ある日突然、店が回らなくなる
都内で定食屋を15年やっている店主の話だ。
月商は280万円。家賃、食材費、光熱費を引いても毎月20万円は残っていた。赤字じゃない。むしろ堅実にやれている方だった。
でも2025年の夏、ランチのパートさんが2人同時に辞めた。1人は親の介護、もう1人は近所のドラッグストアに移った。時給が100円高かったから。
求人を出した。時給1,200円から1,350円に上げた。1ヶ月、応募ゼロ。
1,450円にした。ようやく1人来たが、3週間で辞めた。
結局、ランチ営業をやめた。月商は200万円に落ちた。利益も消えた。
黒字だった店が、人がいないだけで赤字になった。
これは特別な話じゃない。いま、日本中の個人飲食店で起きていることだ。そして2027年、この流れが一気に加速する。
2027年問題とは?──3分でわかる「なぜヤバいのか」
団塊世代800万人が「働かなくなる」
「2027年問題」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
団塊世代(1947〜1949年生まれ)は約 800万人 いる。2025年にこの世代が全員75歳を超え、2027年にはこの世代の高齢化が完全に定着する。
75歳以上の後期高齢者は 約2,200万人。日本の人口の約5人に1人だ。
これが飲食店に何の関係があるのか?
労働力人口が「年間50万人」ペースで消えていく
団塊世代が後期高齢者に入るということは、その世代が労働市場から完全に退くということだ。
日本の労働力人口は2022年時点で約 6,900万人。これが毎年約 50万人ずつ 減っていく。2035年には約 6,210万人 になる。
つまり、10年後には今より 690万人 も働く人が減る。
飲食業界だけの問題じゃない。介護、物流、建設、小売——すべての業界が同じ少ないパイを奪い合う。
飲食業が「最も不利」な理由
なぜ飲食業が人の奪い合いで最も不利なのか。数字を見ればわかる。
| 指標 | 飲食業 | 全業種平均 |
|---|---|---|
| 非正社員の不足割合 | 65.3% | 29.1% |
| 3年以内離職率(大卒) | 51.4% | 34.9% |
| 3年以内離職率(高卒) | 62.6% | 38.4% |
人が足りない、採っても辞める、辞めたら次が来ない。この三重苦は、2027年以降さらに深刻になる。
他の業界がオフィスワーク、リモート可能、土日休みで人材を引きつける中、飲食店は立ち仕事、土日出勤、不規則なシフトという条件で戦わなければならない。
「黒字倒産」はもう始まっている
飲食店倒産、過去最多を連続更新
| 年 | 飲食店倒産件数 | 前年比 |
|---|---|---|
| 2023年 | 768件 | — |
| 2024年 | 894件 | +16.4% |
| 2025年 | 900件〜1,002件 | 過去最多 |
2025年の飲食店倒産は、調査機関によって 900件〜1,002件。いずれにしても、30年間で最多だ。
人手不足が直接の原因になっている
2025年、全業種の 「人手不足倒産」は427件で過去最多。その内訳を見ると——
- 求人難(人が採れない):105件
- 従業員退職(人が辞めた):88件
- 人件費高騰(人件費が払えない):92件
赤字で潰れるのではない。人がいないから潰れる。 これが2027年以降、さらに加速する。
個人飲食店が「今から」やるべき3つのこと
2027年問題は、大手チェーンより 個人店の方がダメージが大きい。大手は資金力で時給を上げ、自動化設備を入れ、外国人材を大量採用できる。
個人店にその余力はない。だからこそ、今のうちに少しずつ準備することが唯一の防衛策になる。
① 「人がいなくても回る」オペレーションを作る
省人化というと大げさに聞こえるが、要は 「人がやらなくてもいい作業を、人にやらせない」 ということだ。
初期投資が少ない省人化ツール
| ツール | 月額目安 | 何が減る? |
|---|---|---|
| セルフオーダー(QRコード) | 5,000〜15,000円 | ホールスタッフの注文対応 |
| キャッシュレス決済のみ | 決済手数料3.24% | レジ締め作業・釣り銭管理 |
| 食洗機(リース) | 15,000〜25,000円 | 皿洗い時間(1日1〜2時間) |
| 配膳ロボット(リース) | 30,000〜50,000円 | ホール往復の移動時間 |
まずはセルフオーダー+キャッシュレス化から始めるのが現実的だ。
ホールスタッフ3人で回していた店が、セルフオーダーを入れたら 2人で回るようになった。浮いた1人分の人件費で、残りの2人の時給を上げられる。
