ブログ

キッチンカーは本当に「安上がり」か?──固定店舗との全コスト比較で見える、現実の損益ライン

キッチンカー開業300万 vs 固定店舗1,000万。初期費用は3分の1でも、出店料・天候リスク・売上の天井を含めた全コストで比べると景色が変わる。どちらが自分に合うか、数字で判断する方法を解説。

キッチンカー固定店舗開業固定費比較移動販売フードトラック開業費用飲食店独立コスト比較損益分岐点廃業率
目次

「キッチンカーなら300万で始められる」

開業の情報を集めていると、この数字が目に入る。固定店舗だと1,000万円以上かかるのに、キッチンカーならその3分の1。家賃もかからないし、自分ひとりで回せる。

魅力的に聞こえるし、実際そのとおりの部分もある。

でも、初期費用だけを見て「キッチンカーのほうが得」と判断するのは危ない。毎月の出店料、天候で売上がゼロになるリスク、1日に売れる食数の上限──全コストを並べて比べると、「安上がり」の意味が変わってくる。

この記事では、キッチンカーと固定店舗のコストを項目ごとに分解して比較する。どちらが正解というわけではなく、自分の状況に合っているのはどちらかを、数字で判断できるようにする。

初期費用──3倍の差は本当か

まず開業にかかるお金を比べる。

キッチンカーの初期費用

項目金額の目安
車両(軽バン改装済み)150〜250万円
車両(中型トラック改装済み)250〜350万円
営業許可取得(食品衛生責任者+保健所申請)約1.5万円
調理設備(コンロ・シンク・冷蔵庫)車両に含まれることが多い
発電機10〜20万円
初回仕入れ・包装資材10〜20万円
POS・キャッシュレス端末0〜5万円
看板・メニュー表3〜10万円
合計200〜400万円

運転資金(3ヶ月分)を含めると、現実的には300〜500万円が必要。

固定店舗の初期費用

日本政策金融公庫の2024年度「新規開業実態調査」によると、飲食店を含む新規開業の平均費用は985万円(中央値580万円)。

項目金額の目安
物件取得費(保証金・礼金・仲介)100〜300万円
内装工事300〜500万円
厨房設備100〜300万円
営業許可・届出2〜5万円
初回仕入れ20〜50万円
家具・食器30〜100万円
合計550〜1,300万円

資金の内訳は、銀行借入が平均780万円(65.2%)、自己資金が平均293万円(24.5%)。

初期費用の差は確かに大きい。 キッチンカーは固定店舗の3分の1〜5分の1で始められる。ただし、この差が毎月のコスト構造にそのまま反映されるわけではない。

毎月の固定費──「家賃ゼロ」の裏側

キッチンカーの最大の売り文句は「家賃がかからない」こと。でも、家賃の代わりに出店料がかかる。

月間コスト比較(1人営業・月20日稼働の場合)

費目キッチンカー固定店舗(15坪)
家賃0円15〜30万円
出店料(固定制)6〜10万円0円
駐車場代1〜3万円0円
ガソリン代1〜3万円0円
発電機燃料・プロパン0.5〜1.5万円0円
水道光熱費0.5〜1万円5〜10万円
車両保険・税金0.8〜1.5万円0円
人件費(本人以外)0円15〜40万円
包装資材2〜4万円0.5〜1万円
合計(食材費除く)12〜24万円36〜81万円

固定店舗の月間固定費は、キッチンカーの2〜4倍。この差は大きい。

ただし、見落としがちなポイントがある。

出店料の歩合制に注意。 固定料金ではなく売上の15〜20%を取る出店場所もある。月商100万円なら15〜20万円。家賃と変わらない額になることがある。

車両のメンテナンス費。 車検、タイヤ交換、修理。走行距離が多ければ年間で20〜30万円。しかもキッチンカーが壊れると営業できない。固定店舗のエアコンが壊れても営業は続けられるが、キッチンカーのエンジンが壊れたらその日の売上はゼロ。

