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「棚卸やってません」で追徴40万円──飲食店の確定申告、在庫の数え方と書き方を全解説(2026年版)

飲食店の確定申告で最も指摘される棚卸。冷蔵庫の数え方、仕込み品の扱い、申告書の記入欄まで、税理士なしで対応できる実務手順を解説。

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目次

「棚卸?やったことないけど、今まで何も言われなかったから大丈夫でしょ」

飲食店の個人事業主に棚卸の話をすると、こう返ってくることがとても多い。

気持ちはわかる。毎日の営業で精一杯なのに、12月31日の営業後に冷蔵庫の中身を全部数えろと言われても、正直面倒だ。

でも、はっきり言うと——「やってない」が通用するのは、税務調査が来るまでの話です。

国税庁のデータによると、飲食業の税務調査で不正が発見される割合は約45%。そして調査が入ったとき、最初にチェックされるのが棚卸の処理

確定申告書の「期末商品棚卸高」の欄が空欄や0円になっていたら、それだけで「この人、仕入れ全額を経費にしているな」とバレる。追徴課税は過少申告加算税10〜15%に延滞税が加算されて、年商1,000万円規模なら20〜40万円の追加納税になることも珍しくない。

この記事では、棚卸の基本から確定申告書への書き方まで、税理士に頼らなくても自分でできるように、一つずつ順番に解説する。

この記事でわかること

  • 何を数えればいいのか(食材、酒、仕込み品…調味料は?)
  • どうやって金額を出すのか(評価方法の選び方)
  • 仕込み済みの食材はどう扱うか(仕掛品の考え方)
  • 月次でやるべきか、年末だけでいいか(現実的なやり方)
  • 確定申告書のどこに書くのか(記入欄と数字の入れ方)

そもそも棚卸とは何か

棚卸を一言で言うと——

「まだ使っていない食材の金額を数えること」

確定申告では、その年に「使った」食材だけを経費にできる。でも、1月から12月に仕入れた食材のすべてが12月31日までに使われたわけではない。冷蔵庫や冷凍庫に残っている分は、まだ使っていない。

だから——

その年の食材経費 = 年間の仕入れ額 − 年末に残っている在庫の金額

この「年末に残っている在庫の金額」を出すのが棚卸。

棚卸をしないとどうなるか

具体的な数字で見てみよう。

項目金額
年間仕入れ額720万円
12月31日の在庫45万円
正しい食材経費675万円

棚卸をしないと、720万円をまるごと経費にしてしまう。つまり利益が45万円少なく申告される

所得税率20%+住民税10%で計算すると、約13.5万円の過少申告。ここに過少申告加算税(10〜15%)と延滞税が乗る。

「たった45万円の在庫で?」と思うかもしれない。でも、これが3年分溜まっていたら? 税務調査は過去3〜5年分を遡るので、合計すると数十万円の追徴になる。

何を数えるか・数えないか

ここが一番混乱するところ。

棚卸の対象になるもの(=数える)

カテゴリ具体例
食材(生鮮)肉、魚、野菜、卵、乳製品
食材(乾物・保存品)乾麺、缶詰、レトルト、米、小麦粉
飲料・酒類ビール、日本酒、ワイン、焼酎、ソフトドリンク
仕込み済み食材スープストック、漬け込み肉、ソース、仕込んだ生地

棚卸の対象にならないもの(=数えない)

カテゴリ具体例
調味料塩、砂糖、醤油、みりん、油
消耗品ラップ、アルミホイル、洗剤、紙ナプキン
使い捨て容器テイクアウト容器、割り箸、ストロー

調味料や消耗品は「消耗品費」として、買った時点ですぐ経費にしてOK。いちいち数える必要はない。

注意:高価な調味料は例外

トリュフオイル、サフラン、高級スパイスなど1個あたりの単価が高いものは、消耗品ではなく原材料として棚卸に入れた方が安全。税務調査で「これは消耗品じゃなくて原材料では?」と指摘されるリスクを避けられる。

目安としては、1本(1袋)あたり3,000円を超えるものは棚卸に含めておくのが無難。

仕込み済み食材(仕掛品)の扱い

ここは多くの飲食店オーナーが見落とすポイント。

「昨日仕込んだ豚骨スープは、もう材料を使ったから在庫じゃない」

——これは間違い

お客さんに提供するまでは、どれだけ手を加えていても「まだ使っていない」扱い。調理途中のものは**「仕掛品(しかかりひん)」**と呼ばれ、棚卸資産に含める。

仕掛品の金額はどう計算するか

難しく考えなくて大丈夫。使った原材料の仕入れ値を足すだけでいい。

例:豚骨スープ(10リットル分)

