「売上はあるのに、お金が残らない」
この感覚に覚えがある飲食店オーナーは、少なくないと思う。
毎日朝から仕込んで、ランチもディナーも席は埋まっている。売上も悪くない。でも月末に通帳を見ると、思ったほど残っていない。生活費を引くと、ほとんどゼロ。
「なんで?」
その答えは、たぶん FL比率 にある。
FL比率とは
飲食業界で最も基本的な経営指標の一つだ。計算式はシンプル。
FL比率 =(Food費 + Labor費)÷ 売上 × 100
- F(Food):食材費。仕入れにかかった費用
- L(Labor):人件費。アルバイト給与、社会保険料、自分の報酬を含む
この2つは、飲食店の経費の中で 最も大きな割合 を占める。だからこそ、この比率が経営の生死を分ける。
「60%ルール」を覚えてほしい
| FL比率 | 状態 | 意味 |
|---|---|---|
| 55%以下 | 優良 | 利益がしっかり出ている |
| 55-60% | 健全 | 標準的な経営状態 |
| 60-65% | 注意 | 利益が薄く、何かあると赤字に |
| 65%以上 | 危険 | 家賃・光熱費を払うと利益が残らない |
60%以下。 これがFL比率の基本ラインだ。
なぜ60%なのか。残りの40%で、こういった経費を賄う必要があるからだ。
家賃:10%
光熱費:5-7%
消耗品・雑費:3-5%
広告宣伝費:3-5%
減価償却:3-5%
その他:3-5%
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経費合計:約30-35%
営業利益:5-10%
FL比率が65%を超えると、経費を差し引いた後の利益が ほぼゼロ になる。忙しいのに儲からない店は、たいていここに原因がある。
FとLのバランス
FL比率60%といっても、FとLの内訳は業態によって違う。
| 業態 | F(食材費)目安 | L(人件費)目安 | FL合計 |
|---|---|---|---|
| 一般的な飲食店 | 30-35% | 25-30% | 55-60% |
| 高級店 | 35-40% | 20-25% | 55-60% |
| ファストフード | 25-30% | 30-35% | 55-60% |
| カフェ | 25-30% | 25-30% | 50-55% |
| 居酒屋 | 30-35% | 25-30% | 55-60% |
合計は同じ60%でも、配分が違うのがポイントだ。
高級店 は食材にお金をかける分、少人数で運営してLを下げる。ファストフード は食材を安くする代わりに、人を多く配置する。
大事なのは、FとLの合計が60%を超えないこと。どちらかが高くてもいいが、もう一方で調整する必要がある。
あなたの店のFL比率を計算してみよう
先月のデータで計算してみてほしい。
必要な数字:
- 先月の売上(税抜き)
- 先月の食材仕入れ額
- 先月の人件費(アルバイト給与 + 社保 + 自分の報酬)
計算例:月商250万円の定食屋
売上:250万円
食材仕入れ:87.5万円(35%)
人件費:62.5万円(25%)
FL合計:150万円
FL比率:150 ÷ 250 × 100 = 60%
→ ギリギリ健全ライン
もし食材費が40%(100万円)だったら?
FL比率:(100 + 62.5) ÷ 250 × 100 = 65%
→ 危険ゾーン。月12.5万円の利益が消える
食材費がたった5%上がるだけで、月12.5万円=年150万円の差 になる。
2025年、FL比率が悪化している理由
今、多くの飲食店でFL比率が悪化している。理由は明確だ。
Fが上がっている:
- 2025年だけで20,609品目が値上げ
- 卵の卸売価格は1.5〜2倍に高騰
- 飲食店の 94.6% が仕入れコスト上昇を実感(帝国データバンク調査)
Lも上がっている:
- 最低賃金:1,055円 → 1,121円(2025年)
- 政府目標:2020年代後半に1,500円
- 中小企業の人件費は前年比 6.7%増
- 人件費関連の倒産件数が過去最多ペース
FもLも同時に上がっているのに、簡単には値上げできない。値上げした店は68.4%だが、残り30%以上はコスト上昇を自分で吸収している。
その結果、FL比率が60%を超え、65%、70%と膨らんでいく。
FL比率を改善する4つの方法
方法1:メニューごとの原価率を計算する
FL比率が高い原因は、たいてい 特定のメニューの原価率が異常に高い ことにある。
全メニューの原価率を出してみると、25%のものもあれば50%のものもある。50%のメニューが一番人気だったりすると、売れれば売れるほど利益が減る構造になっている。
方法2:仕入れ先・食材を見直す
同じ品質の食材でも、仕入れ先によって価格は違う。帝国データバンクの調査では、コスト上昇への対策として 45.4% の店が「仕入れ先の見直し・交渉」を実施していた。
複数の業者から見積もりを取る。市場やネット卸を活用する。冷凍食材をうまく取り入れる。小さな改善の積み重ねが効く。
方法3:ポーション(1人前の量)を見直す
意外と見落とされるのがポーション管理だ。「最近量が増えてきてるな」と思ったら、レシピで決めた分量に戻す。
歩留まり率 も重要だ。購入した食材のうち、実際に使える部分の割合。これを把握していないと、原価計算そのものがずれる。
方法4:メニュー構成を変える
原価率の低いメニューを おすすめ に設定する。高原価のメニューには、低原価のサイドメニューやドリンクをセットにする。
メニュー表の配置、写真の見せ方、スタッフのおすすめ——こういった工夫で、お客さんの注文を利益率の高いメニューに誘導できる。
FLR比率も知っておこう
FL比率に R(Rent=家賃) を加えたのが FLR比率 だ。
FLR比率 =(食材費 + 人件費 + 家賃)÷ 売上 × 100
目安は 70%以下。
FLが60%で、家賃が売上の10%なら、FLR=70%。ここから光熱費や雑費を引いた残りが利益になる。
家賃は固定費なので、売上が下がるとFLR比率が一気に悪化する。家賃は売上の10%以内 に収めるのが基本だ。開業前の物件選びの段階で、この数字を意識しておく必要がある。
まず、今週やること
- 先月の食材仕入れ額を集計する(レシート・納品書を全部足す)
- 先月の人件費を確認する(給与明細・振込記録を見る)
- FL比率を計算する
- 60%を超えていたら、一番売れているメニュー3品の原価を計算する
ここまでやれば、「なぜ利益が出ないのか」の答えが見えてくるはずだ。
まとめ
忙しいのに儲からない。その原因の多くは、FL比率にある。
食材費と人件費の合計が売上の60%を超えたら、要注意。65%を超えたら、赤字に転落する日は近い。
数字を知ること。それが、利益を守る最初の一歩だ。
この記事で引用したデータの出典:帝国データバンク「食品値上げ調査」「飲食店の倒産動向調査」、日本商工会議所「最低賃金引き上げの影響に関する調査」、マネーフォワード「FL比率の解説」