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「黒字なのに現金がない」——飲食店オーナーが損益計算書で見落とす5つの落とし穴(2026年版)

飲食店の営業利益率平均はわずか8.6%。毎月の損益計算書を正しく読めていないと、黒字のまま資金ショートする「黒字倒産」のリスクも。FL比率・減価償却・損益分岐点の読み方から、月次で数字を活かす具体的アクションまで解説。

飲食店損益計算書PL利益率FL比率経営管理2026
目次

帳簿は黒字。でも通帳を開くと、残高が先月より減っている。

「利益が出ているはずなのに、なんで手元にお金がないんだろう」

開業して1年目、2年目あたりでこの違和感に気づくオーナーは少なくありません。確定申告では黒字。でも月末に家賃を払ったら残高がギリギリ——。

実はこれ、損益計算書(PL)の「読み方」を一つ誤解しているだけで起こります。

帝国データバンクの調査によると、2025年の飲食店倒産件数は過去最多ペースで推移しました。そのなかには「ずっと黒字だった」のに資金が回らなくなったケースも含まれます。いわゆる黒字倒産です。

この記事では、損益計算書の基本構造から、飲食店オーナーが特に見落としやすい5つのポイント、そして月次で「数字を見て、次の行動を決める」ところまでを具体的に解説します。

会計の専門用語はできるだけ噛み砕いて説明するので、「数字は苦手…」という方もぜひ最後まで読んでみてください。


先に結論

  • 営業利益率の目安は8〜15%。10%超えで健全、5%以下は早めの対策が必要
  • FL比率(食材費+人件費)は60%以内が目標。65%を超えたら危険信号
  • 人件費は給与だけでなく、交通費・社保・採用費まで含めて計算する
  • 減価償却費は「お金が出ない経費」。PL上の利益=手元の現金ではない
  • 損益分岐点を知れば「あと何食売れば黒字になるか」がわかる
  • 月1回、30分のPLチェックが、年間数十万円の損失を防ぐ

そもそも損益計算書って何が書いてあるの?

損益計算書は、ざっくり言うと「ある期間に、いくら売って、いくら使って、いくら残ったか」を表す書類です。

飲食店のPLは、上から下に向かってこう読みます。

項目具体例考え方
売上高月300万円お客さんから入ってきたお金の合計
−)売上原価食材費 90万円料理を作るのにかかった材料費
= 売上総利益(粗利)210万円「食材を差し引いて残ったお金」
−)販売費及び一般管理費人件費・家賃・光熱費などお店を回すためのすべてのコスト
= 営業利益25万円「本業で稼いだ利益」←ここが一番大事

これだけです。

売上 − 原価 = 粗利粗利 − 経費 = 営業利益

家計簿と同じ構造なので、構造自体はそこまで難しくありません。問題は「何をどの数字に入れるか」の方です。


落とし穴 ①:FL比率に「本当の人件費」を入れていない

FL比率は、飲食店の収益性を見る最も基本的な指標です。

FL比率(%)=(食材費 + 人件費)÷ 売上高 × 100

目安は次の通り。

FL比率状態
55%以下優良。利益がしっかり出ている
55〜60%健全。このラインをキープしたい
60〜65%注意。家賃・光熱費を払うと利益が薄い
65〜70%危険信号。赤字転落の一歩手前
70%超損益分岐点を割っている可能性大

ここで多くのオーナーが間違えるのが、「人件費」に何を含めるかです。

❌ よくある間違い

  • アルバイトの時給 × 時間だけで計算
  • 交通費を「雑費」に入れている
  • 社会保険料を含めていない
  • 採用にかかったお金を別の項目にしている

✅ 正しい「人件費(L)」に含めるもの

項目見落としやすさ
給与・賞与△(ほぼ含めている)
アルバイト時給
交通費(通勤手当)★ よく漏れる
社会保険料(事業主負担分)★★ 給与の約15%
雇用保険料(事業主負担分)
福利厚生費
採用費(求人掲載料、紹介手数料)★★★ 最も漏れる

