値入率は計画、粗利率は実績
値入率は値付け前の計画、実績粗利率は販売後の結果です。この記事で参照する日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表)では、一般飲食店464社の売上高総利益率は平均65.0%、中央値65.1%です(2026-09-17再確認)。これは決算ベースの実績で、販売前に決める値入率の平均ではありません。
目標値入率は、自店の費用、販売数量、値引き、廃棄を含めて決めます。後述の架空例では計画と実績が5.8ポイント離れますが、その差を別の店や業界統計へ一律に足すことはできません。
使う式と前提
値入率 = (計画売価 - 原価) ÷ 計画売価原価率 = 原価 ÷ 計画売価必要売価 = 原価 ÷ (1 - 選択した目標値入率)- 実績は、値引き後の実際税抜売上と廃棄を含む食材原価で計算する
- 目標値入率は自店の内部基準であり、業界標準ではない
- 食材粗利額は、人件費や家賃を引く前の金額であり、営業利益ではない
商品別の計画と実績を並べるには、値入率・価格判断ワークブック(Excel)を使えます。30商品分の原価、計画売価、実際税抜単価、販売数、廃棄数を入力でき、未入力・文字・負数・不正な目標率はエラー表示になります。入力例は架空です。
公式統計は販売後の比較に使う
以下は業種別の売上高総利益率です。会計上の売上原価を引いた後の率なので、食材だけを使ったレシピ原価とは範囲が異なる場合があります。推奨値や計画値入率の下限ではありません。
| 業種(統計上の分類) | 調査対象数 | 売上高総利益率 平均 | 中央値 |
|---|---|---|---|
| 一般飲食店 | 464 | 65.0% | 65.1% |
| 喫茶店 | 35 | 71.9% | 72.2% |
| カレー料理店 | 33 | 70.0% | 69.7% |
| そば・うどん店 | 26 | 69.4% | 70.3% |
| 酒場,ビヤホール | 212 | 67.8% | 67.9% |
| 西洋料理店 | 66 | 66.0% | 65.8% |
| 中華料理店 | 109 | 65.0% | 65.8% |
| 日本料理店 | 74 | 62.0% | 62.3% |
| すし店 | 37 | 58.9% | 59.2% |
出典は日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表)の業種別表です。読むときの注意が3つあります。
- 売上原価の範囲は各社の会計処理に従うため、食材費だけとは限りません。包材や外注加工費が入る場合、この数字は食材だけの粗利率より低く出ます。
- 決算ベースの実績であり、目標でも推奨でもありません。同じ調査で一般飲食店の平均営業利益率は−2.2%です。統計の粗利率を達成しても営業黒字になるとは限りません。
- ラーメン店や焼肉店は独立分類がありません。近い分類を参考にするか、自店データだけで判断します。
自店と比較するときは、原価の範囲と税基準をそろえます。統計の平均に架空例の5.8ポイントを足しても、自店に必要な値入率は求められません。
原価が上がった場合の計算例
消費者物価指数の食料と外食は家計の購入価格に関する指標です。その差を飲食店の仕入価格と販売価格の差として扱うことはできません(総務省統計局の説明、2026-09-17確認)。仕入単価は自店の納品書で更新します。
ここでは架空例として、原価480円・計画売価1,200円・計画値入率60.0%の商品を置きます。原価だけが3.1%上がると仮定した試算で、業界全体の変化ではありません。
新しい原価 = 480 × 1.031 = 494.88円(約494.9円)
据え置き時の計画値入率 = (1,200 - 494.88) ÷ 1,200 = 約58.8%
値入率の目減り = 60.0% - 58.76% = 約1.2ポイント
60.0%を保つ売価 = 494.88 ÷ (1 - 0.60) = 1,237.2円
原価と同じ3.1%だけ売価を上げれば、同じ値入率になります。円単位で目標を下回らないように切り上げるなら1,238円です。この計算は販売数を保証しないため、価格変更後の売れ方も確認してください。
以降の比較では原価を494.9円と丸めて計算します。
売価を据え置くなら、何食多く売る必要があるか
値上げをしない選択もあります。その場合に何が必要かを数字にします。
1食あたり食材粗利額(前) = 1,200 - 480 = 720円
1食あたり食材粗利額(後) = 1,200 - 494.9 = 705.1円
同じ食材粗利額(720円 × 92食 = 66,240円)を保つのに必要な販売数
= 66,240 ÷ 705.1
= 93.9食 → 94食
92食から約2食、率にして2.1%の増加が必要です。原価上昇3.1%に対して必要な販売増が2.1%で済むのは、粗利率が高いほど1食の吸収力が大きいからです。逆に値入率の低い商品ほど、同じ原価上昇に対して必要な販売増は大きくなります。
判断は「値上げか、増客か」の二択ではありません。商品ごとに、どちらが現実的かが違います。販売数が伸びる余地のない時間帯の商品は値上げ側、まだ席が空いている時間帯の商品は増客側、という分け方ができます。率を決め直すのは、仕入単価を更新した月が最も判断しやすいタイミングです。
値入率・原価率・実績粗利率を分ける
| 指標 | 計算式 | 使う時点 | 判断すること |
|---|---|---|---|
| 計画値入率 | (計画売価 - 原価) ÷ 計画売価 | 販売前 | 計画上、食材粗利が何割残るか |
| 計画原価率 | 原価 ÷ 計画売価 | 販売前 | 計画売価に食材原価が占める割合 |
| 実績食材原価率 | 販売・廃棄分の食材原価 ÷ 実際税抜売上 | 販売後 | 値引きと廃棄を含め、食材費が何割だったか |
