「業務スーパーで大容量を買ったほうが安いから」——この判断で仕入れている個人店のオーナーさん、多いと思います。
たしかに、単価だけ見ればまとめ買いのほうが安い。1kgあたり50円、100円の差は大きい。
でも、ここで1つ質問です。「買った量のうち、何割を実際に使い切っていますか?」
冷蔵庫の奥で傷んだキャベツ。使いかけのまま期限が切れた調味料。「あると思ったら賞味期限が先月だった」缶詰。
飲食店のロス率(廃棄額÷仕入額)の目安は3〜5%。ここに収まっていれば問題ありません。でも、もし月の仕入れが80万円でロス率が8%なら、月6.4万円、年間77万円を捨てている計算です。
この記事では、個人店のオーナーさんが「この食材はまとめ買い? 小ロット?」を原価ベースで判断する方法を解説します。
先に結論
- まとめ買いが得なのは**「長期保存できて、毎日使う食材」**だけ
- 生鮮食材のまとめ買いは廃棄リスクが単価の割引を食いつぶす
- 個人店の適正在庫は約4日分。これを超えると現金が寝る
- 小ロットでも単価を抑える方法はある(ネット卸、共同購買)
- 判断基準は「単価の安さ」ではなく「使い切れるかどうか」
「単価が安い=得」ではない理由
まとめ買いの落とし穴
まとめ買いの単価が安いのは事実です。でも、飲食店の原価計算で大事なのは**「買った単価」ではなく「使った単価」**です。
ここに**「理論原価」と「実際原価」**の考え方があります。
| 種類 | 計算方法 | 意味 |
|---|---|---|
| 理論原価 | レシピ通りの単価 × 出した数 | 「もしロスがゼロだったら」の原価 |
| 実際原価 | 月初在庫 + 仕入れ額 − 月末在庫 | 廃棄やロスを含んだリアルな原価 |
この2つの差が、あなたの店で発生している**「見えないコスト」**です。
具体例:キャベツの場合
| 項目 | まとめ買い(10kg) | 小ロット(4kg) |
|---|---|---|
| 購入価格 | 1,200円(@120円/kg) | 680円(@170円/kg) |
| 実際に使った量 | 7kg(3kg廃棄) | 3.8kg(0.2kg廃棄) |
| 使った分の実質単価 | @171円/kg | @179円/kg |
| 廃棄コスト | 360円 | 34円 |
1kgあたり50円安く買ったのに、3kg捨てたことで実質単価はほぼ同じ。しかも捨てた360円はまるごと利益から消えています。
これが「安いからまとめ買い」の落とし穴です。
食材カテゴリ別:まとめ買い vs 小ロットの判断基準
すべての食材を一律に「まとめ買い」か「小ロット」に分けるのは無理があります。食材の性質ごとに使い分けるのが正解です。
✅ まとめ買いが得になる食材
| 食材カテゴリ | 具体例 | 理由 |
|---|---|---|
| 乾物 | パスタ、乾麺、鰹節、昆布 | 常温で半年〜1年保存。ロスリスクほぼゼロ |
| 缶詰・レトルト | トマト缶、ツナ缶、カレールー | 賞味期限1〜3年。場所さえあれば損しない |
| 調味料(大容量) | 醤油、味噌、サラダ油、みりん | 毎日使う+保存が利く。大容量で2〜3割安くなる |
| 冷凍食材 | 冷凍野菜、冷凍シーフード、冷凍肉 | 冷凍庫に空きがあれば3〜6ヶ月保存可能 |
| 消耗品 | ラップ、アルミホイル、使い捨て手袋 | 腐らない。安いときにまとめて買うのが正解 |
共通点:「賞味期限が長い」かつ「使用頻度が高い」
❌ まとめ買いが損になりやすい食材
| 食材カテゴリ | 具体例 | 理由 |
|---|---|---|
| 葉物野菜 | レタス、ほうれん草、大葉 | 2〜3日で傷む。まとめ買いの量を使い切れない |
| 鮮魚 | 刺身用のサク、貝類 | 当日〜翌日が限界。余った分は全額廃棄 |
