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「2割特例が終わったらどうする?」──届出1枚で消費税が年10万円変わる飲食店の話

インボイスの2割特例が2026年12月で終了。届出を1枚出さないまま2029年を迎えると消費税の納税額が2割→4割に倍増する。3割特例で凌げるのは2年間だけ。年商500万円の飲食店で年間約9万円の差がつく「簡易課税届出書」の出し方と、一番トクな選び方を解説。

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目次

「2割特例のおかげで消費税、思ったより安く済んでる」

インボイス制度が始まった2023年10月以降、こう感じている飲食店オーナーは多いと思う。売上にかかる消費税の2割だけ納めればいい。面倒な計算もいらない。月1万円くらいで済んでいるという人もいるだろう。

でも、それは2026年12月で終わる。

「知ってたけど、まだ先の話だと思ってた」──そう思ったなら、この記事を読む価値がある。

2025年12月に発表された令和8年度税制改正大綱で、2027年からの「3割特例」が新設された。個人事業主なら届出なしで使える。だから2027年にいきなり税負担が倍になるわけではない。

問題は2029年以降だ。 届出を1枚出しておくかどうかで、消費税の額が年間10万円近く変わる。しかもその届出には期限がある。

先に結論

  • 2割特例は2026年12月で終了。 個人事業主の場合、2026年分の確定申告が最後
  • 2027〜2028年は「3割特例」で凌げる。 個人事業主なら届出不要、確定申告で選ぶだけ
  • 法人は3割特例が使えない。 2027年から即、簡易課税か原則課税を選ぶ必要がある
  • 2029年以降は簡易課税がおすすめ。 届出を出しておかないと原則課税(帳簿が大変&税額が増える)になる
  • 届出の期限は2026年12月31日。 出し忘れても2027年3月15日まで猶予あり(経過措置)
  • 届出を出しても3割特例は使える。 「とりあえず出しておく」が最善策

2割特例が終わると、消費税はいくら増えるのか

まず数字で見てほしい。

年商500万円(税抜)の個人経営の飲食店の場合:

■ 売上にかかる消費税の内訳(概算)
・10%対象(店内飲食・酒類):300万円 → 消費税30万円
・ 8%対象(テイクアウト等):200万円 → 消費税16万円
・合計:46万円

■ 各制度での納税額
┌──────────────┬──────────┬──────────┐
│   制度        │ 計算方法  │ 年間納税額 │
├──────────────┼──────────┼──────────┤
│ 2割特例      │ 46万×20% │  9.2万円  │
│ 3割特例      │ 46万×30% │ 13.8万円  │
│ 簡易課税(60%)│ 46万×40% │ 18.4万円  │
│ 原則課税      │ 実額計算  │ 20〜25万円│
└──────────────┴──────────┴──────────┘

2割特例 → 簡易課税で、年間約9万円の差。原則課税まで落ちると約15万円の差。

月に直すと、2割特例の月7,700円が、簡易課税では月15,300円、原則課税では月2万円前後になる。

「たかが月1万円の差」と思うかもしれない。でも個人の飲食店で年間10〜15万円は、食材仕入れ3〜5日分に相当する。そう考えると小さくない。

2027年以降のロードマップ──あなたの選択肢は3つ

2割特例が終わった後、消費税の計算方法は3つある。

選択肢①:3割特例を使う(2027〜2028年限定)

2025年12月の税制改正大綱で新設された「3割特例」。売上にかかる消費税の3割を納める。

条件:

  • 個人事業主のみ(法人は使えない)
  • インボイス制度のために新たに課税事業者になった人が対象
  • 2年前の売上(基準期間の課税売上高)が1,000万円以下
  • 届出は不要。確定申告のときに選ぶだけ

メリット: 何も手続きしなくていい。2割特例と同じ感覚で使える。 デメリット: 2028年で終わる。その先の準備をしないと困る。

選択肢②:簡易課税に切り替える

消費税の計算を、実際の仕入額ではなく**業種ごとの「みなし仕入率」**で行う制度。

飲食業の場合、みなし仕入率は60%(テイクアウト主体なら70%)。つまり売上消費税の**40%**を納める。

条件:

