すき焼きは「高単価だから儲かる」と思われがちです。1人前3,500円、4人で来れば14,000円。売上だけ見ると良い数字に見えます。
でも月末に原価を計算してみると、利益が思ったほど残っていない。
理由は単純で、牛肉が高い。
すき焼きの原価は、牛肉が65〜75%を占めます。野菜も割り下も豆腐も卵も安い。原価のほとんどが「肉」です。だから肉のグラムが20g増えるだけで利益が削れるし、部位を一つ上げると原価率が一気に跳ね上がる。
さらに厄介なのは、すき焼きはテーブルで作る料理だということ。キッチンで盛り付ける牛丼やステーキと違って、お客さんの目の前に肉を出す。肉が少なく見えるとクレームにつながるし、野菜の量でごまかすのも難しい。
すき焼き店の原価管理は、肉のグラムと部位の選び方に始まり、セット設計で利益を確保する——この2点がすべてです。
先に結論
- すき焼きの原価は**牛肉が65〜75%**を占める。肉のグラムと部位が利益を決める
- 1人前の肉量は150gが標準ライン。120gに減らすと見た目でバレる、180gに増やすと赤字方向に
- 割り下は1バッチ単位で原価を出し、レードルで定量化する
- 卵・野菜の追加は有料が基本。無料にすると利益が静かに削られる
- 〆のうどん・ご飯セットで客単価を上げるのが利益改善の王道
すき焼き1人前の原価を分解する
例:関東風すき焼きコース(税抜3,500円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 牛ロース薄切り | 150g | 525円 |
| 割り下(醤油・みりん・砂糖・酒) | 150ml | 45円 |
| 白菜 | 80g | 16円 |
| 長ねぎ | 40g | 20円 |
| しいたけ | 2枚 | 30円 |
| えのき | 30g | 10円 |
| 春菊 | 20g | 12円 |
| 焼き豆腐 | 1/4丁 | 25円 |
| しらたき | 50g | 15円 |
| 卵 | 1個 | 22円 |
| 合計 | 720円 |
原価率:720 ÷ 3,500 = 20.6%
※ 牛ロースは100gあたり350円で計算(業務用の一般的な価格帯)。卵は1個22円。数字は目安です。
20.6%と聞くと低く見えます。でも、これは「肉150g・卵1個・追加なし」の理想的なケースです。
実際の店では——
- 常連さんに「肉多めで」と出してしまう(+30g = +105円)
- 卵のおかわりを無料にしている(+22円 × 2〜3個)
- 割り下を多めに作って余らせる
——こうした積み重ねで、原価率は25〜30%に上がります。飲食店としては問題ない数字ですが、「すき焼きだから余裕がある」と思っていると危険です。
肉の部位別原価比較
すき焼きの肉は部位によって原価が大きく変わります。どの部位を使うかは、そのまま原価率に直結します。
部位別の原価と原価率(150g・売価3,500円)
| 部位 | 100gあたり | 150gの原価 | 野菜等込み合計 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 肩ロース(業務用) | 280円 | 420円 | 615円 | 17.6% |
| リブロース | 350円 | 525円 | 720円 | 20.6% |
| サーロイン | 450円 | 675円 | 870円 | 24.9% |
| 特選ロース(A4等級) | 600円 | 900円 | 1,095円 | 31.3% |
| 黒毛和牛A5 | 900円 | 1,350円 | 1,545円 | 44.1% |
肩ロースとサーロインでは、1人前あたり255円の差。1日20人前なら5,100円、月間で153,000円、年間で183万円の差です。
部位選びの現実解
高級すき焼き店でA5和牛を使うなら、売価を6,000〜8,000円に設定しないと利益が出ません。
個人店の現実的な選択は:
- リブロース(100g 350円前後) — 味・見た目・価格のバランスが良い
- 肩ロースをベースにして、追加で上質な部位を用意する — 「特選コース +1,000円」で差別化
- 部位をミックスする — リブロース100g + 肩ロース50gで150g。原価は455円(100gあたり303円相当)
3番目の方法は意外と有効です。お客さんは最初に出てくる肉の印象で全体を判断する傾向があるので、最初の1〜2枚を良い部位にして、追加分を肩ロースにすると満足度を保ちながら原価を抑えられます。
割り下の原価管理
割り下は1人前あたり40〜60円と金額は小さいですが、ブレが大きいポイントです。
関東風・割り下の構成(1バッチ=約2L、8人前分)
| 材料 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 醤油 | 500ml | 200円 |
| みりん | 400ml | 160円 |
| 酒 | 300ml | 120円 |
| 砂糖 | 150g | 40円 |
| だし汁 | 800ml | 40円 |
