ある居酒屋で起きたこと
人気の居酒屋がInstagramで告知した。
「好評の自家製サングリアをボトル販売します! テイクアウトOK!」
お客さんからの反応は上々。1週間で20本売れた。
──そこに、税務署から電話がかかってきた。
「酒類販売業免許をお持ちですか?」
持っていなかった。無免許での酒類販売。酒税法違反だ。
「え? うちは飲食店営業許可を持っているけど」──残念ながら、それとこれは別の話なのだ。
飲食店で「免許がいる場合」と「いらない場合」
| ケース | 免許 |
|---|---|
| 店内で生ビールを注いでお客さんに出す | 不要 |
| 店内でボトルワインを開けてグラスで出す | 不要 |
| お客さんが飲み残したボトルを持ち帰る | 不要(飲み残しの持ち帰り) |
| 未開栓のボトルワインをテイクアウト販売 | 必要 |
| 缶ビール・缶チューハイを持ち帰り用に販売 | 必要 |
| 自家製果実酒をボトルに詰めて販売 | 必要(+製造免許が必要な場合あり) |
| 通販でお酒を販売 | 必要(通信販売酒類小売業免許) |
ルールは明快だ。
- 店の中で飲んでもらう → 免許不要
- 店の外で飲む目的で売る → 免許必要
酒類販売業免許の取り方
ステップ1: 税務署の酒類指導官に事前相談(無料)
所轄の税務署に電話し、**「酒類指導官」**に繋いでもらう。
- 「飲食店でテイクアウト用にお酒を売りたい」と伝える
- 飲食店と同じ場所で免許が取れるか確認する
- 必要書類のリストをもらう
この事前相談が最も重要。店の状況によって必要書類が変わるため、ネットの情報だけで進めると二度手間になる。
ステップ2: 必要書類を準備する
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 酒類販売業免許申請書 | 税務署の書式 |
| 飲食店営業許可証の写し | 保健所発行のもの |
| 賃貸借契約書の写し | 物件のオーナーの承諾書が必要な場合も |
| 店舗の平面図 | 酒類販売コーナーの位置を記載 |
| 収支見込み | お酒の仕入れ・販売計画 |
| 住民票 | 本籍地記載のもの |
| 確定申告書の写し(直近3期分) | 経営状況の確認用 |
| 登記事項証明書 | 法人の場合 |
ステップ3: 申請
書類を揃えて税務署に提出。審査期間は約2ヶ月。
- 登録免許税: 3万円(一般酒類小売業免許)
- 行政書士に依頼する場合: 15〜25万円(書類作成代行)
ステップ4: 免許交付 → 販売開始
免許が交付されたら、以下を整備してから販売開始。
- 酒類販売コーナーの表示
- 飲食用と販売用の在庫・帳簿の分離
- **「20歳未満の方への酒類の販売は法律で禁止されています」**の掲示
飲食店と同じ場所で売るための3つのルール
ルール1: スペースを分ける
レジ横やカウンターの一角に「お持ち帰り用お酒コーナー」を設ける。物理的に完全に分離する必要はないが、どこが酒類販売スペースか明確にする。
ルール2: 在庫を分ける
同じワインでも、店内で飲ませる分は飲食用の仕入れ、テイクアウトで売る分は酒販用の仕入れとして分けて管理する。
- 仕入伝票を別にする
- 棚を分けて保管する(同じ冷蔵庫でも棚で区別可能)
ルール3: 帳簿を分ける
飲食の売上と酒販の売上を別々に記録する。POSレジで「テイクアウト酒類」というカテゴリを作っておけば対応できる。
テイクアウト酒販の原価計算
テイクアウトでボトルワインを売る場合の利益を計算してみよう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ワイン仕入値 | 1,200円 |
| テイクアウト販売価格 | 2,500円 |
| 粗利益 | 1,300円 |
| 粗利率 | 52% |
店内でグラスワインとして出す場合:
- 1本(750ml)から約5杯
- グラス1杯600円 × 5杯 = 3,000円
- 粗利益 = 1,800円
テイクアウト販売は、グラス売りより利益は低い。しかし、閉店後や定休日にも売れるのがメリットだ。冷凍自販機やテイクアウト窓口と組み合わせれば、営業時間外の売上を作れる。
こんなケースは要注意
ケース1: ネット通販で売りたい
店頭のテイクアウト販売は「一般酒類小売業免許」だが、通販は**「通信販売酒類小売業免許」**が別途必要。
しかも通信販売免許で扱えるのは、国産酒は年間課税移出数量が3,000kl未満の製造者のものに限定される(大手メーカーのビールなどは対象外)。地酒やクラフトビールなら可能。
ケース2: イベントで売りたい
お祭りやマルシェなどの一時的なイベントでお酒を販売する場合、**「期限付酒類小売業免許」**を申請する。イベントの10日前までに申請が必要。
ケース3: 自家製果実酒を販売したい
自家製の梅酒や果実酒を販売するには、酒類製造免許が必要になる場合がある。判断が難しいので、必ず税務署に事前相談すること。
今すぐやること
- 「テイクアウトでお酒を売りたい」と思ったら、まず税務署の酒類指導官に電話
- 自分の店で何をどれくらい売りたいかを整理する
- 販売開始の3ヶ月前には準備を始める(審査2ヶ月+書類準備)
- テイクアウト酒類の原価計算をしてから販売価格を決める
「知らなかった」で酒税法違反になるのは、あまりにもったいない。 3万円の登録免許税と2ヶ月の手続きで、合法的にテイクアウト酒販を始められる。
KitchenCostは、飲食店の原価計算アプリです。テイクアウト用の酒類も、店内提供のメニューと分けて原価管理すれば、「どっちが利益が出ているか」が一目でわかります。