売上の天井──キッチンカーには物理的な上限がある

コストが安いことは魅力だが、売上にも天井があることを忘れてはいけない。

売上比較

指標キッチンカー固定店舗(15坪)
1日の最大客数50〜80食100〜150食(回転率次第)
平日の現実的な客数30〜50食40〜80食
客単価700〜1,000円800〜2,000円
平日の売上2〜5万円4〜15万円
月商(20日稼働)60〜100万円80〜250万円

キッチンカーは調理スペースが狭い。1人で回すなら1時間に15〜20食が限界。ランチタイムの2時間が勝負で、それ以外の時間は客足が少ない。

イベント出店なら1日10〜30万円の売上も可能だが、出店料も2〜10万円と高く、しかも毎週あるわけではない。

一方、固定店舗はランチとディナーの2回転がある。席数×回転率で計算できるので売上の見通しが立ちやすい。

キッチンカーの現実的な月商は60〜150万円。 固定店舗と比べて「コストが半分、売上も半分」というのが多くのケースの実態。

利益で比較する──本当に手元に残るのはいくらか

コストと売上を合わせて、利益を比較してみる。

シミュレーション:カレー専門(月20日営業)

項目キッチンカー固定店舗
月商80万円(40食×800円×25日)180万円(60食×1,000円×30日)
食材費(30%)▲24万円▲54万円
包装資材▲3万円▲1万円
出店料▲8万円0円
家賃0円▲20万円
人件費(本人以外)0円▲25万円
水道光熱費▲1万円▲7万円
車両関連(駐車場・燃料・保険)▲5万円0円
その他経費▲3万円▲10万円
営業利益36万円(利益率45%)63万円(利益率35%)
オーナー手取り(税引前)36万円38万円(人件費に本人分含まず)

利益「率」はキッチンカーのほうが高い。でも利益「額」は固定店舗のほうが大きい。

ここで重要なのは、固定店舗のオーナーは自分の人件費を別に取っていること。人件費25万円に自分の分を含めれば手取りは38万円程度。キッチンカーの36万円と大きな差はない。

ただし固定店舗は売上を伸ばす余地がある。席数を増やす、ディナー営業を始める、テイクアウトを追加する。キッチンカーは物理的な制約から、月商100万円を超えるのが1つの壁になる。

廃業率──どちらが「安全」か

どちらを選んでもリスクはある。

指標キッチンカー固定店舗
1年以内の廃業率約30%約30〜38%
3年以内の廃業率データ少ない約70%
廃業時の負債小さい(200〜400万円)大きい(500〜1,000万円超)
廃業の主因出店場所の確保、天候資金ショート、人手不足

1年以内の廃業率は意外と近い。どちらも約3割が1年で撤退する。

ただし、失敗したときのダメージが違う。 キッチンカーは初期投資が小さいので、仮に廃業しても車両を売却すれば借金の大半を回収できる可能性がある。固定店舗は内装工事費の大半が回収不能(原状回復費用がかかることもある)。

2024年の飲食店の倒産件数は過去最多の894件(帝国データバンク調べ)。固定費の重さに耐えきれなかったケースが多い。

キッチンカー特有のリスク

固定店舗にはないリスクも理解しておく必要がある。

  • 天候リスク:雨の日は客数が30〜50%減る。台風や真夏日は出店自体ができないことも
  • 出店場所の競争:人気スポットは先約で埋まっている。新規参入者が良い場所を確保するのは簡単ではない
  • リピーター獲得の難しさ:場所が固定されていないので「また来たい」と思っても来られない
  • 体力的負担:仕込み、運転、設営、調理、片付け、帰宅──すべて1人でこなす日が続く

2025年の制度変更──キッチンカーを始めやすくなった

追い風もある。

2021年の改正食品衛生法で、キッチンカーの営業許可が「飲食店営業」に一本化された。以前は「喫茶店営業」「菓子製造業」など細かく分かれていたのが、1つの許可でカバーできるようになった。

2025年6月には関西2府5県(滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島)でキッチンカーの営業許可基準が統一された。1つの自治体で許可を取れば、エリア内の他の自治体でも営業可能。以前は自治体ごとに個別申請が必要だったので、広域展開が格段にやりやすくなった。

