つけ麺専門店を開いた人が最初にぶつかる壁は、「思ったより原価率が高い」ということ。
ラーメンの原価率が30%前後に収まっているのに、つけ麺は35%を超えてしまう。同じ麺料理なのに、なぜ?
理由は単純です。つけ麺は麺の量が多い。ラーメンの麺は150〜180g。つけ麺の並盛は250〜300g。大盛にすれば400〜450g。この差が、そのまま原価の差になります。
さらに、つけ汁はラーメンのスープより濃い。濃度が高い=材料が多い=原価が高い。「麺が多くて汁が濃い」——つけ麺は構造的に原価率が高くなる業態です。
だからこそ、麺量・つけ汁・トッピングそれぞれの原価を正確に把握して、値上げではなく構造で利益を出す必要があります。
先に結論
- つけ麺の原価は麺量で決まる。並盛300gと大盛450gで原価差は約45円
- つけ汁はラーメンスープより濃度が高く、1杯130〜170円の原価がかかる
- 「大盛無料」は集客効果があるが、原価率を3〜5ポイント押し上げる
- トッピングはオプション価格で分離し、利益率の高い具材をデフォルトから外す
- 替え玉(麺の追加)は150〜200円で提供すると、原価率を抑えたまま客単価が上がる
つけ麺1杯の原価を分解する
例:魚介豚骨つけ麺(並盛300g・税抜950円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 麺(自家製麺or製麺所) | 300g | 100円 |
| つけ汁:豚骨スープ原液 | 100ml | 50円 |
| つけ汁:魚介ダシ | 50ml | 35円 |
| つけ汁:醤油ダレ | 30ml | 15円 |
| つけ汁:油(鶏油・魚粉油) | 15ml | 20円 |
| チャーシュー | 2枚(60g) | 50円 |
| 味玉 | 1/2個 | 20円 |
| メンマ | 20g | 8円 |
| 海苔 | 2枚 | 6円 |
| ネギ | 10g | 3円 |
| 合計 | 307円 |
原価率:307 ÷ 950 = 32.3%
※ 数字は例です。自家製麺か製麺所仕入れかで麺の原価は大きく変わります。
一見、32%で悪くない数字に見えますが、ここに大盛無料が加わるとどうなるか。
大盛の原価インパクト
大盛無料の場合
| サイズ | 麺量 | 麺原価 | つけ汁・具材 | 合計原価 | 売価 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 並盛 | 300g | 100円 | 207円 | 307円 | 950円 | 32.3% |
| 大盛 | 450g | 150円 | 207円 | 357円 | 950円 | 37.6% |
| 特盛 | 600g | 200円 | 207円 | 407円 | 950円 | 42.8% |
並盛と大盛で原価率が5.3ポイント違います。特盛まで無料にすると10ポイント以上。
仮に1日80杯のうち40%が大盛を選んだとすると:
大盛選択数 = 80杯 × 40% = 32杯/日
追加原価 = 32杯 × 50円 = 1,600円/日
月間追加原価 = 1,600円 × 25日 = 40,000円/月
年間 = 480,000円
年間48万円。これは小さな数字ではありません。
大盛の価格設計パターン
| パターン | 並盛 | 大盛 | 特盛 | メリット |
|---|---|---|---|---|
| 全サイズ同額 | 950円 | 950円 | 950円 | 集客力が高い |
| 大盛+100円 | 950円 | 1,050円 | 1,150円 | 原価率をコントロールしやすい |
| 並盛・大盛同額、特盛+200円 | 950円 | 950円 | 1,150円 | バランス型 |
| 麺量選択制 | 250g:900円 | 300g:950円 | 400g:1,100円 | 少食の取りこぼしも防げる |
**おすすめは「麺量選択制」**です。少食の人には250gで50円安くする。大盛は150円上乗せ。選択肢があると「損した感」が薄れます。
つけ汁の原価管理
つけ麺の原価で最もブレやすいのが、つけ汁です。
つけ汁の構成
つけ汁 = スープ原液 + 醤油ダレ + 油(香味油)
ラーメンのスープは丼に300〜400ml入れますが、濃度は薄め。つけ汁は150〜200mlで濃い。容量は少ないけれど、原材料の密度が高いのでコストは同等か、それ以上です。
つけ汁のブレが起きる3つの原因
1. スープ原液の希釈比率がスタッフで違う
「濃いめ」「薄め」の判断が人によって違う。あるスタッフはスープ原液を120ml入れて、別のスタッフは80ml。その差40mlで原価が20円変わります。
対策:レードルのサイズを固定する。 100mlのレードルで「1杯」と決めれば、ブレは最小限に抑えられます。
2. 油の量が安定しない
鶏油や魚粉油は「ひと回し」で入れがちですが、ひと回しが10mlと20mlでは原価が10円以上変わります。
対策:ディスペンサーかポンプ式ボトルで定量化する。
3. 割りスープの原価が把握できていない
つけ麺を食べ終わった後、つけ汁にスープを足して飲む「割りスープ」。サービスの一環として無料提供する店が多いですが、原価は把握しておくべきです。
割りスープ原価 = 鰹出汁 or 鶏ガラスープ 100〜150ml
1杯あたり = 10〜15円
1日80杯 × 70%利用率 × 12円 = 672円/日 = 月16,800円