| カット済み食材 | カット野菜、刺身の盛り合わせ | 加工済みは劣化が早い。当日消費が基本 |
| 特殊食材 | トリュフ、フォアグラ、高級フルーツ | 出数が読めない+単価が高い=廃棄ダメージ大 |
| 季節限定食材 | 筍、松茸、スイカ | 提供期間が短い+需要が読みにくい |
共通点:「足が早い」または「出数が読めない」
🔄 判断が分かれる食材
ここが一番迷うところです。
| 食材 | まとめ買いOKの条件 | 小ロットが安全な条件 |
|---|---|---|
| 肉類(精肉) | 小分け冷凍できる+冷凍庫に余裕あり | 冷凍庫がいっぱい、または冷凍解凍で品質が落ちるメニュー |
| 根菜 | 玉ねぎ、にんじん、じゃがいも(常温1〜2週間OK) | 大根、ごぼうなど足が早めの根菜 |
| 卵 | 回転が早い(毎日20個以上使う)店 | 週に数十個しか使わない店 |
| 牛乳・乳製品 | 消費期限内に確実に使い切れる量 | 「たぶん使い切れる」レベルなら小ロット |
| 米 | 1〜2週間で使い切る量まで | 精米後は徐々に味が落ちる。1ヶ月分はNG |
迷ったら「小ロット寄り」で発注するのが鉄則。 足りなくなったら追加発注すればいいだけですが、捨てた食材は取り戻せません。
適正在庫の考え方──「4日分」が目安
なぜ在庫を持ちすぎると損なのか
在庫は「まだ現金になっていないお金」です。冷蔵庫の中の食材は、売上に変わるまでただの出費。
個人店は資金に余裕がないことが多い。仕入れに80万円使って、そのうち20万円が冷蔵庫で眠っていたら、手元に残る現金は60万円分の商品を売った分だけです。
適正在庫の計算方法
目安:在庫は売上の約4日分
計算式はシンプルです。
1日の仕入れ原価 = 1日の売上 × 原価率
適正在庫金額 = 1日の仕入れ原価 × 4日
| 月商 | 1日の売上(25日営業) | 原価率30%の場合 | 適正在庫(4日分) |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 8万円 | 2.4万円/日 | 約9.6万円 |
| 300万円 | 12万円 | 3.6万円/日 | 約14.4万円 |
| 500万円 | 20万円 | 6万円/日 | 約24万円 |
もし月商300万円の店で在庫が30万円あったら、約8日分の在庫を抱えていることになります。適正の2倍。この差額15万円が、使われずに冷蔵庫で眠っているお金です。
発注量の決め方──食材ごとに計算する
基本の発注量公式
発注量 = 1日の使用量 × 発注サイクル日数 × (1 + 安全在庫率)
- 安全在庫率:予測がざっくりの店は20%、売上データがしっかりある店は**10%**で十分
実例:玉ねぎ(週2回発注の場合)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 1日の使用量 | 3kg |
| 発注サイクル | 3.5日(週2回) |
| 安全在庫率 | 20% |
| 発注量 | 3 × 3.5 × 1.2 = 12.6kg → 13kg |
これが「13kgなら10kg袋でまとめ買い+バラ3kg」なのか、「5kgを3回に分けて買う」のか。ここで食材の性質と冷蔵庫の空きスペースを見て判断します。
玉ねぎは常温で2週間持つ根菜なので、この場合はまとめ買い寄りでOK。
実例:ほうれん草(毎日発注の場合)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 1日の使用量 | 1.5kg |
| 発注サイクル | 1日(毎日発注) |
| 安全在庫率 | 20% |
| 発注量 | 1.5 × 1 × 1.2 = 1.8kg → 2束 |
ほうれん草は2〜3日で傷む葉物。小ロットで毎日か隔日が正解です。「5束まとめて買えば安い」は廃棄のもと。
