「開業資金50万円で飲食店が始められる」
最近こういう話をよく見かけるようになった。
間借り営業、シェアキッチン、レンタルキッチン。呼び方はいろいろあるけれど、要するに「誰かのお店を借りて、自分の料理を出す」というスタイルだ。
夜しか営業しないバーの昼の時間帯を借りてカレー屋をやる。週末だけカフェのキッチンを借りてお菓子を売る。月額5万円から始められる場所もある。
でも「安く始められた」のに、気づけば毎月赤字——という人が少なくない。
先に結論
- 利用料が安くても、仕込み場所・交通費・持ち込み備品で月3〜5万円は上乗せになる
- 利用料の形態(日額・月額・歩合)で損益分岐点がまったく違う
- 1日30食で週2日営業なら月売上24万円。利益を出すには材料費率35%以下が目安
- 「家賃が安い=儲かる」ではない。本当に見るべきは「1食あたりいくら残るか」
間借り営業の利用料、3つのタイプ
間借り営業で最初に確認すべきは、利用料の計算方法だ。大きく3パターンある。
| タイプ | 料金の仕組み | 相場 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 日額固定 | 1日◯円で借りる | 3,000〜10,000円/日 | 週1〜2日の副業型 |
| 月額固定 | 月◯円で契約 | 5〜15万円/月 | 週4日以上の本業型 |
| 売上歩合 | 売上の◯%を払う | 売上の15〜25% | 売上が読めない開業初期 |
ここが落とし穴。
日額固定なら「売上ゼロでも利用料がかかる」。歩合なら「売れるほど取られる」。月額固定なら「営業日数が少ないと割高」。
どのタイプが自分に合っているかは、「月に何日営業して、1日に何食出せるか」で決まる。
見落としやすい「5つの隠れコスト」
利用料だけ見て「安い」と判断するのは危険だ。こんな費用が上乗せになる。
| 隠れコスト | 月額の目安 | なぜ見落とすか |
|---|---|---|
| 仕込み場所代 | 0〜5万円 | 間借り先のキッチンが使えない時間帯がある |
| 交通費・運搬費 | 0.5〜2万円 | 食材と調理器具を毎回運ぶ |
| 持ち込み備品 | 月0.5〜1万円 | 消耗品は自前。鍋・フライパンの消耗も |
| 容器・包材費 | 1〜3万円 | テイクアウト併売なら必須 |
| 保険・許可関連 | 0.3〜1万円 | PL保険、営業許可更新料 |
合計すると月2〜12万円。 利用料が月5万円でも、実際の固定費は7〜17万円になる。
損益分岐点を出してみる
ケース1:週2日・日額5,000円の間借りカレー屋
■ 前提
・営業日数:月8日(週2日)
・客単価:1,000円
・1日の販売数:30食
・月売上:24万円
■ コスト
・利用料:5,000円×8日=4万円
・材料費(35%):8.4万円
・容器代:1.2万円(1食50円×240食)
・交通費・運搬:1万円
・仕込み場所:1万円
・雑費(洗剤・消耗品):0.5万円
・合計:16.1万円
■ 利益
・24万円 − 16.1万円 = 7.9万円
月8万円弱の利益。 副業としてはまずまずだけど、ここから確定申告の税金が引かれる。
ポイントは1日30食を安定して出せるか。20食に落ちると月売上16万円、利益は2万円以下になる。
ケース2:月額10万円・週4日の本業型
■ 前提
・営業日数:月16日(週4日)
・客単価:1,100円
・1日の販売数:40食
・月売上:70.4万円
■ コスト
・利用料:10万円(月額固定)
・材料費(32%):22.5万円
・容器代:3.2万円(テイクアウト半数)
・交通費・運搬:1.5万円
・雑費:1万円
・合計:38.2万円
■ 利益
・70.4万円 − 38.2万円 = 32.2万円
月32万円の利益。 年収換算で約380万円。個人の飲食店としては悪くない。
でも自分の労働時間はゼロ円で計算している。仕込みを含めると月の実働は250時間近くになることもある。時給換算すると1,300円。最低賃金とほぼ同じだ。
「歩合制」の損得シミュレーション
売上の20%を払う歩合制の場合、売上が上がるほど利用料も増える。
| 月売上 | 歩合(20%) | 材料費(35%) | その他経費 | 利益 | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 30万円 | 6万円 | 10.5万円 | 4万円 | 9.5万円 | 32% |
| 50万円 | 10万円 | 17.5万円 | 5万円 | 17.5万円 | 35% |
| 80万円 | 16万円 | 28万円 | 6万円 | 30万円 | 38% |
| 100万円 | 20万円 | 35万円 | 7万円 | 38万円 | 38% |
月商50万円を超えたあたりから、月額固定(10万円)のほうが得になる。
歩合制は「売上が読めない最初の3ヶ月」には安全。 でもリピーターがついて売上が安定してきたら、月額固定に切り替えたほうがいい。
間借りから「自分の店」に移るタイミング
間借りは「テスト営業」として優秀だ。でも永遠に続けるものでもない。
移行を考える目安はこの3つ。
- 月商が3ヶ月連続で80万円を超えた → 利用料が割高になっている
- リピーターが全体の40%を超えた → あなたの料理を目当てに来ている(=場所を変えても来る)
- 営業日数を増やしたいのに借りられない → 間借り先の本業とバッティングする
逆に言えば、月商50万円以下で安定しているうちは間借りのほうがリスクが低い。家賃・内装・保証金の負担なしで営業できるメリットは大きい。
今週やること
- 自分の間借り営業の「1食あたりの総コスト」を計算する。 材料費+利用料÷食数+容器代+交通費÷食数。この数字が売価の65%以下なら利益は出ている
- 利用料のタイプを見直す。 月16日以上営業するなら月額固定が有利。月8日以下なら日額固定。売上が月によってバラつくなら歩合
- 1日の販売数を正確に記録する。 「だいたい30食くらい」ではなく、曜日別・天候別の実数を2週間つける。KitchenCostのようなアプリでレシピごとの原価を管理しておけば、材料費率が即座にわかる
間借り営業は「小さく始める」には最高の選択肢だ。初期費用50万円以下、失敗しても借金が残らない。
ただし「安く始められる」と「利益が出る」はまったく別の話。売上ではなく「1食あたりいくら残るか」を毎日見ること。その習慣さえつけば、間借りから始めた店が生き残る確率は格段に上がる。
間借り営業のレシピ原価と利益率を見える化するなら。KitchenCost を使ってみてください。