「飲み放題、始めてから売上は増えたんだけど……利益がぜんぜん伸びない」
居酒屋のオーナーと話すと、10人中7人がこう言う。
理由はだいたい同じで、生ビールの杯数を把握していない。
飲み放題90分で平均5.2杯。そのうち生ビールが3杯を超えた時点で、原価率は30%を突破する。ビール1杯の原価は120円。ハイボールの45円と比べると2.7倍だ。4人組の団体が全員ビール党だった日は、その卓だけで赤字になっていることもある。
「でもビールがなかったら飲み放題にならないでしょ」——その通りだ。ビールをなくすのではなく、ビール以外を魅力的にして比率を下げるのが飲み放題の利益設計だ。
先に結論
- 飲み放題の原価は「ビール比率」で決まる。 ビール40%なら原価率29%、60%なら35%超え
- 90分と120分は別料金が鉄則。 杯数が5.2杯→7.1杯に増えるのに同額は赤字
- 氷・レモン・ストローも原価。 1杯5円でも月に2.5万円
- 提供スピードを落とすのは悪手。 満足度が下がってリピートが消える
- フード条件をつけると全体の原価率が下がる。 「お料理2品以上」で利益を安定させる
飲み放題の基本計算式
1人あたり原価 = Σ(各ドリンク原価 × 想定杯数)+ 付随原価(氷・レモン等)
原価率 = 1人あたり原価 ÷ 税抜価格
この計算を客層別・時間帯別でやらないと、利益が出ているのかどうかわからない。
1杯あたりの原価を出す
まず、自店のドリンク原価を1杯単位で把握する。
| ドリンク | 原価 | 備考 |
|---|---|---|
| 生ビール(中ジョッキ350ml) | 120円 | 樽の仕入れ単位で計算。ロス率5〜8%含む |
| ハイボール | 45円 | ウイスキー30ml+炭酸水 |
| レモンサワー | 55円 | 焼酎30ml+炭酸水+レモン |
| 梅酒ソーダ | 65円 | 梅酒45ml+炭酸水 |
| カシスオレンジ | 70円 | カシスリキュール30ml+OJ |
| ソフトドリンク | 20円 | コーラ・ウーロン茶等 |
| 付随原価(氷・レモン・ストロー等) | 5円/杯 | 見落とされがち |
生ビールの120円と、ハイボールの45円。 この差が飲み放題の利益構造をすべて決める。
ビールの「見えないロス」
ビールは樽から注ぐときに泡が出る。この泡を「もったいない」と思って抜くと、1杯あたり50〜80mlのビールが無駄になる。10L樽から取れる杯数は約25杯(350ml)が理想だが、泡の管理が悪いと22杯に減る。
泡ロスなし:10L ÷ 0.35L = 28.6杯
泡ロスあり(8%):10L × 0.92 ÷ 0.35L = 26.3杯
実質ロス:2杯分 = 約240円/樽
月に樽を30本使うなら、泡ロスだけで7,200円/月。 ビールサーバーの温度管理とガス圧調整だけで防げるコストだ。
90分飲み放題の原価(想定5.2杯)
杯数の想定(平均的な客層)
- 生ビール 2杯
- ハイボール 1.5杯
- サワー・カクテル 1杯
- ソフトドリンク 0.7杯
原価内訳
| ドリンク | 杯数 | 原価 | 小計 |
|---|---|---|---|
| 生ビール | 2杯 | 120円 | 240円 |
| ハイボール | 1.5杯 | 45円 | 68円 |
| サワー・カクテル | 1杯 | 60円 | 60円 |
| ソフトドリンク | 0.7杯 | 20円 | 14円 |
| 付随原価 | 5.2杯 | 5円 | 26円 |
| 合計 | 408円 |
飲み放題価格 1,500円(税抜1,364円)
原価率 = 408 ÷ 1,364 = 29.9%
30%ぎりぎり。これは**ビール比率38%**の場合だ。
120分飲み放題の原価(想定7.1杯)
杯数の想定
- 生ビール 3杯
- ハイボール 2杯
- サワー・カクテル 1杯
- ソフトドリンク 1.1杯
原価内訳
| ドリンク | 杯数 | 原価 | 小計 |
|---|---|---|---|
| 生ビール | 3杯 | 120円 | 360円 |
| ハイボール | 2杯 | 45円 | 90円 |
| サワー・カクテル | 1杯 | 60円 | 60円 |
| ソフトドリンク | 1.1杯 | 20円 | 22円 |
| 付随原価 | 7.1杯 | 5円 | 36円 |
| 合計 | 568円 |
飲み放題価格 2,000円(税抜1,818円)
原価率 = 568 ÷ 1,818 = 31.2%
90分との差は160円の原価増。価格差を500円つけることで利益を確保する。 90分と120分を同じ価格にしている店は、120分プランで確実に損している。
ビール比率で利益が壊れる
飲み放題の原価率はビール比率にほぼ比例する。
ビール比率別の原価率(90分・5.2杯の場合)
| ビール比率 | ビール杯数 | 1人あたり原価 | 原価率(税抜1,364円) |
|---|---|---|---|
| 20% | 1.0杯 | 310円 | 22.7% |
| 40% | 2.1杯 | 410円 | 30.1% |
| 50% | 2.6杯 | 460円 | 33.7% |
| 60% | 3.1杯 | 530円 | 38.9% |
| 80% | 4.2杯 | 620円 | 45.5% |