材料仕入れ値
豚骨 3kg1,200円
長ネギ 500g150円
生姜 200g100円
にんにく 100g80円
合計(=仕掛品の金額)1,530円

水やガス代は含めなくていい。原材料費だけで計算するのが、小規模飲食店の実務では一般的。

税務調査でも、小規模店舗が仕掛品に加工費(人件費や光熱費)まで積み上げていることは求められない。原材料費ベースで十分。

よくある仕掛品の例

仕掛品の例数え方
仕込んだスープ・出汁使った原材料の仕入れ値合計
漬け込み中の肉・魚肉(魚)の仕入れ値 + 漬けダレの材料費
発酵中・熟成中の食材原材料の仕入れ値合計
こねた生地(パン・ピザ)小麦粉+水以外の材料費
仕込んだソース・ドレッシング使った原材料の仕入れ値合計

在庫の金額を計算する(評価方法)

食材を数えたら、次は「それぞれいくらか」を計算する。この計算方法を**「評価方法」**と呼ぶ。

届出をしていなければ「最終仕入原価法」

税務署に届出を出していない場合、自動的に**「最終仕入原価法(さいしゅうしいれげんかほう)」**が適用される。

これは、その食材を最後に仕入れたときの単価を使うというシンプルな方法。

例:鶏もも肉の棚卸

  • 10月に仕入れ:1kgあたり680円
  • 11月に仕入れ:1kgあたり720円
  • 12月に仕入れ:1kgあたり750円 ← これを使う

12月31日に冷蔵庫に3kg残っていたら——

750円 × 3kg = 2,250円

これが棚卸の金額。

他の評価方法

方法特徴向いている店
最終仕入原価法直近の仕入れ値を使う。最もシンプルほとんどの飲食店はこれでOK
先入先出法古い仕入れ分から順に使ったとみなす仕入れ単価の変動が大きい店
移動平均法仕入れのたびに平均単価を計算し直す品目数が少なく、厳密に管理したい店
総平均法年間の平均仕入れ単価を使う年1回の計算で済ませたい店

最終仕入原価法以外を使いたい場合は、その年の確定申告の期限までに税務署へ届出が必要。 届出を出さない限り、最終仕入原価法が自動で適用される。

正直なところ、小規模な飲食店であれば最終仕入原価法で十分。計算がシンプルだし、税務署側もこの方法を前提としてチェックする。

年末棚卸の具体的な手順

「やり方はわかった。でも具体的にどう動けばいいの?」

12月31日(または最終営業日)の営業終了後に、以下の手順で進める。

ステップ1:エリアごとに分けて数える

一気に全部数えようとすると混乱する。保管場所ごとに分けるのがコツ。

エリア数えるもの
冷蔵庫肉、魚、野菜、乳製品、開封済みの調味料(高額品のみ)
冷凍庫冷凍肉、冷凍魚介、アイス、冷凍野菜
ドライストック(棚・倉庫)米、乾麺、缶詰、レトルト、製菓材料
ドリンク在庫ビール、日本酒、ワイン、焼酎、ソフトドリンク
仕込み品スープ、漬け込み肉、ソース、生地など

ステップ2:数量を記録する

シンプルなリストでいい。手書きでもスマホのメモでもスプレッドシートでも。

【冷蔵庫】2026年12月31日
・鶏もも肉   4kg
・豚バラ肉   2.5kg
・サーモン   1.5kg
・卵      30個(3パック)
・牛乳     2本(1L×2)

ステップ3:仕入れ単価をかけて金額を出す

最終仕入原価法なら、一番最近の仕入れ伝票の単価を使う

・鶏もも肉 4kg × 750円/kg = 3,000円
・豚バラ肉 2.5kg × 980円/kg = 2,450円
・サーモン 1.5kg × 1,800円/kg = 2,700円
・卵    3パック × 280円 = 840円
・牛乳   2本 × 220円 = 440円

ステップ4:全エリアの合計を出す

エリア金額
冷蔵庫38,500円
冷凍庫52,000円
ドライストック28,000円
ドリンク85,000円
仕込み品12,500円
合計(期末商品棚卸高)216,000円

