「今日も忙しかったな。」
営業が終わって、ぐったりしながらそう思う日が続く。でも、月末に通帳を見ると、なぜか残高が増えていない。
忙しい=儲かっている、ではない。
これは、飲食業をやっている人なら薄々気づいていることかもしれません。でも、「じゃあ何がズレているのか」が見えないまま、翌月も同じように走り続けてしまう。
多くの場合、ズレているのは**「人の使い方」**です。売上に対して、人手をかけすぎている時間帯がある。
それを見つける方法が、人時売上高(にんじうりあげだか)という指標です。
先に結論
- 人時売上高 = 売上 ÷ 総労働時間。スタッフ1人が1時間で稼いだ売上を表す
- 目安は4,000〜5,000円。3,000円台ならシフトの見直し余地あり
- 最低賃金が全国平均1,121円になったいま、「なんとなくの人数」で回すと人件費だけが増える
- 改善の第一歩は、アイドルタイム(客の少ない時間帯)のシフト人数を1人減らすこと
- 人件費率(月次のコスト管理)と人時売上高(日次のシフト判断)をセットで使うと経営が安定する
なぜ「忙しいのに利益が出ない」が起きるのか
まず状況を確認します。
2025年10月、最低賃金の全国加重平均が1,121円に引き上げられました(厚生労働省 2025年9月5日公表)。前年の1,055円から**+66円**。1978年に目安制度が始まって以来、最大の上げ幅です。
帝国データバンクの集計によると、2025年の飲食店倒産は900件を超え、過去最多。そのうち負債5,000万円未満の小規模倒産が**77.3%**を占めています。
つまり、小さな店ほどコスト変動に弱い。
さらに、帝国データバンクの2024年調査では、非正社員の人手不足を感じている企業の割合は飲食店が**67.0%**で、3年連続全業種トップです。
人が足りないから多めにシフトを入れたい。でも時給は上がっている。ここで「なんとなく」でシフトを組むと、忙しい時間帯も暇な時間帯も同じ人数——という事態が起きます。
忙しい時間帯は足りない。暇な時間帯は余っている。
トータルの人件費は増えるのに、売上は変わらない。「忙しいのに儲からない」の正体は、これです。
人時売上高とは——スタッフ1人の「1時間の稼ぎ」
人時売上高(にんじうりあげだか)は、スタッフ1人が1時間で生み出した売上を表す指標です。
計算式はとてもシンプルです。
人時売上高 = 売上 ÷ 総労働時間
「総労働時間」は、その日に働いた全スタッフの勤務時間の合計です。オーナー自身の時間も含めて計算してください。
具体例
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 今日の売上 | 100,000円 |
| スタッフA(オーナー) | 10時間 |
| スタッフB(アルバイト) | 8時間 |
| スタッフC(アルバイト) | 7時間 |
| 総労働時間 | 25時間 |
人時売上高 = 100,000 ÷ 25 = 4,000円
これだけです。レジ締めのあと、2分で出せます。
人時売上高の目安
業態によって差はありますが、一般的な目安はこうです。
| 人時売上高 | 評価 |
|---|---|
| 5,000円以上 | 効率がよい。人の配置がうまくいっている |
| 4,000〜5,000円 | 合格ライン。維持を目指す |
| 3,000〜4,000円 | 改善余地あり。アイドルタイムのシフトを見直す |
| 3,000円未満 | 要注意。人件費が売上を圧迫している可能性 |
ただし、高ければいいとも限りません。人時売上高が6,000円を超えている場合、人が足りずにサービスが落ちている可能性もあります。お客さんが待たされている、料理の提供が遅い、ホールが回っていない——こういう状態だと、短期的には数字がよくても、リピーターが減って中長期の売上が下がります。
効率と接客品質のバランス。これが人時売上高を使うときのポイントです。
人件費率との違い——使い分けが大事
すでに「人件費率」を使って管理している方もいるかもしれません。人時売上高と人件費率は似ているようで、見ているものが違います。
| 人件費率 | 人時売上高 | |
|---|---|---|
| 計算式 | 人件費 ÷ 売上 × 100 | 売上 ÷ 総労働時間 |
| 見ているもの | コスト(出ていくお金) | 生産性(人の使い方の効率) |
| 向いている判断 | 月次の損益管理 | 日次のシフト調整 |
| わかること | 「人件費が重すぎるか」 | 「今日の人数は適正だったか」 |
簡単に言うと、人件費率は「月末のチェック」、**人時売上高は「毎日のチェック」**に向いています。
たとえば、月の人件費率が30%でも、日々の人時売上高を見ると「火曜と水曜だけ2,800円で、残りの日は4,500円」ということがあります。月次の数字だけでは見えなかった**「火水のシフトが多すぎる」**という問題が、人時売上高を使うと日単位で見えるのです。
実践——人時売上高でシフトの「ムダ」を見つける
ステップ① 1週間分の人時売上高を出す
まず、1週間分の数字を出してみてください。
── 3月 第1週 ──
売上 総労働時間 人時売上高
月 休み
火 62,000 18h 3,444円 ← 低い
水 48,000 18h 2,667円 ← かなり低い
木 71,000 20h 3,550円
金 95,000 25h 3,800円
土 120,000 28h 4,286円
日 98,000 25h 3,920円
売上が少ない火曜・水曜でも、総労働時間は木曜とあまり変わらない——という状態が見えます。
ステップ② 低い日の「時間帯別」を確認する
