月商200万円の居酒屋を経営して3年目、Aさん(仮名)は毎月の売上に大きな不満はなかった。席は7割以上埋まる日が多い。常連もついている。ただ、月末に通帳を開くと、残高がほとんど変わっていない。
「忙しいのに、なぜかお金が残らない」
この感覚に覚えがある人は、おそらく少なくないはず。実際、帝国データバンクの調査によると、2024年の飲食店倒産件数は894件で過去最多を記録した。売上不振ではなく、コスト増を吸収できなかったケースが目立つ。
問題の多くは「売上が少ない」ことではない。**「原価のズレに気づいていない」**ことだ。
個人飲食店で利益が残らない3つの原因と、今日から始められる対策を順番に見ていきます。
まとめ
- 利益が残らない原因は「売上不足」ではなく、原価の”ズレ”が積み重なっているケースが多い
- 仕入れ値の上昇、盛り付けのブレ、廃棄ロスの3つが主な利益漏れポイント
- 飲食店の94.6%が仕入れ価格上昇に直面しているが、値上げできたのは64.9%
- まずは売れ筋5品の原価だけ正確に把握するところから始める
- 全メニューを完璧に管理しようとすると挫折する。「5品だけ」が現実的な第一歩
利益が消える3つの原因
1. 仕入れ値が上がっているのに、売価が変わっていない
2025年3月、帝国データバンクは「飲食店の94.6%が仕入れ価格の上昇に直面している」と発表した。全業種の中で最も高い数字だ。
主な値上げ要因は以下の3つ。
| 要因 | 影響を受けた企業の割合 |
|---|---|
| 原材料高 | 93.2% |
| 物流費 | 78.4% |
| 人件費 | 43.9% |
ところが、実際に販売価格を上げた飲食店は64.9%にとどまる。約3割の店は、仕入れ値だけ上がって売価を据え置いている状態だ。
個人店の場合、「常連さんに申し訳ない」「近くの店より高くなるのが怖い」という心理が値上げを阻む。気持ちはよく分かる。だが、仕入れ値が3%上がったまま1年放置すると、月商200万円の店なら年間で72万円の利益が消える計算になる。
確認すべきこと: 半年前と今の仕入れ伝票を並べてみる。主要食材10品目で、いくら上がっているか。この作業に30分かければ、値上げすべきかどうかの判断材料が揃う。
2. レシピ通りに作っていない(つもりで作っている)
レシピには「鶏もも肉150g」と書いてある。でも忙しい時間帯に毎回計量している店は少ない。
目分量の盛り付けがどれくらい原価に影響するか、具体的な数字で見てみよう。
| メニュー | レシピ量 | 実際の量 | 原価の差 | 1日30食で月の損失 |
|---|---|---|---|---|
| 唐揚げ定食 | 鶏肉150g | 180g | +39円 | 35,100円 |
| サラダ | 野菜120g | 150g | +18円 | 16,200円 |
| 味噌汁 | 豆腐40g | 60g | +7円 | 6,300円 |
唐揚げ定食だけで月3万5千円。3品合わせると月5万7千円以上の「見えない損失」になる。
これは特殊な例ではない。飲食店のコンサルタントの間では「計量していない店は、だいたい原価が10〜15%ブレている」というのが通説だ。
確認すべきこと: 明日の営業で、売れ筋メニュー1品だけ計量してみる。レシピと実際の盛り付け量に、どれくらい差があるか。
3. 廃棄を「仕方ない」で終わらせている
仕込んだけど売れなかった刺身。賞味期限が切れた食材。半端に残った野菜。
飲食店の食品ロスは、農林水産省の推計で年間約80万トン(2022年度)。これを個人店1店舗あたりに換算するのは難しいが、現場感覚では「仕入れの5〜10%は廃棄している」という声が多い。
月の仕入れが80万円の店なら、5%の廃棄で4万円。年間48万円になる。
廃棄が多い店に共通するのは、仕込み量が「経験と勘」で決まっていること。天気予報や曜日別の来客データと照らし合わせて仕込み量を調整している店は、廃棄率が2〜3%まで下がっている事例がある。
確認すべきこと: 1週間だけ、廃棄した食材とその金額を記録してみる。「意外と捨てている」と気づくだけで、仕込みの意識が変わる。
「全部やらなきゃ」と思うと、何も始まらない
原価管理の話を聞くと「うちは全メニューの原価を計算しなきゃいけないのか」と構えてしまう人がいる。
結論から言えば、全メニューやる必要はない。
まずやるべきは、売上上位5品の原価を正確に出すこと。多くの店では、上位5品で売上の40〜60%を占めている。この5品の原価が正しければ、全体像のかなりの部分が見える。
1品の原価を出す手順
- その料理に使う材料を全部書き出す
- 各材料の仕入れ価格と使用量を確認する
- 1食あたりの材料費を合計する
- 売価で割って原価率を出す
例えば、カレーライスの場合。
| 材料 | 使用量 | 単価 | 原価 |
|---|---|---|---|
| 牛肉 | 80g | 3円/g | 240円 |
| 玉ねぎ | 100g | 0.4円/g | 40円 |
| じゃがいも | 60g | 0.3円/g | 18円 |
| にんじん | 40g | 0.3円/g | 12円 |
| カレールー | 25g | 1.2円/g | 30円 |
| 米 | 200g | 0.5円/g | 100円 |
| その他(油・調味料) | - | - | 15円 |
| 合計 | 455円 |
売価が900円なら、原価率は50.6%。これは高い。一般的な目安の30%を大きく超えている。
この数字が分かれば、「牛肉を70gにする」「ルーを変える」「売価を1,000円に上げる」など、具体的な判断ができる。数字が分からないまま「なんとなく利益が出ていない気がする」と悩み続けるのが、一番もったいない。
数字で見える景色が変わる
原価管理を始めた店主からよく聞く言葉がある。
「見えると、怖くなくなる」
いくらで仕入れて、いくらで売って、いくら残るのか。この流れが見えるようになると、値上げの判断にも、仕入れ先の交渉にも、メニュー構成の見直しにも、根拠が生まれる。
「感覚でやってきたけど、数字にしたら意外と利益が出ているメニューと、赤字のメニューがはっきり分かった」——こういう気づきが、店の利益構造を変える第一歩になる。
エクセルでも、アプリでも、紙でもいい。方法は何でもいいから、まずは売れ筋5品の原価を出してみること。それが、「売上はあるのに利益が残らない」を終わらせる、一番現実的なスタートラインだ。