牛丼は安い。だからこそ難しい。
並盛400円台の店で、原材料を1杯ずつ計算してみると、利益が「数十円」しか残っていないことがあります。売上が月200万円あっても、手元に残るのは20〜30万円。人件費を引いたら赤字ギリギリ——そんな店は珍しくありません。
理由は単純で、牛肉の価格が高い。
牛丼の原価は、牛肉が55〜60%を占めます。玉ねぎもつゆもご飯も安い。原価のほとんどが「肉」です。だから肉の量が5g増えるだけで利益が削れるし、10g減らすと「肉が少ない」とクレームが来る。
牛丼専門店の原価管理は、肉のグラム管理に始まり、肉のグラム管理に終わります。
先に結論
- 牛丼の原価は**牛肉が55〜60%**を占める。肉のグラム管理が利益管理そのもの
- 並盛の肉量は80gが標準的。70gに減らすと客離れ、90gに増えると原価率が跳ね上がる
- つゆは寸胴単位で原価を出し、レードルで定量化する
- サイズ別価格は追加原価+利益で設計する。大盛の差額が安すぎると全体が赤字方向に
- セットメニュー(味噌汁・サラダ・卵)で客単価を上げるのが利益改善の王道
牛丼1杯の原価を分解する
例:牛丼並盛(税抜450円)
| 項目 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 牛バラ肉スライス | 80g | 104円 |
| 玉ねぎ | 40g | 12円 |
| つゆ(醤油・みりん・砂糖・だし) | 60ml | 18円 |
| ご飯 | 250g | 38円 |
| 紅しょうが | 5g | 3円 |
| 合計 | 175円 |
原価率:175 ÷ 450 = 38.9%
※ 牛バラ肉は100gあたり130円で計算(業務用冷凍の一般的な価格帯)。米は5kgあたり2,500円(炊飯後1合300gとして計算)。数字は目安です。
この38.9%という数字、飲食店の目安(30〜35%)からすると少し高めです。牛丼は業態として原価率が高い。だから回転率と客単価の両方で利益を作る必要があります。
サイズ別の原価と価格設計
牛丼チェーンでは「小・並・大・特盛」のサイズ展開が一般的です。ここの価格差の付け方で利益が変わります。
サイズごとの原価内訳
| サイズ | 肉 | ご飯 | つゆ・玉ねぎ | 合計原価 | 売価 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 小盛 | 60g = 78円 | 180g = 27円 | 25円 | 130円 | 380円 | 34.2% |
| 並盛 | 80g = 104円 | 250g = 38円 | 33円 | 175円 | 450円 | 38.9% |
| 大盛 | 110g = 143円 | 350g = 53円 | 38円 | 234円 | 580円 | 40.3% |
| 特盛 | 150g = 195円 | 350g = 53円 | 42円 | 290円 | 680円 | 42.6% |
大盛にするほど原価率が上がっていることに注目してください。
並盛→大盛で肉が30g・ご飯が100g増えて原価は59円増。でも売価の差は130円。一見、差額130円に対して原価59円だから利益が出ているように見えます。
問題は、大盛を選ぶ人が増えると全体の平均原価率が上がること。大盛比率が50%を超えると、店全体の原価率が40%に近づきます。
価格差の設計ルール
大盛の差額設計には2つの考え方があります。
パターンA:原価率を揃える
| サイズ | 原価 | 原価率35%の売価 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 小盛 | 130円 | 371円 → 380円 | — |
| 並盛 | 175円 | 500円 → 500円 | +120円 |
| 大盛 | 234円 | 669円 → 670円 | +170円 |
| 特盛 | 290円 | 829円 → 830円 | +160円 |
パターンB:差額を固定する(現実的)
| サイズ | 売価 | 差額 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 小盛 | 380円 | — | 34.2% |
| 並盛 | 450円 | +70円 | 38.9% |
| 大盛 | 580円 | +130円 | 40.3% |
| 特盛 | 680円 | +100円 | 42.6% |
パターンAは理想的ですが、売価が高くなりすぎると客足が減ります。実際にはパターンBで差額をやや大きめに設定しつつ、大盛比率が上がりすぎないようにバランスを取るのが現実的です。
差額の目安:追加原価の2倍以上を確保する。59円の原価増なら、差額は120円以上。
つゆの原価管理
牛丼のつゆは見落とされがちですが、ブレが大きいポイントです。
つゆの構成(寸胴1本分の例)
| 材料 | 量 | 原価 |
|---|---|---|
| 醤油 | 2L | 600円 |
| みりん | 1L | 500円 |
| 砂糖 | 300g | 80円 |
| 昆布だし | 0.5L | 200円 |
| 水 | 3L | — |
| 生姜 | 50g | 50円 |
| 合計 | 約6.5L | 1,430円 |
つゆは煮込むと水分が蒸発して約5Lに減ります。1杯あたり60ml使うとすると:
1本で約83杯分
1杯あたりのつゆ原価 = 1,430 ÷ 83 = 約17円
17円は小さく見えますが、問題はブレです。
つゆのブレが起きる3つの原因
1. スタッフによって盛り付けるつゆの量が違う
「多め」「少なめ」の感覚は人によって違います。60mlのはずが80ml入れるスタッフがいると、1杯あたり6円の原価増。1日100杯なら600円、月18,000円の差が出ます。
対策:レードルのサイズを固定する。 60mlのレードルで「すりきり1杯」と決める。
2. 煮込み時間が長すぎて味が変わる
