要点まとめ
- 原価率は部位によって2倍以上の差がある。タン塩50%超 vs ホルモン25%——この差でメニュー全体をコントロールする
- 焼肉店の最大の武器は「お客さんが焼く」こと。人件費率18〜25%は飲食業界で最も低い水準
- ドリンクは第二の利益源。ハイボールの原価率は9〜13%。肉の高原価をドリンクで相殺する
- 交雑牛は和牛の35〜40%安い。「国産牛」として提供できるコスト最適解
「売上はあるのに、なぜか残らない」
焼肉店のオーナーから、この相談はよく聞きます。
客単価4,000〜5,000円。テーブルは毎晩埋まっている。でも月末に通帳を見ると、思ったほど残っていない。原因はたいてい肉の仕入れコスト——売上の30〜40%が肉に消えています。
2025年、焼肉店の倒産は59件で過去最多を更新しました。東京商工リサーチの調査によると、輸入牛肉の人気部位(ロース・カルビ・ハラミ)は2020年比で70%以上値上がりしているのに、メニュー価格は10%程度しか上げられていない。この「値上げできないジレンマ」が、多くの焼肉店を追い詰めています。
でも、焼肉店には他の飲食業態にない強みがあります。お客さんが自分で焼く。だから調理人件費がほとんどかかりません。そして、部位の組み合わせとドリンク戦略で原価率をコントロールできる。その仕組みを、ここで具体的に説明します。
焼肉店の原価構造——他の業態と何が違う?
焼肉店は「原価率は高いが、人件費が低い」という独特のコスト構造を持っています。
| 指標 | 焼肉店 | 居酒屋 | ラーメン店 | カフェ |
|---|---|---|---|---|
| 原価率(F) | 30〜40% | 28〜35% | 28〜35% | 25〜30% |
| 人件費率(L) | 18〜25% | 28〜35% | 25〜30% | 25〜30% |
| FL比率 | 50〜60% | 55〜65% | 55〜63% | 50〜58% |
| 客単価 | 3,000〜6,000円 | 2,500〜4,000円 | 800〜1,200円 | 800〜1,500円 |
| 営業利益率 | 5〜12% | 5〜10% | 8〜15% | 8〜15% |
焼肉店の利益率が5〜12%と幅があるのは、メニュー構成次第で大きく変わるからです。
焼肉店の強み:
- セルフ調理→調理スタッフが最小限で済む
- 客単価が高い→粗利の「額」が大きい
- ドリンク利益率が高い→ハイボールやサワーで全体の原価率を下げられる
焼肉店のリスク:
- 肉の仕入れ価格に経営が左右される
- 円安で輸入牛のコストが読めない
- 滞在時間が長い(60〜90分)→回転率が低い
2026年の牛肉仕入れ価格
枝肉・部分肉の卸売価格(2025年末〜2026年初)
| 分類 | 等級 | 枝肉卸売価格(kg) | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 和牛去勢 | A5 | 2,686円 | 99.0% |
| 和牛去勢 | A4 | 2,500円 | 101.5% |
| 交雑去勢 | B3 | 1,657円 | 100.8% |
| 乳牛去勢 | B2 | 1,194円 | 98.1% |
| 輸入牛肉(CIF) | — | 約1,164円 | — |
出典:東京食肉市場(2024年12月速報値)、農林水産省、農畜産業振興機構(ALIC)
2026年の相場、どうなる?
| 種類 | 動向 | なぜ |
|---|---|---|
| 和牛 | 弱含み〜横ばい | と畜頭数の増加、消費者の節約志向 |
| 交雑牛 | 堅調 | 輸入牛の代替需要で人気。手頃な「国産牛」として需要拡大 |
| 輸入牛(チルド) | やや下落 | 国内需要低迷、現地価格の高止まりで輸入量が減っている |
| 輸入牛(フローズン) | 横ばい | 豪州産トリミング増加見込み |
注意: 最大のリスクは為替です。1ドル=155円を超える水準が続くと、輸入牛のCIF価格は1,200円/kg以上に。国産交雑牛の仕入れルートも確保しておくのが安全策です。
部位別の原価計算
ここが焼肉店の原価管理の核心です。「うちの店でどの部位が儲かっていて、どの部位が足を引っ張っているか」を把握できていますか?