売上予測の精度を上げるには
発注量の計算で一番大事なのは**「1日の使用量」の正確さ**です。
- 季節変動が小さい店:直近3ヶ月の平均を使う
- 季節変動が大きい店:前年の同じ月を参考にする
- データがない開業直後の店:少なめに発注して、足りなくなるパターンを記録する
「足りないかも」と多めに発注するクセがつくと、在庫が膨らみます。足りなかったら追加する、が正解です。
小ロットでも単価を抑える3つの方法
「小ロットだと割高になるのでは?」——その通りです。でも、2026年の今は小ロットでもコストを抑える手段が増えています。
① ネット卸を使う
Mマート、BtoB eSmart、食べチョクProなど、1kgや1個単位から卸価格で買えるサービスが増えています。
従来の卸業者は「ケース単位」「1箱30kg〜」が基本でしたが、ネット卸なら個人店のボリュームでも卸価格に近い単価で買えます。送料を含めても、業務スーパーより安い場合も。
仕入れチャネルの比較と選び方で、チャネルごとの得意分野を詳しくまとめています。
② 共同購買を使う
近隣の飲食店と合同で発注する「共同購買」は、個人店の弱点(ボリュームが少ない)を補う方法です。
| カテゴリ | 共同購買による削減率 |
|---|---|
| 野菜 | 10〜20% |
| その他(肉、乾物、消耗品など) | 約10% |
「でも近所の店と仲良くないし……」という場合、共同購買プラットフォーム(飲食のミカタ、DD+など)を使えば、面識がなくても参加できます。
③ 仕入れ先を食材ごとに分ける
1つの業者にすべて頼むのはラクですが、コスト面では最適ではありません。
| 食材の種類 | 最適な仕入れ先 |
|---|---|
| 定番の大量使用食材 | 卸業者(ケース単位で最安) |
| 少量の特殊食材 | ネット卸(小ロット対応) |
| 急ぎ・欠品の補充 | 業務スーパー(即日入手) |
| 産地直送の生鮮 | 直販・マルシェ(鮮度と話題性) |
業務スーパーと卸、どっちが安い?も参考にしてみてください。
具体シミュレーション:まとめ買い vs 小ロットで月いくら変わる?
月商300万円・原価率30%の個人店で試算します。
現状:ほぼ全食材をまとめ買い
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月の仕入れ額 | 90万円 |
| ロス率 | 8%(業界目安の3〜5%を超過) |
| 月の廃棄額 | 7.2万円 |
| 年間廃棄額 | 86.4万円 |
改善後:食材カテゴリ別に仕入れ方法を最適化
- 乾物・缶詰・調味料 → まとめ買い維持
- 生鮮(野菜・魚)→ 小ロット+発注頻度アップ
- 肉類 → 小分け冷凍を前提にまとめ買い
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 月の仕入れ額 | 91.5万円(小ロットで単価が若干上がる) |
| ロス率 | 4%(目安の範囲内) |
| 月の廃棄額 | 3.66万円 |
| 年間廃棄額 | 43.9万円 |
差額
| 比較 | まとめ買い中心 | カテゴリ別最適化 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 仕入れ額(月) | 90万円 | 91.5万円 | +1.5万円 |
| 廃棄額(月) | 7.2万円 | 3.66万円 | −3.54万円 |
| 実質コスト | 97.2万円 | 95.16万円 | 月 −2.04万円 |
| 年間 | 年間 −24.5万円 |
仕入れ額は月1.5万円増えますが、廃棄が3.5万円減るので、差し引きで月2万円・年間24万円以上のコスト削減になります。
ロス率の計算方法と削減のコツも合わせて確認すると、自店のロス率がどこに位置するかがわかります。
よくある失敗3つ
