先に答え:値入率に業界平均は存在しない。公式統計にあるのは実績側だけ
値入率は値付け前の計画、実績粗利率は販売後の結果です。そして公表されている業種別統計は、すべて後者です。日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表)の一般飲食店464社は、売上高総利益率が平均65.0%、中央値65.1%(確認日2026-08-29)。これは値引きも廃棄も通過した決算後の数字で、販売前に決める値入率の平均ではありません。
つまり「値入率は何%が普通か」に答える公的データは存在しません。使えるのは逆方向です。実績側の統計を下限として、そこに自店の値引きと廃棄の目減り分を足したものが、計画値入率の出発点になります。この記事の架空例では目減りが5.8ポイントでした。
使う式と前提
値入率 = (計画売価 - 原価) ÷ 計画売価原価率 = 原価 ÷ 計画売価必要売価 = 原価 ÷ (1 - 選択した目標値入率)- 実績は、値引き後の実際税抜売上と廃棄を含む食材原価で計算する
- 目標値入率は自店の内部基準であり、業界標準ではない
- 食材粗利額は、人件費や家賃を引く前の金額であり、営業利益ではない
商品別の計画と実績を並べるには、値入率・価格判断ワークブック(Excel)を使えます。30商品分の原価、計画売価、実際税抜単価、販売数、廃棄数を入力でき、未入力・文字・負数・不正な目標率はエラー表示になります。入力例は架空です。
公式統計から計画値入率の下限を置く
業種別の売上高総利益率(=販売後に食材等の売上原価を引いて残った割合の実績)は次のとおりです。右端は、この記事の架空例の目減り5.8ポイントをそのまま足した場合の計画値入率の目安で、統計に載っている数値ではなく筆者の逆算です。自店の値引きと廃棄を集計したら、5.8ポイントを自店の実測値に置き換えてください。
この足し算には前提のずれが1つあります。5.8ポイントは1商品の食材原価に対する計画と実績の差ですが、統計の売上高総利益率は会計上の売上原価(食材以外を含む場合がある)を引いた後の率です。範囲が違うものを足しているので、右端の列は概算の出発点であって、精度のある目標値ではありません。自店の数字で置き換えるときは、原価の範囲も自店の会計に合わせてください。
| 業種(統計上の分類) | 調査対象数 | 売上高総利益率 平均 | 中央値 | 逆算した計画値入率の出発点 |
|---|---|---|---|---|
| 一般飲食店 | 464 | 65.0% | 65.1% | 70.8%以上 |
| 喫茶店 | 35 | 71.9% | 72.2% | 77.7%以上 |
| カレー料理店 | 33 | 70.0% | 69.7% | 75.8%以上 |
| そば・うどん店 | 26 | 69.4% | 70.3% | 75.2%以上 |
| 酒場,ビヤホール | 212 | 67.8% | 67.9% | 73.6%以上 |
| 西洋料理店 | 66 | 66.0% | 65.8% | 71.8%以上 |
| 中華料理店 | 109 | 65.0% | 65.8% | 70.8%以上 |
| 日本料理店 | 74 | 62.0% | 62.3% | 67.8%以上 |
| すし店 | 37 | 58.9% | 59.2% | 64.7%以上 |
出典は日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」(2026年8月公表)の業種別表です。読むときの注意が3つあります。
- 売上原価の範囲は各社の会計処理に従うため、食材費だけとは限りません。包材や外注加工費が入る場合、この数字は食材だけの粗利率より低く出ます。
- 決算ベースの実績であり、目標でも推奨でもありません。同じ調査で一般飲食店の平均営業利益率は−2.2%です。統計の粗利率を達成しても営業黒字になるとは限りません。
- ラーメン店や焼肉店は独立分類がありません。近い分類を参考にするか、自店データだけで判断します。
だから右端の列は「この率にしなさい」ではなく、「これを下回る計画値入率を置くと、値引きと廃棄を通過した後に業種平均の実績すら下回る」という下限の意味です。
いま計画値入率を置き直すべき理由
仕入と売価は同じ速さで動いていません。直近の公表値は次のとおりです。
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 消費者物価 生鮮食品を除く食料 | 前年同月比 +3.1% | 2026年7月・総務省 |
| 消費者物価 外食 | 前年同月比 +1.7% | 2026年7月・総務省 |
| 食品主要195社の値上げ品目 | 14,902品目(2026年1〜11月判明分) | 帝国データバンク |
