通帳残高が10万円を切った夜
月商200万円。昼も夜もそこそこ忙しい。
でも月末に通帳を見ると、残高10万円。
「あれ? 200万円売り上げたはずなのに……」
来月の家賃25万円、仕入れの支払い70万円、アルバイトの給料30万円。合計125万円の支払いが迫っている。
手元に10万円。115万円足りない。
これは珍しい話ではない。個人飲食店の「黒字倒産」はここから始まる。
なぜ売上があるのにお金がないのか?
原因1: 売上 ≠ 手元のお金
月商200万円の内訳を見てみよう。
| 項目 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 食材費 | 60万円 | 30% |
| 人件費 | 50万円 | 25% |
| 家賃 | 25万円 | 12.5% |
| 光熱費 | 12万円 | 6% |
| リース料 | 5万円 | 2.5% |
| 保険・雑費 | 8万円 | 4% |
| 固定費合計 | 160万円 | 80% |
| 手元に残る利益 | 40万円 | 20% |
200万円売り上げても、手元に残るのは40万円。ここから税金と社会保険料が引かれる。
原因2: キャッシュレス決済のタイムラグ
売上の40%がキャッシュレス決済だとする。200万円 × 40% = 80万円が「まだ入金されていない売上」。
| 決済サービス | 入金サイクル |
|---|---|
| Square | 翌営業日 |
| Airペイ | 月6回 |
| PayPay | 月2回(翌月10日・25日) |
| 食べログPay | 月2回 |
| クレジットカード(一般) | 月末締め翌月末払い |
最悪のケースでは、今月の売上の入金が来月末。 その間、仕入れの支払いと家賃は待ってくれない。
原因3: 仕入れと支払いのズレ
月末に大量に仕入れた食材の支払いが翌月10日に来る。でも、その食材を使って売上になるのは翌月中。お金が出るタイミングと入るタイミングがズレている。
運転資金の目安──「固定費の何ヶ月分」を持つべきか
| 経営状況 | 必要な運転資金 | 計算例(固定費150万円/月) |
|---|---|---|
| 開業1年目 | 固定費の6ヶ月分 | 900万円 |
| 2年目以降(安定期) | 固定費の3〜4ヶ月分 | 450〜600万円 |
| 閑散期あり | 固定費の4〜5ヶ月分 | 600〜750万円 |
| キャッシュレス比率50%超 | 上記+1ヶ月分上乗せ | +150万円 |
最低ラインは「固定費の3ヶ月分」。 これを下回ったら、資金調達を検討すべきサイン。
資金繰り表を作る──15分でできる
難しいExcelは不要。以下のシンプルな表を毎月1回更新するだけで、3ヶ月先の資金ショートを予測できる。
| 項目 | 今月 | 来月 | 再来月 |
|---|---|---|---|
| 月初の手元資金 | 100万円 | ? | ? |
| + 現金売上 | 120万円 | ||
| + キャッシュレス入金 | 70万円 | ||
| + その他入金 | 0円 | ||
| 入金合計 | 190万円 | ||
| = 合計 | 290万円 | ||
| − 仕入れ支払い | 65万円 | ||
| − 人件費 | 50万円 | ||
| − 家賃 | 25万円 | ||
| − 光熱費 | 12万円 | ||
| − その他支払い | 13万円 | ||
| 支出合計 | 165万円 | ||
| 月末の手元資金 | 125万円 |
来月の「月初の手元資金」に125万円を入れ、同じように計算する。 3ヶ月先まで計算すれば、いつ資金がショートしそうかがわかる。
ショートしそうな月がわかれば、その2ヶ月前に動ける。 これが資金繰り管理の核心。
キャッシュレスの入金タイムラグを縮める
| 対策 | 効果 |
|---|---|
| Squareに切り替え | 翌営業日入金。タイムラグほぼゼロ |
| 入金サイクルが多いサービスを選ぶ | 月2回→月6回で資金回転が改善 |
| 早期入金オプションを使う | 手数料0.5〜1%で即日入金できるサービスあり |
| 現金比率を維持 | 完全キャッシュレスにせず、現金売上で日々の支払いをカバー |
決済サービスの入金サイクルを比較して選ぶだけで、手元資金の状況が大幅に改善する。
資金が足りなくなったときの調達先
| 調達先 | 金利 | 特徴 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 年1〜3% | 飲食店への融資実績豊富。無担保枠あり |
| マル経融資(経営改善貸付) | 年1.2%前後 | 商工会議所経由。無担保・無保証人。最大2,000万円 |
| 信用金庫 | 年2〜4% | 地域密着。小規模事業者にも融通が利く |
| 信用保証協会付き融資 | 年1.5〜3% | 保証料がかかるが、融資を受けやすい |
| 消費者金融・カードローン | 年15〜18% | ❌ 絶対に使ってはいけない |
消費者金融だけは絶対に手を出さないこと。 年利15〜18%は、100万円借りたら1年で15〜18万円の利息。これが経営を圧迫し、返済のための借入(多重債務)に陥る。
融資を受けるタイミング
資金がショートする「前」に動く。
- ❌ 通帳残高が10万円になってから慌てて銀行に行く → 審査に落ちやすい
- ✅ 3ヶ月先の資金繰り表を見て、ショートしそうなら今すぐ相談 → 余裕を持って審査を受けられる
融資の審査には2週間〜1ヶ月かかる。ギリギリでは間に合わない。
お金が残る店にするための5つの習慣
1. 毎週金曜に通帳残高を確認する
月1回ではなく、週1回。「今いくらあるか」を常に把握する。
2. 資金繰り表を毎月更新する
上の表を月初に15分で更新。3ヶ月先までの予測を常に持つ。
3. 固定費を年1回見直す
家賃交渉、保険の見直し、電力会社の切り替え、使っていないサブスクの解約。固定費が月5万円減れば年間60万円の効果。
4. 仕入れの支払いサイトを意識する
「月末締め翌月末払い」と「都度払い」では、手元資金の余裕がまったく違う。掛け仕入れ(後払い)を使えるなら使う。
5. 利益と手元資金を区別する
「今月は利益が出た」と「手元に現金がある」は別の話。利益が出ていても、入金が来月なら今月は苦しい。見るべきは通帳残高。
今すぐやること
- 通帳残高を確認する(今いくらあるか?)
- 月の固定費を合計する(家賃+人件費+光熱費+リース+保険+雑費)
- 手元資金が固定費の3ヶ月分あるか確認する
- なければ、日本政策金融公庫または商工会議所に相談する
- キャッシュレス決済の入金サイクルを確認し、改善できるか検討する
「売上200万円なのに手元に10万円しかない」は、資金繰りの問題。 売上を増やすことだけでなく、お金の流れを管理することが飲食店経営の生命線だ。
KitchenCostは、飲食店の原価計算アプリです。「いくら仕入れて、いくら売れて、いくら残るか」を見える化すれば、資金繰りの予測精度も上がります。