「デリバリー始めたら注文はけっこう入るのに、月末に計算したら全然利益が残ってなかった」
こういう話は、飲食店のオーナー同士の会話で本当によく出てくる。
Uber Eatsや出前館に出店して、注文が1日10件、20件と入る。忙しい。スタッフも頑張っている。なのに、なぜか利益が出ない。
理由はシンプルだ。店内メニューと同じ価格で出品しているから。
店内なら原価率30%でも利益は出る。でもデリバリーには「手数料35%」と「容器代」という、店内にはないコストが上乗せされる。これを計算に入れずに出品すると、売れば売るほど利益が薄くなるという構造に陥る。
先に結論
- デリバリーの手数料は主要プラットフォームでほぼ一律35%。これに容器代50〜100円が加わる
- 店内の原価率30%をそのまま適用すると、デリバリーでは利益がほぼゼロになる
- デリバリーの食材原価率は20〜25%に抑えるのが目安
- 価格設定は店内の1.2〜1.4倍が相場。お客さんは「届けてもらう便利さ」に対価を払っている
- 注文数が安定したら自社配達を検討。手数料が35%→15%に下がる
2026年のデリバリー市場──Wolt撤退で「2強」時代に
まず、今のデリバリー市場の状況を整理しておく。
2026年3月、Woltが日本から撤退した。親会社のDoorDashが「ポートフォリオの最適化」として日本を含む4か国から撤退を決めた。
これで日本のフードデリバリーはUber Eatsと出前館の「2強」体制がほぼ確定した。
主要プラットフォームの手数料(2026年3月時点)
| プラットフォーム | 配達委託時の手数料 | 自社配達時の手数料 | 備考 |
|---|---|---|---|
| Uber Eats | 35%(税込38.5%) | 約15% | シェア最大。初期費用なし |
| 出前館 | 35%(サービス料10%+配達料25%) | 約10% | LINE連携。地方に強い |
| menu | 35% | – | 小規模。初期費用無料キャンペーン中 |
※Wolt(手数料30〜35%)は2026年3月4日に日本撤退。
どのプラットフォームを選んでも、手数料は約35%。 これがデリバリーの大前提だ。
店内メニューの値段でデリバリーを出すと何が起きるか
具体的にシミュレーションしてみる。
店内の場合(1,000円の定食)
| 項目 | 金額 | 比率 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,000円 | 100% |
| 食材原価 | 300円 | 30% |
| 人件費 | 300円 | 30% |
| 家賃・光熱費 | 200円 | 20% |
| 利益 | 200円 | 20% |
原価率30%、FL比率60%。飲食店の標準的な構造だ。
デリバリーの場合(同じ1,000円で出品)
| 項目 | 金額 | 比率 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,000円 | 100% |
| 手数料(35%) | 350円 | 35% |
| 食材原価 | 300円 | 30% |
| 容器・包材 | 70円 | 7% |
| 人件費(調理+梱包) | 200円 | 20% |
| 利益 | 80円 | 8% |
同じ1,000円なのに、利益は200円→80円に。 60%も減る。
これでも「一応利益は出ている」と思うかもしれない。でも実際には、注文のタイミングがピーク時と重なれば店内オペレーションが圧迫されるし、配達ミスやクレーム対応の時間もある。実質的な利益は80円以下だ。
「1日20件デリバリーを受けて、朝から晩まで忙しかったのに、月末に計算したら月の利益が3万円しか増えてなかった」──あるカフェオーナーの話
デリバリーで利益を出す原価率の目安
店内飲食とデリバリーでは、利益構造がまったく違う。
店内 vs デリバリーの利益構造
| 項目 | 店内 | デリバリー |
|---|---|---|
| 食材原価率 | 25〜35% | 20〜25% |
| 人件費率 | 25〜35% | 15〜20% |
| 手数料 | 0% | 35% |
