先月、冷蔵庫から何を捨てましたか?
使い切れなかった野菜。日付が過ぎた肉。半端に余ったソース。仕込みすぎたスープ。
「飲食店だからある程度のロスは仕方ない」——多くのオーナーがそう思っています。
でも、その「仕方ない」の金額を、実際に計算したことはありますか?
まず、数字を見てみましょう
一般的な飲食店の**食材ロス率は3〜5%**と言われています。
これだけ聞くと大したことないように思えます。でも——
| 月商 | 仕入れ額(原価率30%) | ロス率3% | ロス率5% |
|---|---|---|---|
| 150万円 | 45万円 | 1.35万円/月 | 2.25万円/月 |
| 200万円 | 60万円 | 1.8万円/月 | 3万円/月 |
| 300万円 | 90万円 | 2.7万円/月 | 4.5万円/月 |
月商200万円の店で、ロス率5%なら年間36万円が「ゴミ箱に入っている」計算です。
しかもこの36万円は、売上ではなく利益から消えるお金。利益率10%の店なら、36万円を稼ぐには360万円の売上が必要。つまり、廃棄ロスを減らすことは、売上を増やすよりもはるかに効率の良い利益改善策です。
さらに、捨てるのにもお金がかかります。事業系ゴミの処理費用は地域にもよりますが、東京都内では1kgあたり15〜40円。生ごみは水分が多くて重いので、「買ったお金+捨てるお金」のダブルパンチです。
日本の外食産業全体の数字
ここで日本全体の規模も見ておきましょう。
環境省の令和5年度推計によると——
- 日本の食品ロス:年間約464万トン
- うち事業系:約231万トン
- うち外食産業:約60万トン
2030年度までに2000年度比で半減するという国の目標は、事業系については前倒しで達成しています。それでも外食産業だけで年間60万トン。
「うちの店はそんなに捨ててない」と思うかもしれません。でも、毎日の少しずつの廃棄が、1年で積もるとかなりの金額になります。
廃棄ロスはどこで発生しているのか
ロスを減らすには、まずどこで発生しているかを知ることが必要です。
飲食店の廃棄ロスは、大きく分けて3つの場所で起きています。
①仕入れ段階のロス——買いすぎ
- 「安いから多めに買っておこう」→ 使い切れずに廃棄
- 発注単位が大きすぎて、半分余る
- 週末を見越して多めに仕入れたのに、雨で客足が減った
②仕込み段階のロス——作りすぎ
- 「足りないと困るから、多めに仕込んでおこう」→ 翌日に持ち越し → 結局捨てる
- ソースやスープを大鍋で仕込んだが、半分しか使わなかった
- 下処理で切り落とした部分を捨てている(野菜の皮、魚のアラなど)
③提供・食べ残しのロス
- 盛りつけ量が多くて食べ残される
- 注文されなかったメニューの食材が余る
- 閉店間際の仕込み分が丸ごと廃棄
多くの店では、②の仕込み段階が一番大きなロスの原因です。
廃棄ロスを減らす「3つの仕組み」
仕組み1:先入先出(FIFO)を徹底する
「先入先出」とは、先に仕入れた食材から先に使うという、シンプルだけど最も効果的なルール。
やり方は簡単です。
- 新しい食材は棚や冷蔵庫の奥に入れる。古い食材を手前に出す
- すべての食材に「日付ラベル」を貼る(マスキングテープとマジックで十分)
- 仕込んだものにも日付を書く(「3/3仕込み」のように)
「当たり前のこと」と思うかもしれません。でも実際にやっている店は意外と少ない。
特に忙しい時間帯は、手前にある新しい食材から使ってしまいがち。そうすると奥の古い食材がずっと残って、気づいたときには使えなくなっている。
日付ラベル1枚で防げるロスがあります。今日から始められる、最もコスパの良い対策です。
仕組み2:仕込み量を「曜日別」で管理する
多くの店が「だいたいこれくらい」の感覚で仕込みをしています。でも——
- 月曜と金曜では来客数が違う
- 雨の日と晴れの日でも違う
- 給料日の週とそうでない週でも違う
仕込み量を曜日別に記録してみてください。 2〜3週間分のデータがあれば、パターンが見えてきます。
| 曜日 | 平均来客数 | 仕込み量の目安 |
|---|---|---|
| 月〜水 | 30人 | 基本量の80% |
| 木 | 40人 | 基本量の100% |
| 金 | 55人 | 基本量の120% |
| 土 | 60人 | 基本量の130% |
| 日 | 45人 | 基本量の100% |
感覚ではなく、数字で仕込み量を決める。 これだけで仕込みすぎが大幅に減ります。
天気予報も見る
単純な話ですが、雨の予報の日は仕込み量を10〜20%減らす。 逆に、近くのイベントがある日は増やす。
これを「そんなの当然やってる」と思う方もいるかもしれません。でも、それを毎回、定量的に調整している店はどれだけあるでしょうか。
仕組み3:メニューを「食材効率」で見直す
メニュー数が多い店ほど、食材ロスが発生しやすくなります。理由は単純で、たくさんの種類の食材をストックする必要があるから。
特に問題になるのが——
