「確定申告は終わったし、しばらく税金のことは忘れていい」
もしそう思っているなら、ちょっと危ない。
飲食店の個人事業主が払う税金は、所得税だけじゃない。住民税、事業税、消費税、固定資産税——年間で10回以上の納付期限が、12ヶ月の間に散らばっている。
しかも、そのタイミングが繁忙期と重なることが多い。
7月は夏の書き入れ時に予定納税。8月はお盆で忙しいのに事業税と住民税。11月は年末商戦の仕込みに追われながら予定納税と事業税——。
「忙しくて納付書を放置していたら、延滞税を取られた」。個人店のオーナーからよく聞く話です。
延滞税は納期限から2ヶ月を超えると年8.7%(2025年時点)。30万円の税金を3ヶ月放置しただけで約5,200円。何の見返りもない、純粋な損失です。
この記事では、飲食店の個人事業主が1年間で何を・いつ・いくら払うのかを、月別カレンダーで整理します。一度全体像を把握しておけば、「あの税金、いつだっけ?」という不安はなくなります。
先に結論
- 飲食店の個人事業主が払う税金は主に5種類(所得税・住民税・事業税・消費税・固定資産税)
- 年間の納付回数は10〜14回。ほぼ毎月何かしらの納付がある
- 7〜8月と11月が納付集中月。飲食店の繁忙期と重なるので要注意
- 延滞税は年8.7%(2ヶ月超)。忘れただけで罰金のように取られる
- 口座振替を設定するか、スマホのカレンダーに全納付日を登録するのが最も確実
まず知っておきたい──飲食店の個人事業主が払う「5つの税金」
1. 所得税
年間の利益(事業所得)にかかる国税。確定申告で計算して、自分で納付する。
- 納付時期:3月15日まで(振替納税なら4月中旬引落し)
- 税率:5%〜45%(累進課税)
- 計算:(売上−経費−各種控除)×税率−税額控除
2. 住民税(市民税・都民税)
前年の所得に基づいて自治体が計算し、通知書が届く。
- 納付時期:年4回(6月・8月・10月・翌1月)
- 税率:一律10%(所得割)+均等割(約5,000円/年)
- 自分で計算する必要はない。6月に届く通知書の金額を払えばOK
3. 個人事業税
飲食店は「第1種事業」に分類される地方税。
- 納付時期:年2回(8月・11月)
- 税率:5%
- 事業主控除:年290万円。所得が290万円以下なら事業税はゼロ
- 計算:(事業所得−290万円)×5%
4. 消費税
売上1,000万円超の「課税事業者」が対象。免税事業者ならゼロ。
- 納付時期:3月31日まで
- 税率:10%(軽減税率8%あり)
- インボイス登録をした免税事業者は「2割特例」が使える(2026年9月末まで)
5. 固定資産税・償却資産税
店舗の土地・建物を所有している場合にかかる。賃貸の場合は不要(大家が払う)。厨房機器などの償却資産は、所有者が申告する。
- 納付時期:年4回(自治体による。原則4月・7月・12月・翌2月)
- 償却資産申告書の提出:1月31日まで
月別カレンダー──年間スケジュールの全体像
ここからが本題です。月ごとに「何を」「いつまでに」やればいいかを整理します。
1月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 償却資産申告書の提出 | 1月31日 | 厨房機器などの事業用資産を持つ人 |
| 法定調書・給与支払報告書の提出 | 1月31日 | アルバイト等に給与を払っている人 |
| 源泉所得税の納付(特例) | 1月20日 | 源泉徴収の特例を使っている人 |
| 住民税 第4期の納付 | 1月末日 | 全員(前年分) |
飲食店オーナーの注意点:年末年始の忙しさで忘れやすい月。特にアルバイトを雇っていて源泉徴収の特例を使っている場合、1月20日の源泉所得税は見落としやすい。年末のうちにカレンダーに登録しておくのが安全。
2月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 確定申告の準備 | — | 全員 |
| 固定資産税 第4期の納付 | 2月末日(自治体による) | 土地・建物を所有している人 |
やるべきこと:棚卸しの集計、経費の整理、領収書の最終チェック。確定申告は2月16日から受付開始。
3月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 確定申告書の提出・所得税の納付 | 3月16日(月) | 全員 |
| 消費税の確定申告・納付 | 3月31日 | 課税事業者 |
飲食店オーナーの注意点:3月は歓送迎会シーズンで売上が上がる月。忙しくなる前に早めに確定申告を済ませるのがコツ。振替納税を申請しておけば、所得税の引落しは4月中旬〜下旬になるので、3月の資金繰りが楽になる。
