営業が終わって、レジを締める。
「今日はまあまあ入ったな」
そう思いながら、レジの数字をちらっと見て、そのまま閉店作業に入る。翌日も同じ。売上の数字は毎日見ているけれど、それ以上のことはしていない——。
個人で飲食店をやっている方の多くが、こういう状態ではないでしょうか。
「帳簿をつけたほうがいいのはわかってる。でも営業で疲れて、そんな余裕がない。」
その気持ちはよくわかります。でも、閉めてしまった店のオーナーたちが口をそろえて言う後悔があります。
「売上は見ていた。でも、いくら残っているかは見ていなかった。」
先に結論
- 毎日5分、3項目(売上・客数・仕入れ額)を記録するだけで、利益が見えるようになる
- ノートでもスマホでも、続く方法ならなんでもいい。道具より習慣が大事
- 1週間分たまれば、曜日パターンが見える。1ヶ月分たまれば、利益が出ているかどうかがわかる
- 日報をつけている店とつけていない店では、「問題に気づく速さ」が決定的に違う
- 完璧にやろうとしない。「ざっくりでも毎日つける」が「完璧だけど月に1回」に100倍勝つ
数字を見ていない店が、いちばん危ない
まず、いまの飲食業界の数字を確認しておきます。
帝国データバンクの集計によると、2025年の飲食店倒産件数は900件を超え、過去最多を更新しました。東京商工リサーチの集計では1,002件(定義の違いにより差があります)。
開業3年以内に5〜7割が廃業すると言われる業界です(中小企業庁の調査および業界各社のデータ)。
なぜ、こんなに多くの店が閉じるのか。
理由はいくつもありますが、税理士や飲食コンサルタントが繰り返し指摘するのが**「どんぶり勘定」**です。売上は見ているけれど、仕入れにいくらかかっているか、人件費がどれくらいかは把握していない。月末に通帳の残高を見て、「今月は大丈夫だったかな」と判断している。
Yahoo!知恵袋には、「4年間棚卸しをせずに確定申告してきた」という投稿もあります。極端な例ではありますが、「なんとなくの感覚」で経営している個人店は、決して少なくないのが実情です。
ここで強調しておきたいのは、どんぶり勘定をしている人が怠けているわけではないということ。飲食店の1日は朝から晩まで忙しい。仕込みがあり、営業があり、片付けがある。経理のために1時間も2時間も使えないのは当然です。
だからこそ、**「毎日5分でできる日報」**が必要なのです。
売上日報とは——毎日3つの数字を書くだけ
難しく考える必要はありません。売上日報は、その日の経営を3つの数字で記録するものです。
最低限の3項目
| 項目 | 何を書くか | どこでわかるか |
|---|---|---|
| ① 売上 | レジの合計金額 | レジ締めで出る |
| ② 客数 | その日の来店数 | レジのカウントまたは伝票枚数 |
| ③ 仕入れ額 | その日の食材仕入れの合計 | 納品伝票の合計 |
この3つだけで、以下のことがわかります。
- 客単価 = 売上 ÷ 客数
- 仕入れ比率 = 仕入れ額 ÷ 売上 × 100
たとえば、今日の売上が8万円、客数が40人、仕入れが2万8千円だったら。
- 客単価 = 80,000 ÷ 40 = 2,000円
- 仕入れ比率 = 28,000 ÷ 80,000 × 100 = 35%
これだけです。5分かかりません。
「仕入れ比率」という言葉が難しく感じるかもしれませんが、要は**「売上の何割を食材代に使っているか」**です。飲食店の目安は30〜35%。これが40%を超えていると、ちょっと危ない信号です。
書き方——ノートで始める場合
100円のノートで十分です。1ページに1週間分を書く形が見やすいです。
記入例
── 3月 第1週 ──
売上 客数 仕入れ 客単価 仕入れ比率
月 休み
火 62,000 28 18,000 2,214 29.0%
水 48,000 22 15,000 2,182 31.3%
木 71,000 35 22,000 2,029 31.0%
金 95,000 48 28,000 1,979 29.5%
土 112,000 58 35,000 1,931 31.3%
日 88,000 42 25,000 2,095 28.4%
──────────────────────────
週計 476,000 233 143,000 2,043 30.0%
客単価と仕入れ比率は、余裕がある日だけ計算すれば大丈夫です。売上・客数・仕入れの3つさえ書いてあれば、あとから計算できます。
書き方——スマホで始める場合
Googleスプレッドシートやメモアプリを使う方法です。
スプレッドシートなら、最初に計算式を入れておけば、売上と客数と仕入れ額を入力するだけで客単価と仕入れ比率が自動で出ます。
ただ、スマホで表を作ること自体がストレスになる人もいます。続かないツールは、どんなに高機能でも意味がない。 ノートのほうが気楽ならノートでいいし、LINEの自分専用グループに毎日「売上○万 客数○人 仕入れ○万」と送るだけでも立派な日報です。
記録するタイミング——レジ締めの「直後」がベスト
日報が続かない最大の原因は**「あとでやろう」**です。
レジ締めが終わったら、そのまま3つの数字を書く。閉店作業に入る前に書く。このルールを守るだけで、習慣になりやすさが格段に上がります。
レジ締め → 日報 → 閉店作業
この順番を身体に覚えさせてください。3日続けば、書かないと気持ち悪くなります。
1週間分たまったら見るべき数字
毎日の記録が1週間たまると、見えてくるものがあります。
① 曜日パターン
どの曜日が強くて、どの曜日が弱いか。
「金土が稼ぎ時で、水曜が弱い」——感覚ではなんとなくわかっていたことが、数字で裏付けられます。