- 特定のメニューにしか使わない食材(月に数回しか出ないメニュー専用のソースや食材)
- 生鮮品を使うメニューで注文頻度が低いもの(刺身、フルーツ系デザートなど)
- 仕込みに時間がかかるのに注文が少ないメニュー
「食材の重複率」をチェックする
メニュー全体を見て、同じ食材を複数のメニューで使い回せているかを確認しましょう。
例えば——
- トマトソースが3つのメニューで使われている → ◎ 効率が良い
- バジルソースが1つのメニューだけ → △ 廃棄リスクが高い
- 生ハムが1つの前菜だけ → △ 期限切れになりやすい
食材の重複率が高いほど、仕入れロットが安定し、使い切れる確率が上がります。
実践的な判断基準
各メニューについて、こう考えてみてください。
- 週に何食出るか? → 5食未満なら「食材が余るリスク」がある
- そのメニュー専用の食材があるか? → あるなら「期限限定メニュー」への変更を検討
- 他のメニューに転用できるか? → できないなら廃棄リスクが高い
出ない料理を「いつか出るかも」と残し続けると、その食材のロスコストがじわじわと利益を削ります。
「捨てる前にできること」リスト
完全にロスをゼロにするのは現実的ではありません。でも、**「捨てる前にもう一つ手を打てないか」**を考える習慣をつけると、ロスは確実に減ります。
| 状況 | よくある対応 | ロスを減らす対応 |
|---|---|---|
| 野菜の端材が余った | 捨てる | 賄いに使う、スープのだしにする |
| 仕込みすぎたソース | 翌日に使い回すが結局余る | 冷凍保存して別の日に使う |
| 閉店間際のパン | 捨てる | 翌日のランチメニューに転用 |
| 注文が少ないメニューの食材 | 期限切れまで冷蔵庫に | 日替わりメニューで優先的に使う |
| 魚のアラ、野菜の皮 | 捨てる | だし・スープの材料にする |
「賄い転用」と「冷凍保存」だけでも、ロスは目に見えて減ります。
ハーフサイズ・少量メニューの効果
食べ残しによるロスを減らすには、お客さんが量を選べるようにするのが有効です。
- ハーフサイズの導入
- 小盛りオプション
- 「ちょい盛り」「大盛り」の選択制
「量を減らしたら売上が減る」と心配する方もいますが、実際には——
- ハーフサイズがあることで注文品数が増える(「もう1品いけるかも」)
- 食べ残しが減ることで食材コストが下がる
- お客さんの満足度が上がる(「残してしまった…」というネガティブ感情がない)
結果として、客単価は変わらないか、むしろ上がるケースが多いです。
廃棄の「見える化」から始めよう
最も大事なのは、廃棄の記録をつけることです。
記録がなければ、何が問題かもわからない。まずは1週間、こんなフォーマットでメモしてみてください。
| 日付 | 食材名 | 量 | 理由 | 推定金額 |
|---|---|---|---|---|
| 3/3 | レタス | 2株 | 変色 | 400円 |
| 3/3 | 鶏肉 | 500g | 期限切れ | 600円 |
| 3/4 | トマトソース | 1L | 仕込みすぎ | 300円 |
1週間の記録が集まれば、**「何が、なぜ、いくら分捨てられているか」**が見えてきます。
「レタスが毎週余る」なら仕入れ量を減らせばいい。「鶏肉が期限切れになる」なら先入先出を徹底すればいい。「ソースが余る」なら仕込み量を調整すればいい。
記録なしに「もったいない」と思っていても、何も変わりません。
原価管理とロス削減はセットで考える
食材の廃棄ロスは、原価計算に直結します。
レシピ上の原価率が30%でも、実際にロス率5%で食材を捨てていたら、**実質の原価率は31.5%**です。この1.5%の差が、月の利益を数万円変えます。
KitchenCostでレシピごとの原価を管理しておけば、「理論原価(レシピ通りのコスト)」と「実際原価(仕入れ額ベース)」のギャップが見えるようになります。このギャップがロスの大きさを教えてくれます。
今週やることチェックリスト
- 1週間の廃棄記録をつけてみる(食材名・量・理由・金額)
- 冷蔵庫の食材に日付ラベルを貼る(マスキングテープでOK)
- 先入先出のルールをスタッフと共有する
- 曜日ごとの来客数を2〜3週間記録する
- メニュー表を見て「週5食未満」のメニューをリストアップする
- そのメニュー専用の食材がないかチェックする
- 端材の転用方法を1つでも考える(スープのだし、賄い、日替わりなど)
出典・参考:
- 環境省「令和5年度 食品ロスの発生量の推計値」
- 農林水産省「外食における食品ロス対策」
- 農林水産省「事業系食品ロス量(2023年推計値)」
- TRN飲食店経営サービス「食品ロスの原因や対策とは?」
- 飲食店ドットコム ジャーナル「フードロス問題と利益改善」
- NEC「飲食店における食品ロスの原因と対策」
- table source「世界の食品ロス削減アイデア8選」
- 環境のミカタ「飲食店のゴミ定期回収の費用相場」