  • 2年前の売上(基準期間の課税売上高)が5,000万円以下
  • 事前に届出書を税務署に提出する必要がある
  • 選んだら最低2年間は継続義務がある

メリット: 仕入先のインボイスの有無を気にしなくていい。帳簿が楽。長期的に使える。 デメリット: 届出を出さないと使えない。原則課税より税額が高くなるケースもある(仕入率が60%を大きく超える場合)。

選択肢③:原則課税(何もしなければこれになる)

実際の仕入れ・経費にかかった消費税を、売上にかかった消費税から差し引く方法。

条件: なし。届出を出さなければ自動的にこれが適用される。

メリット: 仕入率が60%を大幅に超える飲食店(高級食材を多く使うなど)は、簡易課税より税額が安くなることがある。 デメリット: すべての仕入先からインボイスを集めて管理する必要がある。帳簿の手間が段違い。仕入先に免税事業者がいると、その分の消費税を控除できない。

飲食店にとって一番トクなのはどれか

ほとんどの小規模飲食店は、「3割特例 → 簡易課税」の順番が最もトクだ。

年度別・最適選択マップ(個人事業主の場合)

年度最適な選択納税額(年商500万円)届出
2026年2割特例(最終年)約9.2万円不要
2027年3割特例約13.8万円不要
2028年3割特例約13.8万円不要
2029年〜簡易課税約18.4万円必要

3割特例のほうが簡易課税より安い(30% vs 40%)。だから2027〜2028年は3割特例を使い、2029年からは簡易課税に移行するのがベスト。

「じゃあ届出は2028年末でいいのでは?」

理屈上はその通り。2029年から簡易課税を使うなら、届出の期限は2028年12月31日だ。

でも、2026年中に出しておくことを強くおすすめする。理由は3つ。

①忘れるリスクがなくなる。 2年後の年末に届出を出すことを覚えていられるだろうか。

②届出を出していても3割特例は使える。 簡易課税の届出を出した後でも、確定申告のときに3割特例を選べば3割特例が優先適用される。つまり「出しておいて損はない」。

③法人化する可能性がある。 もし2027〜2028年の間に法人化した場合、3割特例は法人には適用されない。簡易課税の届出を出していなければ、いきなり原則課税になる。

結論:「とりあえず出しておく」が最善策。

簡易課税って何?──30秒でわかる仕組み

簡易課税をひと言で説明すると、こうだ。

「実際にいくら仕入れたかは関係なく、業種ごとに決まった割合で消費税を計算する制度」

飲食業(店内飲食)は第4種事業に分類され、みなし仕入率は60%

これは「売上の60%は仕入れに使ったとみなす」という意味。だから、残りの40%分の消費税を納める。

■ 簡易課税の計算(飲食業・年商500万円の場合)

売上消費税:46万円
みなし仕入れの消費税:46万円 × 60% = 27.6万円
差額(納税額):46万円 − 27.6万円 = 18.4万円

つまり「売上消費税の40%を納める」のと同じ結果。

この「60%」は飲食業の実態にかなり近い。 一般的な飲食店の仕入率(食材原価率)は30〜35%程度。そこに水道光熱費、消耗品、家賃などの消費税がかかる経費を加えると、実質的な仕入率は50〜60%前後になることが多い。

つまり簡易課税は、**「面倒な計算を省略しても、だいたい正しい金額になる」**ように設計されている。

テイクアウトが多い飲食店は要注意

テイクアウト(店内で調理して持ち帰り販売)は第3種事業に分類され、みなし仕入率が**70%**になる。つまり納税額は売上消費税の30%。

店内飲食とテイクアウトの両方がある場合は、それぞれの売上比率に応じて計算する。テイクアウト比率が高い店は、簡易課税がさらに有利になる。

届出の出し方──具体的な手順

必要な届出書

「消費税簡易課税制度選択届出書」 を税務署に提出する。

届出書は1枚。名前と住所と事業内容を書いて、「簡易課税を選びます」とチェックするだけ。所要時間は15〜20分

届出の入手方法

  1. 国税庁のサイトからダウンロード(PDF):「消費税簡易課税制度選択届出書」で検索すれば見つかる
  2. e-Taxで電子提出(マイナンバーカードが必要)
  3. 管轄の税務署で紙をもらう

届出の提出期限

状況提出期限
2027年から簡易課税を使いたい2026年12月31日
2026年に2割特例を使った場合の特例2027年3月15日(2026年分の確定申告期限)
2029年から簡易課税を使いたい2028年12月31日