弱い曜日がわかれば、対策が立てられます。水曜だけランチセットを出す、SNSで水曜限定の情報を流す、水曜のシフトを最小にして人件費を抑える——。「弱い曜日を知る」だけで、打ち手の精度が変わるのです。
② 客単価の変動
客単価が日によって大きくブレている場合、メニュー構成に課題がある可能性があります。
たとえば、「金曜は客単価2,500円なのに土曜は1,800円」という場合。金曜はグループ客が多くてドリンクが出ている一方、土曜は家族連れが多くてフード中心——といった傾向が見えてくるかもしれません。
③ 仕入れ比率の傾向
週の仕入れ比率が30%前後で安定しているなら、食材管理はまずまず。
問題は、35%を超える日が頻繁にある場合です。仕入れすぎか、廃棄が多いか、原価の高いメニューが集中して出ているか——原因は様々ですが、「仕入れ比率が高い」という事実が見えるだけで、次の一手を考えられるようになります。
1ヶ月分たまったらわかること
1ヶ月分の日報がたまると、もっと大きな絵が見えてきます。
簡易の月次損益
月の合計を出してみてください。
月間売上 :1,850,000円
月間仕入れ:592,000円(仕入れ比率 32.0%)
月間客数 :920人(客単価 2,011円)
ここに、毎月ほぼ固定でかかるお金を引きます。
家賃 :250,000円
人件費 :450,000円(自分の分は除く)
光熱費 :80,000円
その他固定:70,000円(通信費、リース料など)
────────
固定費合計:850,000円
売上 − 仕入れ − 固定費 = 408,000円
これがオーナーの手取りの「もと」です(ここからさらに税金や社会保険料がかかります)。
日報をつけていれば、この計算が月末に5分で終わります。 つけていなければ、まず仕入れの伝票を全部引っ張り出すところから始めなければなりません。
日報が経営を変える3つの理由
理由① 問題に早く気づける
日報をつけていない場合、問題に気づくのは通帳の残高が減ったときです。つまり、1〜2ヶ月遅れの情報で判断していることになります。
日報をつけていれば、**「今週の仕入れ比率がいつもより5%高い」**ということに週末の時点で気づけます。1ヶ月後に通帳で気づくのと、1週間で気づくのでは、ダメージが全然違います。
理由② 値上げの判断材料になる
「いつ、いくら値上げするべきか」は、多くの飲食店オーナーが悩むテーマです。
日報をつけていれば、**「仕入れ比率が3ヶ月前の30%から今月は34%に上がっている」**ということが数字で見えます。感覚ではなく、データに基づいて「ここで値上げしないと利益がなくなる」と判断できます。
理由③ 自分のがんばりが数字で見える
これは精神的な効果ですが、意外と大きいです。
毎日忙しく働いていても、「結局いくら残ったのか」がわからないと、モチベーションが下がります。日報をつけていると、**「今月は客数が先月より50人増えた」「仕入れ比率を2%下げられた」**という変化が目に見えます。
数字が改善されていく実感は、経営を続ける力になります。
よくある失敗3つ
失敗① 項目を欲張りすぎる
最初から「天気」「気温」「客層」「ピーク時間」「メニュー別売上」まで全部書こうとすると、面倒になって3日で止まります。
まず3項目。 慣れてきたら足す。この順番が大事です。
失敗② 抜けた日を取り返そうとする
「昨日書き忘れたから、もういいや」——こうなると止まります。
1日抜けても、翌日から再開すれば問題ありません。週6日分の日報は、0日よりはるかに価値がある。 完璧主義が日報の最大の敵です。
失敗③ 書くだけで見返さない
記録しただけで満足して、1週間分を見返す時間を取らない。これだと、日報がただの作業になってしまいます。
毎週月曜(または定休日)に10分だけ、先週の数字を見返す時間を取る。 これがセットで初めて、日報が「経営ツール」になります。
余裕が出てきたら加えたい2項目
3項目の習慣が安定してきたら、以下を追加するとさらに見えるものが増えます。
④ 天気
雨の日と晴れの日で、売上にどれくらい差があるか。これがわかると、雨の日の仕込み量を調整できます。廃棄ロスが減る→原価が下がる→利益が残る。
⑤ ひとことメモ
「近所でイベントあり」「常連のAさん10人で来店」「エアコン故障」——。数字だけではわからない出来事を一言メモしておくと、あとで数字の変動の理由がわかります。
今週やること
- ノートを1冊用意する(100円ショップでOK。スマホ派はメモアプリかスプレッドシートを開く)
- 今日の営業終了後、レジ締めの直後に「売上・客数・仕入れ額」を書く
- 3日続いたら、客単価と仕入れ比率を計算してみる
- 1週間後の定休日に、その週の数字を10分だけ見返す
所要時間の目安:毎日5分 + 週1回10分。
まとめ
飲食店の経営は、毎日が判断の連続です。仕入れの量、シフトの組み方、メニューの価格——。その判断を「感覚」で行うか、「数字」で行うかで、結果はまったく変わってきます。
2025年に900件を超える飲食店が倒産しました。その多くは、売上が足りなかったのではなく、**「利益が見えていなかった」**ことが原因です。
日報は、高い会計ソフトでも、複雑なスプレッドシートでもありません。ノートとペンがあれば、今日から始められます。
まずは今日、レジを締めたあとの5分間を使ってみてください。
毎日の売上は見えるようになった。次は「メニューごとに利益が出ているか」を確認したい——そんな方には、KitchenCostが役に立つかもしれません。食材と分量を入れるだけで、1品ごとの原価と原価率が自動で出ます。日報と組み合わせると、「売上」と「原価」の両面からお店の数字が見えるようになります。