確定申告の季節になると、毎年同じことで悩んでいませんか。「この食材、経費でいいんだっけ?」「まかないって売上に入れるの?」「インボイスの届出、いつまでだっけ…」
——正直に言います。飲食店オーナーの確定申告は、知っているかどうかだけで納税額が年間20万円以上変わることがあります。
たとえば、青色申告の65万円控除をe-Taxで取るだけで、所得税+住民税で約10万円の差。小規模企業共済を月7万円かけていれば、さらに約25万円の節税。逆に、使えたはずの経費を見落としていたら? その分は丸ごと「余計に払った税金」です。
先に結論
- 飲食店で使う勘定科目は15種類程度。一度覚えれば毎月の仕訳はパターン化できる
- まかない(自家消費)は売上計上が必要。やっていないと税務調査で確実に指摘される
- インボイス2割特例は2026年12月期で終了。届出の判断期限は2026年中
- 青色申告65万円控除はe-Tax必須。紙提出では55万円に減る
- 小規模企業共済+経営セーフティ共済で年間最大324万円の節税枠が使える
飲食店で使う主な勘定科目——これだけ覚えれば8割カバーできる
「勘定科目」という言葉だけで身構えてしまう方もいると思います。でも、飲食店で実際に使うのは15種類ほど。以下の表を手元に置いておけば、日々の記帳で迷うことはほぼなくなります。
| 勘定科目 | 何に使うか | 具体例 |
|---|---|---|
| 仕入高 | 食材・ドリンクの仕入れ | 野菜、肉、魚、酒類、調味料 |
| 給料賃金 | アルバイト・パートへの給与 | 時給×勤務時間の支払い |
| 地代家賃 | 店舗の家賃 | 月額賃料(共益費含む) |
| 水道光熱費 | 電気・ガス・水道 | ガスはコンロ使用量が大きくなりがち |
| 消耗品費 | 10万円未満の備品 | 調理器具、食器、洗剤、おしぼり |
| 減価償却費 | 10万円以上の設備を分割計上 | 冷蔵庫、製氷機、エアコン |
| 広告宣伝費 | 集客にかかった費用 | チラシ印刷、食べログ掲載料、SNS広告 |
| 通信費 | 電話・ネット代 | 店舗のWi-Fi、電話回線 |
| 旅費交通費 | 仕入れ先への移動費 | 市場への交通費、駐車場代 |
| 接待交際費 | 取引先との飲食 | 酒屋さんとの会食、同業者との情報交換 |
| 損害保険料 | 火災保険・賠償責任保険 | 店舗総合保険の年額 |
| 修繕費 | 設備の修理代 | 冷蔵庫の修理、内装の補修 |
| 衛生費 | 衛生管理にかかる費用 | 害虫駆除、グリストラップ清掃 |
| 福利厚生費 | 従業員への福利サービス | 制服のクリーニング、健康診断 |
| 雑費 | 上記に当てはまらない少額支出 | ゴミ処分費、書籍代 |
💡 ポイント:「雑費」を多用すると、税務調査で中身を細かく聞かれやすくなります。月1万円を超える支出は、できるだけ具体的な科目に振り分けてください。
すぐ真似できる——飲食店の仕訳5パターン
実際の帳簿にどう書くのか。よくある5つの取引を仕訳で見てみましょう。会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)を使っていれば、この仕訳は自動で作られます。ただ「何をやっているか」を理解しておくと、入力ミスや科目選びの間違いに自分で気づけるようになります。
パターン1:食材の仕入れ(現金払い)
近所のスーパーで野菜を5,000円分、現金で買った場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 |
レシートの裏に「◯◯店用 野菜仕入れ」とメモしておくだけで、税務調査の際にもスムーズに説明できます。
パターン2:まかない(自家消費)の計上
スタッフと自分用に1食500円相当のまかないを出した場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 500円 | 売上高(自家消費) | 500円 |
ここが要注意です。まかないは「タダで食べてるから帳簿に関係ない」と思われがちですが、税務上は自家消費として売上に計上する義務があります。金額は、仕入れ原価以上かつ通常販売価格の70%以上で記録してください。
1日500円×月25日=月12,500円。年間で15万円の売上漏れになります。税務調査では確実に確認されるポイントです。
📖 まかないの処理をもっと詳しく知りたい方は:飲食店オーナーが知っておくべき「まかない」の経費と自家消費ルール
パターン3:厨房機器の購入(30万円未満)
業務用ミキサーを15万円で購入した場合。青色申告者なら、少額減価償却資産の特例が使えます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 150,000円 | 普通預金 | 150,000円 |
通常、10万円以上の資産は何年もかけて少しずつ経費にします(減価償却)。でも、青色申告をしている方は30万円未満の資産をその年に一括で経費にできます(年間合計300万円まで)。これが「少額減価償却資産の特例」です。
⚠️ 30万円以上の大型機器(業務用冷蔵庫、製氷機など)は通常の減価償却が必要です。飲食店設備の法定耐用年数は多くが6〜8年。毎年その分だけ経費に入れます。
