「売上はなんとかなる」──それが一番危ない
飲食店を開業するとき、内装や食材にはこだわるのに、売上と利益のシミュレーションをやらない人が意外と多い。
「うちのラーメンは美味しいから大丈夫」「立地がいいから客は来る」──こういう考えで開業した店の多くが、1年以内に閉店しています。
日本政策金融公庫の調査によると、開業後6ヶ月以上かかって軌道に乗った店舗が全体の約6割。つまり開業して半年は赤字が当たり前。その赤字に耐えられるだけの計画が、最初からあったかどうかが生死を分けます。
この記事では、ラーメン店・カフェ・居酒屋・焼肉店の4業態について、現実的な数字で売上と利益をシミュレーションします。
「自分の業態だと、月いくら売れば食えるのか」──その答えを、一緒に計算していきましょう。
売上シミュレーションの基本式
まず、飲食店の売上を決める公式はシンプルです。
月間売上 = 客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率 × 営業日数
たとえば客単価900円、12席、1日3回転、稼働率70%、月25日営業なら──
900 × 12 × 3 × 0.7 × 25 = 56.7万円
「思ったより少ない」と感じませんか? それが現実です。
ここで重要なのは、稼働率(満席率)をどう見積もるか。開業計画書で「稼働率100%」と書いてしまう人がいますが、平日のランチはともかく、ディナー帯で全席埋まる日は少ない。現実的な稼働率は──
| 時間帯 | 平日 | 週末・祝日 |
|---|---|---|
| ランチ | 60〜80% | 80〜100% |
| ディナー | 40〜60% | 70〜90% |
| 終日平均 | 50〜65% | 75〜90% |
計画段階では**平均60〜70%**で見積もるのが安全です。80%以上で計算するなら、それは「成功した場合」のシナリオだと認識してください。
業態別シミュレーション──4つの店を比較する
ここからが本題です。4つの業態について、それぞれ想定条件を決めて、月の売上と利益を試算します。
想定条件の一覧
| ラーメン店 | カフェ | 居酒屋 | 焼肉店 | |
|---|---|---|---|---|
| 坪数 | 10坪 | 12坪 | 20坪 | 25坪 |
| 席数 | 12席(カウンター中心) | 16席 | 35席 | 40席 |
| 客単価 | ¥950 | ¥850 | ¥3,500 | ¥4,500 |
| 回転数/日 | 3.5回転 | 2.5回転 | 1.5回転 | 1.8回転 |
| 稼働率 | 65% | 60% | 55% | 60% |
| 営業日数 | 26日 | 25日 | 26日 | 26日 |
| オペレーション | ワンオペ+パート1名 | ワンオペ+パート1名 | 店主+社員1+パート2 | 店主+社員2+パート2 |
※数字はすべて個人経営・郊外〜都市近郊を想定。都心一等地はもっと高くなります。
① ラーメン店(10坪・12席)
ラーメン店は回転率が高いぶん、客単価が低い。1人ひとりの支払いが小さいので、数をさばくことで利益を出すモデルです。
月間売上シミュレーション
950 × 12 × 3.5 × 0.65 × 26 = 約674,000円/月の基本売上
ただしラーメン店は昼と夜で回転率が違います。現実的に見積もると──
| 平日(18日) | 週末(8日) | 月合計 | |
|---|---|---|---|
| ランチ | 32食 × ¥950 × 18 | 45食 × ¥1,000 × 8 | ¥907,200 |
| ディナー | 18食 × ¥1,050 × 18 | 28食 × ¥1,100 × 8 | ¥586,400 |
| 合計 | ¥1,493,600 |
トッピングやビールで客単価が若干上がるので、月商150万円前後が現実的なラインです。
月間損益シミュレーション
| 項目 | 金額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 売上 | ¥1,500,000 | 100% |
| 変動費 | ||
| 食材原価 | ¥480,000 | 32% |
| 水道光熱費 | ¥90,000 | 6% |
| 消耗品・雑費 | ¥30,000 | 2% |
| 固定費 | ||
| 家賃 | ¥150,000 | 10% |
| パート人件費 | ¥160,000 | 11% |
| リース・設備償却 | ¥60,000 | 4% |
| 通信・保険等 | ¥30,000 | 2% |
| 借入返済 | ¥80,000 | 5% |
| 広告・販促 | ¥20,000 | 1% |
| 経費合計 | ¥1,100,000 | 73% |
| 店主の手取り | ¥400,000 | 27% |
ラーメン店の強みは家賃と人件費が低いこと。10坪なら家賃15万円程度に収まり、調理もワンオペに近い形で回せます。損益分岐点は約152万円。月商が150万円を切ると赤字に転落するので、余裕はあまりありません。