4月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 所得税の口座振替(振替納税の場合) | 4月中旬〜下旬 | 振替納税を選択した人 |
| 消費税の口座振替(振替納税の場合) | 4月下旬〜5月上旬 | 振替納税を選択した課税事業者 |
| 固定資産税 第1期の納付 | 4月末日(自治体による) | 土地・建物を所有している人 |
比較的落ち着く月。花見シーズンで売上が見込めるが、税金の引落しも集中する。3月の売上をまるまる使い込まないよう注意。
5月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 自動車税の納付 | 5月末日 | 事業用車両を持っている人 |
飲食店オーナーの注意点:GW(ゴールデンウィーク)商戦と重なるが、税金関係は比較的少ない月。仕込み用の車やキッチンカーを持っている場合は自動車税を忘れずに。
6月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 住民税の通知が届く | 6月上旬 | 全員 |
| 住民税 第1期の納付 | 6月末日 | 全員 |
| 労働保険の年度更新(申告書提出開始) | 6月1日〜 | アルバイト等を雇用している人 |
飲食店オーナーの注意点:住民税の通知書を開けて金額に驚く人が多い月。前年の所得に基づく金額なので、「去年は調子が良かったけど今年は売上が落ちている」という場合、資金繰りが苦しくなる。通知が届いたらすぐに年間の支払い計画を立てること。
7月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 予定納税 第1期 | 7月31日 | 前年の所得税額が15万円以上の人 |
| 固定資産税 第2期の納付 | 7月末日(自治体による) | 土地・建物を所有している人 |
| 源泉所得税の納付(特例) | 7月10日 | 源泉徴収の特例を使っている人 |
| 労働保険年度更新の提出・納付期限 | 7月10日 | アルバイト等を雇用している人 |
⚠️ 納付集中月! 夏の書き入れ時と税金の支払いが同時に来る。特に予定納税は「前年の税額の3分の1」という大きな金額になるので、事前に資金を確保しておく必要がある。
8月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 個人事業税 第1期の納付 | 8月末日 | 事業所得が290万円超の人 |
| 住民税 第2期の納付 | 8月末日 | 全員 |
⚠️ もう1つの納付集中月! お盆で忙しい時期に事業税と住民税が重なる。ダブルで来るので、月初のうちに払っておくのが賢い。
9月
大きな税金の納付はない月。10月以降の支払いに向けて資金を確保する時期。
ただし、インボイス制度の2割特例は2026年9月30日を含む課税期間が適用期限。該当する場合は次の確定申告が最後の適用になるか確認を。
10月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 住民税 第3期の納付 | 10月末日 | 全員 |
飲食店オーナーの注意点:年末商戦の仕込みが始まる時期。仕入れに資金が必要になるので、住民税の納付資金を先に確保しておく。
11月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 予定納税 第2期 | 11月30日 | 前年の所得税額が15万円以上の人 |
| 個人事業税 第2期の納付 | 11月末日 | 事業所得が290万円超の人 |
⚠️ 年末前の最後の山場! 忘年会シーズンの準備で忙しいのに、予定納税と事業税が同時に来る。合計で数十万円になることも。
12月
| やること | 期限 | 対象 |
|---|---|---|
| 固定資産税 第3期の納付 | 12月末日(自治体による) | 土地・建物を所有している人 |
| 棚卸しの実施 | 12月31日時点 | 全員 |
| ふるさと納税の駆け込み | 12月31日まで | 希望者 |
| 年末調整(従業員がいる場合) | 12月末〜翌1月 | アルバイト等を雇用している人 |
飲食店オーナーの注意点:忘年会で一番忙しい月。でも12月31日時点の棚卸しを忘れると確定申告で正しい原価が出せなくなる。12月29〜30日あたりに時間を確保して棚卸しを。ふるさと納税もこの月が期限なので、駆け込みで済ませる人も多い。
年間の税金、合計でいくらになる?
