トリミングサロン料金を上げるとき、最初に見るべきなのは近隣相場ではありません。
近くの店が5,000円だから自店も5,000円。材料費が上がったから全メニュー300円アップ。この決め方だと、安すぎるメニューも高く見えすぎるメニューも同じ扱いになります。
料金改定で必要なのは、1頭原価から逆算することです。
小型犬シャンプーカットが4,500円で、1頭原価が1,890円なら、今の1頭利益は2,610円。目標利益を2,900円にしたいなら、必要料金は4,790円。つまり4,800円前後、値上げ幅は+300円が自然なラインです。

料金表を変える前に、薬剤費・消耗品・作業時間を1頭単位で見直します。
先に結論
このモデルケースでは、基本メニューの最初の改定幅は**+300円**が妥当です。
| 改定案 | 料金 | 1頭利益 | 月80頭の利益 |
|---|---|---|---|
| 据え置き | 4,500円 | 2,610円 | 208,800円 |
| +200円 | 4,700円 | 2,810円 | 224,800円(+16,000円) |
| +300円 | 4,800円 | 2,910円 | 232,800円(+24,000円) |
| +500円 | 5,000円 | 3,110円 | 248,800円(+40,000円) |
※ 1頭原価1,890円(薬剤180円+消耗品120円+光熱費90円+作業時間1,500円)で計算。
ただし、全メニューを一律+300円にする必要はありません。基本メニューは+200〜300円、毛量・もつれ・保定などで作業時間が伸びるメニューは+500円前後または追加料金化。これが現実的です。
値上げ告知のタイミングも大事ですが、告知文の前に「なぜその金額なのか」を店側が説明できる状態にしておく必要があります。
値上げで本当に決めるべきこと
「いくら上げるか」と考えると、どうしても怖くなります。
常連が離れないか。予約が減らないか。口コミに悪く書かれないか。個人サロンほど、お客さまとの距離が近いので価格の話は重くなります。
でも経営判断として見るなら、問いはもう少し具体的です。
- いまの1頭利益はいくらか
- 目標の1頭利益まで、いくら足りないか
- 基本料金で上げるべきか、追加料金に分けるべきか
- 値上げ後に、予約数と再予約率がどう動いたか
この4つを追えば、値上げは感覚ではなく検証できる施策になります。
なぜ今、料金表を見直すべきか
トリミングサロンの利益は、薬剤費だけでは決まりません。
シャンプー剤、リンス、イヤークリーナー、シーツ、タオル洗濯、ドライヤーの電気代、掃除時間。さらに、もつれ、毛量、保定が必要な犬は同じ「小型犬」でも作業時間が変わります。
2025年平均の消費者物価指数は総合で前年比+3.2%でした。令和7年度の地域別最低賃金の全国加重平均は1,121円で、前年から66円上がっています。
消耗品と人件費が同時に上がる中で料金を据え置くと、見た目の売上は同じでも、1頭ごとの利益は少しずつ削られます。
1頭原価に入れるもの
最初から細かくしすぎる必要はありません。まずは次の4つに分けます。
| 項目 | 入れるもの | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 薬剤費 | シャンプー、リンス、保湿剤、耳洗浄 | 希釈後の1回使用量で見る |
| 消耗品費 | シーツ、コットン、リボン、袋、替刃の按分 | 無料サービス扱いの小物も入れる |
| 光熱費 | ドライヤー、給湯、洗濯、空調の按分 | 大型犬・長毛犬は時間で増える |
| 作業時間コスト | 施術、受付、会計、掃除、タオル処理 | 施術時間だけで止めない |
とくに抜けやすいのが作業時間です。
「60分のメニュー」と言っても、実際には予約確認、写真、会計、床掃除、タオル処理で10〜15分使っていることがあります。この時間をゼロ円にすると、自分の働き分を値引きしているのと同じです。
オーナーひとりの店でも、時間単価は必ず置いてください。自分の時給を入れない計算は、利益計算ではなく売上計算に近くなります。
使う式は3つだけ
1頭原価 = 薬剤費 + 消耗品費 + 光熱費 + 作業時間コスト
1頭利益 = 現在料金 - 1頭原価
必要料金 = 1頭原価 + 目標1頭利益
作業時間コストは、次のように出します。
作業時間コスト = 時間単価 × 作業時間(時間)

1頭原価に目標利益を足すと、必要料金が見えます。値上げ幅は現在料金との差分です。
小型犬シャンプーカットで計算する
例として、現在料金4,500円の小型犬シャンプーカットを見ます。
- 薬剤費: 180円
- 消耗品費: 120円
- 光熱費: 90円
- 作業時間: 60分
- 時間単価: 1,500円
- 現在料金: 4,500円
作業時間コスト = 1,500 × 1 = 1,500円
1頭原価 = 180 + 120 + 90 + 1,500 = 1,890円
1頭利益 = 4,500 - 1,890 = 2,610円
ここで、目標の1頭利益を2,900円にします。
必要料金 = 1,890 + 2,900 = 4,790円
4,790円ぴったりの料金表は使いにくいので、実務では4,800円に丸めます。
値上げ幅 = 4,800 - 4,500 = 300円
月80頭なら、1頭あたり300円の改善で月24,000円の利益増です。
この24,000円は派手な数字ではありません。ただ、タオル洗濯代、消耗品の上昇分、予約管理に使う時間を吸収するには十分意味があります。値上げは一発で大きく利益を変えるものではなく、薄くなった利益を戻す作業です。
+300円と+500円の分け方
値上げ幅を全メニュー同じにすると、納得感が崩れやすくなります。
