確定申告の時期になると、飲食店オーナーの多くがこう思います。
「とりあえず領収書を集めて、売上と経費を入力すればいいんだろう」
その認識、半分正解で半分間違いです。
飲食店の確定申告には、他の業種にはない特有の落とし穴がいくつかあります。そしてその落とし穴にハマると、後から税務調査で指摘されて追徴課税を払うことになる。
国税庁のデータによると、飲食業の税務調査で不正が見つかる割合は——
- バー・クラブ:62.3%
- その他の飲食業:45.2%
- 外国料理店:40.2%
つまり、調査が入ったら約半数で何かしら問題が見つかるということ。
「うちは売上をごまかしてないから大丈夫」と思っていても、悪意なくやってしまっている間違いが実はたくさんあります。この記事では、飲食店の確定申告で特に多い7つの間違いを、具体的な対処法と一緒に解説します。
先に結論
- 棚卸をしていない → 一番やばい。 税務調査で100%チェックされる
- 自家消費(まかない)を売上に入れていない → 意外と知らない人が多い
- 10万円以上の設備を一括で経費にしている → 減価償却が必要
- 開業費の扱いを間違えている → 実は「いつ経費にするか選べる」おトクな仕組み
- 青色申告の65万円控除を取りこぼしている人が多い
- 2027年から青色申告の制度が変わる。 紙提出は控除が10万円に激減
間違い①:棚卸(たなおろし)をしていない
これが飲食店の確定申告で最も多い間違いであり、税務調査で最も指摘されるポイントです。
棚卸とは?
12月31日の時点で、お店に残っている食材・飲料の金額を数えること。
「え、冷蔵庫の中の食材を全部数えるの?」
はい、そうです。
なぜ必要なのか
確定申告では、「その年に使った食材の金額」を経費として計上します。しかし、1月〜12月に仕入れた食材の全額が、その年に「使われた」わけではありません。12月31日に冷蔵庫に残っている食材は、まだ使っていない。
つまり——
その年の食材経費 = 年間の仕入れ額 − 年末の在庫額
棚卸をしないと、仕入れ全額を経費にしてしまう=利益を実際より少なく申告してしまうことになります。
具体例
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 年間仕入れ額 | 600万円 |
| 12月31日の在庫 | 40万円 |
| 正しい食材経費 | 560万円 |
棚卸をしないと600万円を経費にしてしまい、利益が40万円少なく申告される。所得税率が20%なら、8万円の過少申告。これに延滞税や加算税がつきます。
やり方
難しく考えなくて大丈夫です。
- 12月31日(営業終了後)に冷蔵庫・冷凍庫・棚を確認
- 残っている食材をリストアップ(肉○kg、野菜○kg、酒○本…)
- それぞれの仕入れ単価をかけて合計額を出す
完璧な数字でなくても構いません。「だいたいこれくらい」の金額を、根拠を持って算出することが大事です。
間違い②:自家消費(まかない)を売上にしていない
お店の食材で自分や家族のごはんを作る。飲食店では当たり前のこと。
でもこれ、「自分に対する売上」として計上しなければなりません。
計算方法
自家消費の売上額は、次のうち高い方——
- 販売価格
- 仕入れ値 と 販売価格の70% のうち高い方
例:ラーメン1杯(販売価格900円、原価300円)を自分で食べた場合
- 販売価格の70% = 630円
- 仕入れ値 = 300円
- 630円 > 300円 なので、630円を売上に計上
「毎回そんな計算するの?」と思うかもしれません。実務的には、**月末にまとめて「まかない○回 × ○円 = ○円」**と記録すればOKです。
税務調査ではこう聞かれる
調査官:「従業員のまかないはどうされていますか?」 調査官:「オーナーの食事はどう処理していますか?」
これに答えられないと、「売上除外」(売上を隠している)とみなされる可能性があります。
間違い③:10万円以上の設備を一括で経費にしている
業務用の冷蔵庫を50万円で買った。「経費50万円」で計上——これは間違いです。
減価償却(げんかしょうきゃく)のルール
10万円以上の設備・備品は、購入した年に全額経費にすることはできません。「耐用年数」に応じて、何年かに分けて経費にする必要があります。
| 設備 | 耐用年数 | 1年あたりの経費(定額法) |
|---|---|---|
| 業務用冷蔵庫(50万円) | 6年 | 約8.3万円 |
| エアコン(30万円) | 6年 | 約5万円 |
| 食洗機(60万円) | 6年 | 約10万円 |
ただし——
- 10万円未満:全額その年の経費にできる(消耗品費)
- 10万円以上〜30万円未満:青色申告なら「少額減価償却資産の特例」で全額経費OK(年間合計300万円まで)
- 30万円以上:減価償却が必要
つまり、青色申告をしていれば30万円未満のものは一括で経費にできます。 これを知らずに全部減価償却している人も、逆に知らずに30万円以上のものを一括経費にしている人もいます。
間違い④:開業費の扱いを間違えている
開業前にかかったお金(物件の下見の交通費、試作の材料費、研修費など)は「開業費」として処理します。
よくある間違い
- 開業費を全額、開業した年の経費にしている
- 家賃や仕入れを開業費に入れている
正しい扱い
開業費は「繰延資産(くりのべしさん)」という特殊な扱いで、いつ経費にするか自分で選べます。
これを「任意償却」と言います。
なぜこれがおトクなのか
開業1年目は赤字のことが多い。赤字の年に開業費を全額経費にしても、節税効果はゼロ。
でも任意償却なら、2〜3年目に利益が出たタイミングで経費にできる。 その年の税金を大きく減らせます。