主要部位の仕入れ価格と原価率
| 部位 | 仕入れ(100g) | 1人前 | 1人前原価 | 売価例 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|---|
| カルビ(国産) | 500〜800円 | 80g | 400〜640円 | 980〜1,280円 | 41〜50% |
| カルビ(輸入) | 200〜350円 | 80g | 160〜280円 | 680〜880円 | 24〜32% |
| ハラミ(輸入) | 350〜500円 | 80g | 280〜400円 | 780〜1,080円 | 36〜37% |
| ハラミ(和牛) | 900〜1,100円 | 80g | 720〜880円 | 1,580〜1,980円 | 44〜46% |
| タン塩(輸入) | 600〜900円 | 80g | 480〜720円 | 980〜1,480円 | 49% |
| タン塩(国産) | 1,000〜1,300円 | 80g | 800〜1,040円 | 1,480〜1,980円 | 53〜54% |
| ロース(国産) | 700〜1,200円 | 80g | 560〜960円 | 1,280〜1,780円 | 44〜54% |
| ホルモン(ミックス) | 150〜300円 | 100g | 150〜300円 | 580〜780円 | 26〜38% |
| レバー | 200〜350円 | 80g | 160〜280円 | 580〜780円 | 28〜36% |
| 鶏もも | 100〜180円 | 100g | 100〜180円 | 480〜680円 | 21〜26% |
| 豚バラ(サムギョプサル) | 150〜250円 | 100g | 150〜250円 | 580〜780円 | 26〜32% |
この表をどう使うか
利益が出にくい部位(集客用):
- 上タン塩——国産は原価率50%超。看板メニューとして赤字覚悟
- 和牛ロース——A5は仕入れだけで1,000円/100g超
- 和牛カルビ——ブランド和牛は原価率40%以上が常態
利益を支える部位:
- ホルモン系——原価率25〜35%
- 鶏肉——仕入れが牛の1/5〜1/3
- 豚バラ——仕入れ価格が安定していて計算しやすい
- ドリンク——ハイボール・サワーは原価率10〜20%
タン塩で「ここの焼肉は美味い」と思わせて、ホルモンとドリンクで利益を回収する。これが焼肉店の基本設計です。
メニュー原価設計の実例
客単価4,700円のシミュレーション
| カテゴリー | 注文例 | 原価 | 売価 |
|---|---|---|---|
| タン塩 | 1人前 | 550円 | 1,080円 |
| カルビ(輸入) | 1人前 | 200円 | 780円 |
| ハラミ(輸入) | 1人前 | 350円 | 880円 |
| ホルモンMIX | 1人前 | 200円 | 680円 |
| ライス | 1杯 | 50円 | 250円 |
| 生ビール | 1杯 | 150円 | 550円 |
| ハイボール | 1杯 | 50円 | 480円 |
| 合計 | 1,550円 | 4,700円 | |
| 原価率 | 33.0% |
タンとハラミが原価を押し上げますが、ドリンクとホルモンで相殺。全体で33%に収まっています。
集客メニューと利益メニューの使い分け
| 役割 | 具体例 | 原価率 | 考え方 |
|---|---|---|---|
| 集客 | 和牛カルビ、上タン塩 | 40〜55% | 来店動機。赤字でもOK |
| 主力 | 輸入カルビ、ハラミ | 30〜40% | 注文頻度が高い。利益の柱 |
| 利益 | ホルモン、鶏肉、サイド | 15〜30% | 全体の原価率を下げる |
| ドリンク | ビール、サワー、ハイボール | 10〜30% | 最大の利益源 |
全部位を同じ原価率で考えると、タンは高すぎてメニューから外すか、鶏肉は安すぎて利益を取り損ねます。「部位ごとに役割が違う」と認識することが出発点です。
食べ放題モデルの原価設計
価格帯と原価の目安
| コース | 価格帯(税込) | 目標原価率 | 1人あたり想定原価 |
|---|---|---|---|
| スタンダード | 2,980〜3,480円 | 28〜33% | 830〜1,150円 |
| プレミアム(国産牛含む) | 3,980〜4,980円 | 30〜35% | 1,190〜1,740円 |
| 和牛コース | 5,980〜7,980円 | 33〜38% | 1,970〜3,030円 |
