エクセルで原価管理をしている飲食店オーナーに聞くと、かなりの確率でこう返ってくる。
「最初は頑張って作ったんですけど、今はもう更新してません」
キーマンズネットの調査によると、日本企業の98.6%がExcelを利用している。飲食店でも、開業時に「原価管理表」を自作したり、ネットのテンプレートをダウンロードして使い始める人は多い。
問題は、作ることではない。使い続けることだ。
エクセルで原価管理をしている個人飲食店が実際に直面している3つの問題と、他にどんな方法があるのかを見ていきます。エクセルを否定する気はない。大事なのは、自分の店に合った方法を選ぶことだ。
まとめ
- エクセルの原価管理は「作れる」が「続けられない」のが最大の問題
- 食材価格の変動時に全メニュー手動更新が必要になり、途中で放置されやすい
- 入力ミスに気づかないまま、間違った原価率で経営判断をしてしまうリスクがある
- 原価計算アプリは「更新の手間を自動化する」ことで、管理の継続をサポートする
- まず大事なのは原価管理を「始めること」と「続けること」。ツールはその手段
エクセル原価管理の3つの問題
問題1:食材価格が変わるたびに全部直さなきゃいけない
エクセルで原価管理をする場合、典型的なシートはこうなる。
| メニュー名 | 材料 | 使用量 | 単価 | 原価 |
|---|---|---|---|---|
| カレーライス | 牛肉 | 80g | 3.0円/g | 240円 |
| 玉ねぎ | 100g | 0.4円/g | 40円 | |
| じゃがいも | 60g | 0.3円/g | 18円 | |
| 米 | 200g | 0.5円/g | 100円 | |
| … | … | … | … |
牛肉の仕入れ値が3.0円/gから3.5円/gに上がったとする。この牛肉を使っているメニューが5品あれば、5箇所の単価を直して、原価を再計算して、原価率を更新する必要がある。
メニューが10品程度なら問題ない。でも30品、50品になると話が変わる。
2025年は食材の値上げが毎月のように起きている。帝国データバンクのまとめでは、2025年に値上げされた食品は年間で1万品目を超えるペースだ。仕入れ先から「来月から値上げします」という連絡が月に何回も来る。
そのたびにエクセルを開いて、該当する食材を使っているメニューを全部探して、単価を直して……。
忙しい営業の合間に、この作業を毎回やれるか?
現実的には、3回目くらいで「あとでやろう」になり、そのまま放置される。半年前の仕入れ値のまま原価率を見ていた、という話は珍しくない。
問題2:数式のミスに気づかない
エクセルの怖いところは、間違いが見えにくいことだ。
セルの参照がずれていた。コピペで数式が壊れていた。単位を間違えていた(kg→gの変換ミス)。
ある個人カフェのオーナーは、6ヶ月間「原価率28%」だと思って経営していたが、実際に計算し直したら35%だったことに気づいた。エクセルのSUM関数の範囲指定が1行ずれていて、材料が1つ計算から漏れていたのが原因だった。
この7ポイントの差は、月商150万円の店なら月10万5千円の利益の差になる。半年で63万円。
エクセルは自由度が高い分、チェック機能がない。作った本人しか構造を理解していないから、ミスに気づくのも本人だけ。しかも、忙しい店主にシートの検証をする時間はほぼない。
問題3:「属人化」して、自分以外誰も使えない
個人店では「自分しか使わないから問題ない」と思うかもしれない。でも、問題は少し違う。
3ヶ月後の自分が、このシートを見て分かるか?
エクセルの原価管理表は、作った直後は分かりやすい。でも時間が経つと「この列は何の数字だっけ」「このセルの計算式はどうなってたっけ」となる。
特に、テンプレートをダウンロードして自分なりにカスタマイズした場合、元の構造と自分の追加が混在して、触るのが怖くなる。結果として「新しいメニューは追加してない」「価格変更も反映してない」シートだけが残る。
これは個人の能力の問題ではなく、エクセルという汎用ツールの構造的な限界だ。
エクセルと原価計算アプリの比較
では、エクセル以外にどんな選択肢があるのか。
最近は、飲食店向けの原価計算アプリがいくつか出ている。それぞれの特徴を比較してみよう。
| 比較項目 | エクセル | 原価計算アプリ |
|---|---|---|
| 初期コスト | 無料〜 | 無料〜月額数百円 |
| 自由度 | 高い(何でもできる) | 原価計算に特化 |
| 食材価格の更新 | 手動(全メニュー) | 1箇所変更→全メニューに自動反映 |
| 計算ミスのリスク | 高い(セル参照ミス等) | 低い(計算ロジックが固定) |
| 操作の難しさ | 中〜高 | 低〜中 |
| 継続しやすさ | 低い(放置されやすい) | 高い(更新が楽) |
| レシピ管理 | 自分でフォーマット作成 | テンプレートあり |
| 場所を選ばない | PC必要 | スマホで完結 |
エクセルが向いている人:
- メニュー数が10品以下
- 食材の仕入れ値がほぼ変わらない
- エクセルの操作に慣れている
- 原価以外のデータ(売上、在庫など)も一元管理したい
アプリが向いている人:
- メニュー数が20品以上
- 食材の値段がよく変わる
- エクセルの管理が続かなかった経験がある
- 営業の合間にスマホでサッと確認したい
「続けられる」ことが一番大事
原価管理の方法に正解はない。エクセルでもアプリでも紙の帳簿でも、続けられるなら何でもいい。
ただし、現実を見ると。
飲食店コンサルタントの間では「エクセルで原価管理表を作った店の8割は、半年以内に更新を止める」と言われている。作ること自体が目的化してしまい、日々の運用に落とし込めない。
理由はシンプルで、忙しい店主にとって「エクセルを開いて更新する」というハードルが高すぎるからだ。
一方で、スマホアプリなら。
- 仕入れの帰りの電車で食材価格を更新できる
- 新メニューの原価を、厨房で材料を量りながら入力できる
- 月末の原価率チェックが、ワンタップで見られる
この「ハードルの低さ」が、原価管理を習慣にできるかどうかの分かれ目になる。
具体的な始め方
今日からできるステップを3つだけ。
ステップ1:売れ筋5品の材料と使用量を書き出す(15分)
レシピが頭の中にある人も、一度紙に書き出してみる。「あれ、この材料入れてなかった」「量が曖昧だった」と気づくことが多い。
ステップ2:直近の仕入れ伝票で食材の単価を確認する(10分)
スーパーや業務用食材店の領収書、仕入れ先の請求書から、主要食材の単価を拾う。g単価に換算しておくと、レシピとの紐付けが楽になる。
ステップ3:計算してみる(15分)
エクセルでもアプリでも電卓でもいいから、1品あたりの原価を出してみる。売価で割れば原価率が出る。
30%以下なら合格ライン。35%を超えていたら、材料の見直しか売価の調整を検討する価値がある。
原価管理を「面倒なもの」から「当たり前のもの」へ
「原価計算しなきゃと思いつつ、ずっと後回しにしてる」
この気持ちに心当たりがあるなら、それは怠けているのではなく、やり方が自分に合っていないだけかもしれない。
エクセルが合う人はエクセルでいい。でも、続かなかったなら別の方法を試す価値はある。
月に数百円の原価計算アプリで管理が続くようになれば、月に数万円の利益改善が見込める。投資としては、かなり効率がいい。
大事なのはツールの種類ではなく、「いくらで仕入れて、いくらで売って、いくら残るか」を把握する習慣を持つこと。その習慣が、店の利益を守る一番確実な方法だ。