基本メニューは+200〜300円で十分でも、もつれ、毛量、保定、シニア犬対応で15分伸びるメニューは、同じ幅では足りません。
時間単価1,500円で15分増えるなら、追加の時間コストは375円です。
追加15分の時間コスト = 1,500 × (15 ÷ 60) = 375円
ここに消耗品や予約枠の圧迫を入れると、+500円前後の追加料金には根拠があります。
| 対象 | 改定の考え方 |
|---|---|
| 小型犬の基本メニュー | +200〜300円でテスト |
| 毛量が多い犬 | 追加時間を見て+500円前後 |
| もつれ・毛玉対応 | 基本料金ではなく追加料金化 |
| 保定・シニア犬対応 | 予約枠を長く取るなら別料金も検討 |
| 大型犬・長毛犬 | 犬種名より実作業時間で再設計 |
お客さまに伝えるときも、「全体的に値上げします」より「作業時間やケア内容に応じて料金を見直します」の方が受け止められやすいです。
料金表は3層に分けると直しやすい
小さなサロンほど、料金表を細かくしすぎると運用が重くなります。まずは3層で考えると整理しやすいです。
| 層 | 役割 | 例 |
|---|---|---|
| 基本料金 | 通常の作業時間で終わる前提の価格 | 小型犬シャンプーカット4,800円 |
| 時間追加 | 毛量・もつれ・保定などで作業が伸びる分 | 15分ごと+500円 |
| 特別対応 | シニア犬、噛み癖、複数スタッフ対応など | 事前相談または別見積もり |
すべてを犬種表だけで決めようとすると、同じ犬種でも毛量や状態の差でズレます。
逆に「作業時間」を軸にすると、説明がしやすくなります。お客さまにも「犬種で高くしている」のではなく「必要なケア時間に合わせている」と伝えられます。
失敗しにくい改定手順
- 予約数が多い上位3メニューを選ぶ
- それぞれの1頭原価と1頭利益を出す
- 基本料金で上げるもの、追加料金に分けるものを決める
- +200円、+300円、+500円の3案で月利益を試算する
- 既存予約への適用ルールを先に決める
- 2〜4週間前に告知し、まず1〜2メニューから適用する
- 2週間後に予約数、再予約率、1頭利益を見直す
最初から完璧な料金表を作ろうとすると止まります。
まずは主力3メニューだけで十分です。そこで利益が薄いメニューが見えたら、次にオプション料金や犬種別の調整へ進みます。
告知文は短くていい
値上げの説明で長い文章を書きすぎると、かえって不安を強めます。
必要なのは、理由、開始日、対象メニューの3つです。
いつもご利用ありがとうございます。
薬剤・消耗品・光熱費の上昇と、施術品質を維持するため、
2026年○月○日より一部メニューの料金を改定いたします。
対象メニューと新料金は店頭・予約ページにてご案内します。
今後も一頭ずつ安全に、丁寧に対応してまいります。
常連向けには、予約時に一言添えるだけでも反応が変わります。
今回、基本料金は300円だけ調整します。
毛玉やもつれがある場合は、作業時間に応じて追加料金を分ける形にしました。
この言い方なら、単なる値上げではなく、作業量に合わせた料金整理だと伝わります。
既存予約への適用ルールを先に決める
トラブルになりやすいのは、価格そのものより「前に予約した分まで上がるのか」です。
迷ったら、次のルールが無難です。
- 告知前に入っている予約は旧料金
- 告知後の新規予約から新料金
- 回数券や前払いがある場合は期限まで旧条件
- 毛玉・もつれなど当日判明する追加料金は、事前に基準を見せる
このルールを先に決めておくと、スタッフがいる店でも説明がぶれません。
値上げ後に見る数字
値上げ後は、予約数だけで判断しないでください。
見るべき数字は3つです。
| 指標 | 見る理由 |
|---|---|
| 1頭利益 | 値上げで利益が戻ったか |
| 再予約率 | 常連が離れていないか |
| 追加料金件数 | 追加料金ルールが機能しているか |
予約数が少し下がっても、1頭利益が改善し、再予約率が大きく落ちていないなら、改定は失敗ではありません。
逆に、予約数は変わらなくても追加料金の説明で不満が増えているなら、料金表ではなく案内方法を直すべきです。
やりがちな失敗
薬剤費だけで判断する。 シャンプー剤が30円上がったから30円上げればいい、という話ではありません。時間、光熱費、タオル処理まで入れないと足りません。
全犬種一律で上げる。 小型犬、長毛犬、毛量の多い犬、シニア犬では作業時間が違います。一律改定より、基本料金と追加料金を分けた方が納得されやすいです。
予約数だけを見る。 値上げ後に予約が1〜2件減っても、1頭利益が改善して再予約率が維持できていれば、経営としては前進です。
告知を直前に出す。 予約済みのお客さまには不公平感が出ます。2〜4週間前に伝え、既存予約への適用ルールを先に決めてください。
今日やること
- 上位3メニューの現在料金を書き出す
- 薬剤費、消耗品費、光熱費、作業時間を入れて1頭原価を出す
- 目標1頭利益を決める
- +200円、+300円、+500円の月利益を比べる
- 基本料金で上げるものと追加料金に分けるものを決める
- 既存予約への適用ルールを決める
- 告知開始日と適用開始日を決める
まとめ
トリミングサロン料金の値上げ幅は、相場から先に決めるものではありません。
1頭原価を出し、目標利益との差分を見る。そこから+300円で足りるのか、時間が伸びるメニューだけ+500円にするのかを決めます。
常連が離れる不安を減らすには、金額そのものより、根拠のある料金表にすることが先です。
まずは小型犬シャンプーカット1つだけでいいので、今日の数字で計算してみてください。
関連ガイド: ネイルサロンの値上げと告知文 / まつ毛サロンの予約枠コスト / 値上げ告知のタイミング