| 合計 | 約2L | 560円 |
1人前あたり150ml使うとすると:
1バッチで約13人前分(2,000ml ÷ 150ml)
1人前あたりの割り下原価 = 560 ÷ 13 = 約43円
43円は小さく見えますが、問題はブレと廃棄です。
割り下でコストが膨らむ3つの原因
1. スタッフによって入れる量が違う
テーブルに持っていく割り下の量が人によって違います。150mlのはずが200ml入れるスタッフがいると、1人前あたり14円の原価増。1日20人前で280円、月8,400円。
対策:割り下の徳利やピッチャーを定量にする。 1人前用の容器を決めて、そこに入る量だけ持っていく。
2. 関西風は砂糖の量がブレやすい
関西風すき焼きは割り下を使わず、鍋に砂糖と醤油を直接入れます。これだと「目分量」になりやすく、日によって味も原価も変わります。
対策:砂糖は1人前○gと決めて小分けにしておく。 醤油も計量カップで定量化する。
3. 余った割り下を捨てている
1バッチ作って6人前しか出なかった日は、残り7人前分の割り下が余ります。翌日に使えますが、「味が落ちる」と捨てる店もあります。
対策:ピーク予測に基づいて半バッチで仕込む選択肢を持つ。 平日は半バッチ(4人前分)、週末はフルバッチ。
肉150gの壁
すき焼きの肉量は「150g」が一つのラインです。
肉量と原価の関係(リブロース・売価3,500円)
| 肉量 | 肉原価 | 合計原価 | 原価率 | 体感 |
|---|---|---|---|---|
| 100g | 350円 | 545円 | 15.6% | 明らかに少ない |
| 120g | 420円 | 615円 | 17.6% | やや物足りない |
| 150g | 525円 | 720円 | 20.6% | 標準 |
| 180g | 630円 | 825円 | 23.6% | 満足度高い |
| 200g | 700円 | 895円 | 25.6% | 贅沢感あるが利益薄い |
150gから180gに増やすと、1人前あたり105円の原価増。1日20人前で月63,000円、年間75.6万円です。
逆に、150gを120gに減らすと年間63万円の原価削減——ただしすき焼きはテーブルに肉を並べて出すので、見た目で量の少なさがバレやすい。牛丼のようにつゆと玉ねぎでボリューム感を出す、というごまかしが効きません。
150gを下限にして、部位の選び方で原価を調整するのが現実的です。
肉のグラムを安定させる方法
- ポーションスケールで計量する — 感覚盛りは必ずブレる。特に薄切り肉は枚数が多いのでグラム差が出やすい
- 仕込み時に1人前ずつ小分けする — ラップで150gずつ分けて冷蔵保存
- 「上乗せ」のルールを決める — 常連さんに多めに出すなら「+30gは+300円」と価格に反映させる
卵と追加オプションの価格設計
すき焼きは卵をつけて食べる料理なので、卵の扱いが利益に影響します。
卵の原価インパクト
| 卵の提供方法 | 1人あたり卵消費 | 原価 | 年間コスト(20人/日) |
|---|---|---|---|
| 1個付き・おかわり無料 | 平均2.5個 | 55円 | +24万円(差額分) |
| 1個付き・追加1個100円 | 平均1.3個 | 29円 | 基準 |
| 別料金(1個100円) | 平均1.0個 | 22円 | −5万円 |
「おかわり無料」は想像以上にコストがかかります。 1テーブル4人でおかわり合計6個出ると、追加分の卵原価だけで132円。1日5テーブルなら月19,800円。
現実的な解は**「1個付き・追加は有料」**です。追加卵は1個100円にすると、原価22円に対して粗利78円。利益率の高い追加メニューになります。
その他の追加オプション
| 追加メニュー | 原価 | 売価 | 粗利 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 卵(1個) | 22円 | 100円 | 78円 | 22% |
| 肉追加(80g) | 280円 | 800円 | 520円 | 35% |
| うどん(〆) | 18円 | 250円 | 232円 | 7% |
| ご飯 | 30円 | 200円 | 170円 | 15% |
| 野菜盛り追加 | 60円 | 300円 | 240円 | 20% |
| 餅(2個) | 30円 | 200円 | 170円 | 15% |
うどんの原価率7%に注目してください。 〆のうどんは原価18円で250円もらえます。すき焼き本体の20%に比べれば圧倒的に利益率が高い。
セット構成で利益を守る
すき焼き本体の原価率は20〜25%と飲食店としては低めですが、肉の仕入れ価格が上がると一気に30%を超えます。セットメニューで利益の安定性を高めるのが重要です。
コース構成のパターン
| コース | 内容 | 原価 | 売価 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 基本 | 肉150g + 野菜 + 卵1個 | 720円 | 3,500円 | 20.6% |
