飲食店経営に関する数字は、覚えることが多い。原価率、粗利率、営業利益率、損益分岐点……。
でも、もし「1つだけ覚えるならどれ?」と聞かれたら、答えはFLコストだ。
飲食店の支出のうち、最大の2つが食材費(Food)と人件費(Labor)。この2つの合計が売上に対してどれくらいの割合かを示すのがFL比率で、この数字が60%を超えたら、基本的に利益は残らない。
逆に言えば、この数字さえ押さえておけば、店の経営状態がざっくり見える。値上げすべきか、人を減らすべきか、メニューを変えるべきか。判断の起点になる数字だ。
FLコストの計算方法と業態別の目安、そして2025年のコスト上昇環境で個人店がどう使えばいいかを、順番に見ていきます。
まとめ
- FLコスト=食材費(F)+人件費(L)。飲食店の支出で最も大きな2項目
- FL比率=(食材費+人件費)÷ 売上高 × 100
- 目安は55〜60%以内。60%を超えると利益が出にくい
- FとLの内訳を分けて見ることで、「何を直すべきか」が分かる
- 2025年は食材費・人件費ともに上昇中。FL比率の月次チェックが必須
FLコストの計算方法
計算式はシンプルだ。
FL比率(%)=(食材費 + 人件費)÷ 売上高 × 100
具体的な例で見てみよう。
月商200万円の居酒屋の場合
| 項目 | 金額 | 売上比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 200万円 | 100% |
| 食材費(F) | 64万円 | 32% |
| 人件費(L) | 56万円 | 28% |
| FLコスト | 120万円 | 60% |
| 家賃 | 20万円 | 10% |
| 光熱費 | 10万円 | 5% |
| その他経費 | 15万円 | 7.5% |
| 営業利益 | 35万円 | 17.5% |
FL比率60%で、営業利益は35万円。ここから税金や借入返済を引くと、手元に残るのは20万円前後かもしれない。生活できるか、できないかのラインだ。
では、FL比率が5ポイント上がって65%になったらどうなるか。
| 項目 | FL60%の場合 | FL65%の場合 |
|---|---|---|
| FLコスト | 120万円 | 130万円 |
| その他経費 | 45万円 | 45万円 |
| 営業利益 | 35万円 | 25万円 |
たった5ポイントで、月の利益が10万円減る。年間120万円の差だ。
FLコストを月に1回チェックするだけで、この変化に早く気づける。「なんとなく苦しい」の正体が見える。
業態別のFL比率目安
業態によって、FとLのバランスは大きく変わる。
| 業態 | F(食材費率) | L(人件費率) | FL比率目安 |
|---|---|---|---|
| カフェ・喫茶 | 25〜30% | 25〜30% | 50〜55% |
| ラーメン店 | 30〜35% | 20〜25% | 50〜55% |
| 居酒屋 | 28〜35% | 25〜30% | 55〜60% |
| 焼肉店 | 35〜40% | 20〜25% | 55〜60% |
| 寿司屋 | 40〜48% | 20〜25% | 60〜65% |
| パン屋 | 25〜30% | 25〜30% | 50〜55% |
注目すべきは、FとLは反比例しやすいこと。
食材費が高い業態(寿司、焼肉)は、オペレーションを効率化して人件費を抑える。逆にカフェやパン屋は、食材費が比較的安い代わりに、丁寧な接客やオペレーションに人手がかかる。
どの業態でも、FL比率のトータルで55〜60%に収めるのが「利益が残る構造」の基本だ。
2025年、FLコストが両方上がっている問題
問題は、今まさにFもLも同時に上がっていること。
F(食材費)の現状
帝国データバンクの2025年調査によると。
- 飲食店の**94.6%**が仕入れ価格の上昇に直面
- 値上げの主要因:原材料高(93.2%)、物流費(78.4%)、人件費(43.9%)
- 2024年の食品値上げ品目数は、2023年以降で最多水準
特にインパクトが大きいのが、コメの価格上昇だ。2025年4月の東京商工リサーチの調査では、寿司店の倒産が前年同月の4倍に急増している。
L(人件費)の現状
- 最低賃金は2024年に全国加重平均で1,055円に引き上げ(前年+51円、過去最大の上げ幅)
- 2024年問題(トラック運転手の時間外労働規制)で物流人件費も上昇
- 人手不足で「時給を上げないと人が来ない」状況が続く
FとLが同時に上がると、FL比率は知らないうちに5〜10ポイント悪化する。月商200万円の店なら、10ポイントの悪化で月20万円の利益が消える計算だ。
FL比率を改善する5つのアプローチ
FL比率が高い時、「値上げ」と「人を減らす」だけが選択肢ではない。
F(食材費)を下げる
1. メニューミックスを見直す
原価率の高い商品と低い商品の注文比率を調整する。たとえば居酒屋なら、原価率15%のドリンクの注文を増やすメニュー設計にするだけで、全体の食材費率が2〜3ポイント下がることがある。
2. 仕込み量を適正化する
曜日別・天気別の来客データがあれば、仕込み量を絞れる。廃棄が仕入れの5%から2%に下がれば、月80万円の仕入れなら2.4万円の改善になる。
3. 盛り付けのグラム管理
前述の通り、計量していない店は原価が10〜15%ブレている。売れ筋メニューだけでも計量する習慣をつければ、月2〜3万円の改善が見込める。
L(人件費)を下げる
4. ピーク時間のシフト最適化
「念のため」で入れている人員がいないか。曜日・時間帯別の売上データと突き合わせて、本当に必要な人数を割り出す。週に2〜3時間のシフト削減でも、月に1〜2万円の人件費改善になる。
5. オペレーションの簡素化
仕込みの標準化、メニュー数の絞り込みなど、「同じ売上を少ない人手で出す」工夫。メニュー数を30品から20品に絞ったことで、必要な人員が1人減り、月15万円の人件費削減に成功した個人居酒屋の事例もある。
まず今月やること:FL比率を1回出してみる
計算に必要なのは3つだけ。
- 今月の売上高(レジの日報を合計)
- 今月の仕入れ額(仕入れ伝票を合計)
- 今月の人件費(給与+社会保険+自分の生活費)
この3つを集めて、先ほどの式に入れる。
FL比率 =(仕入れ額 + 人件費)÷ 売上高 × 100
60%以下なら、ひとまず利益が出る構造になっている。60%を超えていたら、FとLのどちらが原因かを切り分けて、上の5つのアプローチから手をつけやすいものを1つ選ぶ。
完璧な管理は必要ない。月に1回、この数字を出すだけで「見えている経営」と「見えていない経営」の差が生まれる。
FLコストは、飲食店経営で一番地味で、一番大事な数字だ。