② カフェ(12坪・16席)
カフェは滞在時間が長いため回転率が低い。居心地の良さが売りなので回転を上げにくく、客単価も低めです。利益を出すのが実は一番難しい業態。
月間売上シミュレーション
| 平日(17日) | 週末(8日) | 月合計 | |
|---|---|---|---|
| モーニング〜ランチ | 20人 × ¥800 × 17 | 30人 × ¥900 × 8 | ¥488,000 |
| アフタヌーン | 12人 × ¥750 × 17 | 22人 × ¥850 × 8 | ¥302,600 |
| テイクアウト | 8杯 × ¥450 × 17 | 12杯 × ¥450 × 8 | ¥104,400 |
| 合計 | ¥895,000 |
焼き菓子やグッズの物販を加えて、月商90〜100万円が現実的です。
月間損益シミュレーション
| 項目 | 金額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 売上 | ¥950,000 | 100% |
| 変動費 | ||
| 食材・ドリンク原価 | ¥247,000 | 26% |
| 水道光熱費 | ¥57,000 | 6% |
| 消耗品(カップ等) | ¥28,000 | 3% |
| 固定費 | ||
| 家賃 | ¥130,000 | 14% |
| パート人件費 | ¥120,000 | 13% |
| リース・設備償却 | ¥45,000 | 5% |
| 通信・保険等 | ¥25,000 | 3% |
| 借入返済 | ¥70,000 | 7% |
| 広告・SNS運用 | ¥15,000 | 2% |
| 経費合計 | ¥737,000 | 78% |
| 店主の手取り | ¥213,000 | 22% |
カフェの手取り21万円──正直、会社員時代より少ない人も多いでしょう。損益分岐点は約140万円ですが、月商95万円でギリギリ黒字なのは、ワンオペに近い人件費の安さに支えられているから。社員を1人雇った瞬間に赤字です。
カフェで生き残るには、物販・テイクアウト・イベント貸しなど、席数に依存しない売上の柱が必要です。
③ 居酒屋(20坪・35席)
居酒屋は客単価が高く、ドリンクの粗利が大きいのが強み。ただし人件費が一気に上がります。
月間売上シミュレーション
| 平日(18日) | 週末(8日) | 月合計 | |
|---|---|---|---|
| ディナー(メイン) | 25人 × ¥3,300 × 18 | 40人 × ¥3,800 × 8 | ¥2,702,000 |
| ランチ(実施する場合) | 20人 × ¥900 × 12 | − | ¥216,000 |
| 合計 | ¥2,918,000 |
ランチ営業をする場合で月商290万円前後。ランチなしなら270万円程度です。
月間損益シミュレーション
| 項目 | 金額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 売上 | ¥2,900,000 | 100% |
| 変動費 | ||
| 食材原価 | ¥870,000 | 30% |
| ドリンク原価 | ¥203,000 | 7% |
| 水道光熱費 | ¥174,000 | 6% |
| 消耗品・雑費 | ¥58,000 | 2% |
| 固定費 | ||
| 家賃 | ¥250,000 | 9% |
| 社員人件費 | ¥250,000 | 9% |
| パート人件費 | ¥240,000 | 8% |
| リース・設備償却 | ¥80,000 | 3% |
| 通信・保険等 | ¥35,000 | 1% |
| 借入返済 | ¥120,000 | 4% |
| 広告・販促 | ¥40,000 | 1% |
| 経費合計 | ¥2,320,000 | 80% |
| 店主の手取り | ¥580,000 | 20% |
手取り58万円は4業態のなかで最高額ですが、損益分岐点は約250万円と高い。ここを割ると一気に赤字です。とくに人件費(社員+パート)で月49万円かかっているのが重い。
居酒屋の利益は「ドリンクの粗利」にかかっています。食材原価30%に対し、ドリンク原価は7%。ビールやハイボールの注文が減ると、利益構造が一気に崩れます。
④ 焼肉店(25坪・40席)
焼肉店は客単価が最も高い反面、原材料費と設備費も最大。肉の仕入れ価格に利益が左右されやすい業態です。
月間売上シミュレーション
| 平日(18日) | 週末(8日) | 月合計 | |
|---|---|---|---|
| ディナー | 28人 × ¥4,200 × 18 | 45人 × ¥5,000 × 8 | ¥3,917,600 |
| ランチ(実施する場合) | 22人 × ¥1,200 × 14 | − | ¥369,600 |
| 合計 | ¥4,287,200 |
