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飲食店の消防法、「知らなかった」では済まない──防火管理者・消防設備点検・届出の全義務と費用

飲食店は消防法で防火管理者の選任・消防計画の提出・消防設備点検(年2回)・消火器の設置が義務。防火管理者講習は1〜2日・費用2,500〜8,000円。消防設備点検は年間3〜10万円。届出漏れは30万円以下の罰金、最悪は営業停止。

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目次

先日、知り合いの居酒屋のオーナーから電話があった。

「消防署から突然連絡が来て、来週立入検査をすると言われた。何を準備すればいいのか全くわからない」

聞けば、3年前にテナントビルの1階で開業して以来、消防署には一度も行ったことがないという。防火管理者? 消防計画? 消防設備点検?──全部知らない、やっていない。

結論から言うと、この状態は消防法違反がいくつも重なっている。罰金は1件ずつ30万円以下。すべて合わせると数十万円の罰金もありうる。

「消防法なんて、大きなビルや工場の話でしょ?」と思っている個人店のオーナーは多い。でも、**飲食店はむしろ消防法上の「高リスク施設」**として厳しく管理される対象。火を使う。油がある。不特定多数が出入りする。火災が起きれば人命にかかわる。

消防署は「知らなかった」を理由にしない。


先に結論

  • 飲食店は消防法で防火管理者の選任・消防計画の作成・消防設備点検・消火器の設置が義務
  • 防火管理者の資格は1〜2日の講習で取得可能。費用は2,500〜8,000円(教材費)
  • 消防設備点検は年2回が法定義務。費用は年間3〜10万円
  • 消火器は2019年10月の法改正で面積に関係なく設置義務化。1本4,000〜6,000円
  • 届出を怠ると30万円以下の罰金。火災時に点検未実施なら保険金が出ないリスク
  • 消防署の立入検査は2〜4年に1回。事前通知ありの場合もあれば、抜き打ちもある

飲食店に関係する消防法の義務──4つの柱

「消防法」と聞くと、分厚い法律書のイメージがあるかもしれない。でも、個人の飲食店に直接関係するのは主に4つに整理できる。

義務内容やらないとどうなるか
① 防火管理者の選任資格を持つ人を指名して消防署に届出30万円以下の罰金または拘留
② 消防計画の作成・提出火災時の行動手順を文書化して消防署に提出改善命令→従わなければ罰則
③ 消防設備の点検・報告消火器や火災報知器等を年2回点検し、結果を消防署に報告30万円以下の罰金または拘留
④ 消火器の設置火を使う飲食店は面積に関係なく設置義務(2019年法改正)設置命令→従わなければ罰則

これを全部やっていない場合、①〜④がそれぞれ別の違反として扱われる。「まとめて1件」ではない。


① 防火管理者──誰が・どうやってなるのか

そもそも「防火管理者」とは

消防法でいう防火管理者とは、その建物の火災予防の責任者。オーナー本人がなることが多い。

選任が必要な条件は以下の通り。

条件基準
対象建物飲食店など「特定用途」が入っている建物
収容人員建物全体で30人以上
注意点自分の店だけで30人以下でも、ビル全体の合計で判断される

「うちは10席の小さな店だから関係ない」と思っても、ビルの他のテナントの収容人員も合算される。テナントビルに入っている飲食店はほぼ確実に対象と考えていい。

甲種と乙種──どちらが必要か

区分対象講習日数教材費
乙種延べ面積 300㎡未満1日(約5時間)約2,500円
甲種延べ面積 300㎡以上2日(約10時間)約7,000〜8,000円

個人の小さな飲食店なら、ほとんどが乙種で足りる(300㎡=約90坪。90坪の飲食店はかなり大きい)。

試験はない。講習を最後まで受ければ、その日に修了証がもらえる。落ちることはない。

講習の申し込み方法

  1. 消防署の窓口で申し込む(最寄りの消防署に問い合わせ)
  2. 東京都の場合:東京消防庁のホームページから電子申請
  3. 全国共通:日本防火・防災協会のサイトで講習会を検索

人気の日程はすぐ埋まる。開業の1〜2ヶ月前には申し込んでおくのが安全。

届出の流れ

防火管理者の資格を取ったら、消防署に「防火管理者選任届出書」を提出する。

届出提出先期限
防火管理者選任(解任)届出書管轄の消防署使用開始の7日前まで

届出書は消防署でもらうか、自治体のホームページからダウンロードできる。記入自体は15分もあれば終わる。


② 消防計画──難しそうだが、テンプレートで作れる

消防計画とは

火災が起きたらどうするかを書いた計画書。防火管理者が作成し、消防署に提出する義務がある。

「計画書」と聞くと構えてしまうが、実際にはテンプレートが消防署に用意されている。空欄を埋めるだけで完成する。

書く内容(主なもの)

