「ラーメン店をやりたい」──で、いくら必要か知っていますか?
「飲食店の開業って、だいたい1,000万くらいでしょ?」
この質問に対する正直な答えは、**「業態による」**です。
ゴーストキッチンなら300万円を切ることもある。カフェなら500万円台で始められるかもしれない。でも焼肉店を開こうと思ったら3,000万円でも足りないことがある。
同じ「飲食店」でも、業態が違えば必要な金額は5倍以上の開きがあります。
日本政策金融公庫の「2024年度新規開業実態調査」によると、飲食店の開業資金は平均985万円、中央値580万円。ただしこれは全業態の平均なので、「自分がやりたい業態ではいくらかかるのか」は別の話です。
この記事では、5つの業態──ゴーストキッチン、カフェ、ラーメン店、居酒屋、焼肉店──の初期費用を項目別に比較します。
「自分の予算で、どの業態なら現実的に始められるか」を判断する材料にしてください。
まず全体像──5業態の初期費用レンジ
いきなり細かい数字の前に、ざっくり全体像を掴みましょう。
| 業態 | 初期費用(設備のみ) | 運転資金込み推奨額 | 内装坪単価 |
|---|---|---|---|
| ゴーストキッチン | 100〜500万円 | 290万円〜 | ─ |
| カフェ(10坪) | 500〜800万円 | 800〜1,200万円 | 30〜60万円 |
| ラーメン店(10坪) | 800〜1,200万円 | 1,500〜2,500万円 | 50〜70万円 |
| 居酒屋(15〜20坪) | 800〜1,500万円 | 1,500〜2,000万円 | 70〜90万円 |
| 焼肉店(20〜25坪) | 1,340〜5,720万円 | 2,000〜5,000万円 | 80〜120万円 |
一番安いゴーストキッチンと一番高い焼肉店で、17倍の差があります。
「飲食店を開業する」という同じ夢でも、業態を決めた瞬間に必要な資金は決まる。だからこそ、業態選びと資金計画はセットで考える必要があります。
では、1つずつ見ていきましょう。
① ゴーストキッチン / テイクアウト専門店──290万円〜
実店舗を持たず、デリバリーだけで営業する形態です。コロナ以降に急増しましたが、2025年現在、淘汰もかなり進んでいます。
初期費用の内訳
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 60万円〜 | シェアキッチンなら大幅削減 |
| 厨房設備(中古) | 120万円〜 | 冷蔵庫、コンロ、フライヤーなど最小限 |
| 容器・消耗品 | 30万円 | テイクアウト容器、箸、袋など |
| 許認可・登記 | 10万円 | 飲食店営業許可、法人登記 |
| 広告・メニュー撮影 | 10〜40万円 | プラットフォーム掲載用の写真 |
| 運転資金(3ヶ月) | 60万円〜 | |
| 合計 | 290万円〜 | 最小構成の場合 |
落とし穴:プラットフォーム手数料が利益を食う
「初期費用が安い=儲かる」ではありません。Uber Eatsや出前館の手数料は売上の35〜38%。
ある試算では、月売上150万円のゴーストキッチンで手数料・食材費・家賃を引くと月7.5万円の赤字になるケースが報告されています。
向いている人:すでに飲食店を持っていてデリバリーを追加したい人、または飲食業の経験があって小さく検証したい人。未経験でいきなりゴーストキッチンから始めるのはリスクが高いです。
② カフェ(10坪・16席)──800〜1,200万円
5業態の中では、実店舗型で最もハードルが低い業態です。
初期費用の内訳
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 100〜200万円 | 家賃の6〜10ヶ月分(保証金+礼金+仲介) |
| 内装工事 | 300〜600万円 | 坪単価30〜60万円。居抜きなら大幅減 |
