「うちのカレー、通販でも売れるんじゃないか」
コロナ以降、そう考えて実際にネット販売を始めた飲食店は多い。そして、始めてから気づく。
「あれ、思ったより手元に残らない……」
店では1,200円で出しているカレーを、通販では1,500円に設定した。材料費は同じ360円。粗利1,140円——のはずだったのに、実際に手元に残ったのは400円ちょっと。
何が起きているかというと、送料・梱包資材・プラットフォームの手数料という「見えないコスト3兄弟」に利益を持っていかれているのだ。
店舗販売とネット通販、原価構造はまったく違う
まず、この違いを頭に入れておきたい。
| コスト項目 | 店舗販売 | ネット通販 |
|---|---|---|
| 材料費 | ◎ かかる | ◎ かかる |
| 梱包資材 | ×(皿に盛るだけ) | ◎ 容器・保冷剤・段ボール |
| 送料 | × | ◎ クール便は1,000〜1,800円 |
| プラットフォーム手数料 | ×(自分の店) | ◎ 3〜10% |
| 決済手数料 | △(キャッシュレスなら3%程度) | ◎ 3〜6.6% |
| 人件費(梱包・発送作業) | ×(提供は通常業務内) | ◎ 1件10〜20分 |
店では30%の原価率で利益が出るメニューでも、通販に載せると50〜65%のコスト率になる。 これが「思ったより残らない」の正体だ。
通販の原価計算、5つの要素を全部入れる
ネット通販で正しい原価を把握するには、次の5つをすべて合算する必要がある。
1. 材料費(店舗と同じ)
店で出しているメニューと同じ原価。ただし通販用に冷凍対応するなら追加工程が発生する。急速冷凍機がなければ業務用冷凍庫で対応するが、品質維持のためにバリア性の高い包装材が必要になることもある。
2. 梱包資材
通販で意外と馬鹿にならないのがこれ。
| 資材 | 1食あたりの目安 |
|---|---|
| 耐熱・耐冷容器 | 30〜80円 |
| 真空パック袋 | 15〜30円 |
| 保冷剤(冷凍対応) | 20〜40円 |
| 緩衝材(プチプチ等) | 10〜20円 |
| 段ボール(60サイズ) | 50〜100円 |
| ラベル・シール | 5〜15円 |
| 合計 | 130〜285円 |
1食あたり130〜285円。2食セットなら段ボール・保冷剤は共有できるので、1食あたりのコストは下がる。これがセット販売を推奨する理由のひとつだ。
3. 送料(クール便は高い)
ネット通販で食品を送る場合、常温OKな焼き菓子と冷凍カレーでは送料がまるで違う。
クール便(冷凍)の送料目安(2026年時点):
| サイズ | ヤマト運輸 | 佐川急便 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 60サイズ | 約1,260〜1,560円 | 約1,155〜1,485円 | 同一地域〜隣接地域 |
| 80サイズ | 約1,500〜1,800円 | 約1,375〜1,705円 | 同一地域〜隣接地域 |
| 100サイズ | 約1,850〜2,200円 | 約1,595〜1,925円 | 佐川は140サイズまで対応 |
※通常便+クール便追加料金(220〜660円)の合計。地域間差あり。
注意点:
- ヤマトのクール便は15kgまで、120サイズまで。佐川は30kgまで、140サイズまで
- 北海道・沖縄・離島への配送はさらに500〜1,000円程度割増
- 法人契約すると10〜30%割引になる。月50個以上発送するなら交渉の余地あり
常温便(焼き菓子など)の場合:
60サイズで800〜1,000円程度。クール便の約6〜7割の料金で済む。もし常温で送れる商品を持っているなら、通販向けとしてはそちらのほうが利益を出しやすい。
4. プラットフォーム手数料
