忙しい月だったはずなのに、月末に通帳を見ると残高が増えていない。
飲食店を経営している人なら、一度はこの経験があるのではないか。「先月は結構お客さん入ったのに」と思いながら、支払いを終えると手元にほとんど残らない。
売上はあるのに、利益が残らない。 この状態が続くと、だんだん何のために働いているのかわからなくなる。
原因の一つは、売上目標の立て方にある。「去年と同じくらい」「家賃が払えるくらい」「なんとなく月200万」──こういう曖昧な目標で走っていると、忙しさと手取りのギャップに苦しむことになる。
売上目標を「利益から逆算」する理由
多くの飲食店が売上目標を「売上」から考えてしまう。「月商300万を目指そう」と決めて、達成できたら良い月、できなかったら悪い月。
でも本当に大事なのは、月末に自分の手元にいくら残るかだ。
飲食店の営業利益率は、うまくいっている店でも10%前後。月商300万円なら利益は30万円。ここから借入返済や設備投資を引くと、オーナーの手取りはもっと少なくなる。
| 月商 | 営業利益率 | 月間利益 | 手取り(税引後) |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 10% | 20万円 | 15〜17万円 |
| 300万円 | 10% | 30万円 | 23〜26万円 |
| 400万円 | 10% | 40万円 | 30〜35万円 |
| 500万円 | 10% | 50万円 | 38〜43万円 |
営業利益率が10%から8%に落ちるだけで、月商300万の店は利益が6万円減る。売上を追うより、利益構造を把握する方がはるかに大事なんですよね。
だから売上目標は「いくら売りたいか」ではなく「いくら残したいか」から逆算して立てる。これが基本の考え方。
ステップ1:目標利益を決める
最初に決めるのは「毎月いくら手元に残したいか」。
ここで考えるのは、自分の生活費+将来への備えだ。
- 自分の生活費(家賃、食費、保険、子どもの学費など)
- 借入金の返済
- 設備の修繕積立(年間売上の1〜2%が目安)
- 税金の支払い準備
たとえば、生活費が月25万円、借入返済が月10万円、積立が月5万円なら、最低でも月40万円は手元に残さないといけない。
ここで「最低限」と「余裕があるライン」の2段階を設定しておくのがおすすめ。 最低ラインを下回ったら即座にコスト見直し、余裕ラインを上回ったら投資に回す──という判断基準になる。
ステップ2:固定費を正確に把握する
次に、毎月必ずかかる固定費を洗い出す。「だいたいこれくらい」ではなく、1円単位で出す。
| 固定費の項目 | 金額の目安(20坪の居酒屋) |
|---|---|
| 家賃 | 25〜40万円 |
| 正社員人件費(固定分) | 25〜40万円 |
| 水道光熱費(基本料金部分) | 5〜8万円 |
| リース料(厨房機器など) | 3〜8万円 |
| 保険料 | 1〜2万円 |
| 通信費、雑費 | 2〜3万円 |
| 借入返済 | 5〜15万円 |
| 合計 | 66〜116万円 |
多くの個人飲食店の固定費は、月80〜120万円の範囲に入る。これは売上がゼロでも出ていくお金。
ありがちなミスは、人件費をすべて変動費と考えてしまうこと。アルバイトのシフトは調整できるけど、正社員やオーナー自身の人件費は固定費として扱う方が実態に合っている。
ステップ3:変動費率を計算する
変動費とは、売上に比例して増減するコストのこと。飲食店の主な変動費は以下の3つ。
- 食材費(原価):売上の28〜38%(業態による)
- アルバイト人件費:売上の10〜18%
- 水道光熱費(従量部分):売上の3〜5%
- クレジットカード手数料:売上の3〜4%
- 消耗品:売上の1〜2%
合計すると、変動費率はおおむね**55〜65%**になる店が多い。
ここで出てくるのがFL比率という考え方。
FL比率 =(食材費 + 人件費)÷ 売上 × 100
健全な目安は55%以下。これを超えていると、いくら売上を上げても利益が残りにくい。
| FL比率 | 状態 |
|---|---|
| 50%以下 | 優秀。利益体質 |
| 50〜55% | 健全。標準的な水準 |
| 55〜60% | 注意。利益が薄い |
| 60%以上 | 危険。構造的に赤字リスクが高い |
FL比率が60%を超えている場合、まずはメニューの原価を見直すか、シフトの組み方を見直すか。売上目標を上げる前に、この比率を下げる方が効果的だ。
ステップ4:損益分岐点を計算する
ここまでの数字が揃ったら、いよいよ損益分岐点を計算する。
損益分岐点売上 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
この金額を超えた分がすべて利益になる──という分かれ目の数字。