| 厨房設備 | 200〜350万円 | エスプレッソマシンだけで50〜150万円 |
| 什器・備品 | 30〜50万円 | テーブル、椅子、食器、レジ |
| 運転資金(6ヶ月) | 150〜300万円 | |
| 合計 | 800〜1,200万円 |
カフェ特有の注意点
エスプレッソマシンの費用がバカにならない。業務用の2グループ機は新品で100〜150万円、中古でも50〜80万円します。
逆に、カフェは内装をシンプルにできるのが強み。「コンクリート打ちっぱなし+木のテーブル」のような簡素な内装でも、カフェなら”おしゃれ”として成立します。ラーメン店や居酒屋では同じことはできません。
居抜きを使えば500〜600万円で開業した例もあります。
③ ラーメン店(10坪・12席)──1,500〜2,500万円
「小さい店だから安いだろう」と思いがちですが、実は設備費が重い業態です。
初期費用の内訳
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 150〜250万円 | 家賃の6〜10ヶ月分 |
| 内装・外装工事 | 500〜1,000万円 | 坪単価50〜70万円。スケルトンの場合 |
| 厨房設備 | 200〜500万円 | 寸胴鍋、製麺機、ガステーブル、冷蔵庫 |
| 什器・備品 | 50〜100万円 | カウンター椅子、食器、調理器具 |
| 運転資金(6ヶ月) | 600〜850万円 | 食材(スープの仕込みが重い)+光熱費+人件費 |
| 合計 | 1,500〜2,500万円 |
ラーメン店特有の注意点
運転資金が想像以上に重い。 スープの仕込みに大量の豚骨・鶏ガラ・野菜が必要で、食材費が月40万円以上かかることも。光熱費もガス代が高く、月8〜15万円は覚悟が必要です。
「人類みな麺類」の創業者は約1,500万円を準備して開業。別のオーナーは800万円でスケルトン物件から始めましたが、運転資金がほぼゼロで綱渡りだったと話しています。
ラーメン店で1年以内に閉店する店の多くは、味ではなく運転資金の枯渇が原因です。
④ 居酒屋(20坪・35席)──1,500〜2,000万円
面積が広い分、物件取得費と内装費が上がります。
初期費用の内訳
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 200〜400万円 | 保証金10ヶ月分が相場 |
| 内装工事 | 1,000〜1,800万円 | 坪単価70〜90万円。照明演出・和風テイストなど |
| 厨房設備 | 400〜600万円 | 多品目対応で設備数が多い |
| 什器・備品 | 40〜100万円 | 座敷の場合は追加費用 |
| 運転資金(6ヶ月) | 500〜630万円 | |
| 合計 | 1,500〜2,000万円 |
実際の開業者の数字
- ジビエ居酒屋(12坪):総額1,030万円。居抜き物件を活用し、月商400万円まで到達
- そば居酒屋:総額340万円。内装をDIYで70万円に抑え、極限までコストカット
- たこ焼きダイニング:総額910万円。居抜き譲渡費380万円が最大の支出
この3つの実例でわかるのは、居抜き物件+DIYで「相場の半額以下」が可能ということ。逆に言えば、スケルトンから始めると2,000万円では足りないこともあります。
⑤ 焼肉店(25坪・40席)──2,000〜5,000万円
全業態中で圧倒的に高コスト。理由はシンプルで、排煙設備にお金がかかるからです。
初期費用の内訳
| 項目 | 金額 | 備考 |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 300〜780万円 | 広い面積が必要で保証金も高額 |
| 内装工事 | 700〜2,800万円 | 坪単価80〜120万円。防煙・耐熱が必要 |
| 厨房設備 | 270〜1,300万円 | 業務用冷蔵庫、精肉用設備 |
