海鮮丼は「原価が高い業態」として知られています。でも本当の問題は原価の高さではなく、原価が読めないことです。
魚の仕入れ値は日によって変わる。マグロが昨日キロ3,000円だったのに今日は4,500円。サーモンが品薄で量を減らしたら「ネタが少ない」と言われる。ネタの切り付けは職人によって厚さが違い、同じ「5切れ」でも重さが80gから120gまでブレる。
結果、月末に数字を締めてみたら原価率が48%を超えていた——こんな話は珍しくありません。
海鮮丼の原価管理は、ネタのグラム管理と3段階の価格帯設計で安定させます。
先に結論
- 海鮮丼の原価は**ネタが75〜80%**を占める。切り付け量の管理が利益管理そのもの
- ネタはベース(マグロ赤身・サーモン)/ 中位(ハマチ・ホタテ)/ プレミアム(ウニ・イクラ)の3段階で管理
- 酢飯は220gを基準に、計量カップかスケールで定量化する
- わさび・海苔・ガリの「小物」も原価に入れる。月間で無視できない額になる
- 味噌汁・サイドメニューで全体の原価率を下げるのが利益確保の王道
海鮮丼1杯の原価を分解する
例1:並丼(税抜1,200円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| マグロ赤身 | 30g(2切) | 75円 |
| サーモン | 30g(2切) | 60円 |
| ハマチ | 25g(2切) | 75円 |
| イカ | 20g(2切) | 30円 |
| 甘エビ | 15g(2尾) | 40円 |
| 玉子焼き | 20g(1切) | 15円 |
| 酢飯 | 220g | 52円 |
| 海苔(刻み) | 1g | 5円 |
| わさび | 3g | 6円 |
| ガリ | 10g | 5円 |
| 醤油(小皿) | 10ml | 3円 |
| 合計 | 366円 |
原価率:366 ÷ 1,200 = 30.5%
※ マグロ赤身はキロ2,500円、サーモンはキロ2,000円、ハマチはキロ3,000円で計算。仕入れ値は時期・産地で大きく変動します。
ネタだけで295円、全体の80%を占めます。ネタの量が10%増えると原価が30円上がり、原価率は33%に。
例2:上丼(税抜1,800円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| マグロ赤身 | 25g(2切) | 63円 |
| 中トロ | 20g(1切) | 80円 |
| サーモン | 25g(2切) | 50円 |
| ハマチ | 25g(2切) | 75円 |
| ホタテ | 20g(1個) | 60円 |
| イクラ | 15g | 90円 |
| 甘エビ | 15g(2尾) | 40円 |
| ウニ | 10g | 80円 |
| 酢飯 | 220g | 52円 |
| 海苔・わさび・ガリ | — | 16円 |
| 醤油 | 10ml | 3円 |
| 合計 | 609円 |
原価率:609 ÷ 1,800 = 33.8%
上丼はプレミアムネタ(中トロ・ウニ・イクラ)が入る分、原価率が上がります。ウニとイクラの25gで170円——これだけで並丼のネタ原価の半分以上です。
例3:特上丼(税抜2,500円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 中トロ | 30g(2切) | 120円 |
| ウニ | 20g | 160円 |
| イクラ | 20g | 120円 |
| ホタテ | 25g(1個) | 75円 |
| ボタンエビ | 1尾(25g) | 100円 |
| マグロ赤身 | 25g(2切) | 63円 |
| サーモン | 20g(1切) | 40円 |
| 酢飯 | 220g | 52円 |
| 海苔・わさび・ガリ | — | 16円 |
| 醤油 | 10ml | 3円 |
| 合計 | 749円 |
原価率:749 ÷ 2,500 = 30.0%
特上丼は売価が高い分、原価率は意外と抑えられます。高単価メニューほど原価率が下がるように価格を設計するのがポイントです。
ネタの3段階管理
日替わり仕入れでも原価を安定させるには、ネタを3段階に分類してグラム単価の上限を決めます。
3段階の分類基準
| 段階 | ネタ例 | グラム単価 | 1切れ(15g)の原価 | 丼での役割 |
|---|---|---|---|---|
| ベース | マグロ赤身、サーモン、イカ、タコ | 2〜3円 | 30〜45円 | 量を担当。全体の50〜60% |
| 中位 | ハマチ、カンパチ、ホタテ、甘エビ | 3〜5円 | 45〜75円 | 彩りと食感。全体の25〜35% |
| プレミアム | ウニ、イクラ、中トロ、大トロ、ボタンエビ | 5〜10円 | 75〜150円 | 華やかさ。全体の10〜20% |
分類ルールの使い方
仕入れ値が変動したとき、分類ルールに従って対応します。
例:サーモンがキロ2,000円→3,000円に高騰した場合
- グラム単価が2円→3円に上昇 → ベースの上限ギリギリ
- 対策①:サーモンの切り付け量を30g→25gに減らす(原価60円→75円を回避)
