天丼は「海老と油」の商売です。
てんやが2025年2月に天丼を590円から620円に値上げしました。たった30円ですが、この30円を上げるために何カ月も検討したはずです。
個人の天丼専門店で同じことをやるのは、もっと大変です。常連さんの顔が浮かぶから値上げしにくい。でも海老の仕入れは上がっている。
利益が減っている天丼屋に共通するのは、海老の原価は把握しているのに、油の吸い込みとタレのコストを計算していないこと。
天ぷらは油を吸います。海老天1本で約6g、野菜天を含めた1食分で約20g。この「見えないコスト」が月に2万〜3万円になっている店は珍しくありません。
天丼専門店の原価管理は、海老だけでなく油の吸い込みとタレの標準化がカギです。
先に結論
- 天丼の原価は**海老が30〜40%**を占める。次に大きいのがご飯と揚げ油
- 海老はバナメイ(1尾50〜65円)とブラックタイガー(75〜95円)で3割の差がある
- 並天丼と上天丼は海老の本数で分ける。原価差は65〜95円だが、売価差は200〜300円取れる
- 天ぷらの油吸収は食材重量の15〜25%。1食あたりの油コストは12〜18円
- タレは1杯30〜40mlで約12円。かけ量を固定しないと月に数千円の差が出る
天丼1杯の原価を分解する
例:並天丼(税抜700円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| バナメイ海老天 | 1本(30g) | 65円 |
| さつまいも天 | 1枚(40g) | 15円 |
| なす天 | 1/2本(35g) | 12円 |
| ししとう天 | 2本(10g) | 8円 |
| いんげん天 | 2本(8g) | 7円 |
| 衣(小麦粉+卵+水) | 1食分 | 25円 |
| 揚げ油(吸い込み+劣化分) | — | 15円 |
| ご飯 | 1杯(220g) | 45円 |
| タレ | 35ml | 12円 |
| 合計 | 204円 |
原価率:204 ÷ 700 = 29.1%
※ バナメイ海老は21/25サイズ(1kgあたり21〜25尾)、1.8kg入り約5,000円で計算。ご飯は5kgあたり2,500円で計算。数字は目安です。
29.1%は飲食店の原価率目安(30〜35%)の下限。天丼専門店としては合格ラインですが、海老のサイズが大きくなったり、油の管理が甘くなると35%を超えます。
並天丼と上天丼の原価比較
海老の本数で価格帯を作る
| 項目 | 並天丼 | 上天丼 |
|---|---|---|
| 海老 | 1本 | 2本 |
| 野菜天 | 4種 | 3種 |
| かき揚げ | なし | 1枚 |
| 総原価 | 204円 | 302円 |
| 売価 | 700円 | 980円 |
| 原価率 | 29.1% | 30.8% |
| 粗利 | 496円 | 678円 |
上天丼は原価が98円増えますが、売価を280円上げられるので1杯あたりの粗利は182円多い。
ポイントは、上天丼に野菜天を1種減らしてかき揚げを入れること。かき揚げは端材(野菜の切れ端、小エビ)で作れるので原価が安い。見た目のボリュームが出るのに原価は33円程度です。
さらに利益を伸ばすなら
| 追加メニュー | 追加原価 | 追加売価 | 粗利 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 味噌汁セット | +28円 | +100円 | 72円 | 28% |
| ミニうどんセット | +35円 | +150円 | 115円 | 23% |
| 温泉卵 | +15円 | +80円 | 65円 | 19% |
| 漬物盛り | +18円 | +100円 | 82円 | 18% |
| 天ぷら追加(ちくわ天) | +12円 | +120円 | 108円 | 10% |
ちくわ天は原価12円で120円もらえる。原価率10%の高利益メニューです。追加天ぷらでは最も利益率が高い。
海老のサイズ選びと仕入れ
天丼の原価で最も大きいのが海老です。サイズの選び方で原価が大きく変わります。
海老のサイズ表記と1尾あたりの原価
| サイズ表記 | 1kgあたりの尾数 | 1尾の重量 | バナメイ1尾 | ブラックタイガー1尾 |
|---|---|---|---|---|
| 31/40 | 31〜40尾 | 約28g | 約42円 | 約55円 |
| 21/25 | 21〜25尾 | 約42g | 約65円 | 約85円 |
| 16/20 | 16〜20尾 | 約55g | 約85円 | 約110円 |
海老の表記は「1ポンド(約454g)あたりの尾数」が基準です。数字が小さいほど大きな海老。
天丼専門店の選択肢:
- 並天丼:バナメイ21/25(1尾42g、約65円)が標準。見た目と原価のバランスが良い
- 上天丼:ブラックタイガー21/25(1尾42g、約85円)にすると食感で差別化できる
- コスト重視:バナメイ31/40(1尾28g、約42円)で海老2本にする方法もある。ただし見栄えが落ちる
バナメイとブラックタイガーは同じサイズでも食感が違います。バナメイは柔らかくジューシー、ブラックタイガーはプリッとした弾力。この違いを並と上の差別化に使えます。
油のコスト管理
天丼専門店では揚げ油のコストが利益を大きく左右します。とんかつ屋と同じく、油は「見えにくいコスト」です。