ランチ込みで月商420〜430万円。焼肉はランチの焼肉定食が集客装置になり、ディナーへのリピートにつながる効果があります。
月間損益シミュレーション
| 項目 | 金額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 売上 | ¥4,250,000 | 100% |
| 変動費 | ||
| 食材原価(肉・野菜) | ¥1,530,000 | 36% |
| ドリンク原価 | ¥255,000 | 6% |
| 水道光熱費 | ¥255,000 | 6% |
| 消耗品・排煙管理 | ¥85,000 | 2% |
| 固定費 | ||
| 家賃 | ¥350,000 | 8% |
| 社員人件費 | ¥500,000 | 12% |
| パート人件費 | ¥280,000 | 7% |
| リース・設備償却 | ¥130,000 | 3% |
| 通信・保険等 | ¥40,000 | 1% |
| 借入返済 | ¥150,000 | 4% |
| 広告・販促 | ¥50,000 | 1% |
| 経費合計 | ¥3,625,000 | 85% |
| 店主の手取り | ¥625,000 | 15% |
月商425万円で手取り62.5万円。数字だけ見ると悪くないですが、損益分岐点は約306万円で、4業態のなかで最も高い。しかも肉の原価率36%は仕入れ値の変動をモロに受けます。
2025年は**牛肉の卸売価格が前年比+8〜12%**上昇しており、原価率が1%上がるだけで月4.25万円の利益が消えます。
4業態を並べて比較する
ここまでの数字を1つの表にまとめます。
| ラーメン店 | カフェ | 居酒屋 | 焼肉店 | |
|---|---|---|---|---|
| 月商 | ¥150万 | ¥95万 | ¥290万 | ¥425万 |
| 経費合計 | ¥110万 | ¥73.7万 | ¥232万 | ¥362.5万 |
| 店主手取り | ¥40万 | ¥21.3万 | ¥58万 | ¥62.5万 |
| 利益率 | 27% | 22% | 20% | 15% |
| 損益分岐点 | ¥152万 | ¥140万 | ¥250万 | ¥306万 |
| 損益分岐点比率 | 101% | 147% | 86% | 72% |
| 初期投資目安 | 500〜800万 | 400〜700万 | 800〜1,500万 | 1,200〜2,000万 |
| 黒字までの余裕 | △ | ✕ | ○ | ○ |
※損益分岐点比率=損益分岐点÷月商。100%に近いほど余裕がなく、低いほど安全。
見えてくること──
- カフェは利益率22%だが、絶対額が21万円。生活費を考えると「趣味の延長」になりかねない
- ラーメン店は損益分岐点比率101%。月商が1〜2%でも下がると赤字に突入する綱渡り
- 居酒屋と焼肉店は余裕があるように見えるが、人件費の固定費が重い。社員が1人辞めたら回らない
- 焼肉店は初期投資が最大。排煙設備・ダクト工事だけで200〜400万円かかる
開業1年目の月次キャッシュフロー──「底」はいつ来るか
開業直後は「オープン景気」で客が来ます。でもそれは長くて2〜3週間。そこからが本当の勝負です。
居酒屋20坪のケースで、開業1年目のキャッシュフローをシミュレーションします。
| 月 | 月商 | 経費 | 手取り | 累計損益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1月目 | ¥320万 | ¥250万 | +¥70万 | +¥70万 | オープン景気 |
| 2月目 | ¥200万 | ¥235万 | −¥35万 | +¥35万 | 客足急落 |
| 3月目 | ¥180万 | ¥230万 | −¥50万 | −¥15万 | 底(最も苦しい時期) |
| 4月目 | ¥210万 | ¥230万 | −¥20万 | −¥35万 | 少し回復 |
| 5月目 | ¥230万 | ¥232万 | −¥2万 | −¥37万 | ほぼトントン |
| 6月目 | ¥250万 | ¥232万 | +¥18万 | −¥19万 | 損益分岐点突破 |
| 7月目 | ¥260万 | ¥235万 | +¥25万 | +¥6万 | 累計黒字転換 |
| 8月目 | ¥240万 | ¥232万 | +¥8万 | +¥14万 | 夏場は居酒屋強い |
| 9月目 | ¥220万 | ¥230万 | −¥10万 | +¥4万 | 9月は閑散期 |
| 10月目 | ¥270万 | ¥235万 | +¥35万 | +¥39万 | 忘年会シーズン前 |
| 11月目 | ¥300万 | ¥240万 | +¥60万 | +¥99万 | 忘年会本格化 |
| 12月目 | ¥350万 | ¥250万 | +¥100万 | +¥199万 | 12月は最大の稼ぎ時 |
ポイント──