自分のネットショップをゼロから作るのは大変なので、多くの個人飲食店はプラットフォームを利用する。主要3サービスの手数料構造はこうなっている。
| サービス | 月額費用 | 販売手数料 | 決済手数料 | 振込手数料 |
|---|---|---|---|---|
| メルカリShops | 0円 | 10% | 0円(手数料に含む) | 200円/回 |
| STORES(フリー) | 0円 | 0円 | 5% | 275円/回 |
| BASE(スタンダード) | 0円 | 0円 | 6.6%+40円/件 | 250円+振込事務手数料500円 |
| BASE(グロース) | 16,580円 | 0円 | 2.9% | 250円+振込事務手数料500円 |
1,500円の商品を1個売ったときの手数料:
- メルカリShops:150円(販売手数料10%)
- STORES:75円(決済手数料5%)
- BASE(スタンダード):139円(6.6%+40円)
- BASE(グロース):43.5円(2.9%)+月額16,580円の按分
月10個(月商1.5万円)程度ならSTORESかメルカリShopsが有利。月100個(月商15万円)を超えてくると、BASEグロースプランが手数料率で逆転する。
ただしメルカリShopsは「メルカリの2,300万人のユーザーに見つけてもらえる」という集客力がある。SNSのフォロワーが少ない段階では、手数料が高くても売上がゼロよりましだ。
5. 発送作業の人件費
見落とされがちだが、1件あたり10〜20分の作業時間がかかる。
- 注文確認・ラベル印刷:2〜3分
- 梱包(容器にセット、保冷剤、緩衝材、段ボール):5〜10分
- 集荷依頼 or コンビニ持ち込み:3〜5分
自分の時給を1,500円と仮定すると、1件あたり250〜500円の人件費。「自分でやるからタダ」ではない。その時間で仕込みをすれば、その分だけ店の売上に使えるのだから。
実際にシミュレーションしてみる
ケース:冷凍カレー2食セットを3,000円(送料込み)で販売
■ 売上:3,000円
■ コスト内訳
材料費(2食分) :720円(1食360円×2)
梱包資材(2食セット) :280円
クール便送料(60サイズ):1,260円
STORES手数料(5%) :150円
振込手数料(按分) :28円(月10件で按分)
発送作業(15分×1,500円):375円
■ コスト合計:2,813円
■ 手残り:187円
■ 実質コスト率:93.8%
3,000円の売上で手元に残るのは187円。 これは極端な例だが、「送料込み3,000円」で冷凍食品を売ると、こういう現実に直面する。
じゃあどうすれば利益が出るのか
■ 改善プラン
・3食セットにして3,800円(送料込み)
・梱包を3食で共有して資材費340円
・クール便は同じ60サイズに収まる
■ コスト内訳
材料費(3食分) :1,080円
梱包資材(3食セット) :340円
クール便送料(60サイズ):1,260円
STORES手数料(5%) :190円
振込手数料(按分) :28円
発送作業(15分) :375円
■ コスト合計:3,273円
■ 手残り:527円
■ 実質コスト率:86.1%
3食セットにして販売価格を上げるだけで、手残りが187円→527円と約3倍に。通販は「まとめ買い」の設計が利益の鍵になる。
もっと利益を出すなら:
- 送料を別途いただく(商品2,400円+送料1,260円=購入者負担3,660円)
- 常温で送れる商品にシフト(レトルトカレー、焼き菓子、乾物など)→送料が600〜800円で済む
- まとめ買い割引で客単価を上げる(5食セット、10食セットなど)
- 定期便にしてリピート率を上げる(発送作業のルーチン化でコスト削減)
「送料込み」と「送料別」、どっちが売れる?