- 対策②:サーモンを中位に格上げし、代わりにイカを増量する
- 対策③:仕入れ先を変更して価格を維持する
重要なのは「なんとなく減らす」ではなく、分類ルールに基づいて判断することです。
歩留まりと可食量の計算
魚は丸ごと仕入れると、頭・骨・内臓で重量が大きく減ります。キロ単価が安く見えても、可食部で計算すると高くなることがあります。
主要ネタの歩留まり
| ネタ | 仕入れ形態 | 歩留まり | キロ仕入値 | 可食グラム単価 |
|---|---|---|---|---|
| マグロ赤身 | サク(柵) | 95% | 2,500円 | 2.6円 |
| サーモン | フィレ | 85% | 2,000円 | 2.4円 |
| ハマチ | 丸魚 | 50% | 1,500円 | 3.0円 |
| イカ | 丸 | 65% | 1,000円 | 1.5円 |
| タコ | 足 | 90% | 2,000円 | 2.2円 |
| ホタテ | 貝柱 | 95% | 3,000円 | 3.2円 |
| 甘エビ | 殻付き | 60% | 2,500円 | 4.2円 |
| ウニ | 板ウニ | 95% | 8,000円 | 8.4円 |
| イクラ | 醤油漬け | 100% | 6,000円 | 6.0円 |
ハマチを丸魚で仕入れると歩留まり50%。キロ1,500円が実質キロ3,000円になります。フィレで仕入れれば歩留まり85%でキロ1,765円。仕入れ形態の選択が原価を大きく左右します。
丸魚のメリット・デメリット
| 丸魚 | フィレ・サク | |
|---|---|---|
| キロ単価 | 安い | 高い |
| 歩留まり | 低い(50〜65%) | 高い(85〜95%) |
| 可食グラム単価 | ケースバイケース | 安定 |
| アラの活用 | あら汁・出汁に使える | なし |
| 技術 | 捌く技術が必要 | 不要 |
| 鮮度 | 良い(捌きたて) | 仕入れ時点の鮮度 |
小規模店ではフィレ・サク仕入れが原価管理しやすい。ただし丸魚を捌ける職人がいて、あら汁を出すなら丸魚のほうがトータルの原価が下がることもあります。
酢飯の原価と管理
酢飯は「米が安いから大丈夫」と思われがちですが、量のブレが積み重なると月単位で無視できない差になります。
酢飯1杯の原価内訳
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 米(炊飯後) | 200g | 38円 |
| 酢 | 15ml | 7円 |
| 砂糖 | 5g | 3円 |
| 塩 | 2g | 1円 |
| 昆布(炊飯用) | — | 3円 |
| 合計 | 220g | 52円 |
※ 米は5kgあたり2,500円、1合(150g)の炊飯後を300gとして計算。
酢飯のブレが原価に与える影響
| 酢飯量 | 原価 | 標準(220g)との差 | 月間影響(80杯/日) |
|---|---|---|---|
| 200g | 47円 | −5円 | −10,000円(節約) |
| 220g | 52円 | 基準 | 基準 |
| 240g | 57円 | +5円 | +10,000円 |
| 260g | 61円 | +9円 | +18,000円 |
スタッフが「大盛りサービス」で40g多く盛っているだけで、年間20万円以上のロスになります。
対策:酢飯は計量カップで盛る。 220gが入る大きさのカップを用意して、すりきり1杯で統一する。
小物(わさび・海苔・ガリ)の原価
「小さいから関係ない」と思いがちな小物も、合計すると1杯あたり15〜30円になります。
小物の原価一覧
| 項目 | 1杯あたりの量 | 原価 | 月間(80杯/日・25日) |
|---|---|---|---|
| わさび(チューブ) | 3g | 6円 | 12,000円 |
| 海苔(刻み) | 1g | 5円 | 10,000円 |
| ガリ | 10g | 5円 | 10,000円 |
| 醤油(小皿) | 10ml | 3円 | 6,000円 |
| 大葉 | 1枚 | 5円 | 10,000円 |
| 合計 | 24円 | 48,000円 |
月48,000円、年間58万円。これを原価計算に入れていないと、実際の原価率が2〜3ポイント過小に見えます。
丼のグレード別価格設計
価格設計の基本ルール
| グレード | ネタ量 | ネタ構成 | 売価 | 目標原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 並丼 | 120g | ベース60%・中位30%・プレミアム10% | 1,200円 | 30〜35% |
| 上丼 | 150g | ベース40%・中位35%・プレミアム25% | 1,800円 | 33〜38% |
| 特上丼 | 180g | ベース30%・中位30%・プレミアム40% | 2,500円 | 28〜33% |
特上丼の原価率が一番低いのは、プレミアムネタの原価が高くても売価をそれ以上に上げられるからです。ウニ20gの原価160円に対して、売価への上乗せは400〜500円。
グレード間の差額設計
