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飲食店、いつやめるべきか──「まだ大丈夫」が一番危ない。数字で見る5つの撤退ライン

2025年の飲食店倒産は900件で過去最多。赤字=閉店ではない。本当に怖いのは「資金ショート」。FL比率65%超、運転資金3ヶ月未満など、閉店を真剣に考えるべき5つの数字を解説。

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目次

「やめるべきか」──誰にも聞けない問い

2025年、飲食店の倒産件数は900件。前年の894件を超えて、過去最多を更新した(帝国データバンク、2026-01-10発表)。

この数字を見て、「うちもいつか……」と思った人がいるかもしれない。

開業から1年で約30%、3年で約70%が閉店するとも言われるこの業界。やめるかどうかを考えたことがない飲食店オーナーのほうが少ないだろう。

でも、こんな問いは誰にも相談しにくい。

従業員には言えない。家族に話せば心配される。同業者に聞いても「まだやれるだろ」と言われるか、「早くやめたほうがいい」と言われるか──どちらも根拠がない。

だから、数字で判断する。

この記事では、「閉店を真剣に考えるべきタイミング」を5つの数字で整理する。感情ではなく、通帳と帳簿に聞く。


先に結論

  • 赤字=閉店ではない。 本当に怖いのは「資金ショート」(支払いができなくなること)
  • 5つの数字のうち1つでも当てはまったら、「まだ大丈夫」を疑う
  • 判断が遅れるほど選択肢が減る。閉店にもお金がかかる(100〜500万円)
  • 「やめる」だけが選択肢ではない。売却(居抜き譲渡)なら手元にお金が残る可能性がある
  • 数字を見る習慣をつけることが、**最良の「保険」**になる

最初に理解すべきこと:「赤字だから潰れる」は誤解

よくある勘違いがある。

「赤字が続いたから閉店した」──これは正確ではない。

飲食店が閉店する直接の原因は、ほとんどの場合**「資金ショート」**だ。つまり、家賃・仕入れ先・人件費など、支払いができなくなることが閉店のトリガーになる。

赤字が続いていても、手元の現金に余裕があれば営業は続けられる。逆に、帳簿上は黒字でも、売掛金の回収が遅れたり、設備の一括払いが重なったりして現金が足りなくなれば、閉店になる。

つまり、見るべきは「赤字かどうか」ではなく、**「あと何ヶ月、支払いを続けられるか」**だ。


判断基準① FL比率が3ヶ月連続で65%を超えている

FL比率(フードコスト+レイバーコスト、つまり食材費+人件費の売上に対する割合)は、飲食店の「体温計」のようなものだ。

FL比率状態
55%以下良好。利益がしっかり残る
55〜60%標準的。業態によっては問題なし
60〜65%要注意。家賃・光熱費を払うと利益がほぼ残らない
65%以上危険水域。営業するほど赤字が膨らむ可能性

なぜ65%が「ライン」なのか

飲食店の売上から引かれるコストを大きく分けると、こうなる。

  • F(食材費):25〜35%
  • L(人件費):25〜35%
  • R(家賃):8〜10%
  • その他(光熱費・消耗品・広告費など):10〜15%

FLだけで65%を占めると、残りは35%。そこから家賃10%、その他経費10〜15%を引くと、利益は10%以下。さらに返済や設備の修繕が入れば、利益はゼロかマイナスだ。

3ヶ月連続がポイント

1ヶ月だけ高い月はある。年末年始にアルバイトを増やした、食材が高騰した月など、一時的な要因で跳ね上がることはある。

でも3ヶ月連続で65%を超えているなら、それは一時的ではなく「構造的な問題」だ。メニューの値付け、人員配置、仕入れ先──根本から見直す必要がある。

見直しの手順:まず売上日報をつけることで現状を把握し、経費の見直しで削れるものを削る。それでもFL比率が改善しないなら、メニュー構成そのものを再設計する時期だ。


判断基準② 運転資金が月間固定費の3ヶ月分を切った

運転資金とは、「手元の現金+すぐに引き出せる預金」のこと。

日本政策金融公庫のデータによると、飲食店の運転資金の平均は282万円。そして、経営が安定するまでに半年以上かかる企業が全体の6割を占める。

「3ヶ月分」が最低ライン

開業時に推奨される運転資金は月間固定費の6ヶ月分。月の固定費(家賃+人件費+仕入れ+光熱費+返済)が100万円なら、600万円ということだ。

でも、開業からしばらく経って資金が減ってきた場合、残りが3ヶ月分を切ったら黄色信号

なぜか。飲食店の売上はどんなに頑張っても急には増えない。改善策を打っても効果が出るまで最低2〜3ヶ月かかる。運転資金が3ヶ月分を切ったということは、改善の猶予がなくなっているということだ。