パターン4:自宅兼店舗の家賃(家事按分)
自宅兼店舗で家賃が月15万円、うち店舗スペースが60%の場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 地代家賃 | 90,000円 | 普通預金 | 150,000円 |
| 事業主貸 | 60,000円 |
これが「家事按分」(かじあんぶん)——聞き慣れない言葉ですが、やっていることは単純です。自宅と店舗を兼ねている場合、面積の割合で経費にできる分を分けるだけ。家賃だけでなく、電気代・水道代・通信費にも同じ考え方が使えます。
パターン5:クレジットカードでの仕入れ
業務用食材をカードで8万円分購入した場合。
購入時:
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入高 | 80,000円 | 未払金 | 80,000円 |
引き落とし時:
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 80,000円 | 普通預金 | 80,000円 |
カード明細の日付と実際の引き落とし日がズレるため、2段階で記帳するのが正式な処理です。ただし、毎月の少額仕入れなら「引き落とし時にまとめて仕入高で計上」でも実務上は問題ありません。
【2026年最重要】インボイス2割特例が終わる——届出は年内に
2023年10月にインボイス制度が始まったとき、「とりあえず2割特例でいいか」と登録した方は多いと思います。
その2割特例が2026年9月30日で終了します。
「でも自分は個人事業主だから12月決算でしょ?」——そうです。個人事業主の場合は2026年12月期の申告までは2割特例が使えます。問題は、その次の年をどうするかです。
2割特例終了後のスケジュール
| 時期 | 何が起きるか | やるべきこと |
|---|---|---|
| 〜2026年9月 | 2割特例の最終課税期間(法人) | — |
| 2026年12月 | 個人事業主の2割特例が使える最後の年 | 2027年の課税方式を決める |
| 2026年12月31日 | 簡易課税届出書の提出期限 | 届出を出すならこの日まで |
| 2027年1月〜 | 3割特例(個人のみ)or 簡易課税が開始 | — |
| 2028年12月 | 3割特例の最終年 | 簡易課税への完全移行を検討 |
飲食店オーナーが選べる3つの道
① 3割特例を使う(個人事業主のみ、2027-2028年)
- 売上にかかる消費税の30%を納税。届出は不要
- 2割特例より負担は増えるが、簡易課税の40%納税よりは少ない
- 2年間だけの時限措置
② 簡易課税を選ぶ
- 飲食業のみなし仕入率は60%。つまり売上消費税の40%を納税
- 届出期限:2026年12月31日(個人事業主)
- 帳簿が楽になる。仕入れの消費税を1件ずつ計算しなくていい
③ 本則課税(原則課税)を選ぶ
- 売上の消費税から仕入れの消費税を差し引いた額を納税
- 大きな設備投資をした年は、納税額が減る(場合によっては還付も)
- 帳簿・請求書の管理がもっとも手間がかかる
金額でどれくらい違うの?
年間売上1,000万円(税抜)の飲食店の場合を見てみましょう。
| 課税方式 | 納税額の目安 | 計算の仕組み |
|---|---|---|
| 2割特例 | 約20万円 | 消費税100万円 × 20% |
| 3割特例 | 約30万円 | 消費税100万円 × 30% |
| 簡易課税 | 約40万円 | 消費税100万円 × 40% |
| 本則課税 | 約45万円〜 | 実際の仕入控除額による |
※売上消費税100万円(=税抜売上1,000万円×10%)として概算
2割特例と簡易課税で年間20万円の差。小さくない金額です。
💡 結論:まず2027-2028年は3割特例を使い、同時に簡易課税届出書を2026年中に提出しておくのが安全策です。届出を出しておけば3割特例が終わったあと自動的に簡易課税に切り替わります。届出を忘れると、本則課税(負担がもっとも重い方式)が適用されるリスクがあります。
青色申告65万円控除を「確実に」受ける方法
青色申告の65万円控除は、飲食店オーナーにとって最大級の節税手段です。ところが、条件を一つでも満たせないと控除額が10万円に下がります。差額55万円に税率をかけると最低でも約8万円以上の損です。
65万円控除の3つの条件
| 条件 | やること | つまずきやすいポイント |
|---|---|---|
| ① 複式簿記 | 借方・貸方で帳簿をつける | 会計ソフトを使えばほぼ自動 |
| ② e-Tax | 電子申告で提出する | マイナンバーカードが必要 |
| ③ 期限内提出 | 2026年は3月16日(月)まで | 1日でも遅れると10万円になる |
⚠️ 3月15日は日曜日のため、2026年は3月16日(月)が期限です。ただし、ギリギリ提出はe-Taxのシステム混雑リスクがあります。3月10日までに完了を目標にしてください。
2027年からの変更——知らないと損する