並→上の差額600円に対して原価差は約240円。差額から得られる粗利は360円。 上→特上の差額700円に対して原価差は約140円。差額から得られる粗利は560円。
つまり上位グレードほど粗利の絶対額が大きい。高単価メニューを出すことの本質は、原価率ではなく1杯あたりの粗利を増やすことです。
日替わり海鮮丼の運用
日替わりメニューは集客力がありますが、原価管理が難しい。以下のルールで安定させます。
日替わり運用の3ルール
1. 仕入れ予算を1日分で決める
「今日のネタ仕入れは◯万円まで」と予算上限を決める。売上目標の38%以内に収める。
1日の売上目標 = 80杯 × 1,400円(平均)= 112,000円
ネタ仕入れ予算 = 112,000 × 38% = 42,560円
2. 構成比ルールに従う
日替わりでも「ベース60%・中位30%・プレミアム10%」の構成比を守る。高いネタが安く手に入った日はプレミアム比率を上げて集客に使い、高騰日はベース比率を上げて原価を守る。
3. 「今日のおすすめ」で利益の出るネタを押す
仕入れ値が安いネタを「今日のおすすめ」に設定する。原価率の低いネタの注文比率を上げることで、全体の原価率を下げられます。
味噌汁とサイドで利益を守る
海鮮丼は原価率が高い分、味噌汁とサイドメニューの役割が大きいです。
サイドメニューの原価と効果
| メニュー | 原価 | 売価 | 粗利 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| あら汁 | 15円 | 200円 | 185円 | 8% |
| 味噌汁 | 12円 | 150円 | 138円 | 8% |
| 茶碗蒸し | 35円 | 300円 | 265円 | 12% |
| 漬物盛り合わせ | 20円 | 200円 | 180円 | 10% |
| 刺身3点盛り(追加) | 180円 | 600円 | 420円 | 30% |
あら汁は丸魚を捌いた後のアラで作れるため、原価が極めて低い。丸魚仕入れ+あら汁販売のセットは、海鮮丼専門店の利益構造として理に叶っています。
セット率の効果
海鮮丼+あら汁セット(+150円)の場合:
丼の原価率38%、客単価1,200円の場合:
丼の粗利 = 1,200 × (1 − 0.38) = 744円
セット追加(あら汁+150円、原価15円):
追加粗利 = 150 − 15 = 135円
セット後の客単価 = 1,350円
セット後の原価率 = (456 + 15) ÷ 1,350 = 34.9%
あら汁を付けるだけで原価率が3ポイント改善し、粗利が135円増えます。セット率50%なら月間で:
80杯/日 × 50% × 135円 × 25日 = 135,000円/月
月13万5千円、年間162万円の粗利増。
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:25日
- 1日の杯数:80杯
- 平均客単価:1,450円(セット込み)
月間売上 = 80杯 × 1,450円 × 25日 = 2,900,000円
原価率35%の場合(管理ができている):
原価 = 1,015,000円
粗利 = 1,885,000円
原価率42%の場合(ネタのブレ・酢飯多め・小物未計上):
原価 = 1,218,000円
粗利 = 1,682,000円
差額 = 203,000円/月 = 年間2,436,000円
7ポイントの原価率差が年間243万円の利益差になります。海鮮丼は客単価が高い分、原価率のブレが利益に与える影響も大きい。
原価が崩れる4つの原因
1. ネタの「気分盛り」
切り付けの厚さやサイズが職人の気分で変わる。サーモン1切れが15gのつもりが20gだと、6杯で1切れ分のロス。1日80杯なら月間でサーモン100切れ以上の差が出ます。
対策:ネタごとに1切れの基準グラムを決め、新人には最初の1週間は全切れ計量させる。
2. 高級ネタの出し過ぎ
ウニやイクラを「見栄え」で多めに盛ると、1杯で50〜100円の原価増。特上丼が1日10杯出る店なら、月間25,000〜50,000円のロスです。
3. 仕入れ値の反映遅れ
マグロの相場が上がっているのに、メニュー価格を3ヶ月据え置きにしていると、原価率が5ポイント以上悪化することがあります。
対策:仕入れ値を週次で確認し、原価率が3ポイント以上悪化したら価格見直しを検討する。
4. 廃棄ロス
売れ残りのネタは翌日使えない場合が多い。仕入れ量が多すぎると、1日の廃棄が2,000〜5,000円になることもあります。
対策:曜日別の販売実績から仕入れ量を決める。金曜・土曜は多め、月曜・火曜は少なめ。
今週やること
- 主要ネタのグラム基準を決める(1切れ◯g)
- ネタをベース/中位/プレミアムの3段階に分類する
- 酢飯の1杯量を220gに固定し、計量カップを用意する
- わさび・海苔・ガリ・醤油の原価を計上する
- 丼のグレード別に、ネタの構成比と売価を設計する
- あら汁セットを導入し、セット率を記録する
- 仕入れ値を週次で確認し、原価率の推移を追う
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