毎年、2月になると売上が落ちる。
8月もそうだ。お盆が終わった後、ぽっかりと客席が空く。
わかっている。去年もそうだったし、その前の年もそうだった。「ニッパチ」──飲食店なら誰でも知っている言葉。2月と8月は売上が落ちる。
でも、わかっていても毎年苦しい。
売上は落ちるのに、家賃は同じ。人件費も同じ。光熱費もそこまで変わらない。売上だけが減って、固定費はそのまま。この2ヶ月で、年間の利益をかなり食いつぶしている──そんな実感がある人は多いのではないか。
閑散期に何が起きているか──数字で見る
「なんとなく厳しい」を、一度数字にしてみる。
月商200万円の定食屋の場合
| 項目 | 通常月 | 閑散期(2月) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 200万円 | 165万円(▲17.5%) | ▲35万円 |
| 食材費(原価率30%) | 60万円 | 49.5万円 | ▲10.5万円 |
| 人件費(固定) | 50万円 | 50万円 | 変わらない |
| 家賃 | 30万円 | 30万円 | 変わらない |
| 水道光熱費 | 12万円 | 11万円 | ▲1万円 |
| その他経費 | 15万円 | 14万円 | ▲1万円 |
| 利益 | 33万円 | 10.5万円 | ▲22.5万円 |
売上が35万円減ると、利益は22.5万円減る。売上の減少額より利益の減少額の方が体感として大きいのは、固定費が変わらないからだ。
2月は日数も28日しかない。営業日数が1〜2日少ないだけで、月商は5〜8万円変わる。
2月と8月、2ヶ月の利益減少を合算すると約45万円。 年間利益400万円の店なら、この2ヶ月だけで年間利益の11%が消える計算になる。
「売上を上げる」より「黒字ラインを下げる」
閑散期になると、つい「売上を上げなきゃ」と焦る。割引クーポンを配る。ランチの値段を下げる。SNSで必死に告知する。
気持ちはわかる。でも、閑散期に売上を無理に上げようとする施策には、リスクがある。
| やりがちな対策 | 短期の効果 | 長期のリスク |
|---|---|---|
| ランチ値下げ(800円→500円) | 客数は少し増える | 原価率が悪化、値段を戻しにくい |
| クーポン大量配布 | 一時的に客が増える | 「安い店」のイメージが定着 |
| 新メニュー大量投入 | 話題にはなる | 仕込みと食材の負担が増える |
閑散期に本当に効くのは、「売上が減っても赤字にならないライン」を下げること。 つまり、損益分岐点を下げる。
損益分岐点を下げるには、2つの方向がある。
- 固定費を減らす ──できることは限られるが、ゼロではない
- 変動費率を下げる ──原価管理で利益率を上げる
両方やるのが一番効く。
固定費──「動かせない」と思い込んでいないか
家賃
家賃は基本的に変わらない。でも、交渉の余地はある。
- 契約更新のタイミングで、近隣の相場と比較して減額交渉する
- **長期入居(5年以上)**の場合、「退去されるより減額した方がいい」と大家側も考える
- 月5,000円でも下がれば、年間6万円の利益改善
「家賃交渉なんて」と思うかもしれない。でも、家賃が1万円下がれば、毎月の損益分岐点が1万円下がる。 閑散期にはこの1万円が生死を分けることがある。
人件費
正社員の給料は下げられない。でも、アルバイトのシフトは調整できる。
| 対策 | 効果の目安 |
|---|---|
| 閑散期のシフトを1日あたり1時間短縮 | 時給1,200円×1h×25日=月3万円削減 |
| ピーク時間帯に集中させる(ダラダラシフトをやめる) | 月2〜4万円の改善 |
| 営業時間の短縮(閑散期だけランチ or ディナーのみ) | 状況による |
大事なのは「人を切る」ではなく「稼働を最適化する」。 暇な時間にスタッフが2人いるなら、1人でまわる仕組みを考える。
原価管理──閑散期こそ利益率が物を言う
売上が減るということは、1食あたりの利益が、そのまま月末の利益に直結するということ。
メニューのABC分析で「閑散期メニュー」を作る
すべてのメニューが同じ利益を生んでいるわけではない。
| 分類 | 特徴 | 閑散期の扱い |
|---|---|---|
| A群(売れ筋&高利益) | 出数が多く、利益率も高い | そのまま維持。閑散期のエース |
| B群(そこそこ) | 出数は普通、利益率もまあまあ | 状況次第で維持か一時休止 |
| C群(出数少ない) | ほとんど出ない、食材が専用 | 閑散期は休止候補 |
C群のメニューを一時的に休止するだけで、こんな効果がある。
- 仕入れる食材の種類が減る → 在庫がスッキリする
