「お通し代、もらっていいのかな」——お客さんの反応が気になって、なんとなく量を多くしたり質を上げすぎたりしていませんか?
お通しは居酒屋にとって小さいけれど確実な収益源です。400円×1日50組で月50万円の売上になる。でも「なんとなく」で運用すると、利益が出るどころかコストセンターになってしまいます。
最近はお通しを廃止して席料に切り替える店も増えています。シンクロ・フードの2023年調査(飲食店373店)では、お通し制の店は全体の38%まで減り、2018年の50%から大きく下がりました。一方で席料制は22.7%から28.7%に増加。「お通しをやめて席料にした」という店が確実に増えているわけです。
お通しを続けるのか、席料に切り替えるのか。どちらを選ぶにしても、まず「いまのお通しにいくらかかっているか」を把握するところから始めましょう。
先に結論
- お通しの最多価格帯は300〜399円。値上げ傾向で500円台も増加中
- お通し制は減少傾向(50%→38%)、代わりに席料制が増加(22.7%→28.7%)
- 1人前の量をグラムで固定すれば、安定した利益源になる(原価率15〜25%が目安)
- 断られた場合の対応ルールを決めてスタッフで統一するのが最重要
お通しの原価——食材だけでは足りない
お通しの原価を「食材費だけ」で見ている店は多いです。でも実際には、仕込みの手間と器のコストが隠れています。
お通し1人前の原価分解(例:きんぴらごぼう小鉢)
| 項目 | 原価 | 備考 |
|---|---|---|
| 食材(ごぼう・にんじん・ごま) | 約45円 | 80g目安 |
| 調味料(醤油・みりん・油) | 約8円 | |
| 仕込みの人件費按分 | 約15円 | 50食分仕込み30分、時給1,121円で計算 |
| 器の減耗・洗浄コスト | 約5円 | 年間の器破損と洗剤・水道代を按分 |
| 合計 | 約73円 |
お通し代が400円なら粗利は327円、原価率は約18%。悪くない数字です。
でも問題は、ここからブレること。「ちょっと多め」が続くと80gが100gになり、食材費が45円→60円に。10食で150円、月間で4,500円以上の差になります。小さく見えますが、年間で5万円超のコスト増です。
お通しの価格帯——いまの相場
シンクロ・フード2023年8月調査(飲食店373店)による価格分布です。
| 価格帯 | 割合(2023年) | 2018年との比較 |
|---|---|---|
| 200〜299円 | 11.5% | — |
| 300〜399円 | 40.4% | -7.9pt(最多だが減少) |
| 400〜499円 | 14.4% | +2.9pt |
| 500〜599円 | 21.2% | +4.0pt(増加中) |
| 600〜699円 | 5.8% | — |
注目すべきは500円以上の価格帯が増えていること。食材費の高騰を反映して、20%以上の店がこの1年でお通し代を値上げしています。値下げした店はわずか1.9%。
業態別の目安:
| 業態 | お通し代の目安 |
|---|---|
| チェーン居酒屋 | 170〜200円 |
| 一般的な居酒屋 | 300〜400円 |
| やや高級な居酒屋 | 500円〜 |
| 高級店・割烹 | 1,000円〜 |
お通し vs 席料——どちらが正解?