| ロースター設備 | 〜400万円 | 無煙ロースター1台20万円 × 20席分 |
| ダクト工事 | 〜200万円 | 排煙ダクト1台10万円 × 20席分 |
| 什器・備品 | 30〜100万円 | 焼肉用食器、トング、網 |
| 運転資金(6ヶ月〜) | 500〜1,280万円 | 肉の仕入れ原価が高い |
| 合計 | 2,000〜5,000万円+ |
焼肉店特有の注意点
ダクト工事とロースターだけで600万円近くかかる。 これは他の業態にはない焼肉店特有のコストです。
さらに、排煙設備の都合で入れる物件が限られます。住宅地の1階では近隣トラブルになりやすく、商業ビルの上層階ではダクト工事が許可されないことも。物件選びの自由度が一番低い業態でもあります。
仕入れ面でも、牛肉の原価は他の食材より高い。原価率が40〜45%になるのが一般的で、客単価を高く設定できないと利益が残りません。
5業態を並べて比較する
ここまでの数字を一覧で整理します。
| ゴーストキッチン | カフェ | ラーメン店 | 居酒屋 | 焼肉店 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 推奨総額 | 290万円〜 | 800〜1,200万円 | 1,500〜2,500万円 | 1,500〜2,000万円 | 2,000〜5,000万円 |
| 内装坪単価 | ─ | 30〜60万円 | 50〜70万円 | 70〜90万円 | 80〜120万円 |
| 特有の高額設備 | なし | エスプレッソマシン | 寸胴鍋・製麺機 | 照明・和風内装 | ロースター・ダクト |
| 居抜きの効果 | ─ | ◎(50〜80%減) | ○(30〜50%減) | ◎(50〜80%減) | △(ダクトは流用困難) |
| 運転資金の重さ | 軽い | やや軽い | 重い | 普通 | 重い |
| 物件の選びやすさ | ◎ | ○ | ○ | ○ | △ |
見えてくること──
- 予算300万円以下で始めたいなら、実質ゴーストキッチン一択。ただし利益率に注意
- 予算500〜800万円なら、カフェの居抜き物件が現実的
- 予算1,000〜1,500万円なら、ラーメン店か居酒屋(いずれも居抜き前提)
- 予算2,000万円以上で初めて焼肉店が選択肢に入る
- 居抜き物件の活用で、ほとんどの業態で30〜80%のコスト削減が可能
- 運転資金を削って設備に回すのは最も危険な判断。閉店する店の大半はこのパターン
都心と地方で、どれくらい差が出るか
同じ業態でも、出店する場所で初期費用は大きく変わります。15坪の飲食店を想定した比較です。
| 項目 | 都心(家賃20万円) | 地方(家賃8万円) |
|---|---|---|
| 物件取得費 | 240万円 | 96万円 |
| 内装工事(60万円/坪) | 900万円 | 900万円(※工事費は変わりにくい) |
| 設備・備品 | 350万円 | 300万円 |
| 運転資金(6ヶ月) | 150万円 | 90万円 |
| 雑費 | 60万円 | 40万円 |
| 合計 | 1,700万円 | 1,426万円 |
差額は約274万円。地方のほうが安いのは主に物件取得費と運転資金の差です。内装工事費は場所による差が小さいのがポイント。
「地方なら安く開業できる」は半分正しく、半分は幻想です。
2025〜2026年のコスト上昇トレンド
開業を検討している人は、コストが上がり続けている事実を知っておくべきです。
食材価格の高騰
帝国データバンクの2025年調査によると、飲食店の94.6%が仕入れ価格の上昇に直面しています。全業種で最も高い割合です。
- 卵:卸売価格が2024年比で1.5〜2倍
- 米・野菜・食用油:持続的な値上がり
- 輸入食材(ワイン、チーズ、パスタ、オリーブオイル、冷凍肉):円安の影響で大幅上昇
建設・内装コストの上昇