「元を取ろうとするお客さん」は意外と少ない
食べ放題で利益が出るのは、お客さんが実際に食べる量は想像より少ないからです。
- 成人男性の平均摂取量:400〜600g
- 成人女性の平均摂取量:250〜400g
- 輸入肉の平均仕入れ単価:200〜350円/100g
- 1人あたり肉の実質原価:500〜1,500円程度
3,480円の食べ放題で肉の原価が900円、サイド(キムチ・ナムル・ライス)に200円、合計1,100円。原価率は32%。十分利益が出ます。
食べ放題で利益を出す5つのテクニック
- サイドメニューを充実させる — ナムル・キムチ・サラダで満腹感を出す(原価率10〜20%)
- ライス・スープをセットに — 炭水化物で満足度UP→肉の消費量DOWN
- タレの味を濃いめに — ご飯が進む=肉の消費が自然に抑えられる
- デザートをコースに含める — アイス・シャーベットは原価率15〜25%
- ドリンク飲み放題をセット販売 — +1,500〜1,980円で原価率10〜20%の追加利益
人件費とFLコスト管理
なぜ焼肉店の人件費は低いのか
お客さんが焼いてくれるからです。これは冗談ではなく、焼肉店の最大の経営メリットです。
| 業態 | 厨房スタッフ数(30席) | 人件費率 |
|---|---|---|
| 焼肉店 | 1〜2名(肉カット+盛付け) | 18〜25% |
| 居酒屋 | 3〜4名 | 28〜35% |
| ラーメン店 | 2〜3名 | 25〜30% |
| フレンチ | 3〜5名 | 30〜38% |
さらに人件費を下げる方法
| 施策 | 効果 | コスト |
|---|---|---|
| タブレットオーダー | ホールスタッフ1〜2名削減 | 月額2〜5万円 |
| セルフドリンクバー | ドリンク提供の人件費ゼロ | 設備投資30〜80万円 |
| 自動精算機 | レジ業務の省人化 | 100〜300万円 |
| 肉カットの外注化 | カット職人の人件費削減 | 仕入れ単価+5〜10% |
FL比率の目標
| 指標 | 優良 | 平均 | 要改善 |
|---|---|---|---|
| 原価率(F) | 28〜32% | 33〜37% | 38%以上 |
| 人件費率(L) | 18〜22% | 23〜27% | 28%以上 |
| FL比率 | 48〜53% | 54〜60% | 61%以上 |
| 営業利益率 | 10〜15% | 5〜9% | 5%未満 |
FL比率55%以下が黒字経営の目安。60%を超えると、家賃・光熱費を引いた後にほとんど残りません。
仕入れコストを下げる6つの方法
1. 食肉卸と直接取引する
仲介業者を1社減らすだけで、仕入れ価格が10〜15%ダウンするケースがあります。
| 仕入れルート | カルビ100gの目安 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 仲卸業者経由 | 350〜450円 | 品揃え豊富、小ロット | 中間マージン |
| 食肉卸と直接 | 250〜350円 | 10〜15%安い | ロット大きめ |
| 産地直送 | 200〜300円 | 最安。鮮度◎ | 安定供給リスク |
| 業務用ECサイト | 280〜380円 | 価格比較しやすい | 品質確認が難しい |
2. 交雑牛を活用する
和牛(A4・A5)は枝肉で2,500〜2,700円/kg。交雑牛(B3)は1,657円/kg——約35〜40%安いのに、適度な霜降りで味は十分です。
「国産牛カルビ」として提供でき、和牛との価格差をメニュー価格に反映すれば利益率が大幅に改善します。消費者の節約志向が強まる中、交雑牛の需要はむしろ伸びています。
3. 端材を使い切る
| 端材 | 活用メニュー | 原価回収率 |
|---|---|---|
| カルビの端材 | ビビンバの肉、焼肉丼ランチ | 60〜80% |
| タンの根元 | タンシチュー、煮込み | 50〜70% |
| すじ肉 | 牛すじ煮込み、スープ出汁 | 40〜60% |
| ホルモンの端材 | もつ鍋、ホルモン焼きそば | 50〜70% |
ランチメニューは端材活用の最適解です。焼肉丼やカルビクッパなど、夜の仕込みで出た端材をランチに回せば、仕入れの無駄が利益に変わります。
4. 冷凍肉を使い分ける
| チルド肉 | 冷凍肉 | |
|---|---|---|
| 価格 | 高い(+20〜30%) | 安い |
| 品質 | ドリップ少ない | 解凍管理が必要 |
| 保存期間 | 3〜5日 | 1〜3ヶ月 |