令和8年度税制改正大綱で、75万円控除が新設されることが決まりました。2027年分の申告から適用されます。
| 申告方法 | 現在(2026年分まで) | 2027年分〜 |
|---|---|---|
| 優良電子帳簿 + e-Tax | 65万円 | 75万円 |
| e-Taxのみ | 65万円 | 65万円 |
| 紙で提出 | 55万円 | 10万円 |
注目すべきは紙提出の控除額です。55万円→10万円に大幅に下がります。まだe-Taxを使っていない方は、今年の確定申告から切り替えておくのが賢明です。
見落としがちな5つの節税テクニック
確定申告のたびに「もっと早く知りたかった…」と言われるものを5つまとめました。
1. 小規模企業共済——退職金がない個人事業主の味方
月額1,000円〜70,000円までの掛金が、全額所得控除になります。年間最大84万円。
月7万円×12ヶ月=年84万円を掛けた場合、所得税率20%+住民税10%の方なら年間約25万円の節税になります。しかも、廃業時や65歳以上で受け取る「退職金」にもなります。従業員には退職金があるのに、オーナー自身にはない——その不公平感を解消してくれる制度です。
2. 経営セーフティ共済——全額経費で積み立てる
正式名称は「中小企業倒産防止共済」。月額5,000円〜200,000円の掛金が全額必要経費になります。年間最大240万円。
40ヶ月以上掛けると解約時に全額(100%)戻ってきます。つまり、経費にしながら貯金しているようなものです。
ただし注意点が一つ。2024年10月の改正で、解約後2年以内に再加入した場合は掛金を経費にできなくなりました。「年末に解約→年始に再加入」という節税テクニックはもう使えません。
3. 基礎控除の引き上げ——2026年分から58万円に
2026年分の確定申告から、基礎控除が48万円→58万円に引き上げられました。
10万円分の控除が増えるので、所得税率20%の方なら約2万円の節税です。とくに手続きは不要で、確定申告書に記入するだけで自動的に適用されます。
4. 少額減価償却資産の特例——30万円未満は一括経費に
前のセクションでも触れましたが、青色申告者は30万円未満の資産を購入年度に全額経費にできます。
28万円の業務用冷蔵庫を買った場合の比較:
| 通常の減価償却 | 少額特例 | |
|---|---|---|
| 初年度の経費 | 約4.7万円 | 28万円 |
| 初年度の節税効果 | 約1.4万円 | 約8.4万円 |
※所得税率20%+住民税10%、耐用年数6年で計算
厨房機器の入れ替えが多い飲食店では、このタイミングの差が大きく効いてきます。
5. 青色事業専従者給与——家族への給与を全額経費に
配偶者やお子さんが店舗で働いている場合、「青色事業専従者給与」として給与全額を経費にできます。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 届出 | 「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に税務署へ提出 |
| 専従者の要件 | 15歳以上、年間6ヶ月を超えてその事業に専念していること |
| 給与額 | 仕事の内容と時間に見合った金額であること(過大だと否認される) |
仮に月20万円の専従者給与なら年間240万円が経費に。所得税率20%+住民税10%で約72万円の節税です。
ただし、配偶者控除(38万円)や扶養控除が使えなくなります。「専従者給与にした方が得か、控除のままの方が得か」はケースバイケースなので、金額を比較してから判断してください。
今週やること——確定申告チェックリスト
- 帳簿ソフトで2025年分の仕訳が完了しているか確認する(30分)
- 12月31日時点の棚卸し(冷蔵庫・冷凍庫・乾物の在庫金額)が記録されているか確認する(15分)
- まかない(自家消費)が毎月売上計上されているかチェックする(10分)
- 10万円以上の購入品が正しく減価償却 or 少額特例で処理されているか確認する(10分)
- e-Taxの利用者識別番号とマイナンバーカードを準備する(初回のみ20分)
- インボイス:2027年の課税方式を決めて、簡易課税届出書の提出要否を判断する(15分)
- 小規模企業共済・経営セーフティ共済の加入を検討する(未加入の方)
💡 日々の食材仕入れや原価を把握しておくと、確定申告時の仕入高の集計がぐっと楽になります。KitchenCostのようなレシピ原価計算アプリを使えば、食材コストが自動で記録されるので、帳簿づけの手間も減らせます。
まとめ
飲食店の確定申告は、「正しく経費を計上する」「使える制度を知っている」の2つだけで、年間数十万円の差が出ます。
2026年はとくに変化が大きい年です。
- インボイス2割特例の終了——届出の判断期限は年内
- 基礎控除の引き上げ——48万円から58万円へ
- 2027年に向けたe-Tax移行——紙提出の控除が55万円から10万円に激減
「あとでやろう」を「今週やる」に変えるだけで、来年の確定申告は確実に楽になります。
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