42年間、ずっと3,500円だった
飲食店で働く人のまかない。その非課税の上限が「月3,500円」だということは、多くのオーナーが知っている。
でも、この3,500円がいつ決まったか知っているだろうか。
1984年。
バブル前。消費税もなかった時代。当時のラーメンは350円、牛丼は350円。今はラーメン1杯900円、牛丼500円。物価は2倍以上になったのに、非課税枠だけが42年間そのまま据え置かれていた。
2026年度、ようやく改正される。
月3,500円 → 月7,500円。倍以上だ。
この改正を「知っている」だけで終わらせるのか、それとも「使いこなす」のか。その差が、年間で数十万円の違いになる。
先に結論──何が変わって、何をすればいいか
- 食事補助の非課税枠が 月3,500円 → 7,500円 に引き上げ(2026年度中)
- 深夜勤務の現金まかない上限も 1食300円 → 650円 に引き上げ
- 給与で昇給するより、食事補助のほうが手取りが多い(従業員)
- 社会保険料の負担も減る(お店側)
- ただし 現金支給はNG、現物支給が原則
- 条件:従業員が食事代の 50%以上 を自己負担すること
なぜこの改正は飲食店オーナーにとって「チャンス」なのか
飲食店の3つの逆風
2025年の飲食店倒産は 過去最多の900件。2026年1〜4月の飲食料品値上げは 3,593品目。最低賃金は全国加重平均 1,121円 まで上がっている。
人件費は上がる。食材費も上がる。でも、メニュー価格はそう簡単に上げられない。
この三重苦の中で、「お金をかけずに従業員の手取りを増やせる」仕組みがある。それが、食事補助の非課税枠の活用だ。
飲食店だけの「ずるい」優位性
考えてみてほしい。IT企業がこの制度を使うには、仕出し弁当を注文したり、チケットレストランを導入したりする必要がある。
でも飲食店は?
毎日まかないを出しているだけで、すでに条件の半分をクリアしている。
厨房がある。食材がある。調理する人がいる。他の業種が「仕組みを作る」ところから始めなきゃいけないのに、飲食店はすでにインフラが揃っている。
具体的にいくら得するのか──シミュレーション
ケース:従業員3人の個人経営ラーメン店
現行制度(非課税枠:月3,500円)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| まかない原価(1食300円×25日) | 月7,500円 |
| 非課税にできる上限 | 月3,500円 |
| 超過分(給与課税) | 月4,000円 |
| 従業員3人×12ヶ月の課税対象額 | 年144,000円 |
まかないを1食300円の食材原価で出していたら、非課税枠を超えた分は「給与」として課税されていた。
改正後(非課税枠:月7,500円)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| まかない原価(1食300円×25日) | 月7,500円 |
| 非課税にできる上限 | 月7,500円 |
| 超過分(給与課税) | 0円 |
| 従業員3人×12ヶ月の課税対象額 | 0円 |
同じまかないを同じように出しているだけで、年間144,000円分の課税がなくなる。
従業員の手取り比較:昇給 vs 食事補助
月7,500円を「給与で昇給」した場合と「食事補助」した場合を比べる。
| 給与で昇給 | 食事補助 | |
|---|---|---|
| 表面上の金額 | 7,500円 | 7,500円 |
| 所得税・住民税 | かかる | 非課税 |
| 社会保険料(従業員負担) | かかる | なし |
| 手取りの実質額 | 約5,000〜6,000円 | 7,500円 |
従業員にとっては、同じ7,500円でも 手取りが1,500〜2,500円多い。
お店側のコスト比較
| 給与で昇給 | 食事補助 | |
|---|---|---|
| 支給額 | 7,500円 | 7,500円 |
| 社会保険料(事業者負担 約15%) | +約1,125円 | 0円 |
| 実質コスト | 約8,625円 | 7,500円 |
| 従業員3人×12ヶ月の差額 | – | 年間40,500円の節約 |
つまり、お店は安く済んで、従業員の手取りは増える。給与昇給では不可能な、双方にメリットがある構造だ。
深夜営業の店はさらに得する──「1食650円」ルール
居酒屋、バー、深夜ラーメン──22時以降に働く従業員がいる店は、もう一つの改正が大きい。
深夜勤務で現物支給が難しい場合の現金まかない上限:1食300円 → 650円。
22時から翌朝5時までの勤務で、まかないの現物支給が困難な場合に限り、現金で食事代を渡すことができる。この上限が、300円から650円に上がる。
実務での活用例
閉店後のスタッフに「コンビニで何か買っていいよ」と500円渡していた場合──
- 現行:300円まで非課税、残り200円は給与課税
- 改正後:500円全額が非課税
月20日深夜シフトの従業員がいれば、年間で 約48,000円分の課税がなくなる 計算だ。
「うちは現金で食事手当を出してるんだけど…」──よくある間違い
ここで一つ、大事な注意点。
現金で食事手当を渡す方式は、金額に関係なく全額が給与課税になる。
「月7,500円以下なら現金で渡しても非課税でしょ?」──これは誤解だ。
