ける
実際原価率は棚卸による会計実績です。
実際売上原価 = 期首棚卸高 + 当月仕入高 - 期末棚卸高
実際原価率 = 実際売上原価 ÷ 売上高 × 100
= (期首棚卸高 + 当月仕入高 - 期末棚卸高) ÷ 売上高 × 100
理論原価は、登録したレシピ原価と実際の販売数から出します。
理論原価 = Σ(1品原価 × 販売数)
加重原価率 = Σ原価額 ÷ Σ売上額 × 100
品目原価率の単純平均は使いません。販売数の多い商品ほど店全体への影響が大きいからです。
実際と理論を比較する前に、次の境界をすべてそろえます。
- 同じ開始日と終了日
- 同じ売上範囲。理論側にはその期間に売れた全メニューを含める
- 同じ食材原価範囲。棚卸側に入る食材を理論側から落とさない
- 同じ消費税基準。管理会計では通常、売上も費用も税抜でそろえる
店内飲食10%と持ち帰り8%が混在する場合は、チャネル別に税抜売上へ直してから合算します。税込売上と税抜原価をそのまま割りません。
計算例:70,200円は「結論」ではない
入力例は、月商1,319,000円、期首棚卸210,000円、当月仕入470,000円、期末棚卸195,000円です。
実際売上原価 = 210,000 + 470,000 - 195,000 = 485,000円
実際原価率 = 485,000 ÷ 1,319,000 = 36.8%
この架空店には販売メニューが4品しかなく、4品の売上合計が実際売上1,319,000円と一致する、という入力例です。
| メニュー | 売価 | 1品食材原価 | 販売数 | 理論食材原価 | 食材粗利貢献額 |
|---|---|---|---|---|---|
| コーヒー | 450円 | 90円 | 900 | 81,000円 | 324,000円 |
| ラーメン | 900円 | 280円 | 620 | 173,600円 | 384,400円 |
| 刺身盛り合わせ | 1,800円 | 810円 | 120 | 97,200円 | 118,800円 |
| 和牛ステーキ | 3,500円 | 1,575円 | 40 | 63,000円 | 77,000円 |
| 合計 | 414,800円 | 904,200円 |
理論加重原価率 = 414,800 ÷ 1,319,000 = 31.4%
原価差異 = 485,000 - 414,800 = 70,200円
この70,200円は原価差異であり、原因を調べる調査対象額です。差額のすべてを回収できるとは限らず、レシピどおりに作っていない証拠でもありません。
実在店で上位4品だけを入力して理論売上が実際売上に届かない場合、これは部分メニュー確認です。商品ごとの原価率や食材粗利貢献額の順位には使えますが、485,000円の店全体売上原価から差し引いて「原価差異」を出してはいけません。ワークブックは売上合計が一致しない限り、店全体差異を表示しません。
確認順は次の通りです。
- 期末棚卸の数量、単価、締め時点
- 仕入計上の期間ずれ
- レシピ単価と使用量の更新日
- まかない、試作、サービス、廃棄の記録
- 盛り付け量と販売数の差
食材粗利貢献額で商品の順番を見る
1品粗利額 = 売価 - 変動原価
粗利貢献額 = 1品粗利額 × 販売数
この記事とファイルの入力例では、変動原価を食材原価に限定しています。したがって「食材粗利貢献額」であり、人件費、家賃、決済手数料を引いた営業利益ではありません。
原価率45%の和牛ステーキを率だけで止めると、月77,000円の食材粗利貢献額が消えます。率で候補を絞り、金額と販売数で最終判断します。
15分の共有・会議手順
- 経理担当が「実際原価」の黄色セルを更新する。
- 店全体差異を見る場合、料理長が同じ期間に売れた全商品の売価、1品食材原価、販売数を更新する。上位商品だけなら「部分メニュー確認」として順位だけを見る。
- 店長と経理が「共有用サマリー」1枚を見る。
- 差異の原因を断定せず、最初に確認する1項目と担当者を決める。
- 次回棚卸後に同じ範囲で再計算する。
税理士に送る場合は、共有用サマリーと実際原価シートだけでも論点が通じます。メニューの詳細は「理論原価・粗利」に残します。
「30%」の使い方
30%は統計ではなく、開業計画で使われる仮の予算例の一部です。例えば食材費30%、人件費25%、家賃10%などと置く方法で、これは調査結果ではないため、業態差を説明できません。
予算を作る出発点としては使えますが、実績評価には自店の費用範囲、売価、販売数、固定費が必要です。
日々のレシピ更新が必要な場合
このExcelは月次会議用です。食材価格やレシピを日常的に更新する場合は、KitchenCostのような原価管理ツールに分量と仕入単価を保持し、月次の実際原価と照合します。ただし、どのツールを使っても棚卸の数え方と費用範囲は自動でそろいません。
出典(最終確認: 2026-08-29)
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」調査一覧(2025年度版、2026年8月公表)
- 日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」飲食店・宿泊業 業種別PDF(sme_findings2_08b.pdf)、2026-09-17再確認。調査対象850社、一般飲食店464社
- 日本政策金融公庫「2023年度 小企業の経営指標調査」(2024年8月2日公表、同ファイル名)— 2023年度の列に使用。固定アーカイブなし
- 本文の導出原価率・FL比率は上記の売上高総利益率・人件費対売上高比率から筆者が算出したもので、統計に直接掲載された数値ではありません