油のコスト内訳
天ぷらの油コストは2つに分かれます。
1. 吸い込み分(食材が吸う油)
| 天ぷら | 重量 | 油吸収率 | 吸収量 |
|---|---|---|---|
| 海老天 | 30g | 20% | 6g |
| さつまいも天 | 40g | 12% | 5g |
| なす天 | 35g | 25% | 9g |
| ししとう天 | 10g | 15% | 2g |
| 1食合計 | 約22g |
サラダ油が1Lあたり約350円とすると、22gの吸い込みは約8円。
なすは油をよく吸います。なす天を増やすと美味しいけれど油コストが上がる。なすの代わりにれんこんやかぼちゃ(吸収率10〜12%)にすると、1食あたり2〜3円下がります。
2. 劣化分(フライヤーの油交換)
1日50食の天丼専門店の場合:
フライヤー油量:20L(約7,000円)
差し油:2日に1回、2L追加(700円)
全量交換:5〜6日に1回
6日間の油コスト = 7,000 + 700 × 2 = 8,400円
6日間の食数 = 50食 × 6日 = 300食
劣化分の1食あたり = 8,400 ÷ 300 = 約28円
ただし吸い込み分(8円 × 300食 = 2,400円)は上の計算に含まれるので:
実質の劣化分 =(8,400 − 2,400)÷ 300 = 約20円
…ではなく、吸い込み分は食材と一緒にお客さんのお腹に入るので、
フライヤーから減った分を差し油で補充しています。
つまり差し油代がほぼ吸い込み分のコストです。
整理すると:
吸い込み分 = 差し油代 ÷ 食数 = 1,400 ÷ 300 = 約5円
劣化分 = 全量交換代 ÷ 食数 = 7,000 ÷ 300 = 約23円
→ ただし交換時に残った油も使えるので、実質は半分程度
1食あたりの油コスト合計 = 12〜18円(店の規模と交換頻度による)
油コストが上がる3つの原因
1. 衣が厚すぎる
天ぷらの衣は「薄く、サクッと」が理想ですが、忙しいとつい厚くなります。衣が厚いと油の吸収量が1.5倍。1食あたり3〜4円増えて、月に5,000〜6,000円の差になります。
対策:衣の配合を「小麦粉1:冷水1.2〜1.5」で統一する。 混ぜすぎないこと。ダマが少し残るくらいが正解。
2. 揚げ温度が不安定
天ぷらの適温は170〜180℃。温度が低いと揚げ時間が長くなり、油の吸収量が30〜40%増えます。逆に高すぎると焦げて見た目が悪くなる。
対策:温度計で実測する。 フライヤーの温度表示はズレていることがある。特に具材を入れた直後の温度低下に注意。連続投入は5〜6個までにして、油温の回復を待つ。
3. 揚げかすの放置
天ぷらは衣が散りやすいので、揚げかすが多い。放置すると油が急速に劣化して、交換頻度が早まります。
対策:1回揚げるごとにかす揚げで取る。 面倒ですが、油の寿命が1〜2日延びます。6日交換が7〜8日になると、月に1回分の油代(7,000円)が浮きます。
タレの標準化
天丼のタレは「甘辛い」のが基本ですが、店によって濃さもかけ量もバラバラなことが多い。
タレの原価計算
| 材料 | 1L分 | 単価 | 原価 |
|---|---|---|---|
| 醤油 | 300ml | 600円/L | 180円 |
| みりん | 300ml | 500円/L | 150円 |
| 砂糖 | 100g | 200円/kg | 20円 |
| だし汁 | 300ml | — | 30円 |
| 合計(1L) | 380円 |
1杯あたりのかけ量を35mlとすると:380円 ÷ 1000ml × 35ml = 約13円
ただし煮詰めて量が減るので、実際は1Lの材料から800ml程度のタレができます。そうすると1杯あたり約17円。
タレの量を固定する方法
タレのかけ量は人によって驚くほど違います。多い人は50ml、少ない人は20ml。この差だけで1杯あたり10円変わります。
対策:お玉のサイズを統一する。 30mlのレードルを使って「1杯半」と決める。これで1食45ml、約21円に固定できます。
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:26日
- 1日の平均食数:50食
- 平均客単価:830円(セット込み)
月間売上 = 50食 × 830円 × 26日 = 1,079,000円
原価率29%の場合(油管理◎・タレ固定):
原価 = 312,910円
粗利 = 766,090円
原価率35%の場合(油管理甘い・海老サイズ不統一・タレ多め):
原価 = 377,650円
粗利 = 701,350円
差額 = 64,740円/月 = 年間776,880円
原価率6ポイントの差で、年間約78万円の利益差。内訳を見ると、油の管理だけで年間20〜25万円、タレの標準化で5〜8万円、海老サイズの統一で15〜20万円を占めます。
今週やること
- 海老のサイズ(尾数表記)と1尾の原価を確認する
- 並天丼と上天丼の具材を固定し、原価表を作る
- 揚げ油の交換サイクルを決め、1食あたりのコストを計算する
- 衣の配合比率(小麦粉と水の割合)を統一する
- タレのかけ量をレードルで固定する(35〜45ml/杯)
- かき揚げやちくわ天など、低原価の追加メニューをメニュー表で目立たせる
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