月17,000円弱。大きな額ではないので無料提供で問題ありませんが、つけ汁そのものの追加は有料にすべきです(150〜200円)。
トッピング戦略
デフォルトトッピングを見直す
つけ麺のデフォルト(基本価格に含まれるもの)に何を入れるかで、原価率が変わります。
| トッピング | 原価 | デフォルトに含める? |
|---|---|---|
| チャーシュー1枚 | 25円 | ○(看板なので) |
| 味玉 1/2 | 20円 | △(外してオプション化も可) |
| メンマ | 8円 | ○(原価低い) |
| 海苔 2枚 | 6円 | ○(原価低い) |
| ネギ | 3円 | ○(原価低い) |
| チャーシュー追加(2枚) | 50円 | ×(オプション+150円) |
| 味玉追加 | 40円 | ×(オプション+120円) |
味玉をデフォルトから外してオプション(+120円)にすると、1杯あたり20円の原価削減。1日80杯なら月40,000円。ただし、「味玉が付いていない」と感じる客もいるので、メニュー表で「お好みで追加できます」と明記するのがポイントです。
オプショントッピングの利益率
| トッピング | 原価 | 売価 | 粗利 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| チャーシュー増し(3枚) | 75円 | 200円 | 125円 | 38% |
| 味玉 | 40円 | 120円 | 80円 | 33% |
| 特製全部のせ | 145円 | 350円 | 205円 | 41% |
| 替え玉(麺150g) | 50円 | 180円 | 130円 | 28% |
| ミニチャーシュー丼 | 80円 | 280円 | 200円 | 29% |
替え玉とミニ丼は原価率が低く、客単価を上げる切り札です。 特に替え玉は提供に手間がかからないので、利益効率が最も良い。
麺の原価を下げる方法
自家製麺 vs 製麺所仕入れ
| 項目 | 自家製麺 | 製麺所仕入れ |
|---|---|---|
| 麺300gあたり原価 | 60〜80円 | 90〜120円 |
| 初期投資 | 製麺機80〜200万円 | なし |
| スタッフ工数 | 1日1〜2時間 | なし |
| 品質コントロール | 自由度高い | 安定 |
自家製麺は1杯あたり20〜40円安くなりますが、製麺機の初期投資と毎日の製麺作業が必要です。1日80杯以上の店なら、製麺機の投資を1〜2年で回収できる計算になります。
製麺所仕入れの場合、麺の量がそのまま原価です。 だからこそ麺量のg固定が重要になります。
光熱費という「見えない原価」
つけ麺はラーメンより光熱費がかかります。
つけ麺特有の光熱費
- 茹で時間が長い:太麺は10〜15分茹でる(ラーメンの細麺は1〜3分)
- 冷水で締める:茹でた後に冷水で締めるので水道代がかかる
- つけ汁を温め直す:提供前に温め直す工程がある
太麺の茹で時間 = 12分(ラーメン:2分)
ガス代差 = 1杯あたり5〜10円の追加コスト
水道代(麺締め) = 1杯あたり3〜5円
合計 = 8〜15円/杯の追加光熱費
1日80杯で月16,000〜30,000円。これを原価に含めて計算しているかどうかで、利益の見え方が変わります。
価格設計のパターン
つけ麺専門店の価格帯(2026年現在の都市部目安)
| メニュー | 原価(並盛) | 推奨価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 基本つけ麺 | 307円 | 950円 | 32% |
| 濃厚魚介つけ麺 | 340円 | 1,050円 | 32% |
| 辛つけ麺 | 315円 | 980円 | 32% |
| つけ麺+ミニ丼セット | 387円 | 1,200円 | 32% |
ポイントは、バリエーションの原価差を価格差に反映させること。濃厚魚介は原価が33円高いなら、価格も100円上げる。原価率を揃えると管理がしやすくなります。
セットメニューは客単価を上げつつ原価率を維持できるので、メニュー表の目立つ位置に置くのがおすすめです。
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:25日
- 1日の平均杯数:80杯
- 平均客単価:1,100円(トッピング・サイド含む)
月間売上 = 80杯 × 1,100円 × 25日 = 2,200,000円
原価率32%の場合:
原価 = 704,000円
粗利 = 1,496,000円
原価率37%の場合(大盛無料・トッピング過多):
原価 = 814,000円
粗利 = 1,386,000円
差額 = 110,000円/月 = 年間1,320,000円
原価率5ポイントの差が、年間132万円の利益差になります。
今週やること
- 麺量をg基準で固定する(並盛300g、大盛450gなど)
- つけ汁のスープ原液をレードルで計量する仕組みに変える
- 大盛無料の場合、月の追加原価を計算してみる
- デフォルトトッピングの原価を合計し、外せるものがないか検討する
- 替え玉・ミニ丼のサイドメニューを導入して客単価を上げる
- 光熱費を1杯あたりで概算し、原価計算に含める
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