通販の世界では「送料無料」に慣れた消費者が多い。ただし飲食店のオリジナル商品は、Amazonや楽天の日用品とは性質が違う。
| 方式 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 送料込み | 購入のハードルが下がる。「いくらで買える」がわかりやすい | 利益が薄くなる。地域による送料差を吸収する必要がある |
| 送料別 | 利益を確保しやすい。地域別に正確な送料を請求できる | 「高い」と感じて離脱される可能性がある |
| 一部負担 | バランスが取りやすい(例:送料一律500円) | 計算が複雑になる。実際の送料との差額を管理する必要がある |
おすすめは「商品価格に送料を一部上乗せ+送料一律500円」のハイブリッド方式。 たとえば実質送料1,260円のうち、760円を商品価格に含め、「送料一律500円」と表示する。購入者は「500円なら許容範囲」と感じやすい。
通販を始める前に必要な許可
ここを見落とすと、あとから大変なことになる。
飲食店営業許可だけではネット通販はできない。
店で出すのは「その場で食べる」前提。通販は「製造して出荷する」ので、食品の種類に応じた製造業の許可が別途必要になる。
| 販売する食品 | 必要な許可 | 申請先 |
|---|---|---|
| カレー・惣菜(冷凍・レトルト) | そうざい製造業 | 管轄の保健所 |
| パン・焼き菓子 | 菓子製造業 | 管轄の保健所 |
| ジャム・ソース | 缶詰又は瓶詰食品製造業 | 管轄の保健所 |
| 味噌・漬物 | みそ又はしょうゆ製造業等 | 管轄の保健所 |
費用の目安:
- 食品衛生責任者:約10,000円(すでに持っていれば不要)
- 営業許可申請手数料:15,000〜20,000円(地域による)
- 施設の改修費用:0〜数十万円(保健所の設備基準を満たす必要あり)
まずは保健所に相談する。 都道府県によって基準が異なるため、「こういう商品をネットで売りたいんですが」と事前に確認するのが確実だ。営業許可の種類を間違えると、やり直しで時間とお金がかかる。
食品表示ラベルも必須
通販で食品を売る場合、食品表示法に基づくラベルを貼る必要がある。
必ず記載すること:
- 名称(品名)
- 原材料名(使用量が多い順)
- アレルゲン(特定原材料8品目+推奨21品目)
- 内容量
- 賞味期限 or 消費期限
- 保存方法
- 製造者名・住所
アレルゲン表示を間違えると、リコールや健康被害に直結する。 ここだけは絶対に手を抜かないこと。不安なら保健所や食品表示のコンサルタントに確認しよう。
通販で利益を出すための5つのコツ
1. 常温で送れる商品を開発する
クール便と常温便の送料差は300〜600円。10個売れば3,000〜6,000円の差。月100個なら3〜6万円の利益差になる。
レトルトパウチ、乾物、焼き菓子、瓶詰めソース——店の味を「常温で送れる形」にできないか考えてみる価値はある。
2. セット販売を基本にする
送料は1個でも3個でもほぼ同じ。なら、1箱に入る最大数をセットにするのが合理的。
- 60サイズに3食入る → 3食セットを基本に
- 80サイズに5食入る → 5食セットでお得感を
3. リピート客を作る仕組みを用意する
新規顧客の獲得コスト(広告費、SNS運用の時間など)はリピート客の5倍以上かかると言われている。
- 同梱チラシに「次回使える10%OFFクーポン」を入れる
- LINEの友だち登録で再注文を促す
- 月1回の定期便プランを用意する
4. 発送日を週1〜2回にまとめる
毎日1〜2件ずつ発送するのは非効率。**「毎週月・木に発送」**と決めて、まとめて梱包・集荷する。
- 梱包作業がルーチン化する(1件あたりの時間が短くなる)
- 集荷を1回にまとめられる
- 営業日と仕込み日のスケジュールが組みやすくなる
5. 原価計算は「送料込み」で管理する
店舗の原価率(材料費÷売上)と同じ感覚で通販を管理すると、利益が出ているように見えて実は赤字——という罠にはまる。
通販の原価管理は必ず「材料費+梱包費+送料+手数料+作業人件費」の合計で行う。KitchenCostでレシピの原価を管理しているなら、通販用のレシピとして梱包・送料コストを「材料」に含めて登録すると、1セットあたりの本当のコストが一目でわかる。
今週やることチェックリスト
- 自分の店で「通販にできそうな商品」を3つリストアップする
- そのうち1つについて、材料費+梱包資材+送料+手数料を計算してみる
- 管轄の保健所に電話して、必要な許可を確認する
- BASE・STORES・メルカリShopsの3つに無料登録して、管理画面を触ってみる
- 「60サイズの段ボールに何食入るか」を実際に試してみる
- 送料込みの販売価格を設定し、手残りが500円/セット以上になるか確認する
- KitchenCostで通販用の原価シミュレーションを作る
出典・参考:
- 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」(2025年)
- ヤマト運輸「クール宅急便料金表」(2026年)
- 佐川急便「飛脚クール便料金表」(2026年)
- BASE「料金プラン比較」(2026年)
- STORES「料金プラン」(2026年)
- メルカリShops「出店ガイド」(2026年)
- 厚生労働省「食品等事業者の皆様へ(営業許可制度の見直し)」
- 消費者庁「食品表示基準」