項目内容の例
自衛消防の組織「火災発見→○○が119番通報、△△が消火器で初期消火、□□が客を避難誘導」
避難経路店舗の見取り図に避難経路を記入
消防設備の位置消火器・火災報知器・誘導灯の設置場所
火気使用設備ガスコンロ、フライヤー、オーブンなどの一覧と管理方法
避難訓練の計画「年○回、消火訓練と避難訓練を実施」

作成のコツ

  1. 消防署に行ってテンプレートをもらうのが一番早い(ダウンロードできる自治体も多い)
  2. 記入に迷ったら消防署の予防課に聞く。丁寧に教えてくれる
  3. 提出は防火管理者選任届と同時が効率的

提出後、内容に不備があれば消防署から連絡が来る。修正して再提出すればOK。


③ 消防設備点検──年2回、これが意外とお金がかかる

法律で決まっている点検の種類

点検の種類頻度内容
機器点検6ヶ月ごと消防設備が正しく設置されているか、外観と機能を確認
総合点検年1回実際に設備を動かして、ちゃんと作動するか確認

「年2回の点検」とよく言われるのは、半年ごとの機器点検のうち1回を総合点検にするから。

点検結果は消防署への報告義務がある。飲食店など「特定用途」の建物は1年に1回報告。

何を点検するのか

設備点検内容
消火器設置場所・外観・圧力ゲージ・使用期限の確認
自動火災報知設備感知器の動作確認・受信機の状態
誘導灯点灯確認・バッテリー切れ・表示の汚れ
避難器具設置状態・劣化・障害物の有無
屋内消火栓放水試験(建物に設置されている場合)

小さなテナントの場合、消火器と誘導灯の2つだけで済むことが多い。自動火災報知設備はビルの管理会社側で管理していることがほとんど。

費用の相場

条件年間の目安
小規模テナント(消火器+誘導灯程度)年間 3〜5万円
中規模テナント(火災報知器等あり)年間 5〜10万円
ビル一括手配(共益費に含まれている場合)0円(共益費として間接負担)

テナントビルに入っている場合は、まず管理会社に確認すること。ビル全体で一括点検を手配していて、テナントの負担がゼロ(共益費に含まれている)ケースも多い。

自分でできるのか?

消防設備点検は、一定の条件を満たせば自分で実施可能

条件自主点検の可否
延べ面積 1,000㎡未満で、消防長または消防署長が指定していない建物自分で点検可能
それ以外有資格者(消防設備士または消防設備点検資格者)が必要

個人の小さな飲食店なら自分で点検できる可能性がある。ただし、点検報告書の書き方を間違えると消防署から差し戻されるので、初回は業者に依頼して報告書の書き方を覚えるのが現実的。


④ 消火器──2019年法改正で「全飲食店」に設置義務

何が変わったのか

時期ルール
2019年9月まで延べ面積150㎡以上の飲食店のみ消火器の設置義務
2019年10月以降火を使う飲食店は面積に関係なく設置義務

つまり、カウンター6席・10坪の小さなラーメン屋でも、ガスコンロを使っているなら消火器が必要。

この法改正は、2016年12月に新潟県糸魚川市で起きた大規模火災がきっかけ。中華料理店から出火し、約150棟が焼損した。

どの消火器を買えばいいのか

種類用途飲食店向き?
ABC粉末消火器普通火災(A)・油火災(B)・電気火災(C)全対応◎ 最も一般的
強化液消火器油火災に特に強い○ 厨房に追加で置くなら
エアゾール式簡易消火具初期消火用の小型タイプ△ 法定の消火器の代わりにはならない

飲食店ならABC粉末消火器の10型が標準。ホームセンターやネット通販で1本4,000〜6,000円で買える。

設置本数と設置場所

ルール内容
設置本数各階ごとに、歩行距離20m以内にすべての場所から消火器に到達できるように設置
設置場所床面から1.5m以下の高さに設置。見やすい位置に「消火器」の標識
目安小さな飲食店なら1〜2本で足りることが多い