チェックの仕方

  1. 通帳を開く
  2. 今月末時点の残高を確認する
  3. 月間の固定費(家賃+人件費+仕入れ+光熱費+返済)を計算する
  4. 残高 ÷ 月間固定費 = 〇ヶ月分

この数字が3を切ったら、次の行動を起こすタイミング。閉店ではなく、「選択肢を調べ始める」タイミングだ。


判断基準③ 追加借入れなしでは翌月の支払いが回らない

「今月は仕入れ代が足りないから、カードローンで……」

「来月分の家賃、知人に借りないと……」

こうなったら、もう「経営の問題」ではなく**「借金の問題」**にすり替わっている。

飲食店コンサルタントが口を揃えて言うのは、**「金利の高い借入れに頼り始めたら、撤退を本気で検討すべき」**ということだ。

なぜ危険なのか

  • 通常の事業融資(日本政策金融公庫など)の金利:年1〜3%
  • カードローン・ビジネスローンの金利:年5〜18%

仮に300万円を年15%で借りると、利息だけで年45万円。月に3万7,500円が利息で消える。

すでに利益が出ていない店が、月3〜4万円の利息負担を追加して回復するのは、ほぼ不可能だ。

「恥ずかしいから」借金で延命するのが一番高くつく

閉店にはお金がかかる。原状回復だけで100〜300万円。でも、借金で延命して資金がゼロになってから閉店すると、その100〜300万円すら払えない。

閉店費用の詳細と、M&A・居抜き売却という選択肢を早めに調べておくことが、自分と家族を守ることにつながる。


判断基準④ 売上が6ヶ月連続で前年同月を下回っている

1〜2ヶ月の売上減は、天候や季節要因で説明がつく。

でも6ヶ月連続で前年同月を下回っているなら、それは外部要因ではなく、お客が離れているということだ。

よくある原因

  • 周辺の人口構成が変わった。オフィス街のリモートワーク化、住宅地の高齢化など
  • 競合が増えた。近くにコンビニが出来た、チェーン店が出店した
  • 看板メニューが飽きられた。何年も同じメニューで、新規客を引けない
  • 口コミ評価が下がっている。GoogleやSNSでネガティブな評価が溜まっている

前年比を見るためのシンプルな方法

売上日報を毎日つけていれば、月末に前年との比較ができる。

つけていない場合は、レジのデータか通帳の入金額で月別の売上推移を出す。表計算ソフトに12ヶ月分を並べるだけで、「いつから下がり始めたか」が見える。

数字が見えていれば、対策が打てる。見えていないから、対策が打てない。


判断基準⑤ 体と心が限界のサインを出している

最後の判断基準は、数字ではなく自分自身だ。

  • 不眠が2週間以上続いている
  • 営業中に集中できず、ミスが増えた
  • お客様の顔を見るのが辛い
  • 休日も店のことが頭から離れず、休めない
  • お酒や薬に頼らないと眠れない

これは「根性が足りない」のではなく、体と心が「もう限界だ」と教えてくれているのだ。

飲食店は「自分が倒れたら終わり」の世界だ。特に個人店は、オーナーの体調=店の存続。体を壊してから閉店すると、回復にも時間がかかり、次のチャレンジに踏み出す気力も残らない。

体が動くうちに判断するのが、次の人生のために一番大事なこと。


「やめる」だけが選択肢じゃない

5つの判断基準に1つでも当てはまった場合、「すぐに閉店しろ」と言いたいわけではない。

やるべきことは、選択肢を知っておくことだ。

選択肢①:立て直す

FL比率が高い → メニュー構成を見直す経費を削減する

売上が落ちている → 集客導線を見直す、損益分岐点を再計算する

選択肢②:売却する(居抜き譲渡・M&A)

