大葉の天ぷら、原価5円。売値150円。原価率3%。
数字だけ見れば笑いが止まらない。野菜天だけなら原価率10%台も夢じゃない。「天ぷらって儲かるんだな」と思う。
でも月末に通帳を見ると、なぜか残っていない。
原因は2つ。油と海老だ。
揚げ油は毎日じわじわ消費され、海老は1本80円以上する。盛り合わせに海老を2本入れた瞬間、原価の半分以上が海老になる。さらに油の劣化で交換コストがかさみ、揚げ置きの売れ残りは廃棄。
野菜天の低原価率に安心していると、油と海老に利益を全部持っていかれる。
先に結論
- 天ぷらの原価は海老が50〜60%、油が10〜15%。 この2つの管理が利益を決める
- 揚げ油は「1食あたり○円」に換算する。 交換頻度を決めないとコストが見えない
- 衣の吸油率は10〜25%。 揚げ方ひとつで油の消費量が大きく変わる
- 盛り合わせは海老の本数でグレードを分ける。 野菜天で原価率を下げる
- 揚げ置き廃棄は原価に組み込む。 閉店2時間前に揚げ止めるだけで廃棄が半減する
天ぷら盛り合わせの原価を分解する
例1:盛り合わせ 上(税抜1,200円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 海老 | 2本 | 170円 |
| かぼちゃ | 2切れ | 18円 |
| なす | 1本 | 15円 |
| ししとう | 2本 | 8円 |
| 大葉 | 2枚 | 5円 |
| 衣(小麦粉・卵) | 1セット | 25円 |
| 油コスト | 1食分 | 13円 |
| つゆ・大根おろし・塩 | 1食分 | 20円 |
| 合計 | 274円 |
原価率:274 ÷ 1,200 = 22.8%
例2:天丼(税抜950円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 海老 | 1本 | 85円 |
| かき揚げ | 1枚 | 55円 |
| ししとう | 1本 | 4円 |
| 衣 + 油コスト | 1セット | 30円 |
| ご飯 | 250g | 38円 |
| たれ | 30ml | 20円 |
| 合計 | 232円 |
原価率:232 ÷ 950 = 24.4%
※ 海老は21/25サイズ(1本約85円)で計算。油は18L缶3,200円、300食で交換として計算。
22〜24%と聞くと余裕がありそうに見える。でも現実には——
- 海老のサイズがバラつく(大きい個体が混ざると+20〜30円/本)
- 油の交換を早めにすると油コストが倍になる
- 揚げ置きで売れ残ると全額廃棄
こうした積み重ねで、実際の原価率は30%を超えることも珍しくない。
揚げ油のコストを数値化する
「油代なんて大した金額じゃない」——そう思っている店ほど、計算すると驚く。
油コストの計算方法
1食あたりの油コスト = (油の単価 × 使用量) ÷ 交換までの提供食数
油の種類別コスト比較
| 油の種類 | 18L缶の価格 | 使用量 | 300食交換の場合 | 1食あたり |
|---|---|---|---|---|
| サラダ油 | 2,400円 | 12L | ○ | 10円 |
| 白絞油(しらしめ油) | 3,200円 | 12L | ○ | 13円 |
| ごま油ブレンド | 4,500円 | 12L | ○ | 18円 |
| 綿実油 | 5,000円 | 12L | ○ | 20円 |
| 太白ごま油 | 8,000円 | 12L | ○ | 32円 |
白絞油と太白ごま油では、1食あたり19円の差。1日50食なら月23,750円、年間で28.5万円の差になる。
高級天ぷら店は太白ごま油を使うけれど、個人の天ぷら専門店なら白絞油かごま油ブレンドが現実的だ。味と原価のバランスを取るなら、白絞油をベースにごま油を20%ブレンドする方法もある(1食あたり約15円)。
油の交換頻度で原価が変わる
| 交換頻度 | 提供食数 | 1食あたり油コスト(白絞油) | 月間油コスト(50食/日) |
|---|---|---|---|
| 毎日交換 | 50食 | 38円 | 47,500円 |
| 2日に1回 | 100食 | 19円 | 23,750円 |
| 3日に1回 | 150食 | 13円 | 16,250円 |
| 週1回(目安) | 300食 | 6円 | 7,500円 |
毎日交換する店と週1回の店では、月間4万円の差。 これは見逃せない。
