先に結論
- 海鮮居酒屋のフード原価率は35〜40%になりやすい。刺身(40〜60%)を焼き物・揚げ物で補う設計が必須
- 魚の歩留まりは35〜55%。仕入れ値の2〜3倍が刺身の実質グラム単価
- 2025年、サーモンは前年比+32〜57%、ブリは+30%、スルメイカは原料3倍——仕入れ環境は過去最悪レベル
- 端材活用(なめろう、アラ汁、漬け)でロスを利益に変える
刺身が売りの居酒屋なのに、月末に残る利益が思ったより少ない——そんな経験はありませんか?
2025年、飲食店の倒産は900件を超えて過去最多を更新しました(帝国データバンク調べ)。なかでも居酒屋を含む「酒場・ビヤホール」は204件で業態別トップ。倒産原因の約1割が「物価高」に直結しています。
海鮮居酒屋にとって特に厳しいのは、魚の仕入れ値がほぼ全面的に上がっていること。サーモンは前年比+57%、ブリは+30%、スルメイカに至っては原料が3倍に跳ね上がった加工業者もあります。「いい魚を出したい」という気持ちと「利益を残す」の両立が、かつてないほど難しくなっています。
でも、逆に言えば原価を1品ずつ把握するだけで、どこで利益を取るか見えてくるということです。海鮮居酒屋の原価をカテゴリ別に分解して、「刺身で集客、焼き物と揚げ物で稼ぐ」設計を一緒に考えていきましょう。
海鮮居酒屋の原価が崩れるパターン
原価が崩れる海鮮居酒屋には、共通点があります。
1. 歩留まりを計算に入れていない
これが一番多い落とし穴です。魚は骨・頭・内臓があるので、仕入れた重量の半分近くが使えません。
たとえばブリを1kg 1,000円で仕入れた場合。歩留まり40%とすると、刺身にできるのは400g。実質グラム単価は2.5円/g(仕入れ値の2.5倍)になります。「安く仕入れた」と思っても、実際の原価は見た目より高い。
2. 仕入れ値の変動を放置している
魚の相場は週単位で動きます。特に2025年は変動が激しく、豊洲市場のサーモン(冷凍銀鮭)は5月に1,439円/kgと過去5年で最高値を記録。チリ産輸入サーモンも700円/kgから1,100円/kgへと57%上昇しました。
仕入れ値が上がっているのにメニュー価格がそのままだと、原価率は気づかないうちに5〜10%上がります。
3. 刺身に頼りすぎている
刺身の原価率は40〜60%。居酒屋の「顔」ではありますが、刺身だけで利益は出ません。焼き物や揚げ物が弱いと、テーブル全体の原価率が上がってしまいます。
4. 売れ残りのロスが見えていない
刺身は翌日に持ち越しにくい。売れ残りのロスを含めると、帳簿上の原価率より5〜10%高くなることは珍しくありません。仕入れ量の精度がそのまま利益に直結します。
魚の歩留まり——仕入れ値と「使える量」のギャップ
海鮮居酒屋の原価管理で最も重要なのが歩留まりです。東京都中央卸売市場は1931年から歩留まり調査を続けており、このデータが業界の基準になっています。
主な魚種の歩留まり(丸魚→刺身可食部):
| 魚種 | 歩留まり | 1kg仕入れ時の可食部 | 実質グラム単価の倍率 |
|---|---|---|---|
| マグロ(生) | 約45% | 450g | 約2.2倍 |
| サーモン | 45〜55% | 450〜550g | 約1.8〜2.2倍 |
| ブリ/ハマチ | 35〜45% | 350〜450g | 約2.2〜2.9倍 |
| 真鯛 | 25〜30% | 250〜300g | 約3.3〜4.0倍 |
| アジ | 30〜35% | 300〜350g | 約2.9〜3.3倍 |
| イカ(スルメイカ) | 約35% | 350g | 約2.9倍 |
| タコ | 約50%(ボイル済冷凍は約80%) | 500g | 約2.0倍 |
ここから分かるのは、仕入れ値だけ見ても原価は分からないということです。
例:ブリ 1kg = 1,000円で仕入れ
歩留まり40% → 使える身は400g
実質グラム単価 = 1,000円 ÷ 400g = 2.5円/g
刺身1人前80g = 2.5円 × 80g = 200円
販売価格700円 → 原価率 = 200 ÷ 700 = 約29%
歩留まりが高い魚(サーモン、マグロ)と低い魚(真鯛、アジ)では、同じ仕入れ値でも原価率がまったく違います。この差を理解しておくだけで、盛り合わせの構成や仕入れの判断が変わります。
2025〜2026年の仕入れ環境——魚はほぼ全面高
海鮮居酒屋にとって、いま最も頭が痛いのが仕入れ値の上昇です。主要魚種の動向をまとめます。
| 魚種・品目 | 2025年の動向 | 影響 |
|---|---|---|
| サーモン(冷凍銀鮭) | 豊洲5月平均1,439円/kg、前年比+32%。輸入は+57% | 刺身定番ネタの原価直撃 |