ビール比率が40%→60%になるだけで、原価率が30%→39%に跳ね上がる。ビール党の忘年会シーズン(12月)は、平時より原価率が5〜8ポイント高くなる。 季節で飲み放題の価格を変えている店は少ないが、検討する価値はある。
ビール比率を下げる5つの方法
ビールをメニューから外すのは現実的ではない。ビール以外を選びたくなる仕組みを作る。
1. ハイボール・サワーの種類を増やす
ビール:1種類(生ビール)に対して、ハイボール:4種類(角・黒・ジンジャー・コーラ割り)、サワー:5種類。選択肢が多いほうに人は流れる。 メニュー表のスペースも「ビール1行 vs ハイボール&サワー10行」にする。
2. 「最初の1杯」でビールを出す
最初の乾杯だけ生ビールにし、2杯目以降はハイボール・サワーを薦める。「2杯目からはこちらもおすすめです」とスタッフが声をかけるだけで、ビール比率が10〜15ポイント下がるという店もある。
3. プレミアムプランでビールを差別化
「スタンダード飲み放題1,500円(ビールなし)」「プレミアム飲み放題2,000円(生ビール付き)」。ビールに追加料金を載せることで、ビール原価を直接回収する。
4. ノンアルコールを充実させる
ノンアルビール(原価40〜50円)、ノンアルカクテル(原価25〜35円)を増やす。飲めない人が「とりあえずビール」の代わりにノンアルを選ぶと、その分だけビール比率が下がる。
5. ピッチャー提供をやめる
ピッチャーで出すと1人あたりの消費量が30〜50%増える。ジョッキ1杯ずつの提供に統一するだけで、平均杯数が下がる。
時間帯・曜日でプランを分ける
飲み放題の原価率は、客層によって大きく変わる。
| 客層 | 平均杯数 | ビール比率 | 原価率の目安 |
|---|---|---|---|
| 金曜の会社飲み | 6.5杯 | 55% | 34〜38% |
| 土曜の友人グループ | 5.0杯 | 35% | 26〜30% |
| 女子会 | 4.2杯 | 15% | 20〜24% |
| 忘年会(12月) | 7.5杯 | 60% | 38〜42% |
忘年会シーズンは通常の1.5倍近い原価になる。 12月だけ飲み放題を200〜300円上げている店もある。逆に女子会プランは原価率が低いので、価格を下げて集客に使える。
氷・レモン・ストローの積み上げ
「1杯5円」と聞くと無視したくなる金額だ。でも積み上げると——
付随原価 5円/杯 × 5.2杯/人 × 40人/日 × 26日 = 27,040円/月
月に2.7万円。 年間で32万円。これを原価に入れていない店は、その分だけ利益を見誤っている。
内訳:
- 氷(製氷機の電気代含む):2〜3円/杯
- レモン(1/8カット):1〜2円/杯
- ストロー:0.5〜1円/杯
- おしぼり(使い捨て):3〜5円/人
フード条件で利益を安定させる
飲み放題単体では利益が薄い。フードの注文条件をつけることで、全体の利益率を上げる。
フード条件の例
| 条件 | フード原価率の目安 | 効果 |
|---|---|---|
| 料理2品以上注文必須 | 28〜32% | 客単価UP+利益安定 |
| コース料理+飲み放題セット | 25〜30% | 原価の予測精度が上がる |
| フードなし飲み放題 | — | 原価率35%超えのリスク大 |
「お料理2品以上のご注文をお願いいたします」 ——この1行をメニューに書くだけで利益構造が変わる。フードの原価率は28〜32%で安定しやすいので、飲み放題の原価率のブレを吸収してくれる。
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:26日
- 1日の飲み放題利用:25人
- 飲み放題価格:1,500円(税抜1,364円)
月間飲み放題売上 = 25人 × 1,364円 × 26日 = 886,600円
【ビール比率40%の場合(原価率30%)】
原価 = 265,980円
粗利 = 620,620円
【ビール比率60%の場合(原価率39%)】
原価 = 345,774円
粗利 = 540,826円
差額 = 79,794円/月 = 年間957,528円
ビール比率20ポイントの差が、年間96万円の利益差になる。
毎週見るべき4つの数字
飲み放題の利益管理は、週次でこの4つを追えば十分だ。
- 1人あたり平均杯数(5杯以下 → 安全圏)
- ビール比率(40%以下 → 安全圏)
- 平均滞在時間(90分プランなら実質80分以内 → 安全圏)
- 飲み放題利用率(全客数に占める割合。高すぎると利益が薄まる)
これをPOSデータかメモで記録する。数字が悪化したら、プランの価格かメニュー構成を見直す。
今週やること
- 1杯あたりのドリンク原価を最新の仕入れ値で更新する
- 直近1週間の平均杯数とビール比率を記録する
- 90分と120分で価格差がついているか確認する(差がなければ400〜500円の差をつける)
- 飲み放題メニューのビール欄を1行に抑え、ハイボール・サワーを目立たせる
- フードの注文条件(2品以上)がメニューに明記されているか確認する
- 氷・レモン・ストローの1杯あたり原価を計算して原価表に反映する
関連ガイド
出典
ドリンクの原価を登録すれば、飲み放題1人あたりの原価がすぐに出ます。ビール比率が変わったときの利益シミュレーションもワンタップ。KitchenCost を使ってみてください。