先に結論
- フード全体の原価率は30〜35%を目安に。メニューごとに「稼ぎ頭」と「集客装置」を分ける
- お通しと前菜は低原価。グラム管理で安定した利益源に
- 揚げ物は油代を入れ忘れると原価率が5%以上ズレる
- 〆メニューは最も原価率が低く、客単価を伸ばす最後のチャンス
「売上はそこそこあるのに、月末に残る利益が少ない」——居酒屋を経営していて、そう感じたことはありませんか?
2025年、飲食店の倒産は1,002件。過去30年で最多で、初めて1,000件を超えました(帝国データバンク調べ)。なかでも居酒屋を含む「酒場・ビヤホール」は2023年以降3年連続で100件超。倒産の88.4%が資本金1千万円未満の小規模店です。
食材費は上がり続けています。米はCPI前年比**+70.9%(いわゆる「令和の米騒動」)、鶏むね肉は過去11年で最高値圏、業務用食用油は2025年9月に最大25%の値上げ。飲食店の96.0%**が食材の値上がりに直面しているのに、実際に価格転嫁できているのは32.3%にすぎません。
でも、逆に言えばフードメニューの原価を1品ずつ把握するだけで、利益構造が変わるということでもあります。
居酒屋フードの原価をカテゴリ別に分解して、「どこで稼いで、どこは許容するか」を一緒に見ていきましょう。
居酒屋フードの原価が崩れるパターン
原価が崩れる店には、共通点があります。
1. 小鉢・前菜の量が「手加減」になっている 枝豆やポテトサラダ、冷奴。簡単なメニューほど盛り付けが雑になりがちです。「ちょっと多め」が1日50皿で積み上がると、月末には数万円の差になります。
2. 揚げ物の油代を計算に入れていない から揚げやフライドポテトの「食材原価」は出しているけど、油は?から揚げ1回の揚げ調理で、食材重量の10〜15%の油を吸収します。業務用食用油は2025年9月に日清オイリオが11〜25%値上げし、2026年1月にはJ-オイルミルズがさらに7〜11%値上げしています。油を無視すると原価率が5%以上ズレます。
3. 刺身の仕入れロスが見えていない 魚は歩留まりが50〜60%。仕入れた魚の半分近くが骨・頭・内臓です。1kg 2,000円で仕入れても、使える身は500〜600g。実質的なグラム単価は仕入れ値の倍近くになります。
4. 〆メニューがなく、客単価が伸びない ドリンクとフードで終わって、最後の一押しがない。焼きおにぎり1個300円を注文してもらうだけで、客単価が変わります。原価は30〜50円です。
メニュー別の原価率——「稼ぎ頭」と「集客装置」を分ける
居酒屋のフードメニューには、利益を稼ぐものとお客さんを呼ぶためのものがあります。ドリンクと同じ考え方です。全メニューで利益を取ろうとすると割高感が出るし、全部安くすると儲からない。大事なのはバランスです。
お通し —— 小さいけど確実な利益源
お通し代は300〜500円が一般的。原価は50〜100円で収まるので、原価率は15〜25%。
| 項目 | 原価(例) | お通し代 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 枝豆(冷凍80g) | 約35円 | 400円 | 9% |
| ポテトサラダ(80g) | 約60円 | 400円 | 15% |
| キャベツ塩昆布(60g) | 約40円 | 350円 | 11% |
| 煮物小鉢(80g) | 約80円 | 400円 | 20% |
1日50組として、月25日営業で計算すると:
お通し400円 × 50組 × 25日 = 月50万円
原価率15%なら利益は42.5万円
ただし、ここで大事なのは1人前の量を決めることです。「なんとなく盛る」だと80gが100gになり、原価率が25%上がります。
前菜・小鉢 —— 低原価で回転を作る
前菜は「最初に出て、すぐ食べ終わる」もの。回転が速く、原価率も低い。居酒屋の利益を下支えするカテゴリーです。
| メニュー | 食材原価(例) | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 枝豆(冷凍80g) | 35円 | 380〜450円 | 8〜9% |
| 冷奴(半丁+薬味) | 40〜50円 | 350〜400円 | 11〜14% |
| たこわさ(50g) | 80〜100円 | 450〜500円 | 18〜22% |
| きゅうり浅漬け(80g) | 30〜40円 | 350〜400円 | 8〜11% |
| もやしナムル(80g) | 25〜35円 | 300〜350円 | 8〜10% |
枝豆は居酒屋の利益メニューの代表格です。冷凍枝豆1kgで約400〜500円。80g使用で原価は35円前後。これが400円で売れるわけです。
揚げ物 —— 注文頻度が高い「準・稼ぎ頭」
から揚げ、フライドポテト、串カツ。居酒屋で最も注文される定番フードです。原価率はやや高めですが、出数が多いので利益「額」では大きく貢献します。
| メニュー | 食材原価 | 油・衣 | 合計原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|---|