鉄鋼・木材・セメントなどの建設資材も値上がりが続いています。さらに建設業界の人手不足で工期が延び、人件費も上がっている。
この記事に書いた坪単価は2024〜2025年のデータですが、2026年はさらに高くなっている可能性があります。見積もりは必ず複数社から取ってください。
初期費用を抑える3つの鉄則
鉄則① 居抜き物件を第一に探す
内装工事費が50〜80%削減できます。10坪のスケルトン物件で内装600〜800万円かかるところ、居抜きなら100〜300万円程度。
ただし前のテナントの設備が古い場合、修理費で結局高くつくこともあります。必ず設備の状態を確認してから契約してください。
鉄則② 設備は中古+リースを組み合わせる
冷蔵庫、製氷機、ガステーブルなどは中古で十分。新品の半額以下で揃えられます。
高額な設備(エスプレッソマシン、無煙ロースターなど)はリースも選択肢。初期費用を抑えて月々の支払いに分散できます。
鉄則③ 運転資金は絶対に削らない
「設備をちょっとグレードアップしたいから、運転資金を削ろう」──これは一番やってはいけないこと。
日本政策金融公庫のデータでは、開業後6ヶ月以上かかって軌道に乗った店舗が全体の約6割。半年間、売上が計画を下回り続けても生き残れるだけの現金が必要です。
設備は後から買い足せるが、運転資金が尽きたら店は終わり。
業態選びで失敗する人の3つのパターン
パターン① 「好き」だけで焼肉店を選ぶ
焼肉が好き→焼肉店をやりたい→でも3,000万円は用意できない→設備を妥協→排煙が不十分で近隣クレーム→……というパターン。
業態への情熱は大事ですが、資金力に合わない業態を選ぶと詰みます。まず予算を決めて、その範囲で現実的な業態を選ぶのが正しい順番です。
パターン② 運転資金を「売上でまかなう」前提にする
「開業してすぐ売上が立つから、運転資金は3ヶ月分で大丈夫」。この考えが一番危険です。
実際は、開業直後は認知度ゼロ。チラシやSNSで集客しても、常連客がつくまでに3〜6ヶ月かかるのが普通です。
パターン③ 都心の一等地にこだわる
家賃が月30万円の物件と月15万円の物件では、保証金だけで180万円の差(保証金12ヶ月分の場合)。さらに毎月の固定費が15万円違うので、年間180万円の差が出ます。
開業直後は客がまばらです。高い家賃を払える売上が立つまでの間、その固定費に耐えられるかを計算してください。
この記事のまとめ
- 飲食店の開業費用は業態によって5倍〜17倍の差がある
- ゴーストキッチンは290万円〜で始められるが、プラットフォーム手数料で利益が薄い
- カフェは実店舗型で最もハードルが低く、居抜きなら500〜600万円から
- ラーメン店は「小さい店=安い」ではない。運転資金が重い
- 居酒屋は居抜き+DIYで相場の半額以下にできた実例がある
- 焼肉店は排煙設備だけで600万円近くかかり、全業態中で最も高額
- 運転資金を削って設備に回すのは最悪の判断。6ヶ月分は必ず確保する
- 2025〜2026年は食材・建設コストともに上昇中。見積もりは早めに取る
今週やること──チェックリスト
- 自分の自己資金+借入可能額を正確に把握する
- 上の業態別表を見て、自分の予算で現実的な業態を絞る
- 居抜き物件の情報サイト(飲食店ドットコム、ぐるなびPRO、テナントショップ)に登録する
- 日本政策金融公庫の「創業計画書」テンプレートをダウンロードして、項目を埋めてみる
- 厨房設備の中古専門業者(テンポスバスターズなど)の価格をチェックする
- 運転資金6ヶ月分を確保できるか、資金計画を再計算する
開業費用の見積もりに欠かせないのが、メニューごとの原価計算です。食材を入力するだけで原価・原価率を自動計算できるKitchenCostなら、開業前の資金計画にも活用できます。「この業態で、このメニュー構成なら、月の食材費はいくらか」──その数字を事前に出せると、運転資金の見積もり精度が格段に上がります。