| 同 1回あたり平均値上げ率 | 月平均11%(2026年7月分) | 帝国データバンク |
仕入側が+3.1%、売価側が+1.7%です。外食全体として、売価の上昇が仕入の上昇に1.4ポイント届いていません。
これが値入率に何を起こすか、この記事の架空例(原価480円・計画売価1,200円・計画値入率60.0%)で確かめます。売価を据え置いたまま原価だけが3.1%上がった場合です。
新しい原価 = 480 × 1.031
= 494.9円
据え置き時の計画値入率 = (1,200 - 494.9) ÷ 1,200
= 58.8%
値入率の目減り = 60.0% - 58.8%
= 1.2ポイント
計画値入率を60.0%に戻すために必要な売価は次のとおりです。
必要売価 = 494.9 ÷ (1 - 0.60)
= 1,237円
つまり原価が3.1%上がると、売価は約3.1%(1,200円→1,237円)上げないと同じ値入率を保てません。外食全体の売価上昇が1.7%にとどまっているということは、平均的には据え置き側に寄っているということです。
売価を据え置くなら、何食多く売る必要があるか
値上げをしない選択もあります。その場合に何が必要かを数字にします。
1食あたり食材粗利額(前) = 1,200 - 480 = 720円
1食あたり食材粗利額(後) = 1,200 - 494.9 = 705.1円
同じ食材粗利額(720円 × 92食 = 66,240円)を保つのに必要な販売数
= 66,240 ÷ 705.1
= 93.9食 → 94食
92食から約2食、率にして2.1%の増加が必要です。原価上昇3.1%に対して必要な販売増が2.1%で済むのは、粗利率が高いほど1食の吸収力が大きいからです。逆に値入率の低い商品ほど、同じ原価上昇に対して必要な販売増は大きくなります。
判断は「値上げか、増客か」の二択ではありません。商品ごとに、どちらが現実的かが違います。販売数が伸びる余地のない時間帯の商品は値上げ側、まだ席が空いている時間帯の商品は増客側、という分け方ができます。率を決め直すのは、仕入単価を更新した月が最も判断しやすいタイミングです。
値入率・原価率・実績粗利率を分ける
| 指標 | 計算式 | 使う時点 | 判断すること |
|---|---|---|---|
| 計画値入率 | (計画売価 - 原価) ÷ 計画売価 | 販売前 | 計画上、食材粗利が何割残るか |
| 計画原価率 | 原価 ÷ 計画売価 | 販売前 | 計画売価に食材原価が占める割合 |
| 実績食材原価率 | 販売・廃棄分の食材原価 ÷ 実際税抜売上 | 販売後 | 値引きと廃棄を含め、食材費が何割だったか |
| 実績食材粗利率 | (実際税抜売上 - 販売・廃棄分の食材原価) ÷ 実際税抜売上 | 販売後 | 食材費を引いた後に何割残ったか |
同じ原価と計画売価を使う限り、計画原価率と計画値入率の合計は100%です。ただし、実際税抜単価が値引きで下がったり、廃棄が出たりすると、実績食材粗利率は計画値入率から離れます。
売価値入率と原価値入率は分母が違う
飲食店で原価率と対にするのは、通常は売価を分母にする売価値入率です。仕入資料などで原価を分母にした原価値入率が使われる場合があるため、名称だけで判断しません。
売価値入率 = (売価 - 原価) ÷ 売価 × 100
原価値入率 = (売価 - 原価) ÷ 原価 × 100
売価値入率 = 原価値入率 ÷ (1 + 原価値入率)
販売前の見込みである売価値入率と、販売後に値下げやロスを含めて出す実績食材粗利率も分けます。
架空の入力例で計算する
以下は計算方法を示すための架空例で、市場平均や推奨値ではありません。
- 原価:480円
- 計画売価:1,200円
- 値引き後の実際税抜単価:1,140円
- 販売数:92食
- 廃棄数:8食
計画は次のとおりです。
計画値入率 = (1,200 - 480) ÷ 1,200
= 60.0%
計画原価率 = 480 ÷ 1,200
= 40.0%
実績では、販売した92食だけでなく、仕込んで廃棄した8食の原価も含めます。
実際税抜売上 = 1,140 × 92
= 104,880円
販売・廃棄分の食材原価 = 480 × (92 + 8)
= 48,000円
実績食材原価率 = 48,000 ÷ 104,880
= 45.8%
実績食材粗利額 = 104,880 - 48,000
= 56,880円
実績食材粗利率 = 56,880 ÷ 104,880
= 54.2%
計画対実績差 = 54.2% - 60.0%
= -5.8ポイント
この差だけでは原因は決まりません。実際単価、値引き記録、廃棄数、原価の更新日を順に照合します。
目標値入率から必要売価を逆算する
原価に一定率を上乗せする計算と、売価を分母にする値入率は別です。目標値入率から売価を出す式は次です。