計算例:居酒屋20坪の場合
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 固定費合計 | 100万円 |
| 変動費率 | 60% |
| 損益分岐点売上 | 100万 ÷ 0.4 = 250万円 |
月商250万円を下回ると赤字。これがこの店の「最低ライン」になる。
ここに目標利益を乗せると、必要月商が出てくる。
必要月商 =(固定費 + 目標利益)÷(1 − 変動費率)
月40万円の利益が欲しいなら:
(100万 + 40万)÷ 0.4 = 350万円
月商350万円。これが「なんとなく」ではなく、根拠のある売上目標になる。
この計算で出た数字が「無理だ」と感じたなら、それは売上の問題ではなく固定費か変動費率の問題。 家賃が高すぎないか、FL比率を下げる余地がないか──そこに目を向ける必要がある。
ステップ5:日商・客数に分解する
月商350万円。この数字だけ見ても、日々の行動にはつながらない。だから日割りにする。
月商 → 日商
月商350万円 ÷ 営業日26日 = 日商 約13.5万円
日商 → 客数
日商 = 客単価 × 客数
居酒屋で客単価3,500円なら:
13.5万円 ÷ 3,500円 = 約39人/日
客数 → 席数 × 回転率 × 稼働率
客数 = 席数 × 回転率 × 客席稼働率
20坪の居酒屋で席数30席、回転率1.5回、稼働率70%なら:
30席 × 1.5回 × 70% = 31.5人
あれ。39人必要なのに、31.5人しか来ない計算になる。
7.5人足りない。 これをどうするか──ここからが具体的な打ち手の話になる。
| 改善の方向 | 具体策 | 効果の目安 |
|---|---|---|
| 客単価を上げる | セットメニュー導入、おすすめ声かけ | +300〜500円/人 |
| 回転率を上げる | ランチ営業追加、回転率の高い時間帯強化 | +0.2〜0.5回 |
| 稼働率を上げる | 予約促進、平日限定メニュー | +5〜10% |
| 営業日を増やす | 定休日の見直し | +1〜2日/月 |
たとえば客単価を3,500円→4,000円にできれば:
13.5万円 ÷ 4,000円 = 約34人/日
30席 × 1.5回 × 70% = 31.5人に、稼働率を75%に上げれば 30 × 1.5 × 75% = 33.8人。ほぼ届く。
こうやって分解すると、「月商350万円」という大きな数字が、「客単価500円アップ+稼働率5%アップ」という具体的なアクションに変わる。
まとめると──居酒屋20坪のケース全体像
| ステップ | 内容 | この店の数字 |
|---|---|---|
| ①目標利益 | 手元に残したい金額 | 月40万円 |
| ②固定費 | 毎月必ずかかる費用 | 月100万円 |
| ③変動費率 | 売上に比例するコスト比率 | 60% |
| ④損益分岐点 | 赤字と黒字の分かれ目 | 月商250万円 |
| ⑤必要月商 | 利益を出すための売上 | 月商350万円 |
| 日商 | 営業日で割った日の売上 | 13.5万円/日 |
| 必要客数 | 客単価で割った人数 | 39人/日(客単価3,500円) |
| 改善後 | 客単価UP+稼働率UP | 34人/日(客単価4,000円) |
よくある失敗パターン
①「去年と同じ」で目標を決める
去年がたまたま良かっただけかもしれない。去年と同じ目標を設定しても、食材費の高騰や周辺の競合変化で利益構造は変わっている。毎年、固定費と変動費率を計算し直すべき。
②売上だけを見て利益を見ない
「今月は250万いった!」と喜んでも、FL比率が65%なら手元にはほとんど残らない。売上と一緒に、利益率もチェックする習慣をつけたい。
③日商を追わない
月商目標だけ設定して、月末に「あ、足りなかった」と気づく。日商を毎日チェックしていれば、月の半ばで軌道修正できる。POSレジのデータを毎日見るだけで変わる。
今週やること──チェックリスト
売上目標の見直しは、大がかりな作業じゃない。以下を1つずつ潰していくだけでいい。
- 自分の生活費+返済+積立を合計して、目標利益を決める
- 先月の固定費をすべて書き出す(家賃、正社員人件費、リース料、保険、通信費、返済)
- 先月のFL比率を計算する(食材費+人件費)÷ 売上。55%を超えていたら要注意
- 損益分岐点を計算する(固定費 ÷(1−変動費率))
- 必要月商を出して、日商・客数に分解する
全部のメニューの原価を一覧にしておくと、FL比率の改善策が見えやすくなる。KitchenCostに食材と分量を入れておけば、メニューごとの原価率が自動で出るので、どのメニューが利益に貢献しているか、どこに改善余地があるかがすぐにわかる。
目標は「感覚」から「数字」に変えるだけで、毎月の景色が変わるはず。