閉店するにも100〜500万円かかる。でも居抜き売却なら原状回復費がゼロになり、さらに造作売買で50〜300万円の売却益が入るケースもある。

ある居酒屋オーナーは、「知識がないまま閉店していたら600万円は損していた」と振り返っている(みんなの飲食店開業)。

詳しくは「飲食店の廃業・売却・M&Aという選択肢」を参考にしてほしい。

選択肢③:計画的に閉店する

資金に余裕があるうちに計画的に閉店すれば、従業員の再就職支援もでき、取引先にも迷惑をかけにくい。手続きの全体像は「飲食店の閉店手続きチェックリスト」にまとめてある。

判断が遅れるほど、選択肢は減る。 資金がゼロになってからでは、売却も計画的な閉店もできない。「まだ大丈夫」が一番高くつく。


「開業時に撤退ラインを決めておく」という考え方

これは、これから開業する人、あるいはまだ余裕がある人に伝えたいこと。

開業する前に、「こうなったらやめる」という条件を決めておく。

たとえば──

  • 「損益分岐点に1年半で到達しなかったら撤退する」
  • 「運転資金が残り50万円を切ったら撤退する」
  • 「FL比率65%超が半年続いたら撤退する」

これを決めておくと、渦中にいるときでも感情に流されず判断できる。株の「損切りライン」と同じ考え方だ。

投資の世界では「損切りできない人が一番損をする」と言われる。飲食店経営も同じ。「まだ大丈夫」と自分に言い聞かせている時間が、一番お金と体力を消耗する。


今週やることチェックリスト

□ 今月のFL比率を計算する(食材費+人件費÷売上×100)

□ 通帳の残高を確認し、「月間固定費の何ヶ月分か」を計算する

□ 直近6ヶ月の月別売上を前年と比較する

□ 事業融資以外の借入れ(カードローンなど)の残高と金利を確認する

□ 上の4つの数字を、ノートに書き出す

数字を見るのは怖い。でも、見ないほうがもっと怖い。 状況を把握できていれば、それは「まだ選べる」ということだから。


原価と数字の管理をもっと簡単に

「FL比率を毎月出すのがめんどくさい」「そもそも原価を正確に把握できていない」──そういう声をたくさん聞いてきた。

KitchenCostは、食材と人件費を入力するだけで、レシピごとの原価率やFLコストを自動で計算できる無料アプリ。毎日5分の入力で、今の店が「大丈夫か、危ないか」が数字で見える。

数字が見えれば、判断ができる。判断ができれば、手遅れにならない。

よくある質問

飲食店は赤字が何ヶ月続いたら閉店すべきですか?

赤字の月数だけでは判断できません。閉店の直接的な原因は赤字ではなく「資金ショート」──つまり支払いができなくなることです。赤字でも運転資金に余裕があれば営業は続けられますが、黒字でも資金繰りが回らなければ閉店になります。目安として、運転資金(現金+すぐ使える預金)が月間固定費の3ヶ月分を切ったら、真剣に次の手を考えるべきタイミングです。

飲食店の閉店を考えるべきサインは何ですか?

数字で見る5つのサインがあります。①FL比率(食材費+人件費÷売上)が3ヶ月連続で65%を超えている、②手元の運転資金が月間固定費の3ヶ月分を切った、③追加の借入れなしでは翌月の支払いが回らない、④売上が6ヶ月連続で前年同月を下回っている、⑤体調不良や不眠が2週間以上続いている。1つでも当てはまれば、閉店ではなく「次の選択肢を調べ始める」タイミングです。

飲食店の閉店にはいくらかかりますか?

原状回復工事(スケルトン戻し)だけで100〜300万円、リース残債や違約金を含めると500万円を超えるケースもあります。ただし居抜き売却ができれば原状回復費がゼロになり、さらに造作売買で50〜300万円の売却益が入る可能性もあります。資金に余裕があるうちに動くほど、選択肢が多く残ります。

飲食店のFL比率はどこからが危険ですか?

FL比率(Food+Labor、食材費+人件費÷売上高)は55%以下が良好、60%前後が標準的、65%を超えると危険水域です。65%を超えると家賃・光熱費・雑費を払った後に利益がほぼ残りません。3ヶ月連続で65%を超えている場合は、メニュー構成や人員配置の根本的な見直しが必要です。

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