| 課金方式 | 2018年 | 2023年 | 変化 |
|---|---|---|---|
| お通し代 | 50.0% | 38.2% | -11.8pt |
| 席料(テーブルチャージ) | 22.7% | 28.7% | +6.0pt |
| サービス料 | — | 15.1% | — |
| なにも取らない | 23.4% | 29.4% | +6.0pt |
お通し制が減っている理由:
- インバウンド対応 — 外国人にとってお通しは分かりにくい。16.3%の店は外国人客にお通しを提供していない
- 消費者の目が厳しくなった — 約33%の消費者がお通しを断った経験あり
- 席料のほうがシンプル — 食材の仕入れ・仕込み・ロスが不要
それでもお通し制を続けるメリット:
- 第一印象をコントロールできる — 最初の一品で「おっ、美味しい」と思わせれば後の注文が増える
- 待ち時間を埋められる — ドリンクが来るまでの数分間の「放置感」を減らせる
- 低原価で確実な売上 — 原価率15〜25%で全組から確実に売上が立つ
大手チェーンの対応
| チェーン | お通し対応 |
|---|---|
| 鳥貴族 | お通しなし(創業当初から) |
| 和民 | キャンセル可 |
| 魚民・白木屋・笑笑 | キャンセル可 |
| 甘太郎 | キャンセル可 |
| 庄や | 申し出れば対応 |
お通しの法的な位置づけ
結論から言うと、事前に告知していれば合法です。メニューや店頭に「お通し代○○円」と明記している場合、着席時点で暗黙の合意が成立すると解されています。
ただし告知なしで請求するのはグレー。実務上のポイント:
- メニューの見やすい場所に「お通し代 ○○円」と記載する
- 入口やテーブルにもPOPで掲示する
- 外国人客向けに英語でも記載する(“Table Charge ¥○○○ (includes appetizer)”)
- 断りたい客への対応ルールをスタッフで統一する
お通しで利益を出す4つのルール
ルール1:1人前の量をグラムで固定する
最も重要。「だいたい」で盛ると量が安定しません。
| お通し | 目安量 | 食材原価 |
|---|---|---|
| 枝豆(冷凍) | 80g | 約35円 |
| ポテトサラダ | 80g | 約60円 |
| きんぴら | 70g | 約45円 |
| 冷奴(半丁+薬味) | — | 約40円 |
| キャベツ塩昆布 | 60g | 約40円 |
80gが100gになるだけで原価は25%増えます。仕込み時に計量して小分けしておくのが最善です。
ルール2:日替わりは2〜3種類まで
「温かいもの1種 + 冷たいもの1種」の2種ローテーションで十分。日替わりを増やしすぎると仕込みが分散してロスが増えます。
ルール3:原価率は食材込みで25%以内
食材+調味料+仕込み+器のコストを含めて25%以内が目安。400円のお通しなら合計原価100円以内。
ルール4:無料おかわりは禁止
「おかわり無料」は原価を直撃します。おかわりは有料(200円など)にするか、最初の1人前のみと決めてください。
月間の利益シミュレーション
お通し400円、1人前原価70円(原価率17.5%)の場合:
1日あたり:
売上 = 400円 × 50組 = 20,000円
原価 = 70円 × 50組 = 3,500円
粗利 = 16,500円
月間(25日営業):
売上 = 500,000円
原価 = 87,500円
粗利 = 412,500円
年間で約500万円の粗利。無視できない数字です。
席料300円にした場合との比較:
席料の月間粗利 = 300円 × 50組 × 25日 = 375,000円(原価ゼロ)
差額 = 412,500 - 375,000 = 月37,500円(お通し制が上)
ただしお通し制は仕込みの手間とロスリスクがあるので、人件費とオペレーション負荷を加味して判断してください。
お通しの値上げ——やり方次第で可能
20%以上の店が過去1年で値上げしている現状を考えると、お通しの値上げは十分に可能です。
- 品質を目に見えて上げる — 300円→400円なら、盛り付けで「前より良くなった」と分かるように
- 季節感を出す — 「旬の小鉢」として月替わりにすると特別感が出る
- メニューに説明を加える — 「本日のお通し:○○産のきんぴら」とストーリーを一行
- 一気に上げない — 50〜100円ずつ段階的に
今すぐやること
今日:
- 現在のお通しの1人前原価を計算する(食材+調味料+仕込み按分+器)
- 盛り付け量をグラムで決めて、紙に書いて厨房に貼る
- お通しを断られた場合の対応ルールを決める
今週中:
- お通しの仕込みを定量化する(50食分を一括仕込み→小分け保存)
- メニューにお通し代を明記する(日本語+英語)
- お通しを続けるか席料に切り替えるか、月間利益で比較する
参考資料
関連ガイド:
お通しの原価をメニューごとに管理するならKitchenCostが便利です。食材を登録すれば、1人前の原価と原価率が自動で出ます。