ただし、この統一はまだ関西圏のみ。他の地域では依然として自治体ごとに許可が必要なので、出店エリアが複数の都道府県にまたがる場合は事前に保健所へ確認が必要。

あなたに向いているのはどちらか──判断チェックリスト

数字を並べたところで、最後は「自分にはどちらが合うか」で決めることになる。

キッチンカーが向いている人

  • 自己資金が300万円以下
  • まず小さく始めて、市場の反応を見たい
  • 1人で回せるシンプルなメニューを考えている
  • 借金を最小限にしたい
  • 特定の場所に縛られたくない
  • 週末やイベント中心の副業から始めたい

固定店舗が向いている人

  • 500万円以上の自己資金がある(+融資を受ける準備ができている)
  • リピーターを育てて安定した売上を作りたい
  • 複数メニュー・コース料理など幅広い提供がしたい
  • ランチとディナーの2回転で売上を最大化したい
  • 天候に売上を左右されたくない
  • スタッフを雇ってチームで運営したい

最近増えている「ステップアップ型」

キッチンカーで2〜3年営業して実績と顧客を作り、そこから固定店舗に移行する人が増えている。「いきなり1,000万円を借りて開業」よりも、小さく始めて、うまくいったら大きくする──というアプローチ。

キッチンカー時代に得られるものは多い。

  • メニューの市場テスト(何が売れるか、価格はいくらが妥当か)
  • 調理オペレーションの確立
  • SNSでのファンづくり
  • 仕入先との関係構築
  • 原価管理のスキル

これらは固定店舗を開くときに、そのまま活きる。

今週やること──チェックリスト

  1. 自分の自己資金を正直に書き出す(「なんとなく400万くらい」ではなく、通帳の数字を見る)
  2. 出店候補エリアの出店料を3ヶ所調べる(キッチンカー仲介サイトで検索可能)
  3. やりたいメニューの原価を1品だけ計算してみる(食材+包装+出店料配賦で)
  4. 固定店舗の場合、候補エリアの家賃相場を調べる(不動産サイトで坪単価を確認)
  5. 上の利益シミュレーション表を、自分の数字で埋めてみる(ざっくりでいい)

どちらが「正解」かは人による。大事なのは、初期費用の安さだけで判断しないこと。毎月のコスト、売上の天井、リスクの種類──全部を並べて、自分のお金と相談して決める。

メニューごとの原価を計算するなら、KitchenCostで食材と分量を入れるだけで自動計算できる。キッチンカーでも固定店舗でも、原価管理の基本は同じ。まずは看板メニュー1品の原価を把握することから始めてみてほしい。

よくある質問

キッチンカーと固定店舗、開業費用はどれくらい違いますか?

キッチンカーは車両込みで300〜500万円が現実的な目安です。一方、固定店舗は日本政策金融公庫の2024年調査で平均985万円(中央値580万円)。初期費用だけ見ればキッチンカーは固定店舗の3分の1〜5分の1ですが、運転資金(3ヶ月分)を含めて計算する必要があります。

キッチンカーは家賃がかからないから毎月の固定費は安いですか?

家賃はゼロですが、代わりに出店料がかかります。オフィス街で1日3,000〜5,000円、月20日営業なら6〜10万円。さらに駐車場代1〜3万円、ガソリン代1〜3万円、発電機の燃料代0.5〜1.5万円が加わり、月の固定費は10〜20万円前後になります。固定店舗の家賃15〜50万円よりは安いですが、『ほぼタダ』というわけではありません。

キッチンカーの廃業率はどれくらいですか?

1年以内の廃業率は約30%と言われています。固定店舗の飲食店も1年以内で約30〜38%が閉店するため、生存率は意外と近いです。ただし、キッチンカーは初期投資が少ないぶん、廃業時の借金リスクは小さくなります。固定店舗は3年以内に約70%が閉店するデータもあります。

キッチンカーと固定店舗、どちらが向いていますか?

自己資金が300万円以下、まず小さく始めたい、一人で営業したいならキッチンカー向き。500万円以上の資金がある、安定した売上を作りたい、リピーターを育てたいなら固定店舗向きです。最近はキッチンカーで実績を作ってから固定店舗に移る人も増えています。

今すぐ原価を計算してみましょう

材料単価を入力するだけで、レシピ原価・利益率・販売価格を自動計算します。