| 容器・包材 | 0% | 5〜10% |
| その他(家賃等) | 15〜25% | 5〜10% |
| 利益 | 10〜20% | 5〜15% |
デリバリーで利益を出すには、食材原価率を20〜25%に抑える必要がある。 店内の30%をそのまま持ち込むと、手数料35%と容器代が加わって利益がほぼ消える。
容器代を甘く見ない
見落としがちなのが容器代だ。
| 容器の種類 | 1個あたりの目安 |
|---|---|
| メインの容器(丼・弁当箱) | 30〜80円 |
| スープ容器 | 20〜40円 |
| 小鉢・サイド用 | 10〜20円 |
| 箸・スプーン・ナプキン | 5〜10円 |
| 手提げ袋 | 10〜20円 |
| 合計 | 50〜100円/1注文 |
1,000円の注文に容器代70円。7%。年間にすると、1日20件×365日×70円=約51万円。 容器代だけで年間50万円を超える。
これを原価計算に入れていない店は多い。
デリバリー専用の価格設定──「1.2〜1.4倍」のルール
「デリバリーの値段を上げたら注文が減るんじゃ?」
これは多くのオーナーが心配することだが、実態は逆だ。
Uber Eatsや出前館では、多くの店がデリバリー価格を店内より高く設定している。 お客さんも「届けてもらう代わりに多少高い」のは織り込み済み。雨の日にわざわざ外に出なくていい、並ばなくていい、その便利さに対してお金を払っている。
価格設定の目安
| 店内価格 | デリバリー価格(1.2倍) | デリバリー価格(1.4倍) |
|---|---|---|
| 800円 | 960円 | 1,120円 |
| 1,000円 | 1,200円 | 1,400円 |
| 1,500円 | 1,800円 | 2,100円 |
1.2倍にするとどうなるか
先ほどの1,000円の定食を1,200円に設定した場合:
| 項目 | 金額 | 比率 |
|---|---|---|
| 売上 | 1,200円 | 100% |
| 手数料(35%) | 420円 | 35% |
| 食材原価 | 300円 | 25% |
| 容器・包材 | 70円 | 5.8% |
| 人件費 | 200円 | 16.7% |
| 利益 | 210円 | 17.5% |
たった200円上げるだけで、利益が80円→210円に。2.6倍。
これが「デリバリー専用の価格設定」の力だ。
値上げが難しいなら「デリバリー専用メニュー」を作る
「今の常連さんに値上げしたのがバレるのが嫌」という気持ちもわかる。
その場合は、**店内メニューとは別の「デリバリー専用メニュー」**を作るのも手だ。
- セットメニューにして客単価を上げる(メイン+サイド+ドリンクで1,500円)
- デリバリー限定の商品を出す(「持ち帰り用の大盛りプレート」など)
- 店内にないメニュー名にすれば、価格比較されにくい
デリバリー向きのメニューと不向きのメニュー
すべての料理がデリバリーに向いているわけではない。
デリバリー向き
| 特徴 | 理由 | 例 |
|---|---|---|
| 冷めても味が落ちにくい | 配達に15〜30分かかる | 丼もの、カレー、パスタ |
| 汁漏れしにくい | 容器に入れやすい | 弁当、握り寿司、サンドイッチ |
| 盛り付けが崩れにくい | 配達中に動く | ワンプレート、重箱スタイル |
| 原価率を低く設定できる | 利益を確保しやすい | 炒飯、唐揚げ、お好み焼き |
デリバリーに不向き
| 特徴 | 理由 | 例 |
|---|---|---|
| 提供直後の温度が命 | 冷めると品質が激落ち | ラーメン(麺が伸びる)、天ぷら |
| 盛り付けが繊細 | 配達で崩れる | 懐石料理、デコレーションケーキ |
| 原価率が高い | 手数料分の余裕がない | 刺身盛り合わせ、高級食材 |
デリバリーで低評価がつくと注文数が激減する。 だから「店内で美味しいもの」ではなく「届いても美味しいもの」を出すのが鉄則だ。
自社配達という選択肢──手数料を35%→15%に下げる
注文数が安定してきたら、自社配達への切り替えを検討する価値がある。
