面接のとき、「この人なら大丈夫そうだな」と思って採用した人が、3日で来なくなった。
連絡しても返事がない。制服はロッカーに入ったまま。また求人を出し直して、面接して、教えて——同じことの繰り返し。
飲食店をやっている方なら、一度はこの経験があるのではないでしょうか。
この記事では、「なぜ辞めるのか」のデータを押さえたうえで、面接・初日・3ヶ月後という3つのタイミングでできる具体的な対策をまとめました。2026年10月に予定されている「106万円の壁」の撤廃についても、飲食店への影響を整理しています。
先に結論
- 飲食店パートタイムの離職率は31.9%。全産業平均の約2倍
- 離職理由の1位は給与ではなく人間関係(35%)。お金で解決できない問題が最大の壁
- 辞めずに続けた人が「踏みとどまれた理由」のトップ3は、すべてコミュニケーション
- 面接の精度を上げれば、ミスマッチ採用を減らせる。定着の勝負は最初の2週間で決まる
- 2026年10月の106万円の壁撤廃で、パートの「働き控え」が解消に向かう見込み
いま飲食店の採用がこれほど厳しい理由
「最近、本当に人が来ない」——これは気のせいではありません。
帝国データバンクの調査(2025年4月)では、飲食店における非正社員の人手不足割合は65.3%。3店に2店は「人が足りない」と感じています。2023年4月の85.2%からは改善傾向にあるものの、依然として全業種で最も高い水準です。
背景には3つの構造的な問題があります。
① 少子化で「バイト候補」自体が減っている
大学生・高校生の人口は年々減っています。以前なら「求人を出せば誰か来た」時代が、もう終わっています。
② 最低賃金の上昇で他業種と競合
2025年度の最低賃金は全国加重平均で1,121円(前年+66円、過去最大の引き上げ幅)。全47都道府県で初めて1,000円を突破しました。東京は1,226円、大阪は1,177円です。
時給が業種間で均一化すると、「きつい」イメージのある飲食業は選ばれにくくなります。
③ 辞めるスピードが速い
厚生労働省の雇用動向調査(2023年通年)によると、宿泊業・飲食サービス業のパートタイム離職率は31.9%。全産業平均の約2倍です。
新卒に限るともっと深刻で、2022年3月卒の3年以内離職率は大卒で55.4%、高卒で64.7%。全産業平均(大卒34.9%、高卒38.4%)を20ポイント以上上回っています。
つまり、「来ない」「来ても辞める」「辞めたらまたコストがかかる」の三重苦です。
1人のアルバイトを採用するのにかかるコストは、求人広告費と面接工数を合わせて約5万円前後。辞められるたびに、この金額が消えていきます。
📖 採用方法ごとのコスト比較については:アルバイト1人の採用に6.7万円——飲食店の求人コスト、払いすぎていませんか?
面接で「続く人」を見抜く——5つの確認ポイント
飲食経験がある人を優先したくなる気持ちはわかります。でも、経験者だから定着するとは限りません。実は「経験はないけどシフトが合っていて、素直に学べる人」の方が長く続くケースは多いです。
面接で確認すべきは、スキルよりもマッチ度です。
① シフトの合致度を最初に確認する
「週何日入れますか?」ではなく、具体的に聞きます。
- 「土日のどちらかは入れますか?」
- 「ランチタイム(11時〜14時)とディナー(17時〜22時)、どちらが希望ですか?」
- 「テスト期間や帰省で長期間入れなくなる時期はありますか?」
シフトが合わない人を採用しても、穴埋めのストレスがお互いに溜まるだけです。シフトの合致度が最大の定着予測因子だと考えてください。
② 「前のバイトを辞めた理由」を聞く
この質問で、その人が何に不満を持ちやすいかがわかります。
- 「人間関係がつらかった」→ あなたの店のチーム状況と合うか確認
- 「シフトが合わなかった」→ 同じ問題が起きないか具体的にすり合わせ
- 「なんとなく」→ 本当の理由を言いにくいのかもしれないので、もう少し掘り下げる
正解を求めるのではなく、自分の言葉で話せるかどうかを見てください。
③ 「忙しい時間帯」への反応を見る
「うちは金曜の夜と土曜のランチがいちばん忙しいんですが、そういう時間帯は大丈夫ですか?」
この質問に対して、表情が曇るか、前のめりになるかで適性がわかります。飲食店の仕事は忙しい時間帯を避けられません。
④ 清潔感と挨拶を見る
飲食店は接客業です。面接に来たときの第一印象が、お客様への第一印象とほぼ同じです。
