見積書の「一式500万円」に、そのままハンコを押しますか?
先日、知人がカフェを開業する話を聞いた。
物件は見つかった。15坪のスケルトン。駅から5分で家賃は18万円。立地としては悪くない。
内装業者を紹介してもらい、見積もりを取った。返ってきた金額は**「一式 500万円」**。
「相場はどのくらいなんですか?」と聞いたら、**「スケルトンだとこんなものです」**と言われたという。
結論から言うと、その見積もりは高すぎた。
別の業者2社から相見積もりを取り直したら、内訳が明確な方の業者で320万円で収まった。最初の見積もりとの差は180万円。同じ仕上がりで、だ。
内装工事は、飲食店の開業費用の中でもっとも大きな出費のひとつ。 にもかかわらず、「相場を知らないまま最初の見積もりで決めてしまう」人が本当に多い。
この記事では、飲食店の内装工事費用の相場(坪単価)、業態別の目安、見積もりで確認すべきポイント、そして費用を抑える具体的な方法を整理します。
まず結論──内装工事費の相場
| 物件タイプ | 坪単価の目安 | 20坪の場合 |
|---|---|---|
| スケルトン(何もない状態) | 30〜60万円/坪 | 600〜1,200万円 |
| 居抜き(前の店の内装が残っている) | 15〜30万円/坪 | 300〜600万円 |
この金額には厨房機器は含まれていないことが多い。厨房機器を入れると、さらに200〜500万円が上乗せされる。
つまり、20坪のスケルトンから飲食店をゼロから作ると、内装+厨房で800万〜1,700万円かかる可能性がある。
「想像よりずっと高い」と感じた方は、正常な反応です。だからこそ、相場を知った上で見積もりを見ることが大切。
業態別の坪単価──「同じ飲食店」でもぜんぜん違う
坪単価は業態によって大きく変わります。理由は**「厨房の大きさ」と「排気・給排水の工事量」**。
| 業態 | 坪単価の目安 | 費用が高くなる理由 |
|---|---|---|
| カフェ・バー | 30〜50万円 | 厨房が小さい。水回り工事が少ない |
| ラーメン店 | 30〜50万円(+厨房機器) | 大型ゆで釜、排気ダクト、グリストラップが必要 |
| 居酒屋 | 40〜60万円 | 複数の調理場所、排気・防火工事 |
| イタリアン・フレンチ | 50〜80万円 | 客席の仕上げにコストがかかる。ピザ窯など特殊設備も |
| 焼肉店 | 50〜70万円 | テーブルごとの排煙設備、ロースターの設置工事 |
よくある誤解: 「カフェは安く作れる」と思いがちですが、雰囲気を重視して壁材や照明にお金をかけると、あっという間に坪50万円を超えます。逆にラーメン店は内装はシンプルでも、厨房機器代が別途300〜500万円かかるのが落とし穴。
内装工事費の内訳──お金はどこに消えるのか
見積もりを見たとき、「どこにいくらかかっているのか」がわからないと、高いのか安いのかも判断できません。大きく分けると、以下の5つに分かれます。
| 費用の種類 | 割合の目安 | 具体的な内容 |
|---|---|---|
| 設計・デザイン費 | 10〜15% | 図面作成、デザイン、パース(完成イメージ図) |
| 仮設・解体工事 | 10〜15% | 養生、既存の壁や床の撤去、ゴミ処分 |
| 建築工事 | 25〜35% | 壁、天井、床の仕上げ、間仕切り、ドア |
| 設備工事 | 25〜35% | 電気配線、給排水、ガス、空調ダクト、換気 |
| 外装・看板 | 5〜10% | ファサード(入口まわり)、看板、照明 |
ここが盲点: 設備工事(電気・水道・ガス・空調)が全体の3分の1近くを占める。これは「目に見えない工事」なので軽視しがちですが、飲食店は家庭用の何倍もの電気容量と水道を使うため、必ず必要になる。
居抜き vs スケルトン──どちらを選ぶべきか
居抜き物件のメリットとリスク
| 居抜き | スケルトン | |
|---|---|---|
| 費用 | 坪15〜30万円 | 坪30〜60万円 |
| 工期 | 2〜4週間 | 1〜3ヶ月 |
| 自由度 | 前の店のレイアウトに制約される | 完全に自由に設計できる |
| リスク | 設備の故障・老朽化 | 特になし(費用が高いこと自体がリスク) |
居抜きが得になるケース:
- 前の店と同じ業態(ラーメン→ラーメン、カフェ→カフェ)
- 厨房の位置と給排水がそのまま使える
- 設備が5年以内で状態が良い
居抜きが損になるケース:
- 前の店と業態がまったく違う(寿司屋→焼肉店など)
- エアコンや冷蔵庫が10年以上経っている
- 給排水の位置を大幅に変えないといけない
判断のコツ: 居抜き物件を見に行くときは、「厨房のレイアウト」「給排水の位置」「電気容量」の3つを必ず確認する。この3つが自分の業態に合っていれば、数百万円の節約になる。合っていなければ、解体+新設で結局スケルトンより高くなることもある。
見積もりで「必ず確認すべき」5つのこと
① 「一式」表記が多すぎないか
もっとも危険なのが、見積もりに「一式」とだけ書かれていて、内訳がわからないパターン。