おすすめは2026年12月31日までに出すこと。特例の期限に頼ると、うっかり忘れるリスクがある。

届出書の書き方

記入する主な項目:

┌─────────────────────────────────────┐
│ 消費税簡易課税制度選択届出書         │
│                                     │
│ ■ 納税地:お店の住所                 │
│ ■ 氏名(屆出者):あなたの名前       │
│ ■ 事業内容:飲食業                   │
│ ■ 届出の適用開始課税期間:            │
│   令和9年1月1日〜令和9年12月31日     │
│   (=2027年分から適用したい場合)     │
│ ■ 基準期間の課税売上高:              │
│   ___万円(2年前の売上)           │
│                                     │
│ ※5,000万円以下であることが条件       │
└─────────────────────────────────────┘

「適用開始課税期間」は、簡易課税を使い始めたい年を書く。2029年から使うつもりでも、2027年と書いておけば問題ない。3割特例が使える2027〜2028年は、確定申告時に3割特例を選べばそちらが優先される。

提出後、税務署から「受理しました」という通知は来ない場合が多い。届出が正しく受理されたか不安なら、控えに収受印をもらうか、e-Taxの送信記録を保存しておくこと。

法人の飲食店は要注意──3割特例が使えない

ここまでの話は個人事業主が前提だった。法人(株式会社・合同会社など)で飲食店を経営している場合、事情が違う。

3割特例は個人事業主のみが対象。法人は使えない。

つまり法人の場合:

年度個人事業主法人
2026年2割特例2割特例
2027年〜3割特例(30%)簡易課税(40%)or 原則課税

法人にとって、簡易課税の届出はいますぐ出すべきもの。 2026年12月31日までに届出を出さないと、2027年1月から原則課税が自動適用される。

法人の飲食店で年商1,000万円以下、インボイスのために課税事業者になった──という方は、税理士に相談のうえ、早めに届出を出してほしい。

よくある3つの間違い

間違い①:「2割特例が終わったらすぐ税金が倍になる」

個人事業主なら、2027〜2028年は3割特例がある。いきなり倍にはならない。ただし法人は3割特例が使えないので、法人にとっては「いきなり」の可能性がある。

間違い②:「簡易課税の届出を出したら3割特例は使えない」

使える。 簡易課税の届出を出していても、3割特例の要件を満たしていれば確定申告時に3割特例を選ぶことができる。「出したら損する」ということはない。

間違い③:「確定申告のときに考えればいい」

3割特例は確定申告時に選べるが、簡易課税は事前の届出が必要。 「2029年から使いたい」と思っても、届出を出していなければ選べない。確定申告時に「やっぱり簡易課税で」とは言えない。

先のことだから後回しにしがちだが、届出は1枚出すだけで終わる。後悔するくらいなら、今のうちに出しておくほうがいい。

もう一つ確認──「2割特例の要件」をまだ満たしているか

2割特例にも3割特例にも、「インボイス制度のために新たに課税事業者になった人」という要件がある。

以下に当てはまる場合は、すでに2割特例・3割特例の対象外の可能性がある。

  • 2年前の年商(基準期間の課税売上高)が1,000万円を超えた
  • インボイス制度と関係なく、自分で課税事業者を選択していた

基準期間の売上は年によって変わるので、2年前の売上を確認してほしい。個人事業主なら確定申告書の「収入金額」を見ればわかる。

もし基準期間の売上が1,000万円を超えていたら、2割特例も3割特例も使えない。この場合は簡易課税か原則課税の二択になるため、簡易課税の届出は確実に出しておくべきだ。

消費税が増えた分、どこで取り戻すか

2割特例が終わって消費税の負担が増えるのは事実だ。年間10万円前後。

その分をどう吸収するか。飲食店としてできることはいくつかある。

①原価率を見直す。 消費税が10万円増えるなら、食材原価を月8,000円分削減できればトントン。メニューごとの原価を把握していれば、どこに無駄があるか見えてくる。

②価格改定を検討する。 消費税の負担増は、あなただけの問題ではない。同じ状況の飲食店は全国にいる。「インボイス対応に伴う価格改定」は、お客さんにとっても理解しやすい理由だ。