| から揚げ5個(150g) | 140〜170円 | 25〜35円 | 165〜205円 | 490〜580円 | 30〜38% |
| フライドポテト(120g) | 40〜60円 | 15〜20円 | 55〜80円 | 350〜400円 | 15〜21% |
| エビフライ2本 | 150〜200円 | 20〜30円 | 170〜230円 | 550〜650円 | 28〜38% |
| 串カツ盛り5本 | 120〜160円 | 30〜40円 | 150〜200円 | 580〜680円 | 24〜31% |
ここで注意したいのが「油・衣」の列です。
鶏のから揚げで言うと、鶏もも肉150g(国産ブロイラーもも肉100gあたり約155円、2025年10月時点で過去最高値圏)の食材原価は140〜170円程度。ここに衣(片栗粉・小麦粉)10〜15円と、油の吸収分15〜20円が加わります。
から揚げ1皿の原価 = 鶏肉150g(約160円)+ 衣(約12円)+ 油吸収(約18円)+ 調味料(約10円)
= 約200円
販売価格550円の場合、原価率 = 200 ÷ 550 = 約36%
フライドポテトは原価率が低い優秀なメニューです。冷凍ポテト1kgで300〜500円。120g使用で原価は40〜60円。400円で販売すれば原価率15%前後。から揚げと組み合わせて「揚げ物盛り合わせ」にすると、全体の原価率を下げられます。
焼き物・鉄板 —— 肉のグラム管理が命
焼き鳥、ホルモン炒め、鶏ねぎま。肉を使うメニューは原価率が高めですが、居酒屋に「肉がない」のは厳しい。ここはグラム管理で守る領域です。
| メニュー | 食材原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 焼き鳥5本(もも・ねぎま等) | 120〜170円 | 500〜600円 | 22〜30% |
| 鶏皮ポン酢(100g) | 50〜70円 | 430〜500円 | 11〜16% |
| ホルモン炒め(120g) | 100〜150円 | 550〜650円 | 17〜25% |
| 豚バラ鉄板(120g) | 110〜150円 | 550〜650円 | 18〜25% |
焼き鳥は串打ちの手間がかかりますが、原価率は比較的低いカテゴリーです。もも肉1本あたりの肉量は25〜30g。仕込みでグラム数を固定すれば、原価のブレを防げます。
注意点:追加トッピングは必ず有料にすること。「チーズ追加無料」は原価を直撃します。チーズ30gで40〜50円。月500回追加されたら2万〜2.5万円のコストです。
刺身・海鮮 —— 原価は高いが「看板」
刺身は居酒屋の「顔」。原価率は40〜60%と高いですが、刺身がないと居酒屋に来ない層がいます。ここは利益を取る場所ではなく、お客さんを連れてくる場所です。
| メニュー | 食材原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 刺身3点盛り | 350〜500円 | 980〜1,200円 | 36〜45% |
| 刺身5点盛り | 550〜800円 | 1,480〜1,800円 | 37〜48% |
| たこ刺し(80g) | 200〜250円 | 550〜650円 | 35〜42% |
| サーモン刺し(80g) | 160〜220円 | 500〜600円 | 30〜40% |
刺身の原価が高い最大の理由は歩留まりです。
例:マグロ柵 1kg仕入れ = 3,000円
使える身 = 約600g(歩留まり60%)
実質単価 = 3,000円 ÷ 600g = 5円/g
刺身1人前80g = 5円 × 80g = 400円
歩留まりを考えると、仕入れ値が倍近くに跳ね上がります。さらに、売れ残りは翌日には出せない。ロスを含めた実質原価率は、帳簿上の原価率より5〜10%高くなることが珍しくありません。
刺身の原価を下げるコツは3つです。
- 仕入れは少量多頻度 — 大量仕入れで余らせるより、毎日必要な分だけ仕入れる
- 端材を別メニューに — 刺身の切れ端は「なめろう」「あら汁」「海鮮サラダ」に回す
- 盛り付け量を固定 — 1切れの厚みとグラム数を統一する(1切れ10〜12gなど)
〆メニュー —— 原価率最低、客単価の最後の上乗せ
〆メニューは居酒屋で最も原価率が低いカテゴリーです。米・麺が主体なので原価は安く、滞在の最後に追加注文が入ります。
| メニュー | 原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 焼きおにぎり(2個) | 30〜50円 | 350〜400円 | 8〜14% |
| だし茶漬け | 40〜60円 | 400〜450円 | 10〜14% |
| 焼きそば | 50〜80円 | 450〜500円 | 11〜17% |
| 卵かけご飯 | 40〜60円 | 350〜400円 | 11〜16% |
米の仕入れ価格は2024年6月の約2,561円/60kgから2025年6月には約5,072円/60kgへと、ほぼ2倍に上昇しています。それでも、焼きおにぎり1個に使う米は約60〜80g(炊飯前30〜40g)。コスト換算すると1個15〜25円程度で、飲食メニューの中では依然として圧倒的に低原価です。