「うちの常連さんはスマホが苦手で…」という声もあるだろう。でも、2026年現在、70代のスマートフォン所有率は 約85%。注文画面の文字を大きくして、「わからなかったらスタッフに声をかけてくださいね」の一言を添えれば、大半の人は使える。
② 「今いるスタッフ」を絶対に辞めさせない
新しい人を1人採用するコストは、求人費5〜15万円+面接・研修の時間コスト。それより、今いるスタッフが辞めない環境を作る方が圧倒的に安い。
定着率を上げる施策
シフトの柔軟化
- 「週3日、ランチだけ」OK
- 「子供の行事で急に休む」を歓迎する姿勢
- 主婦(夫)・シニア層の「短時間だけ働きたい」に対応
まかないの「非課税」フル活用
- 2026年度から食事補助の非課税枠が 月3,500円→7,500円 に倍増
- 給与を7,500円上げるよりも、まかないで7,500円分出す方が 手取りが多い
- お店側も社会保険料の負担が減る(年間約40,500円の節約)
「辞めたくない理由」を作る
- 小さなことでいい。誕生日にケーキを出す。年末にちょっとしたボーナスを渡す
- 「この店で働いている理由」が時給だけだと、時給で他に持っていかれる
③ 「人材の選択肢」を広げる
2027年以降、日本人だけで人材を確保するのは物理的に厳しくなる。選択肢を増やすことが重要だ。
40代・50代を積極採用する
「飲食=若い人」という固定観念を捨てる。40代・50代は——
- 社会経験が豊富で、接客が安定している
- 子育てが一段落して「また働きたい」人が多い
- 長く定着する傾向がある
外国人材を視野に入れる
特定技能1号ビザを使えば、海外から調理・ホール業務の人材を雇える。コストは——
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| ビザ申請代行(行政書士) | 10〜20万円 |
| 登録支援機関への委託費 | 月2〜3万円/人 |
| 渡航費(お店負担の場合) | 10〜15万円 |
初期費用は30〜50万円かかるが、「人がいなくて営業できない」より遥かにマシだ。
ただし、日本語力や文化の違いには配慮が必要。「いらっしゃいませ」「少々お待ちください」から教える覚悟は必要だ。
シミュレーション:2027年、あなたの店はどうなるか
ケース:従業員4人の居酒屋(月商300万円)
何もしなかった場合
| 年 | 時給 | 月人件費 | 月利益 |
|---|---|---|---|
| 2026年 | 1,200円 | 96万円 | 25万円 |
| 2027年 | 1,350円 | 108万円 | 13万円 |
| 2028年 | 1,450円 | 116万円 | 5万円 |
時給を上げないと人が来ない。上げると利益が消える。2028年には実質赤字だ。
省人化+定着施策を実施した場合
| 年 | スタッフ数 | 月人件費 | 省人化コスト | 月利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2026年 | 4人 → 3人 | 86万円 | 3万円 | 32万円 |
| 2027年 | 3人 | 97万円 | 3万円 | 21万円 |
| 2028年 | 3人 | 104万円 | 3万円 | 14万円 |
セルフオーダー+食洗機で1人分を削減。残り3人の時給を上げても、利益は残る。
差額:2028年時点で月9万円、年間108万円の差。
「小さく始める」チェックリスト
2027年はまだ1年以上先だ。でも、省人化ツールの導入にも、外国人材の受け入れにも、数ヶ月の準備期間がいる。今日から動き始めれば、間に合う。
今週やること
- 「人がやっている作業」をすべて紙に書き出す
- その中で「人じゃなくてもできるもの」に丸をつける
- セルフオーダーの無料トライアルを1つ申し込んでみる
今月やること
- 既存スタッフに「辞めたくなる理由はある?」とさりげなく聞く
- まかないの非課税枠が変わることを税理士に確認する
- 食洗機のリース見積もりを1社取る
3ヶ月以内にやること
- セルフオーダーの導入を完了する
- シフトの柔軟化を具体的に決める(何曜日の何時にどういう人が欲しいか)
- 外国人材の受け入れを検討するかどうかを決める
まとめ:2027年は「準備した店」と「しなかった店」の分かれ道
2027年問題は、すべての飲食店に等しく降りかかる。
大手チェーンは資金力と規模で乗り切る。個人店が同じことをする必要はない。
小さい店には小さい店の戦い方がある。
- セルフオーダーで「人がいなくてもいい場面」を増やす
- まかない非課税枠を使って「辞めない理由」を作る
- 40代・50代・外国人材で「人材の母数」を広げる
どれも月数万円の投資で始められる。
大事なのは「知っていること」ではなく、**「動いたかどうか」**だ。