ただし交換を遅らせすぎると油が劣化して、天ぷらが黒っぽくなる。味も落ちる。目安は酸価(AV値)が2.5以下。酸価テスターがあれば客観的に判断できる。
油の劣化を遅らせる3つの方法
1. 揚げカスをこまめに取る
揚げカスが油に残ると劣化が早まる。天かすは揚げたらすぐに網で取り除く。
2. 温度を上げすぎない
180℃以上で長時間加熱すると油の酸化が進む。天ぷらの揚げ温度は170〜180℃が適正。待機中は150℃に落とす。
3. 差し油で油量を保つ
フライヤーの油が減ったら新しい油を足す(差し油)。油面が下がると揚げムラが出るだけでなく、少ない油が高温になって劣化が早まる。
海老のサイズと原価管理
海老は天ぷらの主役であり、原価の最大要因だ。サイズの管理が甘いと利益が大きくブレる。
海老のサイズ規格と原価
冷凍海老はサイズ規格(1ポンドあたりの尾数)で価格が変わる。
| サイズ規格 | 1尾の目安重量 | 1尾の原価 | 見た目 |
|---|---|---|---|
| 16/20 | 25〜30g | 110〜130円 | 立派。高級天ぷら店向け |
| 21/25 | 20〜25g | 80〜100円 | 標準。専門店の定番 |
| 26/30 | 18〜20g | 65〜80円 | やや小さい。天丼向き |
| 31/40 | 13〜16g | 45〜60円 | 小さい。かき揚げ・弁当向け |
21/25サイズと31/40サイズでは、1尾あたり35〜40円の差。盛り合わせに2本入れると80円。1日50食なら月10万円の差になる。
海老で利益を守るルール
- サイズ規格を固定する — 毎回同じ規格で発注する。「大きいのが入ったから多めに入れよう」はNG
- 発注単位を決める — 1.8kgパック(21/25なら約80尾)で何日分か計算しておく
- 解凍ロスを計算に入れる — 冷凍海老は解凍すると5〜10%の重量減。1尾85円の海老が解凍後に80円相当の量になる
- 背わたと殻のロスも計算する — 殻付き海老は下処理後に約30%の重量減。頭付きなら50%減
衣の吸油率と原価への影響
天ぷらの衣は油を吸う。この「吸油率」が地味に原価に効いてくる。
食材別の吸油率の目安
| 食材 | 吸油率 | 揚げ前100gの場合の吸油量 |
|---|---|---|
| 海老(薄衣) | 8〜12% | 8〜12g |
| 野菜(なす・かぼちゃ) | 15〜20% | 15〜20g |
| かき揚げ | 20〜30% | 20〜30g |
| 大葉・ししとう | 5〜8% | 5〜8g |
かき揚げは吸油率が特に高い。 100gのかき揚げを揚げると20〜30gの油を吸う。白絞油が1gあたり約0.18円として、かき揚げ1個で3.6〜5.4円の油コスト。小さいようだけど、1日30個揚げれば月3,000〜4,000円だ。
衣で油の消費を抑えるコツ
- 衣は薄くつける — 衣が厚いほど油を吸う。プロは「薄衣」で揚げる
- 衣を混ぜすぎない — グルテンが出ると衣が重くなり、吸油率が上がる
- 冷水で衣を作る — 温度が低いほどグルテンの形成を抑えられる
- 揚げ上がりをバットに立てる — 寝かせると油が衣に戻る。立てて油を切る
盛り合わせの本数設計
天ぷらの利益は「盛り合わせの構成」で決まる。海老の本数と野菜の種類数がそのまま原価率に直結する。
グレード別の構成例
| グレード | 内容 | 原価 | 売価 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 並 | 海老1本 + 野菜4種 + 衣・油 | 175円 | 850円 | 20.6% |
| 上 | 海老2本 + 野菜4種 + 衣・油 | 274円 | 1,200円 | 22.8% |
| 特上 | 海老3本 + 穴子 + 野菜4種 + 衣・油 | 430円 | 1,800円 | 23.9% |
| おまかせ | 季節のネタ8〜10品 + 衣・油 | 500円 | 2,500円 | 20.0% |
並の原価率がいちばん低いのがわかる。野菜中心で海老が1本しか入っていないからだ。
利益を最大化するなら「並」をたくさん出したい。でもお客さんは「上」以上を選ぶことが多い。だから上位グレードでも原価率を25%以内に抑える設計が重要になる。
おまかせコースがいちばん利益率が高い理由
おまかせコースは2,500円で原価率20%。季節の野菜を多めに入れて、海老は2本に抑えるからだ。