| 適する部位 | タン、上カルビ、ロース | ホルモン、輸入カルビ、豚バラ |
看板メニューはチルド、量産メニューは冷凍——この使い分けでコストと品質を両立させます。
5. 歩留まりを管理する
理論原価率と実際原価率の差が月商の3%以上あるなら、歩留まり管理に問題があります。
月商800万円の焼肉店で理論原価率37%・実際原価率40%の場合、月24万円のロスです。年間で288万円。これはスタッフ1人分の年収に相当します。
| ロスの原因 | 対策 |
|---|---|
| 肉のカットのブレ | グラム数を決めてスケール計量 |
| ドリップによる目減り | 冷蔵庫内での低温解凍を徹底 |
| オーダーミス | タブレットオーダーの導入 |
| 在庫の回転不良 | 先入先出の徹底、発注量の適正化 |
6. ドリンクの利益率を最大化する
| ドリンク | 1杯原価 | 売価 | 原価率 | 粗利 |
|---|---|---|---|---|
| 生ビール(中) | 140〜180円 | 500〜580円 | 28〜31% | 360〜400円 |
| ハイボール | 40〜70円 | 450〜530円 | 9〜13% | 410〜460円 |
| レモンサワー | 30〜50円 | 400〜480円 | 7〜10% | 370〜430円 |
| ウーロン茶 | 10〜20円 | 250〜350円 | 4〜6% | 240〜330円 |
| マッコリ | 80〜120円 | 480〜580円 | 17〜21% | 400〜460円 |
飲み放題1,580円の場合、1人あたり3〜5杯が平均。原価は300〜600円(原価率19〜38%)。ハイボールやサワー中心なら確実に利益が出ます。
よくある失敗
| 失敗 | 何が起きるか | 対策 |
|---|---|---|
| 全部位に同じ原価率を設定 | タンが高すぎて出せない、鶏肉の利益を取り損ねる | 部位別に原価率を設定し、ミックスで管理 |
| 歩留まりを計算に入れない | 月数十万円のロスが見えない | カット後のグラム計量を徹底 |
| ドリンクの利益を軽視 | 肉だけで利益を出そうとして価格が高くなりすぎる | ドリンクを全体の利益戦略に組み込む |
| 仕入れ先が1社だけ | 価格交渉力がなく、値上げされても受け入れるしかない | 2〜3社確保して競争させる |
| 食べ放題の原価設計が感覚的 | 「たくさん食べる客」を想定しすぎて価格が高くなる | 実際の平均摂取量データで設計する |
| 円安リスクを放置 | 輸入肉に依存していると為替で利益が吹き飛ぶ | 国産交雑牛の仕入れルートも確保 |
焼肉店の原価ベンチマーク(2026年)
| 指標 | 優良 | 平均 | 要改善 |
|---|---|---|---|
| 全体の原価率 | 28〜32% | 33〜37% | 38%以上 |
| 肉の原価率 | 35〜40% | 41〜45% | 46%以上 |
| ドリンク原価率 | 10〜20% | 21〜28% | 29%以上 |
| FL比率 | 48〜53% | 54〜60% | 61%以上 |
| 営業利益率 | 10〜15% | 5〜9% | 5%未満 |
| 廃棄ロス率 | 2〜3% | 4〜5% | 6%以上 |
| 客単価 | 4,500円以上 | 3,500〜4,500円 | 3,500円未満 |
| 回転率(ディナー) | 2.0回転以上 | 1.5〜2.0回転 | 1.5回転未満 |
原価管理をもっと楽にしたい方へ
焼肉店は扱う部位が20〜50種類以上。さらに仕入れ先・等級・為替で価格が頻繁に変わります。
原価計算アプリ**KitchenCost**を使えば:
- カルビ・ハラミ・タンなど部位ごとの仕入れ価格を一括管理
- 「盛り合わせ」「ホルモンMIX」など複数部位を組み合わせたメニューの原価を自動計算
- 仕入れ値が変わったら、関連するすべてのメニューの原価率が即時更新
- タレや特製ダレを反製品として登録し、タレのコストも含めた正確な原価を把握
- 歩留まり(ロス率)を部位ごとに設定して、廃棄を含めた実質原価を計算
手書きの仕入れ帳やExcelから、スマホで常に最新の原価を確認できる体制に切り替えられます。
今すぐやること
- 主要部位10種類の1人前あたり原価を計算する
- 理論原価率と実際原価率の差(ロス)を確認する
- ドリンクメニューの原価率を計算し、全体の原価率への影響を把握する
- 仕入れ先を2〜3社確保して価格交渉力を持つ
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