たとえば月給25万円のスタッフでも、社会保険料の会社負担(約15%)と通勤手当を入れると実際のコストは月29〜30万円になります。

さらに、そのスタッフを採用するのに求人サイトに10万円かかっていたら? 1年で割ると月あたり約8,300円が「見えない人件費」として乗っています。

FL比率を「55%で安心」と思っていたのに、正しく計算し直したら「実は62%だった」——これは珍しい話ではありません。


落とし穴 ②:減価償却の「罠」——黒字なのにお金がない理由

これが冒頭の「帳簿は黒字なのに通帳残高が減っている」の正体です。

減価償却って何?

開業時に厨房設備を300万円で買ったとします。この300万円、会計上は購入した年に全額経費にはできません

代わりに、耐用年数(例えば6年)に分けて毎年50万円ずつ経費にします。これが減価償却です。

減価償却費(PL上の経費)実際の支払い
1年目50万円0円(開業時に支払い済み)
2年目50万円0円
3年目50万円0円

つまり、PLには毎年50万円の「経費」が載るけれど、実際にはお金は1円も出ていかない

じゃあ利益は多いはずでは?

ここが混乱するポイントです。

逆のパターンを考えてみてください。借入金の返済は、PL上には経費として載りません(元本部分)。でも実際には毎月お金が出ていきます。

PL上の扱い実際のお金の動き
減価償却費経費になるお金は出ていかない
借入金の元本返済経費にならないお金は出ていく

だから**「PL上の利益 ≠ 手元の現金」**なのです。

黒字なのにお金がない典型的なパターンは、こうです。

  • PLの営業利益:月20万円(黒字)
  • 減価償却費:月5万円(経費だけどお金は出ない → 実質+5万円)
  • 借入金の返済:月15万円(経費じゃないけどお金は出る → 実質−15万円)
  • 実際の手残り:20 + 5 − 15 = 10万円

「20万円の黒字」のつもりが、実際に使えるお金は10万円。ここにさらに設備の突発修理や税金の支払いが来たら、あっという間にマイナスです。

どうすればいい?

PLだけでなく、月末の通帳残高を毎月メモしておく。これだけで「利益」と「現金」のズレに気づけます。

もっと正確にやるなら「資金繰り表」を作りますが、まずは通帳残高の推移を見るだけでOKです。


落とし穴 ③:「家賃比率」を軽視している

家賃は固定費のなかでも最も大きく、しかも自分の努力では下げにくいコストです。

家賃比率状態
10%以下理想的(ただし郊外・路地裏の傾向)
10〜15%健全。多くの繁盛店がこのライン
15〜20%注意。売上が計画より落ちると一気に苦しくなる
20%超危険。売上が毎月一定以上ないと赤字が続く

「駅前で目立つ場所がいい」と家賃25万円の物件を選んだとします。家賃比率15%に抑えるには、月の売上が約167万円必要です。

25万円 ÷ 0.15 = 166.7万円

月167万円を25日営業で割ると、1日あたり約6.7万円。客単価1,000円なら1日67人です。

この数字、開業前に計算していましたか? 開業後でも遅くないので、今の家賃と売上で計算してみてください。

もし家賃比率が20%を超えている場合、打てる手はおもに2つ。

  1. 売上を上げる(客数 × 客単価 × 回転率)
  2. 大家さんに家賃交渉する(更新タイミングが最もやりやすい)

「家賃は下げられない」と思い込んでいるオーナーは多いですが、長期入居していれば交渉に応じてもらえるケースは実は少なくありません。


落とし穴 ④:損益分岐点を知らずに営業している

損益分岐点とは、売上と経費がちょうどトントンになる売上高のこと。これを下回れば赤字、上回れば黒字です。

計算方法

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)

飲食店で分けると、だいたいこうなります。

種類具体例
固定費(売上に関係なく毎月かかる)家賃、正社員給与、リース料、保険料、減価償却費
変動費(売上に比例して増減する)食材費、アルバイト人件費、水道光熱費の変動分、消耗品

