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飲食店の後継者がいない──廃業の前に知っておくべき事業承継の3つの方法と使える補助金

飲食店の後継者不在率は58.2%。2025年の倒産は過去最多の900件超だが、廃業した店の中には承継できたケースも多い。親族・従業員・第三者への引継ぎ方法と、補助金最大1,000万円・税金実質ゼロの支援策を整理。2023年の法改正で営業許可の引継ぎも簡単になった。

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目次

「あと何年、この店を続けられるだろう」

60歳を超えて、毎朝5時に仕込みを始める。膝が痛くても、腰が辛くても、自分がやらなければ店は開かない。

でも、後継者がいない。

子どもは別の仕事をしている。長年いた従業員も、経営を任されるのは荷が重いと言う。結局、自分が倒れたらこの店は終わり──そう思いながら、今日もキッチンに立っている。

後継者がいないのは、あなただけではない

飲食店を含むサービス業で、後継者が不在の割合は58.2%。 2人に1人以上が「引き継ぐ人がいない」という状態だ。

2025年の飲食店倒産は過去最多の900件超。 その多くが小規模の個人店。だが、倒産や廃業の中には「もっと早く承継の準備をしていれば残せた」ケースが少なくない。

「後継者がいない=廃業するしかない」ではない。 方法はある。

この記事では、飲食店の事業承継(じぎょうしょうけい)の3つの方法と、使える支援策を整理する。

事業承継とは、今の経営者が引退するときに、お店の経営を次の人に引き継ぐこと。廃業と違い、お店は続く。

事業承継の3つの方法

①親族承継──子どもや配偶者に引き継ぐ

一番イメージしやすい方法。かつては「息子が跡を継ぐ」のが当たり前だったが、今はこのパターンが減っている。

メリットデメリット
常連客やスタッフの安心感が大きい子どもが飲食業を望まないケースが増加
店の「味」や「文化」を引き継ぎやすい経営能力があるとは限らない
贈与税・相続税の特例措置が使える相続人が複数いると揉める可能性

現実: 親族内での承継を行う事業者の数は減少傾向にある。「継いでほしい」と思っても、子どもの人生を考えると強くは言えない。

もし親族に引き継ぐ場合は、最低でも3〜5年の準備期間を見ておいたい。経営の知識、仕入れ先との関係、レシピの習得──一朝一夕にはいかない。

②従業員承継──信頼できるスタッフに任せる

長年一緒に働いてきた従業員に経営を引き継ぐ方法。

メリットデメリット
店のことをよくわかっている従業員に買い取る資金がないことが多い
他の従業員からの理解を得やすい「料理はできるが経営は別」という壁
お客さんの顔ぶれを知っているオーナーの個人保証の引継ぎ問題

最大のハードル: お金。 従業員が店を買い取るには数百万〜数千万円が必要になることがある。ただし、後述する補助金を使えばハードルは下がる。

もうひとつのハードルは**「経営」と「調理」は別の能力**だということ。素晴らしい料理人が、必ずしも良い経営者になれるわけではない。承継を決めたら、仕入れ、原価管理、売上の見方、確定申告──「経営のイロハ」を1〜2年かけて教える期間が必要だ。

③第三者承継(M&A)──外部の人に引き継ぐ

親族にも従業員にも後継者がいない場合、外部の個人や企業に店を譲る方法。

メリットデメリット
後継者がいなくても事業を残せる自分の思い通りにはならない可能性
創業者利益を得られる(お金が入る)味やサービスが変わる可能性
従業員の雇用が維持される場合が多い買い手探しに時間がかかることがある

飲食店ドットコムM&A、バトンズなどのマッチングサービスでは、個人の小さな店でも買い手を見つけることができる。

バトンズでは2026年3月時点で飲食店の売却案件が8,000件以上登録されている。「こんな小さな店が売れるのか」と思うかもしれないが、立地、設備、常連客、レシピ──これらすべてが価値になる。

M&Aと聞くと「大企業の話」と思うかもしれないが、飲食業界では月商100万円前後の個人店でも日常的にM&Aが行われている。

2023年の法改正で営業許可の引継ぎが楽になった

事業承継の大きな障壁のひとつだった**「営業許可の引継ぎ」が簡単になった。**

改正前(〜2023年12月12日)