人時売上高が低い曜日について、もう少し細かく見てみます。
水曜日を例にとります。
水曜日の時間帯別(ざっくり)
11:00-14:00(ランチ) 売上 32,000円 スタッフ3人 → 人時売上高 3,556円
14:00-17:00(アイドル) 売上 4,000円 スタッフ3人 → 人時売上高 444円 ← ここ
17:00-21:00(ディナー) 売上 12,000円 スタッフ3人 → 人時売上高 1,000円
14時〜17時のアイドルタイムに3人いて、売上が4,000円。人時売上高は444円です。
もしこの時間帯を3人→1人にすれば、浮く労働時間は2人×3時間=6時間。時給1,121円なら6,726円のコスト削減です。
これが毎週なら月4回で約26,900円。水曜だけの話です。
ステップ③ 改善アクションを決める
人時売上高が低い時間帯が見つかったら、選択肢は2つです。
A) その時間帯の人数を減らす(コスト削減)
いちばんシンプルな方法。14時〜17時は1人で回せるなら、シフトを減らす。
ただし、「人を減らす」と聞くと、スタッフのモチベーションに影響しないか心配になるかもしれません。大事なのは、**シフト時間の「移動」**として考えること。アイドルタイムを減らして、忙しい金土のシフトを増やす。スタッフにとっても「短い時間でダラダラ」より「忙しい日にしっかり稼ぐ」ほうが良いことが多いです。
B) その時間帯の売上を増やす(売上アップ)
アイドルタイム限定メニュー、テイクアウト、仕込み作業に充てるなど。ただし、売上アップは効果が出るまで時間がかかるので、まずはA(シフト調整)で即効性のある改善をして、Bは中期的に取り組むのが現実的です。
数字で見る改善効果
水曜のアイドルタイムを3人→1人にしただけの例で、年間の効果を見てみます。
削減される労働時間:2人 × 3時間 × 月4回 = 24時間/月
人件費削減額:24h × 1,121円 = 26,904円/月
年間:26,904円 × 12ヶ月 = 約322,800円
水曜の1つの時間帯を見直しただけで、年間32万円。
同じように火曜、平日のディナーなど他の時間帯も見直すと、年間で50万円以上の人件費改善は、小さな店でも十分に現実的な数字です。
しかも、これは「スタッフを減らす」のではなく「配置を変える」だけ。忙しい日にシフトを移動させれば、サービスの質が上がり、スタッフの稼ぎも増えます。
よくある落とし穴3つ
落とし穴① 人時売上高だけで判断する
数字がよくなることに夢中になって、人を減らしすぎるケースがあります。
お客さんが入ったときに「席に通すのに3分待ち」「ドリンクが5分以上こない」状態になると、数字は上がっても客足が遠のきます。
目安:ピーク時は人時売上高が5,000〜6,000円程度に収まるように。 それ以上になるとオペレーションが回りません。
落とし穴② オーナーの時間を入れ忘れる
自分は「タダ」だと思って、総労働時間にオーナーの勤務時間を入れない人がいます。
でも実際には、オーナーが10時間働いて売上10万円の店は、人時売上高が見かけより低いはずです。自分の時間も正直に入れることで、本当の効率が見えます。
落とし穴③ 全日平均だけで見る
「うちは人時売上高4,200円だから大丈夫」——月の平均で見ると問題なさそうでも、曜日別・時間帯別に分解すると、特定の時間帯だけ極端に低いことがよくあります。
平均ではなく、いちばん低い時間帯がどこかを見つけることが改善のスタートです。
売上日報と組み合わせると、さらに強い
すでに売上日報をつけている方なら、記録する項目に**「その日の総労働時間」**を1つ加えるだけで、人時売上高が毎日わかるようになります。
── 3月 第2週 ──
売上 客数 仕入れ 総労働h 人時売上高
火 65,000 30 19,000 16h 4,063円 ← 改善!
水 52,000 24 16,000 12h 4,333円 ← 改善!
木 73,000 36 23,000 20h 3,650円
金 98,000 50 30,000 25h 3,920円
土 118,000 60 36,000 28h 4,214円
日 95,000 44 27,000 25h 3,800円
売上・客数・仕入れに加えて「総労働時間」の4項目。レジ締め後にかかる時間は30秒増えるだけです。
今週やること
- 今日から1週間、レジ締め時に「その日の全スタッフの労働時間合計」をメモする
- 1週間後、曜日ごとの人時売上高を計算する(売上÷総労働時間)
- いちばん数字が低い曜日を見つける
- その曜日の「アイドルタイム(14〜17時など)」に何人いるか確認する
- 1人減らせる時間帯があれば、翌週のシフトで試してみる
所要時間の目安:毎日30秒の記録 + 週末に15分の振り返り。
まとめ
「忙しいのに儲からない」は、売上の問題ではなく人の配置の問題であることが多いです。
最低賃金が1,121円に上がり、飲食店の倒産が過去最多を更新しているいま、「なんとなく」のシフトで人件費を垂れ流す余裕はありません。
人時売上高は、たった1つの計算式で「人の使い方がズレていないか」を教えてくれる指標です。
難しい分析は要りません。売上と、みんなが何時間働いたか。この2つがあれば、明日から計算できます。
まずは1週間、レジ締めのあとに「今日、みんなで何時間働いたか」を書くことから始めてみてください。
人時売上高でシフトの改善ポイントが見えたら、次は「メニューごとの利益」を確認してみませんか。KitchenCostなら、食材と分量を入れるだけで1品ごとの原価と原価率がわかります。「忙しいのに利益が出ないメニュー」を見つけることで、シフトだけでなくメニュー構成からも利益を改善できます。