帳簿は黒字。でも通帳を開くと、残高が先月より減っている。
「利益が出ているはずなのに、なんで手元にお金がないんだろう」
開業して1年目、2年目あたりでこの違和感に気づくオーナーは少なくありません。確定申告では黒字。でも月末に家賃を払ったら残高がギリギリ——。
実はこれ、損益計算書(PL)の「読み方」を一つ誤解しているだけで起こります。
帝国データバンクの調査によると、2025年の飲食店倒産件数は過去最多ペースで推移しました。そのなかには「ずっと黒字だった」のに資金が回らなくなったケースも含まれます。いわゆる黒字倒産です。
この記事では、損益計算書の基本構造から、飲食店オーナーが特に見落としやすい5つのポイント、そして月次で「数字を見て、次の行動を決める」ところまでを具体的に解説します。
会計の専門用語はできるだけ噛み砕いて説明するので、「数字は苦手…」という方もぜひ最後まで読んでみてください。
先に結論
- 営業利益率の目安は8〜15%。10%超えで健全、5%以下は早めの対策が必要
- FL比率(食材費+人件費)は60%以内が目標。65%を超えたら危険信号
- 人件費は給与だけでなく、交通費・社保・採用費まで含めて計算する
- 減価償却費は「お金が出ない経費」。PL上の利益=手元の現金ではない
- 損益分岐点を知れば「あと何食売れば黒字になるか」がわかる
- 月1回、30分のPLチェックが、年間数十万円の損失を防ぐ
そもそも損益計算書って何が書いてあるの?
損益計算書は、ざっくり言うと「ある期間に、いくら売って、いくら使って、いくら残ったか」を表す書類です。
飲食店のPLは、上から下に向かってこう読みます。
| 項目 | 具体例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 売上高 | 月300万円 | お客さんから入ってきたお金の合計 |
| −)売上原価 | 食材費 90万円 | 料理を作るのにかかった材料費 |
| = 売上総利益(粗利) | 210万円 | 「食材を差し引いて残ったお金」 |
| −)販売費及び一般管理費 | 人件費・家賃・光熱費など | お店を回すためのすべてのコスト |
| = 営業利益 | 25万円 | 「本業で稼いだ利益」←ここが一番大事 |
これだけです。
売上 − 原価 = 粗利、粗利 − 経費 = 営業利益。
家計簿と同じ構造なので、構造自体はそこまで難しくありません。問題は「何をどの数字に入れるか」の方です。
落とし穴 ①:FL比率に「本当の人件費」を入れていない
FL比率は、飲食店の収益性を見る最も基本的な指標です。
FL比率(%)=(食材費 + 人件費)÷ 売上高 × 100
目安は次の通り。
| FL比率 | 状態 |
|---|---|
| 55%以下 | 優良。利益がしっかり出ている |
| 55〜60% | 健全。このラインをキープしたい |
| 60〜65% | 注意。家賃・光熱費を払うと利益が薄い |
| 65〜70% | 危険信号。赤字転落の一歩手前 |
| 70%超 | 損益分岐点を割っている可能性大 |
ここで多くのオーナーが間違えるのが、「人件費」に何を含めるかです。
❌ よくある間違い
- アルバイトの時給 × 時間だけで計算
- 交通費を「雑費」に入れている
- 社会保険料を含めていない
- 採用にかかったお金を別の項目にしている
✅ 正しい「人件費(L)」に含めるもの
| 項目 | 見落としやすさ |
|---|---|
| 給与・賞与 | △(ほぼ含めている) |
| アルバイト時給 | △ |
| 交通費(通勤手当) | ★ よく漏れる |
| 社会保険料(事業主負担分) | ★★ 給与の約15% |
| 雇用保険料(事業主負担分) | ★ |
| 福利厚生費 | ★ |
| 採用費(求人掲載料、紹介手数料) | ★★★ 最も漏れる |
たとえば月給25万円のスタッフでも、社会保険料の会社負担(約15%)と通勤手当を入れると実際のコストは月29〜30万円になります。
さらに、そのスタッフを採用するのに求人サイトに10万円かかっていたら? 1年で割ると月あたり約8,300円が「見えない人件費」として乗っています。
FL比率を「55%で安心」と思っていたのに、正しく計算し直したら「実は62%だった」——これは珍しい話ではありません。
落とし穴 ②:減価償却の「罠」——黒字なのにお金がない理由
これが冒頭の「帳簿は黒字なのに通帳残高が減っている」の正体です。
減価償却って何?
開業時に厨房設備を300万円で買ったとします。この300万円、会計上は購入した年に全額経費にはできません。
代わりに、耐用年数(例えば6年)に分けて毎年50万円ずつ経費にします。これが減価償却です。
| 年 | 減価償却費(PL上の経費) | 実際の支払い |
|---|---|---|
| 1年目 | 50万円 | 0円(開業時に支払い済み) |
| 2年目 | 50万円 | 0円 |
| 3年目 | 50万円 | 0円 |
| … | … | … |
つまり、PLには毎年50万円の「経費」が載るけれど、実際にはお金は1円も出ていかない。
じゃあ利益は多いはずでは?