消火器のランニングコスト

項目費用頻度
消火器本体4,000〜6,000円/本10年ごとに交換
点検費用消防設備点検に含まれる年2回
使用期限シール消防設備業者が貼付点検時

消火器の耐用年数は製造から10年。10年を超えたものは交換が必要。期限切れの消火器を放置していると、立入検査で指摘される。


消防署の立入検査──何を見られるのか

消防署は、管轄区域の建物を2〜4年に1回のペースで立入検査している。事前に通知がある場合もあれば、抜き打ちの場合もある

よくある指摘事項(飲食店で多いもの)

指摘内容具体例
防火管理者の未選任選任届を出していない
消防計画の未提出作成していない、または古いまま更新していない
消防設備点検の未実施・未報告点検をしていない、または報告書を消防署に出していない
消火器の不備期限切れ、設置場所の変更、本数不足
避難口・避難通路の障害荷物やゴミ箱で避難口がふさがれている
防炎物品の未使用カーテンやのれんが防炎品でない
火気設備の管理不備ガスコンロ周辺の油汚れ、フード・ダクトの未清掃

立入検査の結果

結果内容
適合問題なし。次回の検査まで特に対応不要
指導軽微な不備を口頭または文書で指導。期限内に改善
改善命令重大な違反に対して文書で命令。従わなければ罰則
使用停止命令火災危険が著しく高い場合。事実上の営業停止

ほとんどの場合は「指導」で終わる。指摘されたことをすぐに直して、改善報告書を出せば問題ない

ただし、防火管理者の未選任・消防設備点検の未実施・避難口の閉塞が同時に見つかった場合、「改善命令」に格上げされるリスクがある。


開業時に必要な消防署への届出──一覧

飲食店を開業するとき、消防署に出す書類は最大4種類

届出対象提出期限
防火対象物使用開始届出書全員使用開始の7日前まで
防火管理者選任届出書収容人員30人以上の建物使用開始の7日前まで
消防計画作成(変更)届出書防火管理者を選任した場合防火管理者選任届と同時
火を使用する設備等の設置届出書ガスコンロ等を新設・変更する場合設置する

既存のテナントビルに入る場合(いわゆる居抜き物件を含む)、前のテナントの届出がそのまま引き継がれるわけではない。新しいテナントとして改めて届出が必要。

届出を忘れた場合の対処法

すでに開業していて届出を出していない場合も、今からでも届出を出すことはできる

  1. 管轄の消防署の予防課に電話する
  2. 「開業時に届出ができていなかった」と正直に伝える
  3. 必要な届出の書類一式をもらう
  4. 記入して提出する

消防署は「これから正しく管理してくれるなら」という姿勢が基本。過去の届出漏れだけでいきなり罰金になることは通常ない(ただし、立入検査で発覚した場合は別)。

早めに自分から動くことが大事。


費用の全体像──年間いくらかかるのか

個人の小さな飲食店(15〜20坪程度)を想定した年間コスト。

項目初年度2年目以降
防火管理者講習(乙種)2,500円0円(再講習は一部対象者のみ)
消火器(10型×2本)8,000〜12,000円0円(10年間交換不要)
消防設備点検(業者委託)30,000〜50,000円30,000〜50,000円
合計約40,500〜64,500円約30,000〜50,000円

消防設備点検がビルの共益費に含まれている場合は、年間の追加負担はほぼゼロ

逆に、点検を怠って罰金を科された場合は最大30万円×違反件数。コストとしてどちらが安いかは明らか。


テナントビルに入っている場合──管理会社と自分の役割分担

個人の飲食店はテナントビルに入っていることが多い。この場合、消防法上の義務は管理会社(ビルオーナー)とテナント(飲食店)で分担される。

義務管理会社の担当テナント(飲食店)の担当
統括防火管理者の選任
ビル全体の消防計画
テナントの防火管理者選任◎ 自分でやる
テナントの消防計画◎ 自分で作る
消防設備点検の手配◎(一括手配が多い)協力(点検日に立ち合い)
消火器の設置・管理△(共用部は管理会社)◎ 自分の店内は自分

入居時に管理会社に確認すべきことは3つ。

  1. 消防設備点検は一括で手配してくれるか?(費用は共益費に含まれるか?)
  2. 防火管理者選任届は自分で出す必要があるか?(管理会社がまとめて出す場合もある)
  3. 消防署の立入検査の際、連絡はもらえるか?

