「今月、黒字なのか赤字なのかわからない」
売上は200万円。食材を60万円仕入れた。家賃25万円。アルバイト代20万円。光熱費12万円……
「結局、いくら残ったの?」
この質問に即答できない飲食店オーナーは多い。そして、もっと怖いのは「最低いくら売ればいいのか」がわかっていないこと。
月の売上が200万円ある月はいいが、閑散期に150万円になったら? 120万円になったら?
赤字になるラインがわからないまま営業している──それは、信号のない交差点を走っているようなものだ。
損益分岐点とは?
「赤字と黒字の境目の売上」のこと。
- 損益分岐点より上 → 黒字
- 損益分岐点ちょうど → 利益ゼロ(トントン)
- 損益分岐点より下 → 赤字
例えば、損益分岐点が月150万円の店なら──
| 月商 | 状態 |
|---|---|
| 200万円 | ✅ 黒字(50万円の利益) |
| 150万円 | ➡️ トントン(利益ゼロ) |
| 120万円 | ❌ 赤字(30万円の赤字) |
計算方法──意外とシンプル
ステップ1: 費用を「固定費」と「変動費」に分ける
| 固定費(売上に関係なく発生) | 変動費(売上に連動して増減) |
|---|---|
| 家賃 | 食材費 |
| 正社員の給与 | 消耗品(ナプキン、箸) |
| 社会保険料 | 包装資材 |
| リース料 | アルバイト給与の一部 |
| 保険料 | |
| 通信費・ネット代 | |
| 減価償却費 | |
| 会計ソフト代 |
飲食店の最大の変動費は食材費。 実務的には「原価率 ≒ 変動費率」で計算しても大きくずれない。
ステップ2: 計算式に当てはめる
損益分岐点 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
変動費率= 変動費 ÷ 売上
具体例: 個人居酒屋
| 費目 | 金額 | 分類 |
|---|---|---|
| 家賃 | 25万円 | 固定費 |
| オーナー給料 | 30万円 | 固定費 |
| アルバイト給料 | 15万円 | 固定費(固定シフト分) |
| 社会保険・通勤手当 | 5万円 | 固定費 |
| 光熱費 | 10万円 | 固定費 |
| リース料 | 3万円 | 固定費 |
| 保険・通信・雑費 | 5万円 | 固定費 |
| 固定費合計 | 93万円 | |
| 食材費 | 60万円 | 変動費 |
| 消耗品 | 3万円 | 変動費 |
| 変動費合計 | 63万円 | |
| 売上 | 200万円 |
変動費率= 63万 ÷ 200万 = 31.5%
損益分岐点 = 93万 ÷(1 − 0.315)= 93万 ÷ 0.685 = 約136万円
月商136万円以上で黒字。 136万円を下回ったら赤字。
| 月商 | 利益 |
|---|---|
| 200万円 | +約44万円 |
| 170万円 | +約23万円 |
| 136万円 | ±0円(分岐点) |
| 120万円 | −約11万円 |
| 100万円 | −約24万円 |
「1日いくら」に置き換える
月の損益分岐点136万円を、営業日数で割る。
| 営業日数 | 1日の必要売上 |
|---|---|
| 25日/月 | 54,400円 |
| 27日/月 | 50,370円 |
| 30日/月 | 45,333円 |
25日営業なら、1日54,400円が最低ライン。 客単価3,500円なら、1日16人のお客さんが必要。
損益分岐点を下げる3つの方法
方法1: 固定費を下げる
| 施策 | 効果の目安 |
|---|---|
| 家賃交渉(5%ダウン) | ▲1.25万円/月 |
| 不要なサブスク解約 | ▲0.5〜2万円/月 |
| 保険の見直し | ▲0.5〜1万円/月 |
| 電力会社の切り替え | ▲0.5〜1万円/月 |
固定費が5万円下がれば、損益分岐点は約7.3万円下がる。 月136万→129万。1日あたり約2,900円の余裕が生まれる。
方法2: 変動費率(原価率)を下げる
| 施策 | 効果の目安 |
|---|---|
| 仕入れ先の見直し・相見積もり | 原価率1〜3%ダウン |
| フードロスの削減 | 原価率1〜2%ダウン |
| メニューの原価率バランス見直し | 原価率1〜2%ダウン |
原価率が2%下がれば(31.5%→29.5%)、損益分岐点は約4万円下がる。
方法3: 売上を上げる(客単価 or 客数)
損益分岐点そのものは変わらないが、分岐点を超えやすくなる。
| 施策 | 効果の目安 |
|---|---|
| ドリンクの注文率を上げる | 客単価+200〜500円 |
| デザートメニューを充実させる | 客単価+300〜500円 |
| ランチの提供を始める | 月商+15〜30万円 |
損益分岐点を知ると、判断が変わる
「定休日を増やしたい」→ 計算してから決める
休みを月4日→月5日に増やすと、営業日数が1日減る。
- 月商200万円、25日営業 → 1日8万円
- 月5日休み → 月商192万円(▲8万円)
- 損益分岐点136万円 → まだ56万円の余裕 → 休みを増やしてもOK
「アルバイトをもう1人雇いたい」→ 計算してから決める
アルバイト1人追加=固定費+10万円/月
- 損益分岐点: 93万÷0.685=136万 → 103万÷0.685=150万
- 損益分岐点が14万円上がる
- 今の月商200万なら余裕があるが、閑散期に150万を切ると赤字になる
「テナントを移りたい」→ 計算してから決める
家賃が25万→35万になったら?
- 固定費: 93万→103万
- 損益分岐点: 103万÷0.685=150万円
- 月商150万以上を安定的に出せるか?出せなければ移るべきではない。
今すぐやること
- 今月の費用を固定費と変動費に分ける
- 変動費率を計算する(変動費÷売上)
- 損益分岐点を計算する(固定費÷(1−変動費率))
- 1日あたりの必要売上に換算する
- 閑散期でも損益分岐点を超えられるか確認する
自分の店の損益分岐点を知っている飲食店オーナーは、想像以上に少ない。 でもこの数字を知れば、「なんとなく不安」が「具体的な目標」に変わる。
KitchenCostは、食材の原価率を計算できるアプリです。変動費の大部分を占める食材費を正確に把握すれば、損益分岐点の計算精度も上がります。「あとどれだけ売れば黒字か」を知ることが、経営判断の土台です。