| 実績食材粗利率 | (実際税抜売上 - 販売・廃棄分の食材原価) ÷ 実際税抜売上 | 販売後 | 食材費を引いた後に何割残ったか |
同じ原価と計画売価を使う限り、計画原価率と計画値入率の合計は100%です。ただし、実際税抜単価が値引きで下がったり、廃棄が出たりすると、実績食材粗利率は計画値入率から離れます。
売価値入率と原価値入率は分母が違う
飲食店で原価率と対にするのは、通常は売価を分母にする売価値入率です。仕入資料などで原価を分母にした原価値入率が使われる場合があるため、名称だけで判断しません。
売価値入率 = (売価 - 原価) ÷ 売価 × 100
原価値入率 = (売価 - 原価) ÷ 原価 × 100
売価値入率 = 原価値入率 ÷ (1 + 原価値入率)
販売前の見込みである売価値入率と、販売後に値下げやロスを含めて出す実績食材粗利率も分けます。
架空の入力例で計算する
以下は計算方法を示すための架空例で、市場平均や推奨値ではありません。
- 原価:480円
- 計画売価:1,200円
- 値引き後の実際税抜単価:1,140円
- 販売数:92食
- 廃棄数:8食
計画は次のとおりです。
計画値入率 = (1,200 - 480) ÷ 1,200
= 60.0%
計画原価率 = 480 ÷ 1,200
= 40.0%
実績では、販売した92食だけでなく、仕込んで廃棄した8食の原価も含めます。
実際税抜売上 = 1,140 × 92
= 104,880円
販売・廃棄分の食材原価 = 480 × (92 + 8)
= 48,000円
実績食材原価率 = 48,000 ÷ 104,880
= 45.8%
実績食材粗利額 = 104,880 - 48,000
= 56,880円
実績食材粗利率 = 56,880 ÷ 104,880
= 54.2%
計画対実績差 = 54.2% - 60.0%
= -5.8ポイント
この差だけでは原因は決まりません。実際単価、値引き記録、廃棄数、原価の更新日を順に照合します。
目標値入率から必要売価を逆算する
原価に一定率を上乗せする計算と、売価を分母にする値入率は別です。目標値入率から売価を出す式は次です。
必要売価 = 原価 ÷ (1 - 選択した目標値入率)
架空例として、原価500円、選択した目標値入率60%なら次の計算になります。
必要売価 = 500 ÷ (1 - 0.60)
= 1,250円
一方、原価500円に60%を上乗せした売価は800円です。この場合の値入率は 300 ÷ 800 = 37.5% で、60%にはなりません。
何%ならよいかを自店の固定費から逆算する
値入率だけでは、人件費、家賃、光熱費、包材、決済手数料、販促費は見えません。自店の金額を使って、食材費を引いた後にいくら必要かを確かめます。費用区分は重複しないようにそろえてください。
必要な実績食材粗利率
= (食材以外の費用 + 目標利益) ÷ 予想する値引き後の税抜売上高
たとえば月の人件費40万円、その他の費用30万円、目標利益10万円、予想売上120万円なら、必要な実績食材粗利率は 80万円 ÷ 120万円 = 約66.7% です。これは架空の予算例で、業界標準ではありません。販売数や費用が変われば再計算します。
この率と、販売前の計画値入率も区別します。商品別に予想する販売数、値引き後単価、廃棄数を入れ、実績側に相当する食材粗利額の合計が80万円を賄えるかを試算してください。別の商品の計画対実績差を一律に足しても、必要な計画値入率にはなりません。
公庫の統計で掲載比率を足し引きして営業利益率と合わない場合も、「各社の比率の平均だから」とは説明できません。同じ対象と重みなら平均にも足し引きの関係が成立します。費用区分や集計範囲を確認し、自店の予算には自店の金額を使ってください。
目標値入率が高くても販売数が少なければ、必要な金額は残りません。率と食材粗利額を必ず一緒に見ます。
判断できる範囲とできない範囲
- この計算で分かるのは、食材原価に対する計画と実績の差です。
- 食材粗利額は営業利益、経常利益、限界利益を示しません。
- 廃棄数が未記録なら、実績食材原価率を低く見積もる可能性があります。
- 複数税率や販売チャネルがある場合は、同じ税基準へ直してから合算します。
- 目標値入率は市場相場、競合価格、顧客の反応を保証するものではありません。
価格会議のチェックリスト
- 原価と計画売価を同じ税基準で入力した
- 値引き後の実際税抜単価をPOSと照合した
- 販売数と廃棄数の両方を入力した
- 選択した目標値入率を「業界平均」と呼んでいない
- 必要売価を
原価 ÷ (1 - 目標率)で再計算した - 実績食材粗利額を営業利益と表示していない
- 差が出た商品の伝票、値引き、廃棄記録を確認した
原価更新を継続する場合
価格案が固まった後は、KitchenCostでレシピ原価を更新し、仕入価格が変わった商品だけを継続確認できます。まずワークブックで計画と実績の境界をそろえ、その後の更新作業に使う程度で十分です。
関連ガイド
参考・計算根拠
確認日:2026-08-29
- JMR生活総合研究所「値入率」 — 販売前の値入率と販売後の粗利益率の区別
- CASIO「値入率とは?」 — 値引きやロスが実績へ与える考え方
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」調査一覧(2025年度版、2026年8月公表)
- 同 飲食店・宿泊業 業種別PDF(sme_findings2_08b.pdf)、2026-09-17再確認。業種別の調査対象数と売上高総利益率
- 原価3.1%上昇時の試算は、条件を仮定した筆者の計算です。消費者物価指数から自店の仕入上昇率を推定したものではありません
外部の率を目標値として採用していません。ワークブックの結果は、自店が入力した原価、売価、実際単価、販売数、廃棄数だけから計算します。