「これだけやればOK」チェックリスト

開業前

  • 防火管理者の講習を受講する(開業1〜2ヶ月前に申し込み)
  • 消防署に「防火対象物使用開始届出書」を提出(使用開始の7日前まで)
  • 消防署に「防火管理者選任届出書」を提出(同上)
  • 消防計画を作成して消防署に提出(テンプレートをもらう)
  • 消火器を購入して設置(ABC粉末消火器10型、1〜2本)
  • 火を使う設備の設置届出(ガスコンロ等を新設する場合)

開業後(毎年)

  • 消防設備点検を年2回実施(自分で or 業者委託)
  • 点検結果を消防署に年1回報告
  • 消火器の使用期限を確認(10年で交換)
  • 避難口・避難通路に荷物を置いていないか確認
  • 消防計画の内容に変更がないか年1回見直し
  • のれん・カーテンなどが防炎品か確認

やりがちな失敗と対策

失敗① 「前のテナントの届出があるから大丈夫」

居抜き物件で開業する場合に多い勘違い。前のテナントの防火管理者選任届や消防計画は、そのテナントが廃業した時点で無効。新しいテナントとして改めて全ての届出が必要

失敗② 「管理会社が全部やってくれると思っていた」

ビルの管理会社は「ビル全体」の消防管理はやるが、テナント個別の防火管理者選任や消防計画は、テナント自身の義務。管理会社は代行してくれない。

失敗③ 「消火器は置いてあるけど、いつ買ったか覚えていない」

消火器には製造年が記載されている。10年を超えたものは交換対象。期限切れの消火器は立入検査で確実に指摘される。購入時にスマホで製造年のラベルを撮影しておくと管理が楽。

失敗④ 「避難口の前に食材の段ボールを積んでいる」

立入検査で最も多い指摘事項のひとつ。避難口・避難通路に物を置くのは消防法違反。狭い店舗では置き場がないのが現実だが、避難口の前だけは絶対に空けておく。


消防法の費用を原価計算に反映する

消防設備点検の費用は、意外と原価計算に入れ忘れがち。

年間3〜5万円の点検費用は、月にすると2,500〜4,200円。大きな金額ではないが、売上が少ない月はこういう固定費が利益を圧迫する

他にも、消火器の交換費用(10年ごと)、防炎のれんの購入費(普通ののれんより割高)なども含めると、消防法関連の年間コストは3〜7万円程度。

こうした「見えにくい固定費」を把握しておくことが、正確な原価計算の第一歩。飲食店の原価計算は食材費だけでは終わらない。


消防法は「大きな事故が起きてから気づく」では遅い。

2016年の糸魚川大火のように、小さな飲食店の火災が街全体を巻き込むこともある。消防法の義務を守ることは、自分の店と従業員、そして近隣の安全を守ること。

まずは管轄の消防署の予防課に電話して、「飲食店を営業しているが、消防法の届出が全部できているか確認したい」と聞いてみてほしい。消防署は相談には丁寧に対応してくれる。

知らなかった、で罰金を払うより、電話1本で確認する方がずっと安い。

よくある質問

飲食店に防火管理者は必要ですか?

建物全体の収容人員が30人以上で、飲食店などの『特定用途』が入っている場合は防火管理者の選任が義務です。カウンター8席+スタッフ3人=11人でも、入っているビル全体で30人を超えていれば対象になります。選任届を出していない場合は消防法違反で、30万円以下の罰金または拘留の対象です。

防火管理者の資格はどうやって取りますか?

各地の消防署や防火・防災協会が実施する講習を受講すれば取得できます。延べ面積300㎡未満なら乙種(1日・約5時間、教材費2,500円)、300㎡以上なら甲種(2日・約10時間、教材費7,000〜8,000円)が必要です。試験はなく、講習を最後まで受ければ修了証がもらえます。東京都では月に数回開催されていますが、人気の日程はすぐ埋まるので早めの申し込みが必要です。

飲食店の消防設備点検にかかる費用はいくらですか?

個人店の場合、年2回の法定点検で年間3〜10万円が相場です。テナントビルに入っている場合はビルの管理会社が一括で手配し、共益費に含まれていることもあります。消火器の交換は1本4,000〜6,000円(10年ごと)、誘導灯のバッテリー交換は1台5,000〜15,000円程度。点検を業者に頼む場合は、設備の種類と数で見積もりが変わるので、2〜3社から相見積もりを取りましょう。

消防設備点検をしないとどうなりますか?

消防法第17条の3の3に基づく点検報告義務に違反した場合、30万円以下の罰金または拘留の対象です。さらに消防署の立入検査で未点検が発覚すると改善命令が出され、従わなければ営業停止もありえます。万が一火災が発生した場合、点検を怠っていた事実は重過失と判断される可能性が高く、保険金が支払われないリスクや刑事責任を問われるリスクがあります。

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