たとえば「電気工事 一式 80万円」と書いてあっても、コンセントの増設がどこまで含まれているのか、分電盤の交換は入っているのか、がわからない。あとから「それは別途です」と言われるのが典型的なトラブル。
対策: 「一式」ではなく、工事項目ごとに分けた見積もりを出してもらう。出せない業者は避ける。
② 相見積もりを取っているか
最低3社から見積もりを取る。これだけで相場観がわかるし、業者ごとの提案の違いも見えてくる。
ただし、安さだけで選ぶのは危険。対応の丁寧さ、質問への回答速度、飲食店の施工実績があるかどうかも重要。
③ 追加費用が発生する条件が書いてあるか
「工事中に予想外の配管劣化が見つかった場合はどうなるか」「壁の中にアスベストがあった場合の処理費用は?」など、追加費用が発生する条件を事前に確認する。
④ 工期とスケジュールが明記されているか
「だいたい1ヶ月くらい」ではなく、着工日と完工予定日が書面に入っているか。遅延した場合のペナルティや対応も確認しておく。
工期が伸びると、その間も家賃だけが発生する。1ヶ月遅れれば、家賃20万円がそのまま余計にかかる。
⑤ 支払い条件は分割になっているか
全額前払いは絶対に避ける。 万が一のトラブルに備えて、着手金(30%)・中間金(40%)・完了金(30%)の3回払いが一般的。
業者選び──飲食店の実績があるかどうかが最重要
内装業者にも得意分野がある。オフィスや住宅が得意な業者に飲食店を頼むと、飲食店特有の問題に対応できないことがある。
飲食店で特に必要な知識
- 保健所の検査基準: 手洗い設備の位置、厨房と客席の仕切り、床材の防水仕様──保健所の検査に通らないと営業許可が下りない
- 消防法の基準: 防火区画、排煙設備、消火器の設置位置
- グリストラップの設置: 排水に油脂が流れるのを防ぐ装置。飲食店には設置義務がある自治体が多い
- 電気容量の計算: 業務用冷蔵庫、製氷機、エアコン、フライヤー──家庭用の何倍もの電気を使う。足りないと工事のやり直しになる
確認すべきこと: 「飲食店の施工は何件くらい経験がありますか?」「保健所の検査に対応した設計は可能ですか?」。この2つの質問に具体的に答えられない業者は避ける。
費用を抑える4つの方法
方法①:居抜き物件を活用する(効果:数百万円)
前述のとおり、居抜きなら内装費をスケルトンの半額〜7割に抑えられる可能性がある。同業態の居抜きは特に有利。
方法②:自分でできる部分はDIYする(効果:50〜100万円)
壁の塗装、棚の取り付け、看板の作成など、安全や法令に関わらない部分は自分でやることで費用を減らせる。
ただし、以下は絶対に自分でやってはいけない:
- 電気配線(電気工事士の資格が必要)
- ガス工事(ガス事業法で有資格者のみ)
- 給排水工事(水道法の規定あり)
壁を1面塗るだけでも、業者に頼むと15〜20万円かかるところが、自分でやれば塗料代の2〜3万円で済む。
方法③:設計と施工を同じ会社に頼む(効果:10〜15%削減)
デザイン事務所に設計を依頼し、別の施工会社に工事を発注する「分離発注」方式は、間に入る会社の分だけ費用が上がる。
設計施工一括方式(1社に全部任せる)なら、中間マージンが減り、10〜15%程度安くなることが多い。ただし、デザインの自由度は下がる場合もある。
方法④:厨房機器は中古やリースを検討する(効果:100〜200万円)
新品の業務用冷蔵庫が80万円するところ、中古なら20〜30万円で買えることもある。リースなら初期費用ゼロで月々の支払いに分散できる。
ただし、中古機器は保証がないことが多いので、使用年数と状態を必ず確認する。
「坪単価で考える」クセをつける
内装工事の見積もりが「500万円」と言われても、それが高いか安いかは、坪単価に換算しないとわからない。
計算方法:
坪単価 = 見積もり総額 ÷ 坪数
たとえば:
- 15坪の物件で見積もり500万円 → 坪単価33万円(カフェなら適正〜やや安い)
- 15坪の物件で見積もり750万円 → 坪単価50万円(カフェならやや高い。居酒屋なら適正)
- 20坪の物件で見積もり1,400万円 → 坪単価70万円(高級レストランなら適正。居酒屋なら高すぎる)
このように、自分の業態の相場と照らし合わせることで、見積もりの妥当性がすぐにわかる。
今週やること
- 自分の業態の坪単価相場を確認する(この記事の業態別テーブルを参照)
- 内装業者3社以上に「飲食店の施工実績」を聞いて相見積もりを依頼する
- 見積もりが来たら「坪単価に換算」して相場と比較する
- 「一式」表記が多い見積もりは、項目ごとの内訳を再提出してもらう
- 居抜き物件を検討中なら、厨房レイアウト・給排水位置・電気容量を確認する
まとめ
内装工事は、飲食店の開業費用の中でもっとも大きな出費です。
しかし、相場を知っているかどうかで数百万円の差がつく。
最初の見積もりにそのままハンコを押すのではなく、坪単価に換算し、相見積もりを取り、内訳を確認する。この3つをやるだけで、不要な出費を大幅に減らせます。
浮いたお金は、食材やスタッフの充実に回したほうが、お店の将来のためになる。原価と売上のバランスを考えるのと同じように、内装工事の費用も「投資対効果」で考えてみてください。
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