894件。この数字の意味
2024年、飲食店の倒産件数が 894件 に達した。
帝国データバンクの調査による数字で、統計開始以来の 過去最多 だ。前年の768件から16.4%増。コロナ禍の2020年に記録した780件すら上回った。
内訳を見ると、居酒屋・ビアホールが212件でトップ。中華・ラーメン店が158件、西洋料理店が123件と続く。いずれも過去最多を記録している。
なぜ、こんなに潰れているのか
理由は一つではない。だが、現場を取材すると、共通するパターンが見えてくる。
3つのコスト増が同時に来た。
- 食材費:2025年だけで20,609品目が値上げ。前年比64.6%増
- 人件費:最低賃金が1,055円→1,121円に。中小企業の人件費は前年比6.7%増
- 光熱費・物流費:円安と物流費上昇のダブルパンチ
さらに、コロナ禍で多くの店が借りた「ゼロゼロ融資」(無利子・無担保の緊急貸付)の返済が2023年から本格化した。売上が戻りきらないまま、返済が始まった店が少なくない。
3年で70%が消える現実
飲食業界には、よく知られた数字がある。
- 開業1年以内に 約30% が閉店
- 2年以内に 約50% が閉店
- 3年以内に 50〜70% が閉店
- 10年後に残っている店は 30%未満
弁当・惣菜、そば・うどん、ラーメン、カフェに至っては、3年以内の廃業率が 60%超 というデータもある。
つまり、今この記事を読んでいるあなたの店が3年後も存在している確率は、統計上は 半分以下 だ。
潰れた店に共通していた「致命的な習慣」
花王プロフェッショナルが公開している失敗事例集や、複数の飲食コンサルタントの分析を総合すると、廃業した店に最も共通していた問題は意外とシンプルだった。
「どんぶり勘定」。
売上はレジで把握できる。でも、仕入れにいくらかかったか。人件費が売上の何%か。メニュー1品あたりの利益はいくらか。それを「なんとなく」で済ませていた店が、圧倒的に多い。
ある元オーナーの証言がある。
「売上を伸ばすことだけに集中してしまい、コストを度外視した結果、繁盛しているのに赤字に転落した」
忙しい=儲かっている、ではない。これが飲食業の怖いところだ。
生き残った店がやっていたこと
では、10年以上続いている店には何が違うのか。
飲食店ドットコムが176名の経営者に実施したアンケートでは、赤字店の 98.1% が「集客力」に課題を感じていた一方で、黒字店のオーナーに共通していたのは 「数字を毎日見る習慣」 だった。
具体的には:
- 毎日の売上と仕入れ額を記録する
- 月末ではなく、週単位で原価率をチェックする
- メニューごとの利益率を把握している
たったこれだけ。高度な会計知識は必要ない。
ある10年以上続く個人経営のカフェオーナーは、こう話す。
「特別なことはしていない。毎朝レジを開ける前に、昨日の売上と仕入れを確認する。それだけ。でも、これをやらないと『いくら売ったら赤字にならないか』が分からない」
FL比率という「生存ライン」
飲食業界には FL比率 という基本指標がある。
FL比率 =(食材費 + 人件費)÷ 売上 × 100
| FL比率 | 状態 |
|---|---|
| 55%以下 | 優良 |
| 60%以下 | 健全 |
| 65%以上 | 危険 |
この数字を 知っているかどうか で、経営の安定度がまったく変わる。
食材費の目安は売上の24〜40%。人件費は20〜36%。合計で60%を超えたら、家賃(売上の10%が目安)を払った後にほとんど利益が残らない計算になる。
ところが、多くの個人店オーナーは、この比率を 計算したことがない。
「数字が苦手」は言い訳にならない時代
2025年、食品の値上げは20,609品目に達した。最低賃金は1,121円。政府は2020年代後半に1,500円を目指すと明言している。
日本商工会議所の調査では、宿泊・飲食サービス業の 90.0% が最低賃金引き上げを「負担」「やや負担」と回答。32.7% は1,500円達成が「不可能」と答えた。
コストが上がり続ける中で、自分の店のコスト構造を把握していないのは、目隠しで車を運転しているようなものだ。
まず、やるべきこと
難しいことは要らない。今日からできることは3つ。
1. 今月の食材費の合計を出す
レシートや納品書を集めて合計するだけでいい。売上に対して何%か計算する。30%台なら標準的。40%を超えていたら、見直しが必要だ。
2. 一番売れているメニューの原価を計算する
材料を一つずつ書き出して、1人前あたりの材料費を出す。売値と比べて、原価率が何%か確認する。
3. 毎日5分、記録する習慣をつける
売上と主な仕入れ額だけでいい。ノートでもExcelでもアプリでもいい。続けることが大事だ。
まとめ
894件という数字は、他人事ではない。
飲食店の平均営業利益率はわずか 3.2%(全産業平均は8.6%)。薄利の業界で、コストを把握せずに経営を続けることのリスクは、年々大きくなっている。
生き残った店が特別なことをしていたわけではない。毎日、数字を見ていた。 それだけだ。
あなたの店のFL比率は、何%ですか?
この記事で引用したデータの出典:帝国データバンク「飲食店の倒産動向調査(2024年)」、飲食店ドットコム「飲食店経営者アンケート」、日本商工会議所「最低賃金引き上げの影響に関する調査」、経済産業省「中小企業白書」