ここが混乱するポイントです。
逆のパターンを考えてみてください。借入金の返済は、PL上には経費として載りません(元本部分)。でも実際には毎月お金が出ていきます。
| PL上の扱い | 実際のお金の動き | |
|---|---|---|
| 減価償却費 | 経費になる | お金は出ていかない |
| 借入金の元本返済 | 経費にならない | お金は出ていく |
だから**「PL上の利益 ≠ 手元の現金」**なのです。
黒字なのにお金がない典型的なパターンは、こうです。
- PLの営業利益:月20万円(黒字)
- 減価償却費:月5万円(経費だけどお金は出ない → 実質+5万円)
- 借入金の返済:月15万円(経費じゃないけどお金は出る → 実質−15万円)
- 実際の手残り:20 + 5 − 15 = 10万円
「20万円の黒字」のつもりが、実際に使えるお金は10万円。ここにさらに設備の突発修理や税金の支払いが来たら、あっという間にマイナスです。
どうすればいい?
PLだけでなく、月末の通帳残高を毎月メモしておく。これだけで「利益」と「現金」のズレに気づけます。
もっと正確にやるなら「資金繰り表」を作りますが、まずは通帳残高の推移を見るだけでOKです。
落とし穴 ③:「家賃比率」を軽視している
家賃は固定費のなかでも最も大きく、しかも自分の努力では下げにくいコストです。
| 家賃比率 | 状態 |
|---|---|
| 10%以下 | 理想的(ただし郊外・路地裏の傾向) |
| 10〜15% | 健全。多くの繁盛店がこのライン |
| 15〜20% | 注意。売上が計画より落ちると一気に苦しくなる |
| 20%超 | 危険。売上が毎月一定以上ないと赤字が続く |
「駅前で目立つ場所がいい」と家賃25万円の物件を選んだとします。家賃比率15%に抑えるには、月の売上が約167万円必要です。
25万円 ÷ 0.15 = 166.7万円
月167万円を25日営業で割ると、1日あたり約6.7万円。客単価1,000円なら1日67人です。
この数字、開業前に計算していましたか? 開業後でも遅くないので、今の家賃と売上で計算してみてください。
もし家賃比率が20%を超えている場合、打てる手はおもに2つ。
- 売上を上げる(客数 × 客単価 × 回転率)
- 大家さんに家賃交渉する(更新タイミングが最もやりやすい)
「家賃は下げられない」と思い込んでいるオーナーは多いですが、長期入居していれば交渉に応じてもらえるケースは実は少なくありません。
落とし穴 ④:損益分岐点を知らずに営業している
損益分岐点とは、売上と経費がちょうどトントンになる売上高のこと。これを下回れば赤字、上回れば黒字です。
計算方法
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
飲食店で分けると、だいたいこうなります。
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 固定費(売上に関係なく毎月かかる) | 家賃、正社員給与、リース料、保険料、減価償却費 |
| 変動費(売上に比例して増減する) | 食材費、アルバイト人件費、水道光熱費の変動分、消耗品 |
具体例で計算
- 固定費:月80万円(家賃20万+正社員25万+リース5万+保険3万+減価償却5万+その他22万)
- 売上300万円のとき変動費165万円 → 変動費率=165÷300=55%
損益分岐点 = 80万 ÷(1 − 0.55)= 80万 ÷ 0.45 = 約178万円
つまり月の売上が178万円を下回ったら赤字。
25日営業なら、1日あたり約7.1万円。客単価1,200円なら約59人。
この「59人」という数字が見えると、打ち手が具体的になります。
- 今日は40人しか来なかった → あと19人分、約2.3万円足りない
- ランチの客単価を1,200円→1,350円にしたら? → 必要客数は53人に減る
- 日曜日が暇なら、テイクアウト専用メニューで売上を上乗せできないか?
数字が「見える」と、行動が変わります。
落とし穴 ⑤:PLを「年1回しか見ない」
確定申告のときだけ損益計算書を見る——これが一番もったいないパターンです。
月次チェック vs 年次チェック
| 月次チェック | 年次チェック | |
|---|---|---|
| 問題の発見 | 5万円の異変で気づく | 60万円の損失で気づく |
| 打てる手 | メニュー変更、仕入れ先見直し | もう取り返せないことが多い |
| 所要時間 | 月30分〜1時間 | 確定申告時にまとめて数時間 |
たとえば、仕入れ先が気づかないうちに値上げしていて、原価率が2ポイント上がっていたとします。
- 月次で気づけば:月売上300万円 × 2% = 月6万円の損失で対処できる
- 12ヶ月放置すれば:6万 × 12 = 年72万円の損失に膨らむ
月に1回、30分だけ。次の3つの数字をチェックするだけで十分です。
毎月見るべき3つの数字
| 指標 | 計算式 | 目安 |
|---|---|---|
| 原価率 | 食材費 ÷ 売上高 × 100 | 30%前後(業態による) |
| FL比率 | (食材費+人件費)÷ 売上高 × 100 | 60%以下 |
| 営業利益率 | 営業利益 ÷ 売上高 × 100 | 8〜15% |
この3つが先月と比べてどう動いたかを見ます。
- 原価率が上がった → 仕入れ値が上がった?ロスが増えた?