③申告の手間を減らす。 簡易課税を選べば、仕入先のインボイスを集めて管理する手間がなくなる。その時間を営業に使えると考えれば、間接的なコスト削減になる。

原価管理がまだ感覚的なら、まずメニューごとの原価を数字で把握するところから始めるとよいかもしれない。KitchenCostで食材の価格と使用量を登録しておけば、どのメニューで利益が出ているか、どこに改善余地があるかが見える。消費税の負担増を、原価の精度を上げるきっかけにしてほしい。

今週やること──チェックリスト

  1. 自分が2割特例の対象かどうか確認する。 2年前の年商が1,000万円を超えていないか、確定申告書をチェック
  2. 法人か個人事業主かを確認する。 法人なら3割特例が使えないため、簡易課税の届出は急務
  3. 「消費税簡易課税制度選択届出書」をダウンロードする。 国税庁サイトで「簡易課税 届出書」と検索
  4. 基準期間の課税売上高を記入する。 2年前の売上を確定申告書から転記するだけ
  5. 税務署に提出する。 e-Tax(オンライン)か郵送。12月31日が期限だが、早めに出しておいて損はない
  6. 税理士がいるなら、次回の面談で「3割特例と簡易課税、うちはどっちがトクか」を聞いてみる

届出は1枚。15分で書ける。出しておくだけで、2029年以降に「原則課税で帳簿地獄」になるリスクをゼロにできる。


出典・参考:

  • 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」
  • 令和8年度(2026年)与党税制改正大綱(2025年12月19日公表)──3割特例の新設
  • 国税庁「消費税簡易課税制度選択届出書」様式・記載要領
  • 国税庁「簡易課税制度の事業区分」(第4種:飲食業 みなし仕入率60%、第3種:テイクアウト製造 70%)
  • 全国商工団体連合会「インボイス”定着”へ特例を改悪:2割特例は3割、8割控除は7割に」(2026年1月)
  • 経営革新等支援機関推進協議会「インボイスの2割特例が終了!3割特例と税理士の説明ポイント」
  • フリーランス協会「インボイス負担軽減措置の延長 2割特例から3割特例へ」(2025年12月)
  • 東京商工リサーチ「インボイス登録件数推移」(2023年3月時点 268万件)

よくある質問

2割特例が終わったら消費税はいくら増えますか?

年商500万円(税抜)の飲食店の場合、2割特例では年間約9.2万円の消費税で済んでいたものが、簡易課税(飲食業みなし仕入率60%)では約18.4万円に増えます。差額は約9万円です。ただし2027〜2028年は個人事業主に限り3割特例(約13.8万円)が使えるため、すぐに倍増するわけではありません。届出なしで3割特例は使えますが、2029年以降に備えて簡易課税の届出は早めに出しておくのが安全です。

3割特例と簡易課税、飲食店はどちらを選ぶべきですか?

2027〜2028年は3割特例のほうが税額が安くなります(売上消費税の30% vs 40%)。個人事業主なら届出なしで確定申告時に選ぶだけです。ただし3割特例は2028年で終了するため、2029年以降は簡易課税か原則課税しか選べません。おすすめは「簡易課税の届出を出しておいて、2027〜2028年は3割特例を申告時に選ぶ」方法です。届出を出していても3割特例を優先適用できるため、損はありません。

簡易課税の届出はいつまでに出せばいいですか?

原則として、適用を受けたい年の前年12月31日までです(個人事業主の場合)。2027年から簡易課税を使いたいなら2026年12月31日が期限です。ただし2026年に2割特例を使った場合、特例の経過措置として2026年分の確定申告期限(2027年3月15日)までに届出を出せばよいとされています。とはいえ確実を期すなら2026年中の提出をおすすめします。届出書は国税庁のサイトからダウンロードでき、e-Taxでの電子提出も可能です。

届出を出し忘れたらどうなりますか?

個人事業主の場合、2027〜2028年は3割特例が自動的に使えるため、届出を出し忘れてもすぐに困ることはありません。ただし2029年以降は、届出がなければ原則課税が自動適用されます。原則課税では仕入先すべてのインボイスを集めて消費税を計算する必要があり、帳簿の手間が大幅に増えます。また仕入先が免税事業者の場合、その分の消費税を控除できなくなります。2029年からの簡易課税には2028年12月31日までに届出が必要です。

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