- 使い切れない食材が減る → 廃棄ロスが減る
- 仕込みの手間が減る → 人件費の削減になる
「メニューを減らしたらお客さんが来なくなるのでは」と不安になるかもしれない。でも、C群は「ほとんど出ないメニュー」だ。なくなっても、多くのお客さんは気づかない。
原価率の低いメニューに誘導する
閑散期は、「何が売れるか」ではなく「何を売りたいか」をコントロールする意識が大事。
| メニュー | 売価 | 原価率 | 粗利 |
|---|---|---|---|
| 刺身盛り合わせ | 1,200円 | 45% | 660円 |
| 鶏の唐揚げ定食 | 900円 | 28% | 648円 |
| 豚の生姜焼き定食 | 850円 | 25% | 637円 |
刺身盛りは売価が高いが、原価率も高い。唐揚げや生姜焼きは売価が低くても、粗利(利益額)はほぼ同じ。 しかも原価率は20ポイント近く低い。
閑散期には、こういう「原価率が低く、利益額が高い」メニューを:
- メニュー表の一番目立つ位置に置く
- 日替わりランチのメインに据える
- 店頭のPOPで推す
お客さんに「食べたい」と思ってもらいつつ、利益が出るメニューに自然に誘導する。
食材の仕入れを閑散期モードに切り替える
客数が減るなら、仕入れも減らす。当たり前に聞こえるが、意外とできていない店が多い。
発注の「慣性」に注意する
繁忙期の仕入れ量をそのまま閑散期に引きずる──これが廃棄ロスの最大の原因。
| ありがちなパターン | 何が起きるか |
|---|---|
| 12月の発注量のまま2月を迎える | 食材が余って廃棄 |
| 「安いから」と大量仕入れ | 使い切れずにロス |
| 仕入れ先に連絡せず、いつもの量が届く | 冷蔵庫がパンパン |
閑散期に入る1〜2週間前に、仕入れ先に「来月は◯%くらい量を減らしたい」と伝えておく。 最低発注量がある場合は、品目を絞って対応する。
旬の食材で原価を下げる
2月なら大根、白菜、ほうれん草、ブリ。8月ならナス、トマト、枝豆、アジ。
旬の食材は安くて美味しい。閑散期こそ旬の食材を中心にメニューを組むことで、食材費を自然に下げながら「季節感」という付加価値もつけられる。
閑散期を「繁忙期の準備期間」に変える
売上が落ちる時期は、忙しいときにできないことをやるチャンスでもある。
| やること | 効果 |
|---|---|
| メニューの原価を全品再計算する | 食材価格の変動を反映し、利益率を正確に把握 |
| レシピの分量を整理・記録する | 属人化を防ぎ、仕込みの標準化が進む |
| 仕入れ先の見直し・相見積もり | 繁忙期に向けてコストを下げる交渉材料になる |
| 厨房の大掃除・設備点検 | 故障を事前に発見し、繁忙期の緊急修理を防ぐ |
| スタッフの教育・新メニューの試作 | 繁忙期の質とスピードが上がる |
特に「メニュー原価の再計算」は、閑散期にこそやるべき作業。 食材価格は半年で5〜10%動いていることも珍しくない。去年の原価のまま値段をつけていると、気づかないうちに利益率が下がっている。
閑散期に「やってはいけない」3つのこと
① 安易な値下げ
前述の通り、値下げは利益率を壊す。値下げで来たお客さんは、値段を戻せば来なくなる。
② 新メニューの大量投入
「メニューを増やせばお客さんが来るはず」──これは逆効果。メニューが増えれば仕入れ品目も増え、食材ロスも増える。閑散期はメニューを「増やす」のではなく「絞る」時期。
③ 何もしない
「2月はどうせ暇だから」と手をこまねいていると、赤字がそのまま積み上がる。閑散期は「我慢する時期」ではなく「仕組みを整える時期」。 ここで打った手が、3月以降の利益に効いてくる。
今週から始める3つのこと
① 自分の店の「閑散期の損益分岐点」を計算する 固定費(家賃+正社員人件費+リース+保険)÷ 粗利率 = 損益分岐点売上。この数字を知っているだけで、「あといくら売ればいいか」が見える。
② メニューのABC分析をして、C群を特定する 過去1〜2ヶ月の出数を見て、ほとんど出ていないメニューをリスト化する。閑散期はそのメニューを一時休止して、食材と仕込みを減らす。
③ 閑散期に入る前に、仕入れ先に数量変更を連絡する 「来月は少し減らしたい」と一言伝えるだけで、余計な在庫を抱えずに済む。
ニッパチは避けられない。でも赤字は避けられる。 売上が落ちる時期に「何とか売上を上げよう」ともがくより、「売上が落ちても利益が残る仕組み」を作る方が、ずっと確実だ。
KitchenCostで全メニューの原価率を出しておけば、閑散期に「どのメニューを推せば利益が残るか」が一目でわかる。繁忙期の忙しさの中では見えなかった数字が、閑散期にこそ武器になる。