具体例で計算

  • 固定費:月80万円(家賃20万+正社員25万+リース5万+保険3万+減価償却5万+その他22万)
  • 売上300万円のとき変動費165万円 → 変動費率=165÷300=55%

損益分岐点 = 80万 ÷(1 − 0.55)= 80万 ÷ 0.45 = 約178万円

つまり月の売上が178万円を下回ったら赤字

25日営業なら、1日あたり約7.1万円。客単価1,200円なら約59人。

この「59人」という数字が見えると、打ち手が具体的になります。

  • 今日は40人しか来なかった → あと19人分、約2.3万円足りない
  • ランチの客単価を1,200円→1,350円にしたら? → 必要客数は53人に減る
  • 日曜日が暇なら、テイクアウト専用メニューで売上を上乗せできないか?

数字が「見える」と、行動が変わります。


落とし穴 ⑤:PLを「年1回しか見ない」

確定申告のときだけ損益計算書を見る——これが一番もったいないパターンです。

月次チェック vs 年次チェック

月次チェック年次チェック
問題の発見5万円の異変で気づく60万円の損失で気づく
打てる手メニュー変更、仕入れ先見直しもう取り返せないことが多い
所要時間月30分〜1時間確定申告時にまとめて数時間

たとえば、仕入れ先が気づかないうちに値上げしていて、原価率が2ポイント上がっていたとします。

  • 月次で気づけば:月売上300万円 × 2% = 月6万円の損失で対処できる
  • 12ヶ月放置すれば:6万 × 12 = 年72万円の損失に膨らむ

月に1回、30分だけ。次の3つの数字をチェックするだけで十分です。

毎月見るべき3つの数字

指標計算式目安
原価率食材費 ÷ 売上高 × 10030%前後(業態による)
FL比率(食材費+人件費)÷ 売上高 × 10060%以下
営業利益率営業利益 ÷ 売上高 × 1008〜15%

この3つが先月と比べてどう動いたかを見ます。

  • 原価率が上がった → 仕入れ値が上がった?ロスが増えた?
  • FL比率が上がった → シフトを入れすぎた?人件費の見直しが必要?
  • 営業利益率が下がった → どこのコストが増えた?

原因がわかれば、翌月に手を打てます。


PLを「行動」に変える——月次チェックの実践手順

ステップ1:数字を集める(所要時間10分)

毎月1日か月末に、以下の数字をメモします。

  • 売上高(レジの月計、POSレポート、または通帳の入金合計)
  • 食材の仕入れ額(仕入れ先からの請求書を合計)
  • 人件費(給与+交通費+社保の合計)
  • 家賃、水道光熱費、リース料など固定費
  • 通帳の月末残高

Excelやスプレッドシートが苦手なら、ノートに手書きでもOKです。

ステップ2:3つの比率を計算する(所要時間10分)

原価率、FL比率、営業利益率を出します。電卓1つでできます。

ステップ3:先月と比べる(所要時間10分)

数字が動いた項目だけ「なぜ?」を考えます。

  • 先月より原価率が2%上がった → 今月の仕入れ伝票を確認
  • FL比率は変わらないが営業利益が減った → 光熱費?修繕費?

「なぜ」が見つかれば、来月の行動が決まります。見つからなくても、数字を並べておくだけで翌月以降の比較材料になります。


業態別の利益率目安——自分のお店はどの位置?

