メニューが40品ある店で、実際に利益を出しているのは何品あるか。
「うちは全品ちゃんと原価を計算してるよ」という方もいるかもしれません。でも、「このメニューが売上のどれくらいを占めているか」まで把握している方は、かなり少ないのではないでしょうか。
飲食店をやっていると、メニューは増えていくものです。お客さんから聞かれたから追加した。季節限定のつもりが定番になった。開店のときからあるので、なんとなく残している——。気づけば40品、50品。でも売れ行きには大きな差があるはずです。
今回紹介するABC分析は、その「差」を数字で見える化する方法です。特別なソフトは不要。レジの売上データと紙があれば、今日からできます。
先に結論
- メニュー全体の20〜30%が、売上の70〜80%を生んでいるのが一般的(パレートの法則)。残りは「あってもなくても売上にほぼ影響しない」品
- ABC分析は売上データだけで始められる。 原価データがあればさらに精度が上がる
- Aグループ(上位75%): 品切れを絶対に出さない。仕入れの安定が最優先
- Bグループ(75〜95%): 原価・見せ方を見直すとAに昇格する可能性がある
- Cグループ(95〜100%): 「減らす・統合する・値上げする」の3択で判断
- メニューを3〜5品減らすだけでも、仕込み時間・在庫・廃棄が目に見えて変わる
仕入れ値が上がっているのに、メニューが変わっていない
まず、いまの状況を数字で確認しておきます。
帝国データバンクの調査(2025年3月)によると、飲食店の**94.6%**が仕入れ価格の上昇に直面しています。これは全業種で最も高い割合です。
2026年は、食品の値上げが1万5千品目前後になる見込みです(帝国データバンク、2025年12月時点の試算)。2025年の2万609品目よりはペースが鈍化していますが、「ほぼ毎日どこかの食材が値上がりする」状況は変わりません。
一方で、実際に値上げを実施できた飲食店は**約65%**にとどまります(帝国データバンク調査)。つまり残り約35%は、仕入れ値が上がったにもかかわらず売値を変えていません。
その結果が、数字に出ています。2025年の飲食店倒産件数は1,002件。30年ぶりに1,000件を超え、過去最多を更新しました(東京商工リサーチ、2026年1月発表)。
ここで多くの店がぶつかる問題があります。
「じゃあ、どのメニューの値段を変えればいいの?」
全品一律10%上げる? 原価率が高い品だけ上げる? よく売れる品は怖いから据え置く?
——この判断を、感覚ではなくデータで行う方法がABC分析です。
ABC分析とは——売上を3つのグループに分けるだけ
名前は難しそうに聞こえますが、やることはシンプルです。
メニューを売上金額の大きい順に並べて、A・B・Cの3つのグループに分ける。 これだけです。
| グループ | 売上の累計 | 意味 |
|---|---|---|
| A | 上位75%まで | 稼ぎ頭。この品がなくなると売上が大きく落ちる |
| B | 75〜95% | 中間層。手を加えればAに育つ可能性がある |
| C | 95〜100% | 売上への貢献が小さい。見直し候補 |
累計比率の区切りは「75/95」が一般的ですが、「70/90」や「80/95」など、店の事情に合わせて調整して構いません。
イタリア人の経済学者パレートが発見した「80:20の法則」をご存じでしょうか。**「売上の80%は、商品の上位20%から生まれる」**という経験則です。飲食店のメニューでも、これに近い傾向が見られることが多いです。
つまり、40品のうち8〜12品で売上の大半を稼いでいる可能性が高い。残りの30品近くは、あってもなくても売上にはほとんど影響しない——。
「そんなことはわかってるよ」と思うかもしれません。でも、「じゃあ具体的にどの品がAで、どの品がCか」を一覧にしたことがある方は、どれくらいいるでしょうか。
やり方——5ステップ、30分で終わる
ステップ1:1ヶ月分の販売データを用意する
必要なのは**「メニュー名」「販売数」「売上金額」**の3つだけ。
POSレジを使っている場合は、月間のメニュー別売上レポートを出力すれば準備完了です。手書き伝票の場合は、1ヶ月分の売上をメニュー別に集計してください。
1週間分でも大まかな傾向はつかめますが、できれば1ヶ月分がおすすめです。曜日による偏りを均すためです。
ステップ2:売上金額の大きい順に並べる