非課税になるのは、あくまで 現物支給(まかないを食べさせる、仕出し弁当を用意するなど)の場合。給料明細に「食事手当 7,500円」と書いて振り込むやり方は、全額が課税対象になる。
飲食店が非課税にするための条件(おさらい)
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| ①支給方法 | 現物支給(まかない、仕出し弁当など) |
| ②従業員の負担 | 食事代の 50%以上 を従業員が負担 |
| ③お店の負担 | 月 7,500円以下(改正後) |
| ④対象者 | 全従業員に一律適用 |
飲食店のまかないの場合、「食事代」とは 食材の原価(材料費のみ。光熱費や人件費は含まない)を指す。
つまり、食材原価300円のまかないなら、従業員から150円以上を徴収していれば、お店の負担分150円は非課税になる。
改正までにやっておくチェックリスト
ステップ1:今のまかないコストを把握する
まかない1食あたりの食材原価を計算する。「だいたい300円くらい」ではなく、実際に使っている食材の単価から積み上げる。
KitchenCostのようなアプリで、まかないメニューもレシピとして登録しておくと、原価が自動計算される。税務調査で根拠を求められたときにも、すぐに提示できる。
ステップ2:従業員からの徴収額を見直す
現在の徴収額が「食事代(原価)の50%以上」になっているか確認。
例:
- まかない原価300円/食 → 従業員から150円以上を徴収
- まかない原価500円/食 → 従業員から250円以上を徴収
ステップ3:月額の上限チェック体制を作る
「今月のまかない回数×1食あたりのお店負担」が7,500円を超えていないか、毎月末にチェックする仕組みを作る。
| 月の営業日 | まかない原価/食 | 従業員負担/食 | 店負担/食 | 月の店負担合計 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 25日 | 300円 | 150円 | 150円 | 3,750円 | ✅ 非課税枠内 |
| 25日 | 500円 | 250円 | 250円 | 6,250円 | ✅ 非課税枠内 |
| 25日 | 700円 | 350円 | 350円 | 8,750円 | ❌ 枠超過 |
ステップ4:給与明細・経理処理の準備
- まかないの食材費 → 福利厚生費(非課税枠内)
- 従業員からの徴収 → 雑収入 または 福利厚生費の相殺
- 枠を超えた分 → 給与 として源泉徴収
経理ソフトの勘定科目設定を、改正に合わせて更新しておく。
ステップ5:就業規則(まかないルール)の明文化
口頭の約束でまかないを出している店が多いが、税務調査に備えて書面で残しておくのが安全。
書いておくべきこと:
- まかないの提供条件(出勤日のみ、1日1食など)
- 従業員負担額と徴収方法(給与天引き or 現金徴収)
- 非課税枠を超えた場合の処理方法
「知らなかった」では済まないケース
ケース1:ずっと現金で食事手当を出していた
改正後も、現金支給は全額課税。7,500円に上がったからといって、現金で渡していい金額が増えるわけではない。まかない(現物支給)に切り替えるか、仕出し弁当の手配に変更する必要がある。
ケース2:従業員負担を取っていなかった
「うちはまかない無料だよ」──従業員にとっては嬉しいが、税務上は 全額が給与課税 になる。1食300円×25日×12ヶ月=年間90,000円が、従業員の課税所得に上乗せされる。
最低でも原価の50%を天引きするだけで、お店の負担分が非課税になる。「無料」より「半額」のほうが、従業員の手取りが増えるという逆転現象が起きる。
ケース3:原価計算の根拠がない
税務調査で「まかないの食事価額はいくらですか?」と聞かれて、「だいたい300円くらいです」では通らない。食材の使用量と単価から積み上げた根拠資料が必要になる。
この改正を「採用力」に変える
人手不足で困っている飲食店は多い。求人原稿に「まかないあり」と書くだけでは、もう差別化にならない。
でも、こう書いたらどうだろう。
「まかない制度あり(非課税・実質賃上げ対応済み)」
食事補助を制度として整備し、非課税枠をフル活用していることを伝えれば、「この店はちゃんとしている」という印象を与えられる。特に、所得税や社会保険の仕組みを理解している求職者には刺さる。
月7,500円の食事補助は、年間で 90,000円分の福利厚生。給与で同額を渡すよりも、従業員の手取りが年間18,000〜30,000円多くなる。
この数字を求人に載せるだけで、他の店との差が見える化する。
まとめ──やることは3つだけ
- まかないの食材原価を、レシピごとに記録する(税務調査の根拠になる)
- 従業員から原価の50%以上を徴収する仕組みを作る(天引き or 現金徴収)
- 月7,500円の上限を超えていないか、毎月チェックする
この3つをやるだけで、「同じまかないを出しているのに、年間で数万〜十数万円の課税差」が生まれる。
42年ぶりの改正。知っている人だけが得をする。
まかないの原価を正確に把握しておきたいなら、KitchenCostでまかないメニューをレシピ登録してみてください。食材の使用量と単価を入れるだけで、1食あたりの原価が自動で出ます。税務調査で「根拠は?」と聞かれたときに、スマホの画面を見せるだけで済みます。