ただし、「身だしなみのルール」は面接の段階でこちらから伝えるのがフェアです。「うちではこういう基準です」と先に言えば、相手も入社後にギャップを感じません。
⑤ 仕事内容を「正直に」伝える
面接は、応募者を見極める場であると同時に、ミスマッチを防ぐ場でもあります。
- 「忙しい時間帯は皿洗いと調理補助を同時にやることがあります」
- 「最初の1ヶ月はホールの基本動作を覚えてもらいます」
- 「まかないは〇〇円で出しています」
良いところだけ見せて採用すると、入ってから「聞いていた話と違う」で辞められます。
初日で「ここなら続けられそう」と思わせる
面接をクリアして、採用が決まった。でも、ここからが本当の勝負です。
MS&Consultingの調査によると、半年未満で退職したアルバイトが「踏みとどまれた体験」として挙げたのは:
- 他のスタッフとの良好なコミュニケーション
- 些細な悩みや困りごとを相談できる環境
- 上司からの声がけ・フォロー
トップ3がすべてコミュニケーション。つまり、初日にどう迎えるかが離職を防ぐ最大のポイントです。
初日にやる5つのこと
① 出勤前に名前を共有しておく
「今日から〇〇さんが入るから、よろしくね」と既存スタッフに事前に伝えておく。新人が来たときに「あ、聞いてないんだけど…」という空気がいちばんつらいです。
② 「教育係」を1人決める
「わからないことがあったら、まず△△さんに聞いてね」と伝えるだけで、新人の不安は半分になります。「誰に聞けばいいかわからない」のが早期離職の大きな原因です。
③ 最初の仕事は「成功体験」になるものを
いきなりピーク時のホールに放り込むのではなく、「おしぼりを巻く」「テーブルをセットする」など、確実にできる作業から始めます。「できた」という感覚が、次の日も来る理由になります。
④ 休憩中にひと声かける
「初日どう? 大丈夫?」の一言があるかないかで、印象がまったく違います。休憩時間に孤立させない。これだけで「また来よう」と思ってもらえます。
⑤ 退勤時に「ありがとう」を伝える
「今日来てくれてありがとう。明日も待ってるね」。新人にとって、初日の最後の印象は翌日の出勤意欲に直結します。
3ヶ月で「戦力」にする——定着のための5つの仕組み
最初の2週間を乗り越えたら、次は3ヶ月の定着フェーズです。ここで離脱する人の多くは、成長実感がないか不公平感を感じているかのどちらかです。
仕組み1:業務を「レベル別」に見える化する
| レベル | 覚える内容 | 目安期間 |
|---|---|---|
| Lv.1 | 挨拶、身だしなみ、清掃、皿下げ | 1週目 |
| Lv.2 | オーダー取り、レジ操作、基本メニュー説明 | 2〜3週目 |
| Lv.3 | ドリンク提供、料理提供、お客様対応の基本 | 1〜2ヶ月目 |
| Lv.4 | クレーム対応、後輩の補助、閉店作業 | 2〜3ヶ月目 |
「今あなたはレベル2だよ」と言えるだけで、本人は進んでいる実感を持てます。紙1枚で十分です。
仕組み2:時給アップの基準を明確にする
「頑張ったら上げる」は基準がないのと同じです。
- Lv.3をクリア → +30円
- Lv.4をクリア → さらに+50円
- 土日・祝日手当 → +100円
金額は店舗の状況に合わせてください。大事なのは、何をすれば上がるかが事前にわかっていることです。
仕組み3:シフトの柔軟性を持たせる
離職理由に「学業との両立が難しい」「休みが取れない」が多い以上、シフトの柔軟性は定着に直結します。
- テスト期間は2週間前に申告すれば休める
- 急な体調不良時の代わりの見つけ方を決めておく
- 月に1回、翌月のシフト希望をまとめて確認する
スマホでシフト希望を出せる仕組みがあると、お互いのストレスが減ります。
仕組み4:月1回の「5分面談」
大げさなものでなくて構いません。
- 「最近どう? 困ってることない?」
- 「シフトの量、多すぎたり少なすぎたりしてない?」
- 「人間関係で気になることない?」
5分で終わる会話です。でも、この5分があるかないかで、不満が「退職」に変わる前に気づける確率が格段に上がります。
仕組み5:既存スタッフの不満にも目を配る
新人のケアに集中しすぎて、ベテランスタッフの不満が溜まるケースがあります。「なんで自分がいつも教えなきゃいけないの」「新人ばかり気にかけて」と感じさせると、ベテランの離職につながります。
教育係への手当(+500円/日など)や、「いつも助かってるよ」の声がけが、バランスを保つポイントです。