開業費にできるもの・できないもの
| 開業費にできる | 開業費にできない |
|---|---|
| 物件の下見の交通費 | 開業前の家賃(毎月の固定費) |
| 名刺・チラシの印刷代 | 開業前の仕入れ(在庫として計上) |
| 開業前の研修費 | 10万円以上の設備(固定資産として計上) |
| 市場調査の費用 | 敷金・保証金(資産として計上) |
| 開業前の打ち合わせの飲食代 |
間違い⑤:年末年始の売上計上がずれている
12月の売上なのに、入金が1月になる場合があります。
たとえば——
- 12月31日の忘年会のクレジットカード決済 → 入金は1月
- 12月分のUber Eatsの売上 → 入金は1月
この場合、12月の売上として計上する必要があります。 お金が入ったタイミングではなく、サービスを提供したタイミングで売上を認識するのがルール(発生主義)。
入金ベースで処理していると、12月の売上が翌年に計上されてしまい、今年の利益を少なく申告していることになります。
間違い⑥:飲食代の経費の区分が曖昧
飲食店オーナーが食事の経費を計上するとき、混乱しがちなのが区分です。
| 場面 | 勘定科目 | 条件 |
|---|---|---|
| 仕入先との会食 | 接待交際費 | 1人あたり1万円以下なら全額経費OK(2024年税制改正) |
| 従業員との食事会 | 福利厚生費 | 全員参加が条件。特定の人だけだと交際費 |
| 一人での食事 | 原則、経費にならない | 業務との直接的な関連を証明できれば可能 |
| 試食・新メニュー開発 | 研究開発費 or 仕入高 | メモを残すこと |
領収書の裏に書くべき3つのこと
- いつ(日付)
- 誰と(相手の名前・会社名)
- 何のために(業務上の目的)
これがないと、税務調査で「本当に仕事の食事ですか?」と聞かれたときに証明できません。
間違い⑦:人件費の処理が不完全
パート・アルバイトへの給料
- 源泉徴収(げんせんちょうしゅう)をしているか? 月88,000円以上の給料からは所得税を天引きする義務がある
- 給与支払報告書を市区町村に提出しているか?
現金手渡しで給料を払っていて、源泉徴収をしていない——というケースは、税務調査で必ず指摘されます。
家族への給料
奥さんや家族に給料を払う場合、「青色事業専従者給与」の届出が必要です。届出をしていないと、家族への給料は経費として認められません。
また、金額が不相当に高い場合も否認されます。「配偶者に月50万円の給料」は、業務内容に見合っていなければ認められません。
青色申告で最大65万円の控除を取る
まだ白色申告でやっている方は、青色申告に切り替えるだけで最大65万円の所得控除が受けられます。
| 申告方法 | 控除額 | 条件 |
|---|---|---|
| 青色申告(e-Tax) | 65万円 | 複式簿記 + 電子申告 |
| 青色申告(紙) | 55万円 | 複式簿記 + 紙提出 |
| 白色申告 | なし | 簡易帳簿でOK |
所得が300万円の場合、65万円控除を使えると——
- 所得税 + 住民税 + 国民健康保険料を合わせて年間約15〜20万円の節税になります。
2027年からの大きな変更
2027年(令和9年)から青色申告の控除額が変わります。
| 条件 | 現行(〜2026年) | 2027年〜 |
|---|---|---|
| e-Tax+複式簿記 | 65万円 | 75万円 |
| 紙+複式簿記 | 55万円 | 10万円 |
紙提出の控除が55万円 → 10万円に激減します。まだe-Taxを使っていない方は、2027年までに移行しておくことを強くおすすめします。
確定申告の前にやっておくべきこと
確定申告で困るのは、日常の記録が不十分だからです。
毎月やっておくべき3つのこと——
- 売上を毎日記録する。 レジの日計表を保存。現金とカードは分けて記録
- 領収書を分類して保管する。 「仕入」「消耗品」「交際費」など、もらったその日に分類
- 月末に棚卸の習慣をつける。 12月だけでなく、毎月やっておくと年末が楽
この3つを習慣にしておけば、確定申告は「12ヶ月分のまとめ作業」になります。1年分を一気にやろうとするから大変になる。
原価の把握も同じです。KitchenCostでレシピごとの原価を日常的に管理しておけば、確定申告のときに**「仕入れと原価率の関係」が明確**になります。税務調査で「原価率が異常に高い」と疑われることも防げます。
今週やることチェックリスト
- 自分が青色申告をしているか確認する(白色なら切り替えを検討)
- e-Taxの利用登録がまだなら登録する(2027年の制度変更に備えて)
- 12月31日の棚卸のやり方を確認し、今年から実施する
- 自家消費(まかない)の記録方法を決める(月末にまとめて記録)
- 領収書の裏に「いつ・誰と・何のため」を書く習慣を始める
- 10万円以上の設備購入の記録を確認し、減価償却の処理を見直す
- 家族に給料を払っている場合、青色事業専従者給与の届出を確認する
出典・参考:
- 国税庁「令和7年分 基礎控除の見直しについて」
- 弥生「飲食店経営の確定申告ガイド」
- マネーフォワード「飲食店の確定申告で押さえておきたいポイント」
- 石橋税理士事務所「飲食業の確定申告のポイント」
- 税務調査110番「飲食店の税務調査の傾向と対策」
- HT Tax「飲食店の税務調査の流れと対応策」
- 個人経営サポート「居酒屋が税務調査で指摘されないために」
- 林会計事務所「飲食店の確定申告——65万円控除を狙う青色申告」
- freee「開業費の繰延資産としての処理」