この合計金額が、確定申告書に書く数字になる。

ステップ5:棚卸表を保管する

数えた結果をまとめた紙(棚卸表)は、確定申告書には添付しない。でも捨ててはいけない。

申告方法保管期間
青色申告7年
白色申告5年

税務調査が入ったら、「棚卸表を見せてください」と言われる。これを出せないと、棚卸の数字に根拠がないことになり、調査官の心証が一気に悪くなる。

確定申告書への書き方

棚卸の数字が出たら、確定申告書に記入する。ここでは青色申告決算書(一般用)の場合を説明する。

記入する場所

青色申告決算書の1ページ目(損益計算書)

内容
期首商品棚卸高前年の12月31日の在庫(=今年の1月1日の在庫)198,000円
仕入金額その年の仕入れ総額7,200,000円
期末商品棚卸高今年の12月31日の在庫(←今回数えた数字)216,000円

この3つの数字から、売上原価が計算される。

売上原価 = 期首棚卸高 + 仕入金額 − 期末棚卸高

198,000 + 7,200,000 − 216,000 = 7,182,000円

もう一つ:貸借対照表にも記入する

青色申告決算書の4ページ目(貸借対照表)

「棚卸資産」の欄に、期首(1月1日)と期末(12月31日)の金額を記入する。

項目期首期末
棚卸資産198,000円216,000円

絶対に守るべきルール

今年の「期末商品棚卸高」= 来年の「期首商品棚卸高」

この数字は完全に一致していなければならない。 もしズレていたら、税務署はすぐに気づく。機械的にチェックされるポイントなので、ここで不一致があると調査対象になりやすい。

月次棚卸──やるべきか?

結論から言うと、やった方がいい。でも、完璧にやる必要はない。

月次棚卸のメリット

  1. 原価率をリアルタイムで把握できる

    • 「先月の原価率が35%だったのに、今月は42%に跳ね上がっている」→ すぐに原因を調べられる
  2. 年末の棚卸が楽になる

    • 毎月やっていると、食材の場所や数え方に慣れる。12月31日に初めてやろうとすると3〜4時間かかることが、慣れれば1時間で終わる
  3. ロス(廃棄・盗難)に早く気づける

    • 帳簿上の在庫と実際の在庫のズレが0.5%を超えたら、何かがおかしい

「でも毎月は無理」という人へ

正直、毎月全品目を数えるのは小規模店にはキツい。現実的な妥協案はこう。

レベル頻度やること
ミニマム年1回(12月31日)確定申告用の必須棚卸のみ
おすすめ月1回(月末)高額品だけ数える(肉・魚・酒)
理想月1回(月末)全品目を数える

「おすすめ」レベルでも十分効果がある。肉・魚・酒類の3カテゴリだけで在庫金額の7〜8割を占めることが多いので、ここだけ押さえれば原価率のブレはだいたいわかる。

月次原価率の計算

月次棚卸をすると、毎月の正確な原価率が出せる。

月の売上原価 = 月初在庫 + 当月仕入れ − 月末在庫

原価率 = 月の売上原価 ÷ 月の売上高 × 100

例:1月の原価率

項目金額
1月1日の在庫216,000円
1月の仕入れ580,000円
1月31日の在庫201,000円
1月の売上原価595,000円
1月の売上1,800,000円
原価率33.1%

この数字が毎月出ていると、「いつもは32〜34%なのに今月だけ38%になった」という異常にすぐ気づける。気づいたときに調べれば、仕入れ値の上昇、ポーションのブレ、廃棄の増加など、原因を特定できる。

気づかずに3ヶ月放置すると、失われた利益は取り戻せない。

2026年10月のインボイス制度変更と棚卸の関係

2026年10月から、インボイス制度の経過措置が変わる。棚卸に直接影響するポイントが一つある。

非登録事業者からの仕入れに注意

インボイス登録をしていない仕入先(たとえば直売所の農家や個人の漁師)から食材を買っている場合——

時期仕入税額控除の割合
〜2026年9月仕入れの消費税の**80%**を控除できる
2026年10月〜仕入れの消費税の**70%**に下がる
2029年10月〜控除できなくなる

つまり、2026年9月末時点で非登録事業者から仕入れた食材が在庫に残っている場合、10月以降は同じ食材でも控除率が変わる。消費税の申告に影響するので、9月末の棚卸は少し丁寧にやった方がいい。