必要売価 = 原価 ÷ (1 - 選択した目標値入率)
架空例として、原価500円、選択した目標値入率60%なら次の計算になります。
必要売価 = 500 ÷ (1 - 0.60)
= 1,250円
一方、原価500円に60%を上乗せした売価は800円です。この場合の値入率は 300 ÷ 800 = 37.5% で、60%にはなりません。
何%ならよいかを自店の固定費から逆算する
値入率だけでは、人件費、家賃、光熱費、包材、決済手数料、販促費は見えません。一律の目標値を業界平均として置くのではなく、自店の費用から逆算します。式は1つです。食材粗利額の合計が、人件費とその他の費用と目標利益を賄えるかどうかで決まります。
必要な平均値入率 = (人件費 + 諸経費 + 目標利益) ÷ 予想税抜売上高
規模感の参考として、日本政策金融公庫「2025年度 小企業の経営指標調査」の一般飲食店の平均は、人件費対売上高比率32.9%、諸経費対売上高比率30.7%です。この2つだけで63.6%になります。目標利益を売上の3%とすれば、必要な平均値入率は66.6%という計算になります。
ただしこの数字をそのまま目標にしないでください。理由が2つあります。
- **統計の平均値どうしは足し引きが合いません。**同じ調査で売上高総利益率は65.0%ですが、そこから人件費率と諸経費率を引くと1.4%になる一方、売上高営業利益率は−2.2%と報告されています。各項目が「各社の比率を平均した値」であり「合計額どうしの比」ではないためです。規模感の把握には使えますが、自店の目標値の計算には自店の決算書の金額を使ってください。
- **値入率は計画、上の比率は実績です。**値引きと廃棄の分だけ、計画値入率は実績より高く置く必要があります。
自店の数字で置き換える手順は次のとおりです。
- 原価の範囲と税抜・税込の基準をそろえる
- 直近12か月の人件費と諸経費の合計額を出す(金額であって率ではない)
- 目標利益額を決める
- 予想する年間税抜売上高で割る → 必要な平均食材粗利率
- 実際の販売数量・値引き・廃棄を月次で集計し、目減り分を足す → 必要な平均計画値入率
- 商品ごとの値入率が平均を下回るものを、販売数の多い順に確認する
目標値入率が高くても販売数が少なければ、必要な金額は残りません。率と食材粗利額を必ず一緒に見ます。
判断できる範囲とできない範囲
- この計算で分かるのは、食材原価に対する計画と実績の差です。
- 食材粗利額は営業利益、経常利益、限界利益を示しません。
- 廃棄数が未記録なら、実績食材原価率を低く見積もる可能性があります。
- 複数税率や販売チャネルがある場合は、同じ税基準へ直してから合算します。
- 目標値入率は市場相場、競合価格、顧客の反応を保証するものではありません。
価格会議のチェックリスト
- 原価と計画売価を同じ税基準で入力した
- 値引き後の実際税抜単価をPOSと照合した
- 販売数と廃棄数の両方を入力した
- 選択した目標値入率を「業界平均」と呼んでいない
- 必要売価を
原価 ÷ (1 - 目標率)で再計算した - 実績食材粗利額を営業利益と表示していない
- 差が出た商品の伝票、値引き、廃棄記録を確認した
原価更新を継続する場合
価格案が固まった後は、KitchenCostでレシピ原価を更新し、仕入価格が変わった商品だけを継続確認できます。まずワークブックで計画と実績の境界をそろえ、その後の更新作業に使う程度で十分です。
関連ガイド
参考・計算根拠
確認日:2026-08-29
- JMR生活総合研究所「値入率」 — 販売前の値入率と販売後の粗利益率の区別
- CASIO「値入率とは?」 — 値引きやロスが実績へ与える考え方
- 日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」調査一覧(2025年度版、2026年8月公表)
- 同 飲食店・宿泊業 業種別PDF(sme_findings2_08b.pdf) — 業種別の調査対象数と売上高総利益率。表の「逆算した計画値入率の出発点」は筆者が目減り分を足したもので、統計に掲載された数値ではありません
- 総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年7月分」 — 生鮮食品を除く食料 前年同月比+3.1%、外食 同+1.7%
- 帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査 2026年7月 — 2026年1〜11月判明分14,902品目、1回あたり平均値上げ率は月平均11%
- 原価3.1%上昇時の試算は、上記の物価上昇率を本記事の架空例に当てはめた筆者の計算です
外部の率を目標値として採用していません。ワークブックの結果は、自店が入力した原価、売価、実際単価、販売数、廃棄数だけから計算します。