- 3月目が最も苦しい。オープン景気が完全に切れ、リピーターがまだ育っていない
- この「底」を乗り越えるために、最低6ヶ月分の運転資金(約140〜150万円)が必要
- 12月の忘年会シーズンで一気に取り返すパターンが多いが、1月の開業だとこの波に乗れるのは翌年
- つまり開業月によって1年目のキャッシュフローはまったく変わる
売上シミュレーションでよくある3つの間違い
間違い①:稼働率100%で計算する
「うちは15席だから、客単価3,000円で1日2回転なら、3,000×15×2=9万円/日」──この計算、全席が毎日埋まる前提です。
実際には2人テーブルに1人客、4人席に3人客が座ることも多く、座席の稼働率は平日50〜60%がリアル。それで再計算すると──
3,000 × 15 × 2 × 0.55 = 4.95万円/日 → 月130万円
9万円/日のつもりが約5万円/日。この差が、計画と現実のギャップを生みます。
間違い②:「自分の給料」を経費に入れていない
売上 − 経費 = 利益、と計算して「利益40万円!」と喜ぶ人がいますが、それは店主の人件費を入れ忘れている場合が多い。
個人経営の場合、店主の労働は経費に計上されません。でも実際は1日12〜14時間働いている。時給換算すると最低賃金を下回っていることも珍しくありません。
シミュレーション時には、店主の「あるべき給料」を固定費に入れて計算してください。月30万円なら30万円を固定費に足す。それでも黒字になるかが本当のテストです。
間違い③:季節変動を無視する
飲食店の売上は月によって大きくブレます。
| 月 | 傾向 | 目安 |
|---|---|---|
| 1月 | 正月明け、閑散 | −20〜30% |
| 2月 | 1年で最も客足が少ない | −25〜35% |
| 3月 | 歓送迎会 | +10〜20% |
| 4月 | 歓迎会 | +10〜15% |
| 5月 | GW後、閑散 | −10〜15% |
| 6月 | 梅雨、客足減 | −10〜20% |
| 7月 | 夏前回復 | ±0% |
| 8月 | お盆休み(地域差) | ±0〜−10% |
| 9月 | 残暑、閑散 | −10〜15% |
| 10月 | 回復基調 | +5〜10% |
| 11月 | 忘年会予約開始 | +15〜25% |
| 12月 | 忘年会ピーク | +30〜50% |
年間を通した平均月商で計算するのは危険。2月の売上が平均の65〜75%しかないなら、その月の固定費は払えるのか?──こういうワーストケースで検証してこそ、本物のシミュレーションです。
「現実的なシミュレーション」のつくり方
ここまで読んで「結構シビアだな」と感じた方、それが正しい反応です。
売上シミュレーションは3パターンつくるのが鉄則──
| パターン | 稼働率 | 用途 |
|---|---|---|
| 楽観 | 75〜80% | 「うまくいった場合」の上限確認 |
| 標準 | 60〜65% | 事業計画のメインシナリオ |
| 悲観 | 45〜50% | 最悪ケースでの資金枯渇時期確認 |
融資を受けるなら、金融機関は「標準」と「悲観」の間を見ます。楽観シナリオだけでは審査に通りません。
そして最も重要なのは、シミュレーションは「一度つくって終わり」ではないこと。開業後は毎月の実績と比較して、ズレがあれば修正する。この繰り返しが、赤字から黒字への最短ルートです。
この記事のまとめ
- 売上 = 客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率 × 営業日数。稼働率は60〜65%で計算する
- ラーメン店:利益率は高いが、損益分岐点が月商とほぼ同じ。薄氷の黒字
- カフェ:手取り20万円台が現実。物販やテイクアウトで席に依存しない売上が必要
- 居酒屋:ドリンクの粗利が命綱。人件費が重いので人の管理がそのまま利益に直結する
- 焼肉店:月商は大きいが初期投資と原価率も最大。肉の仕入れ値が利益を左右する
- 開業1年目は2〜3ヶ月目が最も苦しい。6ヶ月分の運転資金を確保してからスタートする
- シミュレーションは楽観・標準・悲観の3パターンをつくり、毎月実績と比較する
今週やること──チェックリスト
- 自分の業態で「客単価 × 席数 × 回転数 × 稼働率 × 営業日数」を3パターン(楽観・標準・悲観)計算する
- 固定費を全項目書き出す(家賃・人件費・リース・保険・借入返済──漏れなく)
- 損益分岐点 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)を計算して、「月いくら売れば赤字にならないか」を把握する
- 1年目の月次キャッシュフロー表をつくり、最も売上が落ちる月でも固定費を払えるか検証する
- 店主の「あるべき給料」を固定費に含めて再計算する
原価の計算を手作業でやるのは時間がかかります。KitchenCostなら、食材を入力するだけでメニューごとの原価・原価率を自動計算。損益分岐点の検証にも役立ちます。