エクセルでもノートでも構いません。売上金額が大きいメニューが上に来るように並べ替えます。
たとえば、こんな感じです。
| 順位 | メニュー | 月間売上 |
|---|---|---|
| 1 | 生ビール(中) | 320,000円 |
| 2 | 鶏の唐揚げ | 185,000円 |
| 3 | 枝豆 | 142,000円 |
| 4 | ハイボール | 128,000円 |
| 5 | 刺身盛り合わせ | 115,000円 |
| … | … | … |
| 35 | 冷やしトマト | 8,000円 |
ステップ3:累計売上と累計比率を計算する
上から順番に売上を足していって、全体の何%に達したかを計算します。
| 順位 | メニュー | 月間売上 | 累計売上 | 累計比率 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 生ビール(中) | 320,000 | 320,000 | 21.3% |
| 2 | 鶏の唐揚げ | 185,000 | 505,000 | 33.7% |
| 3 | 枝豆 | 142,000 | 647,000 | 43.1% |
| 4 | ハイボール | 128,000 | 775,000 | 51.7% |
| 5 | 刺身盛り合わせ | 115,000 | 890,000 | 59.3% |
| 6 | 焼き鳥盛り合わせ | 98,000 | 988,000 | 65.9% |
| 7 | ポテトフライ | 75,000 | 1,063,000 | 70.9% |
| 8 | サワー各種 | 68,000 | 1,131,000 | 75.4% |
| 9 | 焼きそば | 52,000 | 1,183,000 | 78.9% |
| … | … | … | … | … |
(月商150万円の居酒屋を想定した例です)
ステップ4:A・B・Cに分ける
- 累計比率が**75%**に達したところまで → Aグループ
- 75〜95% → Bグループ
- 95%以降 → Cグループ
上の例では、8品目(生ビール〜サワー各種)までがAグループ。全35品中の8品——約23%です。
ステップ5:各グループに対策を打つ
ここが一番大事なところです。分類しただけでは何も変わりません。
グループ別の打ち手
Aグループ:守る・伸ばす
Aグループは店の「生命線」です。
やること:
- 品切れを絶対に出さない。 仕入れの安定が最優先。天候や仕入れ先の事情で欠品するリスクがあるなら、別の仕入れルートを確保しておく
- 原価を正確に把握する。 Aグループは1品の原価が1%ずれるだけで、月の利益に大きく響く。仕入れ値が変わったらすぐに原価を再計算する
- 安易な値上げは慎重に。 Aグループはお客さんの「基準価格」になっていることが多い。値上げするなら量の微調整やセット化など、別の方法も検討する
- 「なぜ売れているか」を言語化する。 味なのか、値段なのか、見た目なのか。売れている理由がわかれば、新メニュー開発のヒントにもなる
Bグループ:磨く・育てる
Bグループは「もう少しでAに上がれるかもしれない品」と「Cに落ちかけている品」が混在しています。
やること:
- 露出を増やす。 メニュー表での配置を変える、スタッフのおすすめトークに加える、セットメニューに組み込む。注文されない理由が「気づかれていない」だけのことがある
- 原価率を重点的に見直す。 Bグループは手を加えるとA昇格の可能性がある。盛り付けの改善、量の調整、付け合わせの見直しなど
- 「注文されない理由」を考える。 メニュー表での位置が目立たない? 名前がわかりにくい? 写真がない? 小さな改善で注文数が変わることは珍しくない
Cグループ:減らす・統合する・割り切る
Cグループは売上への貢献が小さいメニューです。ここがABC分析で最も大事な判断どころです。
3つの問いで判断する:
- このメニューを消しても、お客さんは困らないか? → 困らないなら削除候補
- 似たようなメニューが他にないか? → あるなら統合する(例:3種類のサラダを「本日のサラダ」にまとめる)
- この品がなくなると、仕入れる食材の種類が1つ減るか? → 減るなら廃棄ロスも減る可能性が高い
注意点:
- Cグループがメニュー全体の半分以上を占めている場合は赤信号。メニュー数が多すぎて、食材の種類・在庫・仕込み時間がふくらんでいる可能性が高い