| ブリ/ハマチ(養殖) | 900〜1,000円/kg、前年比+30% | 冬場の刺身メインが高コスト化 |
| スルメイカ | 国内漁獲量激減、原料コスト3倍の加工業者も | イカ刺し、一夜干しの原価急騰 |
| タコ | 過去10年で+60%。アフリカ産も供給不安定 | たこ刺し、たこわさの原価上昇 |
| マグロ(冷凍) | 2,500〜4,000円/kg。2026年初セリは史上最高5.1億円 | 看板メニューの維持コスト増 |
| 業務用食用油 | 2025/9に最大25%値上げ、2026/1にさらに7〜11% | 天ぷら・フライ全般 |
円安も輸入魚の仕入れ値を押し上げています。サーモン、タコ、エビなど輸入依存度が高い魚種ほど影響が大きい状況です。
カテゴリ別の原価率——「集客装置」と「稼ぎ頭」を分ける
海鮮居酒屋のメニューも、一般の居酒屋と同じく「集客するメニュー」と「利益を稼ぐメニュー」に分かれます。違いは、集客装置が刺身であること。そして、稼ぎ頭を海鮮系の焼き物・揚げ物で作れるところが海鮮居酒屋の強みです。
刺身・お造り —— 原価は高いが「看板」
刺身は海鮮居酒屋の存在意義。原価率40〜60%と高いですが、これがないと始まりません。
| メニュー | 食材原価(例) | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| 刺身3点盛り | 350〜500円 | 980〜1,200円 | 36〜45% |
| 刺身5点盛り | 550〜800円 | 1,480〜1,800円 | 37〜48% |
| サーモン刺し(80g) | 180〜250円 | 550〜680円 | 30〜42% |
| ブリ刺し(80g) | 170〜230円 | 550〜680円 | 28〜38% |
| たこ刺し(80g) | 200〜280円 | 600〜700円 | 33〜42% |
盛り合わせはネタの組み合わせで原価率をコントロールできるのが強みです。高い魚ばかり盛らず、歩留まりの良いサーモンや、下処理済み冷凍タコなど低コストなネタを混ぜることで、見栄えを保ちつつ原価を抑えられます。
刺身5点盛りの原価設計例:
マグロ 30g × 5.0円/g = 150円(高原価)
サーモン 30g × 3.2円/g = 96円(中原価)
ブリ 30g × 2.5円/g = 75円(中原価)
イカ 25g × 2.0円/g = 50円(低原価)
甘エビ 3尾 = 90円(中原価)
ツマ・大葉・わさび = 30円
合計 = 491円
販売価格 1,480円 → 原価率 33%
このように、1ネタずつのグラム単価を出して組み合わせると、原価率を自分でコントロールできます。
焼き物 —— 海鮮居酒屋の「稼ぎ頭」候補
焼き物は火入れで付加価値がつくので、刺身より原価率を下げられます。海鮮居酒屋ならではの焼き物は、他店との差別化にもなります。
| メニュー | 食材原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| ホッケ開き(1枚) | 150〜200円 | 680〜800円 | 20〜28% |
| イカの一夜干し | 120〜180円 | 580〜700円 | 18〜28% |
| サバの塩焼き(半身) | 100〜150円 | 550〜650円 | 17〜25% |
| エビのガーリック焼き | 150〜200円 | 680〜780円 | 20〜28% |
| 貝の浜焼き(ハマグリ2個) | 180〜250円 | 700〜850円 | 24〜31% |
焼き物は刺身と違い、仕入れた魚をそのまま使えるケースが多い。ホッケやサバは開きや半身で仕入れれば歩留まりの心配がほぼなく、原価が安定します。
揚げ物 —— 出数が多い「準・稼ぎ頭」
海鮮居酒屋の揚げ物は、エビフライやイカの天ぷらなど海鮮系と、定番のから揚げやポテトの組み合わせ。出数が多いカテゴリなので、利益「額」で大きく貢献します。
| メニュー | 食材+油原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|
| エビフライ2本 | 170〜230円 | 600〜700円 | 26〜35% |
| イカの天ぷら | 100〜150円 | 500〜600円 | 18〜27% |
| 白身魚のフライ | 120〜170円 | 550〜650円 | 20〜28% |
| アジフライ(2枚) | 100〜140円 | 500〜580円 | 18〜26% |
| フライドポテト | 55〜80円 | 380〜450円 | 13〜20% |
揚げ物は油のコストを忘れずに。業務用食用油は2025年9月に最大25%値上げ、2026年1月にさらに7〜11%上がっています。1品あたり15〜25円の油代を原価に含めてください。