「うちの利益率、低いのか高いのかわからない」という方のために、業態別の目安を載せておきます。

業態原価率の目安FL比率の目安営業利益率の目安
ラーメン店30〜35%60〜65%5〜8%
居酒屋28〜35%55〜65%8〜12%
カフェ25〜35%55〜65%8〜12%
焼肉店40〜50%55〜65%8〜15%
イタリアン・フレンチ30〜38%55〜65%8〜12%
テイクアウト専門30〜40%45〜55%10〜20%

焼肉店は原価率が高くなりがちですが、客単価も高いので営業利益率は悪くないことが多いです。テイクアウト専門は人件費が抑えやすいので、FL比率が低くなる傾向があります。

大事なのは「平均と比べてどうか」ではなく、「自分のお店の先月と比べてどうか」。自分の店のトレンドを追うことが最も実践的です。


数字が見えると、判断が変わる

損益計算書は、税理士のためでも確定申告のためでもなく、自分の店の「今の状態」を知るための道具です。

体温計と同じです。熱があるかどうかは体温計を見ないとわかりません。PLは、お店の経営の体温を測る道具です。

月に30分だけ数字と向き合う習慣がつけば、「なんとなく不安」が「具体的な課題」に変わり、「何をすればいいかわからない」が「来月はここを直そう」に変わります。

KitchenCostで日々の原価を記録していると、月末のPLチェックがさらに楽になります。食材費はすでに計算済みなので、あとは人件費と固定費を合わせるだけ。原価管理の延長に、損益管理があります。


今週やることチェックリスト

  • 先月の売上高を確認する(レジ月計 or 通帳)
  • 先月の食材仕入れ額を合計する(請求書・納品書を集める)
  • 人件費を「正しく」計算する(給与+交通費+社保+採用費)
  • 原価率・FL比率・営業利益率の3つを電卓で出す
  • 家賃比率を計算して、15%以内か確認する
  • 損益分岐点売上高を計算する(固定費 ÷(1−変動費率))
  • 通帳の月末残高をメモする(前月と比較)
  • 毎月1日に「PL30分チェック」のスマホリマインダーを設定する

出典・参考

  • 中小企業庁「中小企業実態基本調査」飲食サービス業の営業利益率(2026-03-03 検証)
  • freee「飲食店の利益率の平均は?」(2026-03-03 検証)
  • ぐるなび通信「数字に強い飲食店経営者になるための基本指標」(2026-03-03 検証)
  • MoneyForward「飲食店の損益計算書の見方」(2026-03-03 検証)
  • foods-route.jp「飲食店の損益計算書(PL)を正しく作成するポイント」(2026-03-03 検証)
  • ユビレジ「飲食店の経理の特徴とポイント」(2026-03-03 検証)
  • POS+「飲食店の損益分岐点の考え方」(2026-03-03 検証)

よくある質問

飲食店の営業利益率はどのくらいが目安ですか?

中小規模の飲食店では営業利益率8〜15%が一般的な目安です。中小企業庁のデータでは飲食業の平均営業利益率は8.6%前後。10%を超えていれば健全、15%以上なら優良とされています。ただし業態によって差があり、居酒屋は原価率が低い分10%超えやすく、ラーメン店は原価率が高い分5〜8%が多い傾向です。

FL比率とは何ですか?何%に抑えるべきですか?

FL比率とは売上高に対する「原材料費(Food)+人件費(Labor)」の割合です。飲食店では55〜60%が健全ライン、65%が危険信号の目安。70%を超えると家賃や光熱費を払うと利益がほとんど残りません。ただし人件費には給与だけでなく、交通費・社会保険料・採用費も含めて計算してください。

損益計算書が黒字なのに通帳残高が減るのはなぜですか?

最も多い原因は「減価償却費」です。内装工事や厨房設備の費用は、実際には開業時に一括で支払い済みですが、会計上は5〜15年かけて毎年少しずつ経費として計上します。つまりPL上は経費として利益を減らしますが、実際にはお金が出ていきません。逆に言えば、PLの利益には「すでに払い終わったお金」が含まれている場合があり、手元の現金と一致しないのです。借入金の元本返済も同じ構造です。

損益分岐点はどうやって計算しますか?

損益分岐点売上高=固定費÷(1−変動費率)で計算します。飲食店の場合、固定費は家賃・正社員給与・リース料など、変動費は食材費・アルバイト人件費・水道光熱費の変動分などです。例えば固定費が月80万円、変動費率が55%なら、損益分岐点=80万÷(1−0.55)=約178万円。月の売上がこの金額を下回ると赤字になります。

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