ある個人飲食店のオーナーの後悔
ランチの鶏肉で、お客さん3人が腹痛を訴えた。
保健所の調査でカンピロバクターと判明。営業停止5日間。
賠償金、治療費、慰謝料、弁護士費用──合計430万円。
「保険に入っていれば全額カバーされたのに。」
──この言葉を言ったとき、もう遅い。
飲食店が直面する4つのリスク
| リスク | 具体例 | 想定される損害額 |
|---|---|---|
| 火災 | ガスコンロからの出火、電気配線のショート | 数百万〜数千万円 |
| 食中毒・異物混入 | カンピロバクター、ノロウイルス、金属片の混入 | 200〜800万円 |
| お客さんのケガ | 濡れた床で転倒、熱い料理をこぼしてやけど | 数万〜数百万円 |
| 営業停止・休業 | 食中毒での営業停止、自然災害での休業 | 売上×日数分 |
この4つのリスクに対応する保険が、飲食店の最低限のセットだ。
飲食店に必要な4つの保険
① 火災保険
何をカバーするか: 火災、落雷、風災、水災などによる建物・設備・什器の損害
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補償対象 | 建物(借りている場合は内装・設備)、厨房機器、什器 |
| 保険料目安 | 月3,000〜8,000円 |
| 注意点 | 賃貸契約で加入を求められることが多い(入居時にすでに入っている場合も) |
自分が借りている物件のオーナー(大家さん)に対する賠償をカバーするのは「借家人賠償責任保険」。火災保険とセットで加入することが多い。
② PL保険(生産物賠償責任保険)
何をカバーするか: 提供した料理が原因でお客さんに健康被害が出た場合の賠償金
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補償対象 | 食中毒、アレルギー事故、異物混入による健康被害 |
| 保険料目安 | 年間1〜3万円 |
| 補償上限 | 1事故あたり1,000万〜1億円(プランによる) |
年間1〜3万円で、食中毒1件の賠償金(数百万円)がカバーされる。 飲食店で最もコストパフォーマンスが高い保険。
③ 施設賠償責任保険
何をカバーするか: お客さんが店内でケガをした場合の治療費・賠償金
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補償対象 | 転倒事故、やけど、落下物でのケガなど |
| 保険料目安 | 年間5,000〜2万円 |
| よくある事故 | 濡れた床での転倒、子どもの椅子からの転落、看板の倒壊 |
④ 休業補償保険
何をカバーするか: 火災・食中毒・自然災害で営業できない間の固定費
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補償対象 | 家賃、リース料、従業員の給与など営業停止中も発生する費用 |
| 保険料目安 | 月1,000〜5,000円 |
| 注意点 | 免責日数(最初の○日は補償なし)がある場合が多い |
食中毒で5日間営業停止。1日の売上が8万円なら、失う売上は40万円。家賃20万円は変わらず発生する。休業補償がなければ、その月は確実に赤字だ。
保険料のまとめ──月1〜2万円で守れる
| 保険 | 年間保険料の目安 | 月額換算 |
|---|---|---|
| 火災保険 | 3.6〜9.6万円 | 3,000〜8,000円 |
| PL保険 | 1〜3万円 | 800〜2,500円 |
| 施設賠償責任保険 | 0.5〜2万円 | 400〜1,600円 |
| 休業補償保険 | 1.2〜6万円 | 1,000〜5,000円 |
| 合計 | 6.3〜20.6万円 | 5,200〜17,100円 |
月1〜2万円。 食中毒1件で数百万円、火災で数千万円のリスクに比べれば、安い保険料だ。
店舗総合保険で1本にまとめる
上記の4つを個別に加入するのは面倒だし、漏れが出る可能性もある。
店舗総合保険は、火災・PL・施設賠償・休業補償をパッケージにした保険。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 手続きが1回で済む | 不要な補償が含まれる場合あり |
| 個別加入より10〜20%安いことが多い | カスタマイズの自由度が低い |
| 補償の漏れがない | 補償内容の比較が面倒 |
主な取り扱い損保:
- 損保ジャパン「ビジネスマスター・プラス」
- 東京海上日動「超ビジネス保険」
- 三井住友海上「ビジネスキーパー」
- 日新火災「ビジサポ」
保険代理店に**「飲食店の店舗総合保険の見積もりをください」**と3社以上に依頼し、補償内容と保険料を比較しよう。
保険を選ぶときの3つのチェックポイント
チェック1: 食中毒の補償上限額
食中毒の賠償金は1件で200〜800万円。補償上限が500万円では足りない場合がある。 最低1,000万円、できれば5,000万円の補償上限を選ぶ。
チェック2: 免責金額(自己負担額)
「免責5万円」と書いてあれば、最初の5万円は自己負担。免責金額が高いと保険料は安いが、小さな事故では保険金が出ない。 個人飲食店なら免責0円〜3万円が安心。
チェック3: 休業補償の免責日数
「免責3日」なら、営業停止の最初の3日間は補償されない。食中毒の営業停止が5日間なら、補償されるのは2日分だけ。免責日数が少ないプランを選ぶ。
よくある疑問
Q. 賃貸契約で入った火災保険で十分では?
物件の賃貸契約時に入る火災保険は、**大家さんへの賠償(借家人賠償)**が中心。自分の設備・什器の損害や、お客さんへの賠償はカバーされていないことが多い。契約内容を確認して、足りない補償を追加する。
Q. 食品衛生協会の「食品営業賠償共済」とは?
食品衛生協会が運営する共済制度。食中毒の賠償をカバーする。保険料が安い(年間数千円) のが特徴だが、補償上限が低い場合がある。PL保険と比較して選ぼう。
Q. 保険料は経費になる?
全額経費になる。 勘定科目は「損害保険料」。確定申告で経費計上すれば、保険料分の税金が軽減される。
今すぐやること
- 今入っている保険の契約内容を確認する(火災保険だけで十分か?)
- PL保険に加入しているか確認する(入っていなければ最優先で加入)
- 保険代理店に**「飲食店の店舗総合保険」の見積もり**を3社以上依頼する
- 食品衛生協会の共済と保険会社のPL保険を比較する
保険は「事故が起きてから入る」ものではない。 月1〜2万円。食材の仕入れ1日分。それで数百万〜数千万円のリスクから守れる。
KitchenCostは、飲食店の原価管理アプリです。原価と利益を見える化すれば、保険料の月1〜2万円が利益に対してどれくらいの割合かも一目でわかります。守るべき利益を知ることが、リスク管理の第一歩です。