【2026年10月】106万円の壁が撤廃される——飲食店への影響
「年収106万円を超えないようにシフトを抑えてるんです」——パート・アルバイトからこう言われたことがある方は多いのではないでしょうか。
この「106万円の壁」が、2026年10月をめどに撤廃される方向で調整が進んでいます。
何が変わるのか
| 項目 | 現在(2026年9月まで) | 2026年10月以降 |
|---|---|---|
| 加入条件 | 週20時間以上 かつ 月収8.8万円以上 かつ 従業員51人以上の企業 | 週20時間以上(賃金要件・企業規模要件を段階的に撤廃) |
| 年収の壁 | 年収約106万円を超えると社会保険料が発生 | 壁がなくなる |
| 対象者数 | — | 新たに約200万人が厚生年金加入対象 |
飲食店にとっての「良い面」
- パートが「106万円を超えないように」とシフトを減らす必要がなくなる
- 繁忙期にもっとシフトに入ってもらえる可能性が高まる
- 「あと2時間入りたいけど…」と我慢していた人が働ける
飲食店にとっての「注意点」
- 店舗側の社会保険料負担が増える(健康保険・厚生年金の事業主負担分)
- パート1人あたりの保険料は、給与の約15%が目安(労使折半で約30%のうち半分)
- 月8万円のパートなら、店舗の追加負担は月約12,000円程度
いま準備しておくべきこと
- パート・アルバイトの週の所定労働時間を確認する(週20時間を超える人を把握)
- 対象者が増えた場合の社会保険料の増加額を試算する
- スタッフに変更内容を説明する(「壁がなくなるので、働きたい分だけ働けるようになります」)
- 人件費率の見直し(原価とのバランスでFLコストをチェック)
💡 人件費が増える分、食材原価の管理がこれまで以上に重要になります。「人件費+原価(FLコスト)で売上の55〜65%以内」が目安。どちらかが上がったら、もう片方で調整するか、メニュー価格を見直す必要があります。
離職を防ぐ「お金以外」の3つの鍵
最後に、データから見えてきた定着のポイントをまとめます。
飲食店アルバイトの離職理由トップ5(複数調査の総合):
| 順位 | 理由 | 割合の目安 |
|---|---|---|
| 1位 | 職場の人間関係・雰囲気 | 約35% |
| 2位 | 長時間労働・拘束時間 | — |
| 3位 | 休暇が取りづらい | — |
| 4位 | 給与・時給への不満 | — |
| 5位 | 学業や生活との両立困難 | — |
1位が給与ではなく人間関係です。つまり、時給を上げれば辞めなくなるわけではない。
鍵①:「聞ける環境」をつくる
教育係を決める。質問しやすい雰囲気をつくる。「聞いたら怒られた」を1回でもなくす。
鍵②:「公平さ」を感じさせる
シフトの偏り、仕事量の偏り、評価の不透明さ——これらが不公平感の原因です。完璧でなくても、「見ようとしている」姿勢を見せること。
鍵③:「成長」を実感させる
レベル表でも、時給アップ基準でも、「先月よりできるようになったね」のひと言でも。人は成長を感じられる場所に留まります。
今週やること
- 求人広告の記載内容と実際の仕事内容にズレがないか確認する(15分)
- 面接で聞く質問を5つリストアップして紙に書き出す(10分)
- 次に入る新人の「教育係」を誰にするか決める(5分)
- 初日オリエンテーションの流れ(30分の予定表)を書き出す(20分)
- 現在のスタッフの週の所定労働時間を確認する(106万円の壁対策)(15分)
- 時給アップの基準が明文化されているか確認する。なければ簡単な表を作る(15分)
まとめ
飲食店の人手不足は、「人が来ない」だけでなく「来ても辞める」構造になっています。
離職率31.9%ということは、10人採用しても3人以上が1年以内にいなくなる計算です。1人あたり約5万円の採用コストが、そのたびに消えていく。
でも、定着率を上げるのにお金は必ずしも必要ありません。
面接でミスマッチを防ぐ。初日に「ここなら続けられそう」と思わせる。3ヶ月かけて戦力にする。その仕組みがあるかないかで、1年後のスタッフの顔ぶれは大きく変わります。
2026年10月の106万円の壁撤廃は、パートの「働き控え」を解消するチャンスでもあります。一方で社会保険料の負担増にも備える必要がある。人件費と原価のバランスを定期的に見直すことが、これまで以上に重要になります。
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