〆メニューは1〜2種類あれば十分。あれこれ増やすより、「うちの〆はこれ」と決めて、食材のロスを減らす方が利益に直結します。
全体を見渡して「どこで稼ぐか」を決める
原価率を低い順に並べると、フードの利益戦略が見えてきます。
| カテゴリ | 原価率の目安 | 利益貢献 | 役割 |
|---|---|---|---|
| 前菜・小鉢 | 8〜22% | ★★★★★ | 稼ぎ頭 |
| 〆メニュー | 8〜17% | ★★★★★ | 客単価の上乗せ |
| お通し | 15〜25% | ★★★★☆ | 安定利益 |
| 揚げ物 | 15〜38% | ★★★★☆ | 出数で稼ぐ |
| 焼き物・鉄板 | 17〜30% | ★★★☆☆ | バランス |
| 刺身・海鮮 | 35〜60% | ★★☆☆☆ | 集客装置 |
ドリンクの利益構造と同じです。ビール(25〜35%)で迎えてサワー(7〜15%)で稼ぐように、刺身で引きつけて前菜・〆で利益を残す。個別メニューの原価率ではなく、テーブル全体の原価率で考えるのがコツです。
セット提案で全体の原価率を下げる
個別注文だと刺身ばかり頼まれて原価が上がる、という悩みはセット提案で解決できます。
例:2,980円コース
| メニュー | 原価 | 単品価格 |
|---|---|---|
| お通し | 60円 | 400円 |
| 枝豆 | 35円 | 400円 |
| から揚げ5個 | 200円 | 550円 |
| 刺身3点盛り | 400円 | 1,000円 |
| 焼きおにぎり2個 | 40円 | 380円 |
| 合計 | 735円 | 2,730円 |
コース原価率 = 735円 ÷ 2,980円 = 約25%
単品で頼まれると刺身だけで原価率40%超ですが、コースにすることで低原価メニューが混ざり、全体で25%に着地します。お客さんにとっても、単品合計2,730円分が2,980円で食べられるので「お得感」があります。
ドリンクセットで客単価を上げる
- フード2品 + 1ドリンクセット(100〜200円引き)
- 〆を追加で100円引き
ドリンクは原価率がフードより低い(20〜25%)ので、セットに組み込むほど全体の利益率が上がります。
基本の原価計算式
フード原価 = 食材原価 + 調味料 + 油(揚げ物の場合)+ 包材(テイクアウトの場合)
原価率(%) = フード原価 ÷ 税抜販売価格 × 100
よくある間違いは「食材原価」だけで計算してしまうこと。調味料は1品あたり5〜15円、油は揚げ物で15〜25円かかります。これを入れないと、実際の原価率が帳簿より3〜5%高くなります。
歩留まりが悪い食材(魚、野菜の外葉など)は、使える部分の重量で割り直すのを忘れずに。
仕入れ環境——2025〜2026年に知っておくべきこと
居酒屋フードに関わる主な値動きです。
| 食材・資材 | 動向 | 影響 |
|---|---|---|
| 米 | 前年比約2倍に高騰(2025年6月時点) | 〆メニュー・お茶漬けに影響。それでも1人前30円台 |
| 鶏肉(国産ブロイラー) | 100g約155円、過去11年で最高値圏 | から揚げ・焼き鳥の原価上昇 |
| 業務用食用油 | 2025/9に最大25%、2026/1にさらに7〜11%値上げ | 揚げ物全般に直撃 |
| ビール | 2025/4に大手4社5〜8%値上げ | FD比率(ドリンク側)に影響 |
| 酒税改正 | 2026/10にビール系飲料の税率統一 | ビールは税率下がり仕入れ若干減 |
四半期ごとに仕入れ価格を見直して、メニュー価格の調整が必要かどうか確認しましょう。「気づいたら原価率が5%上がっていた」は、よくある話です。
今すぐやること
今日やること:
- 主要フードメニュー10品の1品あたりの原価を計算する(油・調味料を含めて)
- お通し・小鉢の盛り付け量をgで決めて、紙に貼り出す
- 刺身の歩留まりを確認する(仕入れ量と使える量を量る)
今週中にやること:
- 揚げ物の油吸収量を実測する(揚げ前と揚げ後の重量差)
- 〆メニューがなければ1〜2品追加する
- セットメニュー・コースの原価率を計算する
- 追加トッピング(チーズ、卵など)の原価を出して、無料提供をやめる
参考資料
- 帝国データバンク「飲食店」の倒産動向(2025年) — 2025年の飲食店倒産1,002件、過去30年で最多
- 帝国データバンク「飲食店」の倒産動向(2025年上半期) — 酒場・ビヤホール105件、3年連続100件超
- 日清オイリオ 業務用食用油値上げ(2025年9月) — 業務用食用油11〜25%値上げ
- J-オイルミルズ 業務用油脂値上げ(2026年1月) — 業務用7〜11%値上げ
- 農林水産省 食品価格動向調査(食肉) — 鶏肉・牛肉の小売価格推移
関連ガイド:
フードメニューの原価、1品ずつ計算するのが大変ならKitchenCostで一度まとめてみてください。食材の仕入れ値を登録すれば、メニューごとの原価率が自動で出ます。