8〜10品の内訳例:
| ネタ | 原価 |
|---|---|
| 海老 × 2 | 170円 |
| かぼちゃ | 9円 |
| なす | 15円 |
| れんこん | 12円 |
| ししとう × 2 | 8円 |
| 大葉 | 3円 |
| まいたけ | 20円 |
| さつまいも | 8円 |
| 衣 + 油 | 40円 |
| つゆ・塩 | 20円 |
| 合計 | 305円 |
季節の野菜天は1品5〜20円。7〜8品入れても100円以下。品数が多いほど見栄えが良く、お客さんの満足度も上がる。
「品数の多さ=お得感」という心理をうまく使うのが、天ぷら盛り合わせの利益設計のコツだ。
揚げ置き廃棄の管理
天ぷら専門店の見えないコストが「揚げ置き廃棄」だ。
廃棄が発生するパターン
| 状況 | 廃棄率 | 月間廃棄コスト(50食/日) |
|---|---|---|
| 注文後に揚げる(専門店) | 1〜3% | 3,500〜10,500円 |
| ピーク前に揚げ置き | 5〜10% | 17,500〜35,000円 |
| 弁当・テイクアウト併用 | 10〜20% | 35,000〜70,000円 |
揚げ置きの天ぷらは時間が経つとサクサク感がなくなる。揚げてから30分が限界。1時間経つと明らかに品質が落ち、2時間で廃棄対象だ。
廃棄を減らす3つのルール
1. 閉店2時間前に揚げ止める
ラストオーダー以降は新たに揚げない。これだけで廃棄率が半分になるケースもある。
2. ピーク時間帯に合わせて少量ずつ揚げる
11:30〜13:00のランチピークに合わせて、11:15から揚げ始める。一度に20食分揚げるのではなく、5食分ずつ3回に分ける。
3. 廃棄量を毎日記録する
「何をいくつ捨てたか」を記録するだけで、発注量の精度が上がる。1週間記録すれば、曜日ごとの需要パターンが見えてくる。
廃棄コストを原価に組み込む
廃棄率が5%なら、原価を5%上乗せして計算する。
実効原価 = 食材原価 ÷ (1 − 廃棄率)
例:食材原価274円、廃棄率5%の場合
実効原価 = 274 ÷ 0.95 = 288円
この14円の差は小さく見えるけれど、1日50食で月17,500円。年間21万円だ。
季節ネタと価格見直し
天ぷらは季節ネタが命の業態。旬の食材は「安くて美味しい」時期と「高くて品薄」な時期で原価が大きく変わる。
季節別の注目食材
| 季節 | 旬のネタ(安くなる) | 高くなるネタ | 対策 |
|---|---|---|---|
| 春 | たらの芽、ふきのとう、菜の花 | 海老(需要期) | 山菜天ぷらフェアで野菜比率を上げる |
| 夏 | なす、ししとう、みょうが、おくら | 特になし | 夏野菜の盛り合わせをメインに |
| 秋 | さつまいも、まいたけ、れんこん | 松茸(高級ネタ) | きのこ天ぷらフェアで客単価UP |
| 冬 | れんこん、ごぼう、春菊 | 海老(忘年会需要) | 根菜中心の盛り合わせでコスト抑制 |
季節ごとにメニュー構成を変えるのが、天ぷら専門店の利益安定策だ。旬の安い野菜を盛り合わせに組み込めば、原価を抑えながら「季節感」も演出できる。
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:25日
- 1日の平均食数:50食
- 平均客単価:1,300円(盛り合わせ+天丼のミックス)
月間売上 = 50食 × 1,300円 × 25日 = 1,625,000円
原価率23%の場合(管理が良い店):
原価 = 373,750円
粗利 = 1,251,250円
原価率32%の場合(油交換多い・海老ブレ・廃棄あり):
原価 = 520,000円
粗利 = 1,105,000円
差額 = 146,250円/月 = 年間1,755,000円
原価率9ポイントの差が、年間175万円の利益差になる。
今週やること
- 揚げ油の種類と18L缶の価格を確認し、1食あたりの油コストを出す
- 油の交換頻度を決める(酸価テスターの導入を検討)
- 海老のサイズ規格を固定し、1尾あたりの原価を把握する
- 盛り合わせの並・上・特上の構成を書き出す
- 各ネタの原価を一覧にして、1食の合計原価を出す
- 廃棄量を1週間だけ記録して、曜日別の傾向をつかむ
関連ガイド
ネタ・衣・油を登録すれば、盛り合わせ1食の原価が自動で出ます。季節でネタを入れ替えても原価率がすぐわかる。KitchenCost を使ってみてください。