  1. 旧オーナーが保健所に廃業届を提出
  2. 新オーナーが保健所に新規の営業許可申請を提出
  3. 保健所の審査・立ち入り検査
  4. 許可が出るまで営業できない期間が発生

この「営業の空白期間」が、事業承継のハードルを大きく上げていた。

改正後(2023年12月13日〜)

  1. 新オーナーが保健所に**「地位承継届」を提出するだけ**
  2. 旧オーナーの廃業届は不要
  3. 営業の空白期間なしで名義変更が可能
以前:廃業届 → 新規許可申請 → 審査 → 許可 → 営業再開(数週間〜1ヶ月)
今:地位承継届の提出(原則、即日〜数日で名義変更完了)

ただし、事前に保健所へ相談が必要。 また、営業の「全部」を譲渡する場合に限られる(一部だけの譲渡は対象外)。

それでも、「許可を取り直さなければならない」という最大の面倒がなくなったのは大きい。

使える支援策──補助金と税制

①事業承継・M&A補助金

項目内容
補助率1/2〜2/3(小規模事業者・営業利益率が低下している企業は2/3
補助上限額800万〜1,000万円
使えるもの承継に伴う設備投資、経営資源の引継ぎ費用、承継後の経営統合費用など
対象親族承継・従業員承継・第三者承継(M&A)のいずれも対象

令和7年度(令和6年度補正)から4つの枠で公募が始まっている。

例えば、従業員に店を引き継ぐ際の厨房設備の更新に600万円かかったとしたら、最大400万円が補助される計算(補助率2/3の場合)。自己負担200万円で設備が新しくなる。

②個人版事業承継税制

個人事業主が事業用資産(厨房設備、内装、車両など)を後継者に贈与・相続する際の贈与税・相続税が実質ゼロになる特例。

項目内容
対象個人事業主の事業用資産の承継
効果贈与税・相続税が実質ゼロ(猶予→免除)
条件2026年3月までに特例事業承継計画を提出
期限2027年12月末までに事業承継を実施

注意: 計画の提出期限が2026年3月。 つまり、今すぐ動かないと間に合わない可能性がある。

③事業承継・引継ぎ支援センター(無料相談)

全国47都道府県に設置されている国の支援窓口。 相談は無料。

  • 承継計画の作成支援
  • 後継者探し(マッチング支援)
  • M&Aの専門家の紹介
  • 法律・税務のアドバイス

「何から手をつけていいかわからない」なら、まずここに相談するのが最も確実だ。「都道府県名+事業承継・引継ぎ支援センター」で検索すれば見つかる。

承継される側が今からできる「3つの準備」

「まだ先の話」と思うかもしれない。でも、承継は準備に時間がかかる。早すぎるということはない。

準備①:レシピと原価を「記録」として残す

これが最も重要で、最も軽視されている。

多くの個人飲食店では、レシピがオーナーの頭の中にしかない。分量も「目分量」、原価も「だいたいこのくらい」。

この状態では、誰に引き継ぐにしても──

  • 親族: 「味が変わった」とお客さんに言われる
  • 従業員: 原価がわからないから適正な価格設定ができない
  • 第三者: 事業の収益性が不透明で、買い手がつきにくい

逆に、レシピが記録され、原価率がメニューごとに把握できている店は、承継の価値が上がる。買い手から見れば「この店は数字で経営されている=安心して引き継げる」ということだ。

準備②:経営数字を「見える化」する

後継者や買い手が最初に見るのは数字だ。

項目なぜ必要か
メニュー別の原価率利益構造がわかる。どの商品が稼いでいるか
月次の売上・利益季節変動、トレンドがわかる
FL比率食材費+人件費のバランスが健全かどうか
仕入れ先リスト取引関係をそのまま引き継げるか

「儲かっている」と口で言うのと、「原価率32%、FL比率58%」とデータで示すのでは、説得力がまるで違う。

準備③:「いつまでに、誰に」を決める

漠然と「いつかは引退」と思っていると、気づいたときには選択肢が限られている。

項目決めること
いつまでに「70歳までに」「5年以内に」など期限を設定
誰に親族? 従業員? 第三者? → 支援センターに相談
何を準備するかレシピ整理、経営数字の記録、許認可の確認