端材活用メニュー —— ロスを利益に変える
海鮮居酒屋の最大の武器は、刺身の端材を別メニューにできること。捨てるはずの部位を売上に変えれば、実質的に刺身の原価率が下がります。
| メニュー | 使う部位 | 食材原価 | 販売価格 | 原価率 |
|---|---|---|---|---|
| なめろう | 刺身の切れ端 | 50〜100円 | 480〜580円 | 10〜20% |
| 海鮮サラダ | 刺身の端材+野菜 | 80〜130円 | 580〜700円 | 13〜20% |
| アラ汁 | 頭・骨・アラ | 30〜60円 | 350〜450円 | 8〜15% |
| 漬け丼(ランチ用) | 余った刺身を漬けに | 100〜160円 | 680〜880円 | 13〜20% |
| 魚の南蛮漬け | 小さい切り身・端材 | 80〜120円 | 480〜580円 | 15〜22% |
アラ汁は原価率10%前後で、温かい汁物はお客さんの満足度も高い。「刺身を仕入れたら、アラ汁が自動的にできる」と考えれば、仕入れ全体の収益性が上がります。
テーブル全体で原価率を見る
海鮮居酒屋の利益設計は、個別メニューの原価率ではなくテーブル全体の原価率で考えます。
| カテゴリ | 原価率の目安 | 役割 |
|---|---|---|
| 前菜・小鉢 | 8〜22% | 稼ぎ頭 |
| 端材活用メニュー | 8〜22% | ロス削減+利益 |
| 焼き物(魚) | 17〜31% | 稼ぎ頭 |
| 揚げ物 | 13〜35% | 出数で稼ぐ |
| 刺身・お造り | 36〜48% | 集客装置 |
| ドリンク | 15〜25% | 利益の柱 |
ドリンクの利益構造と同じです。ビール(原価率25〜35%)で迎えてサワー(7〜15%)で稼ぐように、刺身で引きつけて焼き物と端材メニューで利益を残す。
例:海鮮居酒屋の1テーブル原価シミュレーション
2名来店、客単価4,500円のケース:
| 注文 | 原価 | 売上 |
|---|---|---|
| 刺身5点盛り | 490円 | 1,480円 |
| ホッケ開き | 180円 | 750円 |
| アジフライ2枚 | 120円 | 540円 |
| 枝豆 | 35円 | 400円 |
| アラ汁×2 | 80円 | 700円 |
| 生ビール×2 | 300円 | 1,100円 |
| ハイボール×2 | 120円 | 900円 |
| サワー×2 | 100円 | 800円 |
| 合計 | 1,425円 | 6,670円 |
テーブル原価率 = 1,425 ÷ 6,670 = 約21%
刺身だけ見ると原価率33%ですが、焼き物・揚げ物・ドリンクを合わせるとテーブル全体で21%に着地します。
仕入れの工夫——相場変動に負けない運用
海鮮居酒屋の仕入れは「安く買う」だけでなく「変動に対応する」のが重要です。
1. 少量多頻度の仕入れ
刺身用の魚は鮮度が命。大量仕入れで安くしても、売れ残れば廃棄コストが上回ります。翌日に持ち越せない刺身は、毎日必要な分だけ仕入れるのが鉄則です。
2. 「本日のおすすめ」で価格調整
定番メニューの価格は変えにくいですが、「本日のおすすめ」なら相場に合わせた価格設定ができます。安い魚が入った日はおすすめで出し、高い日は別のネタに切り替える。
3. 冷凍品の活用
ボイルタコ(歩留まり約80%)、冷凍サーモン、むきエビなど、下処理済みの冷凍品は歩留まりが高く、廃棄リスクも低い。生魚と冷凍品を組み合わせて仕入れの安定性を確保します。
4. 端材を捨てない仕組み
頭・骨 → アラ汁、アラ煮 切れ端 → なめろう、海鮮サラダ 余り → 漬けにして翌日ランチ
この仕組みを作るだけで、仕入れた魚の利用率が大きく上がります。
今週やること
今日やること:
- 主要な刺身ネタ5種の歩留まり後グラム単価を計算する
- 刺身盛り合わせの構成と原価をネタ別に出す
- 焼き物メニューの原価率を確認する(油代込み)
今週中にやること:
- 端材活用メニューを1〜2品追加する(なめろう、アラ汁など)
- 仕入れ値を週次で記録する仕組みを作る(ノートでもアプリでも)
- 「本日のおすすめ」枠を設けて、仕入れ値に応じた価格調整をする
- 冷凍品と生魚の仕入れバランスを見直す
参考資料
- 帝国データバンク「飲食店」の倒産動向(2025年) — 2025年の飲食店倒産900件超、過去最多
- 帝国データバンク「飲食店」の倒産動向(2025年上半期) — 酒場・ビヤホール204件、業態別最多
- 東京都中央卸売市場 歩留調査 — 魚種別の歩留まりデータ
- 農林水産省 食品価格動向調査 — 食肉・水産物の小売価格推移
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