❌ 「冷凍すればいい」で何でもまとめ買い
冷凍できる食材は多いですが、冷凍→解凍で品質が落ちるものもあることを忘れがちです。
- 豆腐 → スカスカになる
- じゃがいも → ボソボソになる
- レタス・きゅうり → 水分が出てシナシナに
また、冷凍庫の容量は有限です。「冷凍庫パンパンで新しい食材が入らない → 冷蔵庫に入れて3日で廃棄」というパターンも。
発注ロットが大きすぎるときの対処法も参考にしてみてください。
❌ 「いつか使うかも」で棚に放置
缶詰や乾物は長期保存できますが、賞味期限が1年あっても、11ヶ月使わなかったものは12ヶ月目も使いません。
「安いから買っておこう」で買った食材が棚の奥に眠っていませんか? 半年に1回、棚卸しのついでに**「6ヶ月以上動いていない食材」**をチェックしてください。
❌ 安さだけで仕入れ先を決める
「A業者よりB業者のほうが1kgあたり30円安い」→ 全量をB業者に変更。
でも、B業者は最低ロットが20kg。使い切れるのは12kg。8kg廃棄。30円の差を取り戻すどころか、逆に損をしています。
2025年3月時点で飲食店の94.6%が仕入れ価格の上昇に直面しています。安い仕入れ先を探したくなる気持ちはわかります。でも「安さ」と「使い切れる量」はセットで考えてください。
今週やること──3ステップ
ステップ1:食材を3つに分類する(20分)
今使っている食材を、以下の3グループに分けてみてください。
| グループ | 基準 | 仕入れ方針 |
|---|---|---|
| A:まとめ買いOK | 賞味期限1ヶ月以上 + 毎日使う | 月1〜2回まとめて発注 |
| B:小ロット推奨 | 賞味期限1週間以内 or 出数が読めない | 毎日〜週3回、必要量だけ |
| C:判断が必要 | 条件つきでまとめ買い可能(冷凍、保存方法の工夫) | 食材ごとに検討 |
まずはBグループ(小ロット推奨)に入る食材を特定するのが最優先です。ここが一番ロスが発生しやすい。
ステップ2:Bグループの発注量を計算する(15分)
Bグループの食材について、**1日の使用量 × 発注サイクル × 1.2(安全在庫20%)**で適正発注量を出してください。
今の発注量と比べて多すぎないか? 多すぎるなら、次回の発注から減らしてみる。
ステップ3:2週間、ロス率を記録する(毎日5分)
毎日の営業終了後、**「今日捨てた食材と金額」**をメモしてください。ノートでもスマホのメモでも構いません。
2週間続けると、「何曜日に何が余るか」のパターンが見えてきます。そのパターンを見て、発注頻度を調整するだけで、ロスは減っていきます。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| まとめ買いが得な食材 | 乾物、缶詰、調味料、冷凍食材——長期保存+高頻度使用 |
| 小ロットが安全な食材 | 葉物、鮮魚、カット済み、特殊食材——足が早い or 出数不明 |
| 適正在庫 | 約4日分。超えたら現金が寝ている |
| 発注量の公式 | 1日使用量 × サイクル × 1.2(安全在庫20%) |
| ロス率の目安 | 3〜5%以内。超えていたら仕入れ方法を見直す |
| 小ロットでもコスト削減 | ネット卸、共同購買、仕入れ先の使い分け |
| 迷ったら | 小ロット寄りで発注。足りなければ追加する |
「安いから多く買う」のではなく、「使い切れる量を、適正な価格で買う」。
この切り替えだけで、仕入れ額はほぼ変えずに、廃棄コストが減り、利益が残りやすくなります。
食材ごとの単価やロス率を記録して「まとめ買いと小ロット、どちらが得か」を比較するなら、KitchenCostが便利です。食材の単価を入力するだけで、レシピごとの原価率が自動計算されるので、仕入れ方法を変えたときの影響がすぐにわかります。