「結局、全部でいくら払うの?」
これが一番気になるところだと思います。売上規模別にシミュレーションしてみます。
売上別シミュレーション(飲食店・個人事業主・従業員なし)
前提条件:
- 原価率30%、その他経費(家賃・光熱費・雑費等)を差し引いた事業所得で計算
- 青色申告65万円控除適用
- 基礎控除48万円、社会保険料控除60万円(国保+年金の概算)
- 配偶者なし、扶養なし
- 消費税は簡易課税(課税事業者の場合)
| 月商80万円の店 | 月商150万円の店 | 月商250万円の店 | |
|---|---|---|---|
| 年間売上 | 960万円 | 1,800万円 | 3,000万円 |
| 事業所得(概算) | 約330万円 | 約650万円 | 約1,100万円 |
| 課税所得 | 約157万円 | 約477万円 | 約927万円 |
| 所得税 | 約8万円 | 約50万円 | 約112万円 |
| 住民税 | 約16万円 | 約48万円 | 約93万円 |
| 事業税 | 約2万円 | 約18万円 | 約40.5万円 |
| 消費税 | 0円(免税) | 約36万円 | 約60万円 |
| 国保+年金 | 約55万円 | 約85万円 | 約100万円 |
| 合計 | 約81万円 | 約237万円 | 約405.5万円 |
| 月あたり | 約6.8万円 | 約19.8万円 | 約33.8万円 |
月商150万円の店でも、毎月約20万円が税金と社会保険で消えている計算です。
これが「売上はあるのにお金が残らない」の正体の一つ。税金の支払い時期を把握して、毎月の売上から先に税金分を取り分けておくことが、資金ショートを防ぐ最大のコツです。
「税金貯金」のすすめ──毎月の売上から先に取り分ける
プロの経営者がやっている方法はシンプルです。
毎月の売上の15〜20%を、税金用の口座に自動的に移す。
やり方:
- 事業用の銀行口座とは別に、もう1つ口座を作る(ネット銀行でOK)
- 毎月の月末に、**売上の15%(月商150万円なら22.5万円)**をその口座に移す
- 税金の支払いはすべてその口座から払う
これだけで、「納付書が届いたけど払うお金がない」という事態がほぼなくなります。
口座振替で「忘れ」を防ぐ
確実に納付する方法として、**口座振替(振替納税)**をおすすめします。
口座振替が使える税金
| 税金 | 口座振替 | 備考 |
|---|---|---|
| 所得税 | ○ | 税務署に「預貯金口座振替依頼書」提出。4月中旬引落し |
| 消費税 | ○ | 所得税と同じ手続き。4月下旬〜5月引落し |
| 住民税 | ○ | 自治体に申請(自治体による) |
| 個人事業税 | ○ | 都道府県に申請 |
| 固定資産税 | ○ | 自治体に申請 |
| 予定納税 | ○ | 所得税の口座振替を設定済みなら自動適用 |
所得税と消費税だけでも口座振替にしておくと、確定申告シーズンの焦りが大幅に減る。期限日に現金を用意する必要がなくなるうえ、引落し日が約1ヶ月後ろ倒しになるので資金繰りにも余裕ができる。
予定納税が辛いときの「減額申請」
前年の売上が良くて、今年の売上が落ちている──飲食店ではよくある話です。
そんなとき、前年の所得に基づく予定納税をそのまま払うのは辛い。
この場合、**「予定納税額の減額申請書」**を税務署に出せば、納税額を下げてもらえる可能性があります。
- 第1期・第2期両方の減額:7月1日〜7月15日に申請
- 第2期のみの減額:11月1日〜11月15日に申請
「今年は去年ほど売上がない」と感じたら、7月15日までに税務署に相談。これだけで数万〜数十万円のキャッシュフロー改善になることがあります。
今週やるべき3つのこと
- スマホのカレンダーに、この記事の月別納付日を全部登録する(各期限の1週間前にリマインダーを設定)
- 税金用の口座を1つ作る(すでにあるなら、毎月の振替金額を再計算する)
- 所得税と消費税の口座振替をまだ設定していない人は、税務署に振替依頼書を提出する
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