ただし、これは消費税の申告をしている課税事業者の話。免税事業者(年商1,000万円以下で消費税を納めていない人)には関係ない。

棚卸ができたら、原価管理はもう半分終わっている

棚卸は面倒な作業だと思われがち。でも実は、棚卸をきちんとやっている飲食店は、原価管理の土台がすでにできている

  • 毎月の在庫がわかれば、正確な原価率がわかる
  • 原価率がわかれば、どのメニューで利益が出ているかがわかる
  • 利益の構造がわかれば、値上げすべきメニュー、原価を見直すべきメニューが見える

KitchenCostでレシピごとの原価を管理しておくと、棚卸の数字と合わせて「仕入れた食材がどのメニューにどれだけ使われたか」を追跡できる。確定申告のときに税務調査対策にもなるし、日常的に「原価率が上がったのはどのメニューのせいか」がすぐわかるようになる。

棚卸をやる → 原価率がわかる → メニューの利益構造が見える。この流れができれば、確定申告のためだけの面倒な作業ではなくなる。

今週やることチェックリスト

  • 自分の確定申告書を確認し、「期末商品棚卸高」の欄に数字が入っているか見る
  • 入っていなければ、今年の12月31日は棚卸をやると決める
  • 棚卸テンプレート(数える場所・品目リスト)を作っておく
  • 冷蔵庫・冷凍庫の中を整理して、同じ食材を同じ場所にまとめる
  • 直近の仕入れ伝票を1ヶ月分だけ保管場所を決めて整理する
  • 仕込み品(スープ、漬け込み、ソースなど)がある場合、それも数える対象だと覚えておく
  • 非登録事業者から仕入れている食材がないか確認する(2026年10月の制度変更に備えて)

出典・参考:

  • 国税庁「令和6年分 青色申告の決算の手引き」
  • 国税庁「棚卸資産の評価の方法」
  • 弥生「飲食店の棚卸のきほんと確定申告での処理」
  • マネーフォワード「期末商品棚卸高とは?計算方法や仕訳例」
  • フーズチャネル「飲食店の棚卸のきほん──商品と消耗品の分け方」
  • 近畿システムサービス「飲食店の棚卸しとは?必要性や手順、効率的な方法」
  • 食べログ「飲食店における棚卸のやり方」
  • 在庫管理110番「仕掛品を棚卸資産として計上する方法」
  • 自営百科「棚卸資産とは?価値の評価・仕訳例・決算書の記入例」
  • 税務調査110番「飲食店の税務調査の傾向と対策」

よくある質問

飲食店の棚卸で、調味料やラップも数える必要がありますか?

いいえ、調味料(塩・砂糖・醤油など)やラップ・洗剤などの消耗品は棚卸の対象外です。これらは「消耗品費」として、買った時点で経費に計上します。数えるのは、食材・飲料・酒類など、メニューとして提供する商品の材料です。ただし高価なスパイスやトリュフオイルなど単価が高いものは、商品の原材料として棚卸に含める方が安全です。

仕込み済みの食材(スープや漬け込み肉など)は棚卸に入れますか?

はい、入れます。まだお客さんに提供していない食材は、たとえ調理途中でも「仕掛品(しかかりひん)」として棚卸資産に計上します。金額は使った原材料の仕入れ価格で計算すればOKです。たとえば豚骨スープを仕込んだなら、使った豚骨・野菜・水以外の材料費の合計が仕掛品の金額になります。

棚卸の評価方法はどれを選べばいいですか?

届出をしていなければ、自動的に「最終仕入原価法」が適用されます。これは直近の仕入れ値をそのまま使う方法で、小規模飲食店には最もシンプルです。他の方法(先入先出法、移動平均法など)に変更したい場合は、その年の確定申告期限までに税務署に届出が必要です。特別な理由がなければ、最終仕入原価法のままで問題ありません。

月次棚卸にどれくらい時間がかかりますか?

20〜30席規模の飲食店で、慣れれば1〜2時間程度です。初回は食材の整理やテンプレート作成に3時間ほどかかることもありますが、2回目以降は格段に早くなります。冷蔵庫・冷凍庫・ドライストックの3エリアに分けて、同じ順番で毎月数えるのがコツです。

棚卸をしていないと税務調査でどうなりますか?

棚卸をしていない=仕入れ全額を経費にしている=利益を過少申告していることになります。税務調査では100%チェックされるポイントで、棚卸高が「0円」や空欄になっていると、まず間違いなく指摘されます。追徴課税は過少申告加算税10〜15%+延滞税で、年商1,000万円規模の飲食店なら20〜40万円の追加納税になるケースが一般的です。

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