- FL比率が上がった → シフトを入れすぎた?人件費の見直しが必要?
- 営業利益率が下がった → どこのコストが増えた?
原因がわかれば、翌月に手を打てます。
PLを「行動」に変える——月次チェックの実践手順
ステップ1:数字を集める(所要時間10分)
毎月1日か月末に、以下の数字をメモします。
- 売上高(レジの月計、POSレポート、または通帳の入金合計)
- 食材の仕入れ額(仕入れ先からの請求書を合計)
- 人件費(給与+交通費+社保の合計)
- 家賃、水道光熱費、リース料など固定費
- 通帳の月末残高
Excelやスプレッドシートが苦手なら、ノートに手書きでもOKです。
ステップ2:3つの比率を計算する(所要時間10分)
原価率、FL比率、営業利益率を出します。電卓1つでできます。
ステップ3:先月と比べる(所要時間10分)
数字が動いた項目だけ「なぜ?」を考えます。
- 先月より原価率が2%上がった → 今月の仕入れ伝票を確認
- FL比率は変わらないが営業利益が減った → 光熱費?修繕費?
「なぜ」が見つかれば、来月の行動が決まります。見つからなくても、数字を並べておくだけで翌月以降の比較材料になります。
業態別の利益率目安——自分のお店はどの位置?
「うちの利益率、低いのか高いのかわからない」という方のために、業態別の目安を載せておきます。
| 業態 | 原価率の目安 | FL比率の目安 | 営業利益率の目安 |
|---|---|---|---|
| ラーメン店 | 30〜35% | 60〜65% | 5〜8% |
| 居酒屋 | 28〜35% | 55〜65% | 8〜12% |
| カフェ | 25〜35% | 55〜65% | 8〜12% |
| 焼肉店 | 40〜50% | 55〜65% | 8〜15% |
| イタリアン・フレンチ | 30〜38% | 55〜65% | 8〜12% |
| テイクアウト専門 | 30〜40% | 45〜55% | 10〜20% |
焼肉店は原価率が高くなりがちですが、客単価も高いので営業利益率は悪くないことが多いです。テイクアウト専門は人件費が抑えやすいので、FL比率が低くなる傾向があります。
大事なのは「平均と比べてどうか」ではなく、「自分のお店の先月と比べてどうか」。自分の店のトレンドを追うことが最も実践的です。
数字が見えると、判断が変わる
損益計算書は、税理士のためでも確定申告のためでもなく、自分の店の「今の状態」を知るための道具です。
体温計と同じです。熱があるかどうかは体温計を見ないとわかりません。PLは、お店の経営の体温を測る道具です。
月に30分だけ数字と向き合う習慣がつけば、「なんとなく不安」が「具体的な課題」に変わり、「何をすればいいかわからない」が「来月はここを直そう」に変わります。
KitchenCostで日々の原価を記録していると、月末のPLチェックがさらに楽になります。食材費はすでに計算済みなので、あとは人件費と固定費を合わせるだけ。原価管理の延長に、損益管理があります。
今週やることチェックリスト
- 先月の売上高を確認する(レジ月計 or 通帳)
- 先月の食材仕入れ額を合計する(請求書・納品書を集める)
- 人件費を「正しく」計算する(給与+交通費+社保+採用費)
- 原価率・FL比率・営業利益率の3つを電卓で出す
- 家賃比率を計算して、15%以内か確認する
- 損益分岐点売上高を計算する(固定費 ÷(1−変動費率))
- 通帳の月末残高をメモする(前月と比較)
- 毎月1日に「PL30分チェック」のスマホリマインダーを設定する
出典・参考
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査」飲食サービス業の営業利益率(2026-03-03 検証)
- freee「飲食店の利益率の平均は?」(2026-03-03 検証)
- ぐるなび通信「数字に強い飲食店経営者になるための基本指標」(2026-03-03 検証)
- MoneyForward「飲食店の損益計算書の見方」(2026-03-03 検証)
- foods-route.jp「飲食店の損益計算書(PL)を正しく作成するポイント」(2026-03-03 検証)
- ユビレジ「飲食店の経理の特徴とポイント」(2026-03-03 検証)
- POS+「飲食店の損益分岐点の考え方」(2026-03-03 検証)