つゆを煮込みすぎると水分が蒸発して量が減ります。味は濃くなるけれど、5Lが4Lに減ったら20%のロスです。
対策:煮込み時間をタイマーで管理する。 補充用のつゆを別に用意しておく。
3. 仕込みのたびに味が変わる
調味料の計量を「目分量」でやっていると、日によって味が変わります。味だけでなく原価もブレます。
対策:レシピカードを作成する。 醤油○ml、みりん○ml、と明記して、新人でも再現できるようにする。
肉80gの壁
牛丼の肉量は「80g」が一つのラインです。
肉量と原価の関係
| 肉量 | 原価 | 並盛450円での原価率 | 体感 |
|---|---|---|---|
| 60g | 78円(総原価149円) | 33.1% | 少なく感じる |
| 70g | 91円(総原価162円) | 36.0% | やや少ない |
| 80g | 104円(総原価175円) | 38.9% | 標準 |
| 90g | 117円(総原価188円) | 41.8% | やや多い |
| 100g | 130円(総原価201円) | 44.7% | 満足度高いが利益薄 |
80gから90gに増やすと、1杯あたり13円の原価増。1日100杯で月39,000円、年間47万円です。
逆に、80gを70gに減らすと年間47万円の原価削減——ただし「肉が少ない」という口コミが出るリスクがあります。
大手チェーンは肉量を60〜80gの間で設定し、つゆと玉ねぎでボリューム感を出しています。 個人店が同じことをするとクレームにつながるので、80gを下限にして、つゆの味と温度で満足度を上げるのが現実的です。
肉のグラムを安定させる方法
- ポーションスケール(計量器)を使う — 感覚盛りは必ずブレる
- 仕込み時に小分けする — 1食分ずつ計量して保存容器に分けておく
- 盛り付けトレーニング — 新人には最初の3日間、全杯計量させる
セット構成で利益を守る
牛丼単品の原価率は38%前後と高め。これを下げるにはセットメニューが有効です。
セットメニューの原価と利益
| セット内容 | 追加原価 | セット価格(追加分) | 粗利 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| 味噌汁セット | 12円 | +100円 | 88円 | 12% |
| サラダセット | 25円 | +120円 | 95円 | 21% |
| 卵セット | 15円 | +60円 | 45円 | 25% |
| 味噌汁+サラダセット | 37円 | +180円 | 143円 | 21% |
| 味噌汁+卵+サラダ | 52円 | +230円 | 178円 | 23% |
味噌汁は原価12円で100円もらえる。原価率12%です。牛丼本体の39%に比べれば圧倒的に利益率が高い。
セット率を上げる工夫
- メニュー表でセットを目立たせる:単品価格の横にセット価格を並べると、差額が小さく見えて選ばれやすい
- 「おすすめ」のPOP:「味噌汁セット+100円」の一言だけでセット率が10%上がることもある
- 券売機の場合:セットボタンを単品の隣に配置する
仮にセット率が30%で、平均セット追加額が130円だとすると:
1日100杯 × 30% × 130円 = 3,900円/日
月間 = 3,900 × 25日 = 97,500円
追加原価 = 100杯 × 30% × 25円(平均) = 750円/日 → 18,750円/月
追加粗利 = 97,500 − 18,750 = 78,750円/月
セットだけで月に約8万円の粗利増。年間で約94万円。
牛肉仕入れの原価を下げる方法
仕入れ先の比較
| 仕入れ先 | 100gあたり | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 業務用冷凍(バラ薄切り) | 110〜140円 | 安定供給・価格安定 | 解凍の手間 |
| 精肉卸 | 130〜170円 | 品質が良い | 価格変動あり |
| スーパー(業務スーパー等) | 120〜160円 | 少量購入可 | 安定供給の保証なし |
| 海外産冷凍(米国・豪州) | 90〜120円 | 最安 | 品質にバラつき |
大手チェーンはアメリカ産やオーストラリア産の冷凍ショートプレートを大量仕入れして、100gあたり80〜100円で調達しています。個人店がこの価格で仕入れるのは難しいですが、業務用冷凍を箱買いすれば100gあたり110〜130円程度まで下げられます。
仕入れコスト削減のポイント
- 週1回まとめ買い:毎日の仕入れは配送コストがかかる
- 冷凍在庫を持つ:価格が安い時に多めに買い、冷凍ストックする
- 部位を変える:バラ薄切りが高騰した時は肩ロース薄切りに切り替える(味は変わるが原価は下がる)
- 業務用ECサイトの活用:業務スーパーより安い場合がある
月次の利益シミュレーション
前提
- 営業日数:25日
- 1日の平均杯数:100杯
- 平均客単価:520円(セット含む)
月間売上 = 100杯 × 520円 × 25日 = 1,300,000円
原価率38%の場合:
原価 = 494,000円
粗利 = 806,000円
原価率43%の場合(肉ブレ・大盛多い・セット率低い):
原価 = 559,000円
粗利 = 741,000円
差額 = 65,000円/月 = 年間780,000円
原価率5ポイントの差が、年間78万円の利益差になります。
今週やること
- 肉のグラムを決めて、ポーションスケールで計量する仕組みを作る
- つゆのレシピカードを作成し、レードルで定量化する
- 小・並・大・特盛の価格差を、追加原価の2倍以上になっているか確認する
- セットメニューの構成と価格を見直し、メニュー表で目立たせる
- 牛肉の仕入れ先を2〜3社比較して、100gあたり単価を把握する
- 1杯あたりの原価をすべて書き出して、合計を出す
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