承継の準備は「健康なうちに」「業績が良いうちに」始めるのが鉄則。 体を壊してからでは判断力が落ちるし、業績が悪化してからでは買い手がつきにくくなる。

この記事のポイント

  1. 後継者不在率は58.2%。あなただけの問題ではない。でも、方法はある
  2. 親族承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3パターン。廃業だけが選択肢ではない
  3. 2023年の法改正で営業許可の引継ぎが簡単に。「地位承継届」だけで名義変更可能
  4. 事業承継・M&A補助金は最大1,000万円。個人版事業承継税制は贈与税・相続税が実質ゼロ
  5. 今からできる最大の準備は「レシピと原価を記録すること」。数字が見える店は、承継の価値が上がる

「引退したいけど、引き継ぐ人がいない」

その悩みは、実は業界全体の構造的な問題だ。だからこそ、国も自治体も支援策を用意している。

でも、支援策は知らなければ使えないし、準備しなければ間に合わない。

まずやれることは2つ。**「事業承継・引継ぎ支援センターに電話する」こと。そして、「自分の店のレシピと原価を記録として残す」**こと。

あなたが何十年かけて作り上げた味と経営のノウハウは、必ず引き継ぐ価値がある。それを「形」にしておくことが、事業承継の第一歩だ。

KitchenCostを使えば、レシピごとの食材・分量・原価を記録できます。頭の中にある「味」と「数字」をデータにしておけば、いつか引き継ぐときの大きな資産になります。App StoreまたはGoogle Playからどうぞ。


出典・参考:

  • fundbook「個人経営の飲食店における事業承継の進め方とは?」
  • 飲食店ドットコムM&A「飲食店の事業承継・後継者探しを検討中の方へ」
  • 東京都福祉保健局「事業譲渡による営業許可・届出の地位の承継が可能になりました」
  • 中小企業庁「事業承継の支援策」
  • mirasapo plus「事業承継・M&A補助金(令和6年度補正)」
  • 創業手帳「事業承継・M&A補助金とは?申請方法やスケジュールをまとめました」
  • 日本M&Aセンター「飲食店業界のM&Aと事業承継の動向 2025年最新」
  • バトンズ「飲食店・食品のM&A・事業承継 売却案件一覧」

よくある質問

飲食店の事業承継にはどんな方法がありますか?

大きく3つあります。①親族承継(子どもや配偶者に引き継ぐ)、②従業員承継(長年働いてくれたスタッフに引き継ぐ)、③第三者承継・M&A(外部の個人や企業に譲渡する)。最近は後継者不在の飲食店が58.2%に達しているため、M&Aによる第三者承継が増えています。親族がいなくても、事業を残す方法はあります。

飲食店の事業承継に使える補助金はありますか?

「事業承継・M&A補助金」があります。令和7年度(令和6年度補正)から4つの枠で公募が始まっており、補助率は1/2〜2/3(小規模事業者は2/3)、補助上限額は800万〜1,000万円です。設備投資、経営資源の引継ぎ、承継後の経営統合などに使えます。また、個人版事業承継税制を使えば、事業用資産の贈与税・相続税が実質ゼロになる特例もあります。

2023年の法改正で何が変わりましたか?

令和5年12月13日以降、飲食店の営業許可を『地位承継届』を出すだけで引き継げるようになりました。以前は旧オーナーが廃業届を出し、新オーナーが新規に営業許可を取り直す必要があり、二重の手間と営業の空白期間が発生していました。改正後は届出だけで名義変更ができ、スムーズに営業を継続できます。

事業承継で店の価値を高めるにはどうすればいいですか?

最も重要なのは『数字が見える経営』をしていること。原価率、FL比率、メニュー別の利益がデータとして残っている店は、買い手や後継者から見て安心感が大きく、評価額も上がります。逆に、仕入れも売上もオーナーの頭の中にしかない店は、引き継ぎのハードルが高く、評価も下がりがちです。レシピと原価の記録を残すだけでも、承継の準備になります。

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