| 上 | 肉180g(リブロース) + 野菜 + 卵2個 + 〆うどん | 887円 | 4,500円 | 19.7% |
| 特選 | 肉200g(サーロイン) + 野菜 + 卵2個 + 前菜 + 〆うどん | 1,135円 | 5,800円 | 19.6% |
上位コースほど原価率が下がっていることに注目してください。
上コースは基本より肉が30g多く卵が1個多い(原価+167円)のに、売価は1,000円高い。粗利は833円増えます。特選コースも同じ構造で、肉を良い部位にして前菜をつけるだけで、売価を2,300円上げつつ原価増は415円に抑えています。
セット率を上げる工夫
- メニューの最初に「上コース」を載せる:最初に目に入ったものが基準になる(アンカリング効果)
- 基本コースの横に「+1,000円で上コースに」と書く:差額の小ささが選ばれやすくする
- 予約時にコース選択を促す:電話やWeb予約で「どのコースにされますか?」と聞くだけでセット率が上がる
仮にセット率が40%で、上コース以上の平均が4,500円だとすると:
1日20人前のうち、上コース以上 = 8人前
追加売上 = 8 × (4,500 − 3,500) = 8,000円/日
月間 = 8,000 × 25日 = 200,000円
追加原価 = 8 × (887 − 720) = 1,336円/日 → 33,400円/月
追加粗利 = 200,000 − 33,400 = 166,600円/月
セットアップグレードだけで月に約17万円の粗利増。年間で約200万円。
季節による原価変動
すき焼きは冬がピークシーズン。需要が増えると牛肉の仕入れ価格も動きます。
牛肉価格の季節変動パターン
| 時期 | 需要 | 価格傾向 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 12〜2月 | 高 | +10〜20%上昇 | 仕入れ先を複数確保、冷凍ストック |
| 3〜5月 | 中 | 標準価格 | 通常運転 |
| 6〜8月 | 低 | −5〜10%下落 | まとめ買い・冷凍ストック推奨 |
| 9〜11月 | 中〜高 | 徐々に上昇 | 年末に向けて在庫確保 |
冬場に肉の価格が20%上がると、1人前あたり105円の原価増(リブロース150gの場合)。1日20人前で月63,000円の利益減少です。
対策として、夏場の安い時期に冷凍ストックを作っておくのが有効です。薄切り肉は冷凍しても品質の劣化が比較的少ない部位です。
牛肉の仕入れコストを下げる方法
仕入れ先の比較
| 仕入れ先 | 100gあたり(ロース) | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 食肉卸(業務用) | 300〜400円 | 安定品質・大量購入割引 | 最低注文量あり |
| 業務用スーパー | 280〜380円 | 少量から購入可 | 品質にバラつき |
| 精肉店(地元) | 350〜500円 | 部位指定・品質高い | 価格は高め |
| 産地直送 | 250〜350円 | 最安クラス | 配送時間・ロットが大きい |
仕入れコスト削減のポイント
- 仕入れ先を2〜3社持つ — 1社に依存すると値上げに対応できない
- 部位指定でロスを減らす — 「ロース薄切り・厚さ2mm・150gカット済み」で注文すると、店でのカット作業と端材ロスがなくなる
- 冷凍ストックを活用する — 夏場に安く仕入れて冬場に使う
- 端材を別メニューに活用する — 切り落としは牛丼やしぐれ煮のランチに回す
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:25日
- 1日の平均人数:20人前
- 平均客単価:4,000円(コース+追加オプション含む)
月間売上 = 20人前 × 4,000円 × 25日 = 2,000,000円
原価率22%の場合(管理が良い店):
原価 = 440,000円
粗利 = 1,560,000円
原価率30%の場合(肉ブレ・卵無料・割り下廃棄あり):
原価 = 600,000円
粗利 = 1,400,000円
差額 = 160,000円/月 = 年間1,920,000円
原価率8ポイントの差が、年間192万円の利益差になります。
今週やること
- 肉のグラムを部位別に決めて、ポーションスケールで計量する仕組みを作る
- 割り下の1バッチ分レシピを書き出し、1人前あたりの原価を計算する
- 卵の追加を有料にする(1個付き・追加100円が現実的)
- 上コース・特選コースの構成と価格を設計する
- 〆のうどん・ご飯を追加メニューに入れて、客単価を上げる導線を作る
- 牛肉の仕入れ先を2〜3社比較して、100gあたり単価を把握する
- すべての材料を書き出して、1人前の合計原価を出す
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