プラットフォーム配達 vs 自社配達
| 項目 | プラットフォーム配達 | 自社配達 |
|---|---|---|
| 手数料 | 35% | 10〜15% |
| 配達スタッフ | 不要 | 自分で確保 |
| 配達エリア | プラットフォームが決定 | 自分で設定 |
| 顧客データ | 取得不可 | 取得可能 |
| 初期投資 | ほぼゼロ | バイク・保険など |
たとえばUber Eatsの「自社配達プラン」を使うと、手数料は約15%に下がる。出前館なら約10%。
月100件・客単価1,200円の場合:
- プラットフォーム配達(35%):手数料 42,000円/月
- 自社配達(15%):手数料 18,000円/月
- 差額:月24,000円、年間288,000円
年間約29万円の差は大きい。ただし、自社配達には配達スタッフの人件費やバイクの維持費がかかるので、注文数が1日15件を超えたあたりから損益分岐点を超えるイメージだ。
自社配達に向いている店
- 半径2km以内に注文が集中している
- ランチとディナーのピークがはっきりしている(スタッフの稼働が計画しやすい)
- すでにバイクや車がある
- 常連客がデリバリーでもリピートしてくれる
デリバリーの損益シミュレーション──自分の店で計算してみる
以下の項目を埋めれば、自分の店のデリバリー損益がわかる。
ステップ1:1注文あたりのコストを出す
① デリバリー販売価格:______円
② 手数料(①×35%):______円
③ 食材原価:______円
④ 容器・包材代:______円
⑤ 人件費配分:______円
⑥ 利益(①−②−③−④−⑤):______円
⑦ 利益率(⑥÷①):______%
ステップ2:月間の損益を出す
⑧ 1日の平均注文数:______件
⑨ 月間注文数(⑧×営業日数):______件
⑩ 月間売上(①×⑨):______円
⑪ 月間手数料(②×⑨):______円
⑫ 月間利益(⑥×⑨):______円
判断基準
- 利益率10%以上 → 継続する価値あり
- 利益率5〜10% → 価格設定の見直しで改善の余地あり
- 利益率5%未満 → 赤字の可能性大。メニューと価格の根本的な見直しが必要
出前館の「7期連続赤字」が教えてくれること
実は、デリバリープラットフォーム自体も儲かっていない。出前館は2025年時点で7期連続の赤字だ。
これが何を意味するか。デリバリーは薄利のビジネスモデルだということ。 プラットフォーム側すら利益が出ていないのだから、飲食店が「なんとなく」で利益を出せるわけがない。
だからこそ、原価を1円単位で計算する意味がある。
「面倒くさい」と思うかもしれない。でも、デリバリー1件あたりの利益差は、原価計算をしているかどうかで100〜200円変わる。1日20件で月間4〜12万円。年間で50〜150万円の差。
原価計算は、デリバリーをやるなら「やったほうがいい」ではなく「やらないとやる意味がない」レベルの話だ。
この記事のポイント
- デリバリーの手数料は各社ほぼ一律35%。これに容器代50〜100円が加わるのがデリバリー特有のコスト
- 店内価格のまま出品すると、利益率は8%程度まで落ちる。食材原価率は20〜25%に抑えるのが目安
- デリバリー価格は店内の1.2〜1.4倍が相場。200円上げるだけで利益が2.6倍になるケースも
- 注文数が安定したら自社配達を検討。手数料35%→15%で年間約29万円の差
- 「届いても美味しい」メニューを出す。デリバリーの低評価は注文数に直結する
デリバリーは「始めれば売上が増える」という単純な話ではない。手数料・容器代・人件費を全部含めて、1注文あたりいくら残るか。 これを計算してから始めるか、始めた後で計算するかで結果は大きく変わる。
まずは今出しているデリバリーメニューの上位3品で、この記事のシミュレーションをやってみてほしい。「あれ、この商品は出すたびに赤字だった」と気づくかもしれない。
KitchenCostなら、食材原価に容器代を加えたデリバリー専用の原価計算ができます。メニューごとの利益率を一目で確認。App StoreまたはGoogle Playからどうぞ。