- ただし**「残すべきC」もある。** 常連さんが必ず頼む品、子連れ客に必要なキッズメニュー、ドリンクのラインナップを保つための品など。売上の数字だけで機械的に消さないこと
- 1回に減らすのは3〜5品まで。いきなり10品減らすと、お客さんが「メニューが寂しくなった」と感じる。少しずつ減らして反応を見る
具体的な目安:
個人の居酒屋やカフェなら、メニュー数は30〜50品が運営しやすいラインです。50品を超えると、仕込み・在庫・廃棄の管理が急に難しくなります。
Cグループから3〜5品を削るだけでも、仕込みの種類が減り、仕入れがシンプルになり、冷蔵庫のスペースが空きます。目に見える変化が出やすいのは、メニューを「増やす」ときではなく**「減らす」とき**です。
ABC分析でよくある3つの失敗
失敗① 売上だけ見て「利益」を見ない
ABC分析は通常「売上金額」で分類しますが、**「売上が多いのに原価率が高すぎて利益が残っていない品」**を見逃すことがあります。
たとえば、刺身盛り合わせが月11万5千円売れてAグループだとしても、原価率が60%なら粗利は4万6千円。一方、ポテトフライは月7万5千円でBグループでも、原価率が20%なら粗利は6万円。
ポテトフライのほうが利益を多く生んでいます。
余裕があれば、売上のABC分析に加えて**「粗利(売上 − 原価)のABC分析」**もやってみてください。売上ではAなのに粗利ではBやCになっている品は、原価設計の見直しが必要です。
失敗② 1回やって満足する
ABC分析は「1回やって終わり」ではありません。季節で売れ筋は変わりますし、仕入れ値も変動します。
夏に売れたかき氷が冬にはCグループに落ちるのは当然です。それ自体は問題ない。問題は、季節が変わってもメニュー構成が変わらないこと。
理想は月1回。忙しければ3ヶ月に1回でも構いません。メニュー改定や値上げのタイミングで実施すれば、自然と定期的に回るようになります。
失敗③ Cグループを一気に全部消す
「Cだから全部なくそう」は危険です。先ほど書いたように、売上の数字には表れない役割を持つメニューがあります。
一度に大幅に減らすと、常連客から「あのメニューがなくなった」と不満が出ることがあります。1回に3〜5品にとどめて、お客さんの反応を確認してから次を判断してください。
もうひとつの視点——「数量」で並べ替えてみる
売上金額での分析が終わったら、次は販売数量で並べ替えてみてください。
「売上金額は低いけど、注文回数がやたら多い品」が見つかることがあります。たとえば、枝豆(300円)は売上順位では中位でも、注文数では1位かもしれません。
このような「注文回数は多いけど単価が低い品」は、客単価アップのヒントになります。
- セットの「必ずつく品」にして、メインの注文を増やす
- 量を増やして価格を上げる(「大盛り枝豆 500円」)
- この品を頼む人が一緒に頼む品を把握して、おすすめに活かす
逆に、「単価は高いけど注文数が極端に少ない品」は、お客さんにとって「頼みづらい」何かがある可能性があります。値段が高すぎる、名前が凝りすぎて中身がわからない、そもそもメニュー表で目に入っていない——原因を探って改善する価値があります。
今週やること
- レジから先月のメニュー別売上データを出す(手書きなら1週間分を集計する)
- 売上金額の大きい順に並べて、累計75%・95%のラインを引く
- Aグループの品数を確認する(全体の20〜30%に収まっているか?)
- Cグループの中から「消しても影響のない品」を3つ候補に挙げる
- 来月のメニュー改定に反映する
所要時間の目安:30分〜1時間。1回やれば、2回目からは15分で終わります。
まとめ
ABC分析は、経営コンサルタントの専門ツールではありません。**レジのデータと紙があれば、今日からできる「メニューの健康診断」**です。
仕入れ値がほぼ毎月のように上がるいまの状況で、「どのメニューが稼いでいて、どのメニューが足を引っ張っているか」を知らないまま営業を続けるのは、体温計なしで風邪を治そうとしているようなものです。
まずは1回、30分だけ時間をとってみてください。「この品、こんなに貢献してたのか」「この品、なくても大丈夫だったんだ」——その気づきが、次の判断の精度を変えます。
メニューごとの原価計算を手軽にやりたい方には、KitchenCostがお役に立てるかもしれません。食材と分量を入力するだけで1品ごとの原価・原価率が自動で出ます。ABC分析と組み合わせると、売上だけでなく利益の視点でもメニューを評価できるようになります。